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第16話 トミントゥールへ

 ソノラの先。未開放領域をユーマたちは進んでいた。アクシアから一路東へ。目的地はグラント州のトミントゥール。

 穏やかな機構とはほど遠い荒野がそこには広がっていた。魔が多く、あらゆる全てが枯れて腐って荒野となっている。


 当然魔は多く、この先に都市があるにしても壊滅しているのではないかと思わせる程度には魔が多い。どれもこれも普通の騎士団では太刀打ちできないほどのものだ。

 それですら最下級の悪魔と称される四足のマーキーでしかない。それでも巨大であるし、怪力を誇り無尽蔵とも思える不死性と耐久性を併せ持つ魔としてはオーソドックスな個体だ。王都周辺の獣型とは一線を画す力を持った悪魔型と呼ばれる個体。


 獣が変貌したものよりもはるかに強力。だが――。


「――――!」


 聖剣の一振りがマーキーの四肢を引き裂く。聖弓の一撃が頭蓋を穿つ。

 機構武装の前に彼らなど塵芥がごとし。魔を滅ぼすための武装がこの程度の魔に負ける道理などありはしない。


 ――怖い怖い怖い!


 それでも根源的恐怖は担い手を襲い続ける。悪魔型のマーキーはひどく醜悪だ。四足の獣のようでありながら口が手足の至る所についており、あらゆる攻撃が喰らう一撃だ。

 当たればあらゆる全てを無視して喰いちぎられる。獣型に慣れてきたと思ったらこれだ。ユーマはそこまでクリーチャーに対して耐性があるわけではない。


 そろそろグロには慣れてきたがこの醜悪なものはやはり怖いのだ。それでも、見ている仲間がいるから前線で勇者を張り続けていた。

 以前と違うのは援護してくれる仲間がいるという安心感。ユーマの行動を見て、それに合わせて的確に射撃してくれるルシアンの存在は大助かりだった。


 戦闘も終わり、日も暮れかけて来たので野営とする。準備をするのはそういうことが得意なシオンだ。戦闘では何もできないと自ら進んで雑用をかって出る。


「もー、これで何度目だい? 少し進んだらこれだよ」


 ルシアンがはぁ、疲れたと文句を言う。さすがに連戦であるのでユーマもそれには同意だった。休む間もなく連戦。聖剣のおかげで疲れることはそれほどないが、醜悪でも生き物を殺すことは精神的にも疲労度が高い。

 緊張感の連続で心休まる間もないので気を抜けば眠りそうなほどだった。


「文句を言わないかなぁ。ユーマの方が疲れてるはずだよ。ルシアンは後ろから矢を撃ってるだけだし。――でも、この辺もこんなっていうことはこの先のトミントゥールは落ちてるとみていいかな」

「だろうね。はぁ、しかも何やら大物がいそうな予感だよ」

「…………」


 またクロンダイクみたいなのがいるのだろうか。そう考えるだけでユーマは憂鬱だった。


「大丈夫大丈夫。なんとかなるかな。この前と違って二人がいるんだし」

「そうだな」


 それでもひとりじゃないというのはやはり大きなアドバンテージだ。最初から二人で戦えば強い敵もなんとかなるかもしれない。そう思えるくらいにはルシアンを頼りにしている。


「それよりごはんまだー?」

「はいはい、ルシアンもう少しだから待つかな」


 火の爆ぜる小気味の良い音の中で、シオンは鍋を火をかけていた。ぐつぐつと煮えるのはアクシアの街から持ってきた肉とそこらへんで取れた木の実や菜。

 簡単なスープだった。単純なものではあるが、シオンに言わせれば奥が深い。旅の間の野営において基本的に余裕があるときはスープを作ったりするのが一般的だ。


 水があれば量を多くすることもできるので腹を膨らませるにはちょうど良いのである。魔が襲って来る前などであれば、旅の間具がその都度変わるスープになる。

 場所や地方によって取れる木の実や肉が違う為だ。狩りをしてそれなりの獲物が取れれば豪勢なスープが出来上がる。王都で補充した調味料なども併せてそれなりに良いものができるだろう。


