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第八十五話 魚をただ食べるだけでは頭は良くならない

「どこにいったァ!」


「探すんだ! 生かして帰すな!」


なんとか逃げ切った海斗達ーーーーー今は建物と建物の間、狭い通路になっている場所に身を隠している。

一歩踏み出せば日の当たる外……そこには戦闘員達が血気盛んに彼らを探していた。


「………」


「……当分外には出られませんね……」


海斗とシウニーが影に隠れながらそれを眺める。

今出てしまっては確実に蜂の巣だ、それだけは絶対に避けなければならない。


シウニーは気分を沈める。

それはそう、なんとか穏便に事を進めて行きたかったからだ、皆も同じ気持ちなはず。


「俺達はこの要塞をぶっ壊しに来たんだ……遅かれ早かれ、どっちみち外には出られねえ道を辿るんだーーーー丁度いいだろうよ」



だが海斗は落ち込ませる言葉は言わなかった。

……なぜかこの人が言った事に落ち着いてしまう……彼女は沈んだ心を少し浮かせた。



「ただ、吉和を失ったのは痛い打撃だ……」


前向きな言葉を放った海斗も、吉和がいなくなってしまった事にはこたえるらしい。


「本当ですね……あの人しか要塞内の道を知らないというのに……」


「良い人を失いました……」


「最初こそ変だったけど、慣れれば楽しい性格だったわね……」


他の者達も嘆いた。

吉和以外、要塞内の道はわからない……これからどう進むのか、計画はどうするのかなどの手段がなくなってしまった。

かなりの打撃だろう。


いや、それらを抜きにしても、吉和にはかなり助けられた。

最初はうざいと思っていたあの性格と口調も、慣れてしまった今では少々口惜しい。

彼はそれほどまでに重要な役割を担っていたのだ。


それが……それが、敵にあんな酷い殺され方をされるなんて……

どうか吉和、安心してほしい。

お前の意思は俺らが継ぐから……



「……」

「いや、何敵に倒されたみたいに言ってるんですか」



シウニーが冷めた顔を作る。

まるで彼女の顔だけが氷河期になってしまったかのようだ。

だが海斗達は違う、意味不明な事を言う彼女に疑問が浮かぶ顔を作った。



「え?お前こそ何言ってんだよ……あいつは敵に殺されたんだ」


「完全に味方からの手でいなくなってるんですが」



「シウニーさん、やめてください……そうやって現実逃避するのは……一年間晩ご飯抜きです」


「現実逃避してるのエレイナさん達ですし、晩ご飯抜きは勘弁して下さいお願いします」



「今頃あいつ……天国で良い時間を過ごしてるかしら……」


「死んだらめんどくさい事になるとか言ってた天使が何を言ってんですか」



「騎士としては三級だったが、男としては四級の立派な奴だったな……」


「確かにシェイラ様の言う通りです……勇敢には程遠く、臆病には一番近い素晴らしい男でした……」


「貶し成分100%の褒め言葉なんですけど」



各々吉和について思うことを口に出した。

だがほとんどが理解不能、第一死んでないような気もするんですが……



「酷い死に方でしたねぇ……可哀想にぃ……」


「おい当事者何言ってんだ!!」

「吉和さんは落とされたんですよ!前回の八十四話目で!マモンさんに突き落とされたんですよ!」


「そうなんですかぁ?」


「そうなんですよ!」



マモンさんが手を掛けたんですよね! あんたがやったんですよね!

すっとぼけるマモンに対して言及するシウニー。

それでも、わかりません……と理解を拒む彼女ーーーーーどうしようもない。


「やめろシウニー……死んだ奴の事をいつまでも話題にするんじゃねえ……不謹慎だろう」


「死んだとか言ってるあんたが一番不謹慎だよ!」



ダメだ、早くなんとかしたいけど手段が思いつかない。

八方塞がり……もうやめよう、この人達とまともな会話を築こうとするのは……


うなだれるシウニー、自分一人でなんとか打開策を考えようとするーーーーと



「情報を持つ者がいないならいないなりにやってみましょう……私が先頭に立ちますので……」


ルシファーがそう言った。

こういう時は一番ふざけそうな人なのに……!

