第五十話 行きも辛いし帰りも辛い
木造の階段をのぼる足音が、浅く廊下に伝った。 バルはうえの階に着くあいだずっとあのときの海斗を頭に浮かばせていた。
あんなことを言う人だろうか、魔王様は。 あの人は誰かが苦しんでいる姿を見ると、どうにかしようとする人だ。 それは私が一番よくわかっているんだから、間違いないはずだ。 バカみたいに1人でなんでもしてやろうとする人なんだ。
だからさっきの言いかたがどうしてもひっかかってしょうがない。 もっとも近くにいるといってもいいくらいの仲間があれほど困っていて、あんなことを平気で言える人じゃない。
気づけば自分が、海斗が休んでいる部屋の前にいることに気づく。
彼はどんな風にいまを休んでいるのだろう。 別になんともないようにベッドに寝ているのだろうか。 やってしまったと、言いすぎてしまったふうに顔を悩ませ腰掛けているだろうか。
扉をノックする手がすんでで止まった。 なんだか彼の姿を見たくないとおもってしまった。──あれで嫌いになってしまったとかではない。 めんどくさそうに答えたり本心をうちあけたりするのは、彼なら日常的によくあることだ。
バルは視線をドアノブに落とした。
彼が城でエリメちゃんと接しているとき、小さくであったが微笑んでいたように見えた。 それが見間違いであったとしてもなにかしらの充実感のような、ラーファと一緒にいるときのような柔らかい空気を感じた。 のに、あんなことを言った……。 実際、エリメちゃんに対してどう思っているのか、この扉をあけることで、その答えを知ってしまう。 それが手を止めているのだと、うすく察せた。
「……魔王様、いまいいですか」
それでもここで止まっていてもいいことはないと、バルは口をあけた。
……が、返事がかえってくることはなく、首をかしげる。
「寝ているのですか? ……あけますよ?」
大怪我をしたあとだ、当たり前か。 完治したわけじゃなし。 それならそれで、怪我の程度も気にもなる……。 バルは思い切って扉をあけることにした。
するとバルの顔に風が当たった。 いや、もはや、風しかこの部屋にいなかった。
「魔王様……!?」
空いている窓から吹くさわやかな風になびくカーテンを見て、気づいた。 ベッドにいると思っていた海斗はどこにも見えずに、全てを理解した。 いや、私は最初からわかっていたじゃないか。
あの人は1人で行く。 1人でなんとかしようとして、振り返らずにすすんでいく。 今回も彼は変わりなく、1人でなんとかしようとしているのだ。
バルはすぐに部屋から出て、階段を駆け下りた。
*
海斗は歩くたびに、なにかが身体の中で動作をぎこちなくさせている感覚を覚えていた。 身体の内部につっかえ棒があるような感じ……もうほぼほぼ痛みはなかったが、痛み以上にイヤな感触であると、眉をひそめた。
服越しに包帯をなぞる──痛みが走らないことを何度も確認した。 こうして、もとの皮膚に戻してくれた心優しいエリメは、もういない。
確実にあの巨人たちに狙われているあの子が、いまどうしているのかを考えると、このつっかえが痛みに変わるのも感じた。
もう昼になろうとする時計を、飲食店の屋根の上に見た。
加えてシウニーもいなくなってしまった。 あいつもどこを走っているのかわからない。 ただ、あのときの自分の言いかたに怒って飛び出して行って、いまもどこかで頑張っているのはわかる。
……でも、いいのだ、これで。 どうせあのときどんなことを言おうと、あいつのことだ、エリメを見つけようとする。
それでもってまわりはお人好しばかり。 きっとあいつらもシウニーについていって、けが人が出ても止まらない。
なら最低限の被害がいい。 もう怪我をしている俺が探るほうがいい。 この状況で新たな怪我人が出れば(とくにバルなどの重鎮なら)パニックになる。
海斗は、変化できる巨人の存在に注意していると、少し前に見える画材道具店に集まる子どもたちに目がいってしまった。 海斗はドキッとした。 その子どもたちのなかに、銀髪で白いワンピースを着ている女の子の後ろ姿があったから。
思わず走ってしまわないように意識したのだが、一歩、二歩と駆けてしまって、いけないとすぐに止まった。 他の子供たちの顔に隠れていた少女の顔が見えたのだが、瞳の色が紫であったのだ。
別人に若干肩を落とした海斗であったが、次は彼らがなにをしているのかが気になって奥を見た。 大きめのキャンバスがあって、絵を描いているようだった。 店が無料で提供したキャンパスなんだろう。