「胡椒を貰えたのは大きいかなぁ」

「元ご主人さまからもらったんだっけ? いいよねー、大商人の奴隷とか。僕より良い生活してそうだよ」

「あはは、ルシアンにはさすがに負けると思うかな」

「そうかい? だって、僕は屋敷住まいだって言っても村の名主でしかなかったわけだからね。肉こそ豊富だったけど、香辛料とかにはとんとねー。ハーブとかはあるけれど。こうやって塩とか胡椒とかには全然」

「それだったらユーマとかは結構良い生活していたんじゃないかな?」

「俺?」

「うん、だって元いた場所じゃ、結構な地位とかにいたんじゃないかな?」

「ああ、それは僕も思う」

「は? なんで?」


 ユーマの手やら立ち居振る舞いを見ていればそれなりにいいところの出だということがわかる。それでも戦ってくれているのだから感謝するばかりだ。

 そういうわけでこういう食生活という面においては一番肥えているのではないかということ。それを説明されてユーマは納得したようにうなずく。


「まあ、それなり、というか……うーん、説明し辛い。ただ、うん、良い生活だったとは思うよ」


 今更ながらこの異世界に来てユーマは自分がどれほど恵まれていたのかを理解した。飽食の時代とはよく言ったものだ。

 好きなものを食べて、いらないものを惜しげもなく捨てていく。そのうえで、世界には貧困で苦しむ国もあるという。


 飢える心配がなく、香辛料も大量に使えることのぜいたくさをここに来て身をもって体験している。それでもそれに慣れ切った舌は相変わらずこの世界の食事を美味しいとは思えないのが難点だった。

 少しずつなじんできたのかある程度うまみという自然ながらのそういった味を感じられるようにはなってきたが、野営の食事にはまだまだ内心で苦い顔だ。


 ――王都で食べた食事はそれなりだったな。


 さすがは貴族の食事と思ったものだ。それでも想像していたよりは幾分かは質素であったのは、この世界が末期的だからだろう。


「…………」


 ――救わないとな。


 王女のためにもと決意を新たにしていると。


「……うん、そっかそっか。なら、腕によりをかけてつくらないとねー」

「良いなー、羨ましいなー。きっと可愛い子とかいっぱいいたんだろうねー」


 シオンの方は良いがルシアンの方はせっかくの決意に水を差されたような気がした。


「はあ」

「あ、なにその溜め息。僕が何を言ったっていうんだい。男として正常な反応だろう」

「あれ? ルシアンって両性とか言ってなかったかな?」

「うん、だから男の子も女の子もいけるよ。どうだいユーマ、今夜僕とイイコトしないかい?」

「よし、首を斬り飛ばしてやる」

「冗談だよ冗談。そういうのはシオンの役目だろうし?」

「ん? なんでそこで私の名前が出るのかな。何度も言うけど、私はユーマの奴隷だから、そんなことはないかな。ラーケだし――はい、できましたよー」


 出来たスープをそれぞれの椀に注ぎ、パンを配る。


「それじゃ、食べようか」

「いただきます」

「はーい、森の恵みに感謝ーっと」


 動いた男どもはさっさと食べる。


「神様へのお祈りはしっかりしないと駄目かな、ルシアン」

「良いんだよ。心は込めたしね。それより僕としてはいつもユーリが言ってる、そのいただきますってのが気になるんだよねー」

「あ、それ聞くんだ。私はユーマのところの宗教に関係あることだろうから聞かなかったのに」

「ん? 別に、ええと、食べ物と作ってくれた人にに対して、いただきますっていう感謝の気持ちを込める感じ?」

「へぇ、いいねそれ。うんうん、感謝は大事かな」


 そんなことを話しながらスープに口をつける。味は薄いものの香辛料が入っているだけで味ががらりと変わる。初期の塩スープよりははるかに味があってマシ。

 肉本来の臭さとかはルシアンのハーブによって中和しているのでユーマも素直に食べられるようにはなってきた。


 スープを飲んでパンをつけて食べる。食事というのはやはり良いものだとユーマは思う。味はさておいて、こうやって食べ物を食べていると生きているという感じがする。何より満腹になれば落ち着くのだ。


「ふぅ、ごちそうさま」

「シオンは良いお嫁さんになるよー。僕の嫁にならない?」

「なりません。片付けたら私は寝るけど、本当にいいの? ユーマとルシアンは戦って疲れているだろうから見張りくらい私がやるのに。数日眠らなくてもラーケなら大丈夫だよ?」