ごめんなさい、これから印象を改めます。


「丁度ここにマンホールみたいな蓋があるぞ、地下へと通じてるんじゃないか?」


アノミアが地面に存在する潜水艦のハッチのようなものに指をさす。

ちょうど自分達がいる場所の横だった。


それを見て、全員意思は固まったようでーーーー


「……」

「うし……行くか」


地下へと目指すことにした。




ーーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーー




「やはり何かしらの訪問者がいるようです」


「……」



蝦夷ーーーと呼ばれる男の部屋に戦闘員が一人。

どうやら海斗達の事を伝えに来たらしい。



「如何致しましょう」


「………戦闘員をぶつけておけ、軟弱者であればそれで終わる」

「それでも駄目なら……私が行く」


「かしこまりました」


命令を下す蝦夷、それを受け取り部屋から去ろうとする……


「ーーーーあぁ、それと……」


「?」


だが蝦夷は引き止め、質問を彼にぶつけ始めたーーーー





ーーー


ーーーーーーー


ーーーーーーーーーーー




「すげぇな……SF映画かなんかかよ……」



地下に移動した一行。

照明は無く、暗い場所かと思われたそこは全くそうではなかった。


紫色の金属でできた壁、そのツギハギ部分には縦に伸びた照明ーーーーー

それはまさしく近未来的な光景だった。



「そうですね……なので、どんな兵器が出てくるか分かりません……決して身を緩ませないように……」


「だな、まずは我が身を守れるようにしねえと」


ここは敵地の内部、一番自由がきくのは敵自身。

それ故、緊張をより一層張ることが必要だ。


それを聞いた子供達は


「では、私達は……足手まといなんじゃあ……」


「足枷……」


暗い表情をした。

皆がこれを円滑に遂行するためには不要なのではないかと。

むしろ邪魔になってしまうのではないかという不安があった。


「……んなこたぁねえよ……大丈夫だ、頼りになる姉ちゃんがいるだろ……?」

「二人を守るようにお願いしてるシェイラとアノミアは最強の矛だ、俺はそう思う」



ラーファとエリメの目線まで腰を落としてそう言った。

最強の矛、と褒められた女騎士二人は満足そうな顔をし、胸を張った。

周りの皆も同じ思いだ、全然彼女達を邪魔と捉えていない。



「んで、ここにゃあ二人を守ってくれる鉄壁の盾がいるだろ?」


海斗はある一人に親指を向けた。


「シウニーが」


「誰の胸が鉄壁じゃァ!」


「え?違うの?」


「違いますよ! あんたどんだけ私の胸を使ってふざけるんですか!?」


「だって、お前の胸の耐久値この要塞超えてるだろ?」


「超えてませんよ! 私の胸どう見えてんですか!」


このやりとりで、子供達の表情も幾らか柔らかくなったように感じる。

それを理解しつつシウニーは言葉を続けた。


「もう私の胸は置いておきましょう……! 今はそんなネタ拾ってる場合じゃ無いです! 問題はどう蝦夷に会うかどうかですからね!」


「分かってますよ盾、それを考えてるんです盾」


「なんですか姫様、盾って、まな板から盾に変化したんですか私」



「いえ……おそらく 『盾』 というのは語尾と思われます盾、決して貴女を盾と認識しているのではないと思われます盾」


「絶対認識してますよねこれ、ルシファーさんにも感染してますよねこれ」



「盾盾?」


「盾」


「もう語尾じゃなくなったんですけど、ただの悪口なんですけど」


またおふざけのスイッチが入る。

収拾がつかない。


「全く道もわからないのに……ふざけながら歩いてちゃなにも収穫ないでしょ……」



またもや一人で考えようとするシウニー。

だがどうやって進めればいいのだろう……全く見当もつかない。

自分には情報が少なすぎた。



「………いや、そうもないみたいだ」


「?」


海斗が静かに口を開けた。

彼の右人差し指は通路の先を指していてーーーーーその方向から段々と足音が耳に届くようになっていった。

それは近づけば近づくる程おびただしさを増してゆく。


「道案内が来てくれたぞ、気の利く誰かがいたようだ」


数秒経てば目の前に姿を現し、海斗らの行く手を阻んだ。


「いたぞ! あいつらだ!」


戦闘員達は銃を向けるーーーー先ほど醤油をかけた部隊が持っていたものと同じ種類だ。

それを見て海斗は期待はずれな顔をする。


「なんだよ……こんな未来的なのに出てきた武器は銃か……」


「なら話は早いですね」


だが、また、得意な表情も垣間見せた。

銃との戦いの仕方をしているからだ。


「あぁ……簡単だ、銃に勝るにはーーーーーー」






「弾丸より早く攻撃すりゃあいい」


そう言い終わるや否や、海斗、ルシファーが飛びかかる。

二人は一番手前に立つ戦闘員を、発砲される前に弾き飛ばして見せた。


「ーーー! なっ……!」


驚く彼らを尻目に攻撃を続けていくーーーー

海斗は木刀、ルシファーは魔力で形作られた黒剣こくけんで薙ぎはらっていった。


それを後ろに眺める者達ーーーーその中でも花音とエレイナが一番強く受け止めているようだった。

自分も何かをしなくては……心の内に浮遊するただ一つの感情。

その感情はどんどん大きくなり


終いには身体を動かすまでに至った。


迎撃する四人……彼らに手も足も出ない戦闘員。

勝利は目前まで迫っていたーーーーーだが



「……! 後ろからも……!」



背後より戦闘員が向かってきたのだ。

残った者達も迎撃しなくてはならない……だが子供を守らなければならないのだ。

動ける範囲は限られている。


「私達に任せてもらおうか」


たとえそうだとしても守護するというのが騎士の役目。

そう言わんばかりにアノミアとシェイラは剣を構え、地面をひと蹴りし向かっていった。


彼女らはたった一つの動作で、まだ10m離れているであろう場所にまでたどり着いた。


計六人ーーーーー何も声を交わすこともなく、自分の成すべきことを淡々と、軽々しく、いとも簡単にやってのけた。


そして敵と対面してから1分程度で全滅させることに成功した。



「あー……全く問題なかったな」


「怖かったです……」


いや、拳で敵を吹き飛ばしてたエレイナの方が怖かったんだが……

そう言おうとしたが命の危機を感じ取り、喉を通過させる前に潰した海斗だった。


「道案内させるつもりが全滅させちゃったし……歩くわよ海斗」


「へいへい……あんまり遠くなけりゃあいいんだが……」


また歩き出す一行……しかし



「か、海斗……」


「?」


呼びかけられ振り向く海斗ーーーー見れば騎士二人が震えていたのだ。

後悔が体から放出されている彼女達。


「申し訳ない……!」





「目を離している隙に……二人がいなくなってしまった……!」


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