そこにはふにゃふにゃの線で好き勝手に描いているようだったが、それが子どもの心をくすぐっているようではしゃぎ笑っていた。 保護者らしき大人も数名いて、ほほえましそうである。
海斗はふいと一瞬、現実を忘れた。
アリフトシジルに子どもはラーファしかおらず、いつもサタンなどの大人に遊びの相手をしてもらっているのを見る。 やっぱりあいつもこうした同年代の友達がほしいと思っているのだろうか。
一度まぶたを閉じて一息ついたあと、この場を離れようとすると店内から太った男が、鼻息混じりにでてきた。 深めにツバが広い青の帽子をかぶってマスクを身につけ、右手にはたぶん画材道具がたっぷりとつまった紙袋をさげている。 オーバーオールに絵の具が多くかすりついているのを見るに、よほど絵が好きなのか。
海斗と子どもたちにはさまれて抜けようとするその男を、海斗は、普段通り過ぎ去っていく他人としてみるが、鼻にうっすらと鉄のにおいをかいで、そんなわけにはいかなくなった。 はじかれたように振り向いた海斗は、店のすぐ横にある路地にはいろうとする男をとらえた。 するとその路地に一番近い、子どもたちの影に隠れていた小柄の男の子の襟首をつかみもっていったのだ。
海斗は目を大きくさせた。
あまりにもなめらかすぎる犯行に驚いた。 子どもたちから離れて談笑している母親らはそれに気づくことはなかった。
あのにおいは間違いなく、巨人と同じにおいだった。 もしかすると仲間なのか。
海斗は男を追った。 路地はいりくんでいたが、奥を右に曲がるところを見れた。 駆けて曲がると、案の定それほど離れていない男の背中が見え、木刀の柄に右手を置いた──だがその瞬間に足が掴まれて、海斗はあっけにとられた。 見下ろさずにも、明らかに掴んでいるのが手であるとわかったが、地面からなんで手が──しかしなんとかしなければと、海斗は刀をとって、見下ろすと同時にその手を斬った。
倒れまいと手をついた海斗は、足元でよこたわった手を見た。 大人というよりも幼さがある手であった。
「いやぁー驚いたよ。 気づいたでしょ、君。 このにおいに」
よつんばいのまま海斗は顔をあげると、男がこちらにむいて立っていた。
海斗の目が鋭くなる。
こいつも巨人なのだろうか? 普段はまわりの悪魔にとけこんで生活している存在なのだとしたら、どんな動きをするかわからない。 必死にこいつのしたい行動をさぐらなければならない。──海斗は口を閉ざして男の身体を観察した。
「あの巨人のにおい……」
「その通りだ。 君たちがたたかった巨人のものさ。 あれは私の絵画なんだから当然なんだけどね」
絵画……? 絵画とはどういうことだ。
「ぅぐ……ぅぅ……」
悩む海斗の鼓膜を、男以外の声が、彼の背後から打った。
「君、写真で見たよ。 アリフトシジルの魔王になった人間でしょ。 エリメちゃんの新しいご主人様」
海斗は目を大きくさせた。
知らず知らずにこちらの素性が明らかにされている。
「さっきは店でてあせったよ、まさか近くにいたとは思わなかった」
マスクでうすくくぐもった声。──そのあいだに途切れ途切れに聞こえる幼い声を注意深く、海斗は聞いた。 男の横に視線をやっていたが、ふと足元にやると、小さい靴が見える。 暗くてよく見えなかったが、横にたれた服のそでの赤さを見るに、つれさられた男の子であるのは明らかだった。
あの子を親の前に返すにはどうすればよいのか。 しかしいまだ素性不明の男を前にして動くことができずにいる海斗は、ひたすら目をとがらせることしかできなかった。
「そんな悪いことしてんのかよ、お前んち。 そりゃあガキさらうことがチンケにみえるくらいにか?」
海斗はうっすら笑ってそういった。 だがすぐに目をまるくすることになる。
男が「うーん」と声を出しながら顔をあげると、帽子とマスクの隙間から血走った目が現れた。 それは片目だけであったが、まわりの皮膚が程度の低い整形を繰り返したような、ひどく痛んでぶよぶよになっていたのだ。
「たぶん、君が想像してるのでだいたいはあってるよ」
そう男が言えば、海斗の横の室外機が強く回り出した。 あまりに強い回転音に驚いて目をやった海斗の襟首を、プロペラの中心部分から伸びてガードをつきやぶった手がつかんだ。
「な、なァッ!?」
するとプロペラが室外機をやわらかい卵のカラをやぶるように裂き出てきた。
よけようにも、手が軸となって円をえがかせながらプロペラを海斗の顔めがけて運ぶ。