 見張りをユーマとルシアンでする。その代わりにシオンが眠る。いつもとは逆だった。大抵ユーマとルシアンが眠っている間にシオンが見張りをしている。

 さすがにそのままは駄目だろうと慣れてきたユーマが交代でやっていくことを提案したのだ。何より女の子が起きているのに自分だけ眠るのは慣れてきたユーマにとって看過できるものではなかった。


「良いのいいの。僕らも見張りくらいやらないとね。いつまでも女の子には頼れないよ。ね、ユーマ」

「ああ、シオンにばかり迷惑はかけられない」

「迷惑だなんて。私の方こそ戦えないから、こんなことしかできないし」

「そんなことないよ」


 そんなことはない。寧ろユーマの方が申し訳ないくらいなのだ。確かにシオンは戦えない。だが、シオンがいなければ旅は成り立たないだろうことは想像に難くない。

 ルシアンは料理ができないし、基本的な旅の知識は知っていてもそれくらいだ。シオンほど知識があるわけでもない。料理もうまく知識もある彼女はこのパーティーの要と言ってもいい。


 人一倍荷物を抱えているし、大事な時に倒れられては大変だということにユーマが気が付いてこの提案をして今日は眠らせることにしたのである。

 ユーマとて現代人である。夜更かしはそれなりに経験している。日に三時間も眠ればどうにかなるし、何より聖剣が眠っていてもユーマを動かすだろうからそれほど心配にはならない。寧ろユーマの下手な意識がない分強くなる可能性すらあるのだ。


 だからこそ、シオンの体調を優先する。ラーケがどれほど強い種族だろうとも毎日毎日眠る間もないのはきついだろうという配慮だ。


「だからゆっくり眠ってくれよ」

「ん、わかった。それじゃはお言葉に甘えるかな。でも何かあったら遠慮なく起こしてくれていいんだからね」

「わかってる」


 片付けも終わりシオンが外套にくるまって丸くなる。この辺りは獣っぽいと思いながらしばらく待っているとすぅすぅと寝息が聞こえだす。

 彼女が完全に眠ったことをルシアンが確認すると、ユーマの隣に腰を下ろす。


「なぜ隣に……」

「ふっふっふ、ユーマ。ここには僕らだけだ。シオンは眠っている。だからね――」

「な、なにを!?」

「男が二人、深夜にやることと言えば決まっているだろう?」


 嫌な想像に肛門がきゅっとなる。


「シオンの身体、エロイよね」

「…………はぁ」


 そういえばルシアンはこういうやつだった。


「おいおい、君だって認めているだろう。僕らしかいないんだ。正直になれよ。良い身体をしている。これは認めている。だから、その先について話そう。ラーケだから、それなりに筋肉もあるから締まっている。それは具合もいいと思うんだけど、どう思う」

「知らねえよ!?」

「ノリが悪いなぁ。じゃあ、どこが良い? 僕としてはやっぱり胸だと思うんだよね。旅歩きようの装備でわかりにくいけど、あれは結構でかい」


 確かにシオンの胸は大きかったとソノラの村で旅歩き用じゃない普通の格好をした彼女を見たユーマは思い出す。ブラジャーなどの下着もない世界だ。下向きで広がる胸というのは現代で見ることのできない貴重な光景である。

 思春期男子としてそれは脳内に永久保存しているに決まっていた。無論のことそれを認めるわけにはいかなかった。エロ男子としてシオンに認識されると絶対に死にたくなるからである。


「君はどこがいい。さあ、さあ、さあ。大丈夫、僕らだけの秘密だよ。僕の口はこういう時は固いよ」

「…………」


 どこが良い? 胸も良いが、腰つきが良いとユーマは思う。そう腰である。腰。ラーケという引き締まった種族だけあって腰は細い。

 それに尻尾の穴があるからそのあたりは少しだけ薄くラインが見えるのだ。尻から腰に掛けてのラインはそれはもう極上だとユーマは思っている。

 特に眠っている今も外套越しであるがわかる体のラインというものが実にエロスを感じさせる。見えない方がエロいとはよく言ったものだった。


 ――いやいや、王女様に悪いぞ、これは。


 だが、思春期男子である。目の前にあると想像してしまうのは止められない。それに王女であるレエーナは好きすぎてそういう対象に逆に見れないのである。

 その時になればいくらでも興奮できるだろうが好きという気持ちが先行しすぎて神聖視してしまってそういう風に見れないのだ。


「ふむ、僕の見立てだと、腰とかお尻だと思うんだけど、どうだい」

「なっ――あ」

「ふっふっふ、ついにボロを出したね。うんうん、わかるよ、わかる。王女様もそうだったし、シオンも良い腰つきをしている。そこに手を置いて後ろから突くとか想像しちゃうよね」

「――――!」

「あれ、何を朱くなっているんだい。ははーん。君、童貞かい。うーん、駄目だよ。駄目駄目。よし、ここは一発シオンとやると良い」

「はぁ!?」


 ――どうしてそうなる!?


「え、だってシオンは君に好意的だろう? 頼んだらやらせてくれるさ」

「いやいやいや!?」

「ユーマ、これはね、経験者からのアドバイスさ。好きな相手の前で恥をかきたくはないだろう?」

「…………」


 確かにそれはわかる話だった。


「入れる穴はわかるかい? 見たことは? どうすれば女の子を満足させることができるのか君には本当にわかるのかい? 知識で知っているのと実際にやるのは大きく違う。君には好きな相手がいる。ああ、わかっているとも。その子に悪いと思うのが君さ。で、その子の前でどうすればいいかわからずに焦りたいのかい? 恥をかきたいのかい? ちなみに王族の情事はきちんと夫婦になったのか確認のために侍女などが見ている。そんな彼らの前で恥をかいてもいいのか?」

「…………そ、それは……」


 ――それは嫌だ。というか、見られながらって……


「だが、それが王族というか貴族の行為なんてものはそういうものなのさ。間男には入れれないように噂を流すためなんだよ。ちなみに、僕はそれでも美人なら人妻にアタックをかける! 嘘だと思うのならシオンに確認してみると良い。彼女ならきっと知っていると思うよ」

「……いや、でも」

「安心すると良い。その点、シオンはそういうことは心得ていると思うから優しく手ほどきしてくれると思うよ。なに、安心すると良い。僕はその時は、どこかに行っているから。盗み聞きも盗み見もしない。どうして他人のを見ないといけないんだい。それなら、僕は女の子を捕まえてきて僕のやってるね」

「そういう問題じゃなくてだな」

「旅の仲間とそういう関係になりたくないとか?」

「そう、それだ」


 絶対に気まずいだろうとユーマは思うのだが。


「ないない。シオンに限って引きずることはないだろうから、あとは君次第なんだよ。君は気にそうだけど、相手が気にしてないならそのうち大丈夫になるさ。好きな相手とやるならまずは腕を磨かないとね。まあ、無理にとは言わない。シオンが嫌なら、僕が適当な女の子を見繕ってあげよう。安心し給えよ。僕はこう見えても女の子に関しては天才的だ。これも兄には負けたことがない。だから、次の街にでも一緒に娼館に繰り出すとしよう。そういう相手をしてくれる女の子を見繕ってあげるとも。お金の問題も心配いらない」

「いや、そういうのは俺は」

「煮え切らないねぇ。君はやりたくないの? やりたいだろう?」

「……やりたいとは思うけどさ」

「ならば何を迷う必要があるのか。男なら本能に従ってみろよ! あ、妊娠とかが怖い? それならますますシオンが良いよ。うん。ラーケだからね。彼女とは早々子供はできない」


 ――だから、そういう問題じゃないんだよぉおぉぉぉぉお。


 思春期男子である。そりゃもう気になる。気になりまくる。今も必死に股間の膨張を抑えようと必死である。

 異世界に来てそういうことをひとりですることもできていないのだ。想像するだけでもユーマのユーマが制御不能の聖剣になりそうなのである。


 興味がないというのは嘘である。興味津々である。正直シオンならばと生唾を飲み込む。

 だが、そういう問題ではないのである。思春期男子の複雑な心境は言葉では説明できない。と逃げに走っているのだが、ようはへたれているだけである。


「そうかい。わかった。わかった。じゃあ、この話はなしにしよう」

「はぁ」


 そういったルシアンが笑っていたことにユーマは気が付かなかった――。


さて、上げるのはもういいかな。次回あたりから落とします。

しかし、馬鹿会話書くの楽しいです。ルシアンはそういうところ便利なキャラ。


フレーキさんからレビューをいただきました。改めてこちらでも感謝の言葉を述べさせていただきます。

ありがとうございます!


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