海斗の脳裏に、自分の顔がまっぷたつになる映像が流れた。 思わず海斗はその未来をかき消すように抜いた刀で手をかっさばいた。
プロペラはかわした顔のすぐ横を通っていって、建物の壁を何回もえぐって止まった。 無傷でのりこえたと思ったが、頬があつくなった。 少しかすって切られていたのだ。
「ブラボーブラボー。 さすが魔界の中で生き抜く人間。 反応もいい具合に人間離れしてる〜」
海斗は横の室外機からベキベキとパイプがはぎ取られる音が聞こえて男を見ると、言葉に詰まった。──男の子がこちらにかかげられていたのだが、両腕がなく、そでが風に揺れているのだ。
目の前でなっていることを見て、夢かと思う。 男の子にパイプや転がる石が突き刺さり、中でうごめき固定されていく。 しまいに頭に男がポケットから出した花火を刺してつめこんでいく。
なんてことをしているのか、まったく理解できなかった。 生物の中にそんな無理やりものをつめこんで死んだりはしないのか。
「普通じゃねェ……エリメもそんなことをするために捕まえようとしてんのかッ!」
「そんなこと……これが人殺しと思うかい? 生物の尊厳を無視していると思うかい? まったく、君も昔の仲間のようなことをいうんだねぇ。
んでこれを見た君は、こんな悪どいことを止めようと、『あの子』の運命を不幸だと決めて止めようとするのかい?
それは違う!! 私は生まれ変わらせているのさ!! 宝の持ち腐れのように秘められた一人一人の個性的な色を混ぜ合わせてね!!」
「意味わかんねェことぬかしてんじゃねェーぞッ!」
海斗は男にむかって斬りかかった。 子どもをよけて斬る未来はすでに頭の中にあった。 こいつがもしも黒幕であれば、ここで終わらせる……エリメの不幸はここで終わらせるのだ。
すると男は子どもの足を持ってふくらはぎをナイフで刺したかと思うと、目が膨らんでこちらに凄まじい速度で飛んできた。
海斗は目の前にまでせまる、血を撒き散らす2つの眼球をとっさに横一文字にぶったきって、うしろに下がった。
「意味がわからぬことじゃない。
君はたぶん私よりも身体能力において、強い! 君の斬撃をよけきることは至難の技になるだろう。 でも避けることなどせず、眼球をうっただけで回避することができた。
これには、大きな意味がある!」
海斗は眉を小さくひそめた。
「わからないかい。 この男の子がさっきまで通りならば、君を止めることなどできなかっただろう。 しかし眼球を飛ばすという色を私が見つけたことによって、この子は一瞬だけだが輝くことができた!! これが私の魔力の使い道! 生物と非生物を組み合わせて絵画を作る!!」
子どもは男からはなされて、地面を打った。 血は出なかった。 まるで鉱物にでもなったように動かなかった。
「あの巨人も、君が見ていない他の絵画たちも、もとは生物と非生物だった。 私が色を見つけて、組み合わせたのさ。
いい強さをしていただろう? あの巨人たちは。 私は、悪魔や神などをひとひねりにする素晴らしい絵画を作るのが目標だ!
しかし、しかしああやって強い個体を生み出しても欠点が存在する。 カロリーの消費がはげしいことだ。 なにも摂取していない時間が少しでも続くと思い通りに動けなくなる……。
でも私はそれを解決できる、すさまじい個体を見つけ出した。 それがエリメだ」
「エリメ……」
彼の言う色とは、個人個人の秀でた能力のことだろう。 巨人もなんらかの能力同士をかけあわせて作ったものであると。 だからエリメを欲する理由がすぐにわかって、海斗は胸らへんをさすった。
「君も体験しただろう、あの子の治癒能力を。 普通の治癒魔力ではおさめることができない巨人の酸を無力化するあの子の力を。
あれは持続的に、身体の崩壊をくいとめてくれる……。 それに私の見立てでは、魔力をバラバラにしても力を十分に発揮してくれる! 身体を解体し、多くの絵画に少しずつ練りこむことで運用することが可能なのだ!!」
「ゲス野郎が……!」
「悪しきことだと思うかね?」
海斗はまばたきした。
当たり前だ、どんな理由を盾にしたとしてもそんなこと、許されるはずはない。
だが、そう揺らがぬはずだが、男はそうではないと、堂々と立っていた。
「違う。 君が思う強盗や殺人とは違うのだ。
生物が素晴らしい色を持っていたとしてもね、彼らがそれを十二分に発揮できるとは限らない。
うまく使えずに一生を終えることだってあるし、見つけらぬ者もいる。
私はそうさせぬよう、組み合わせているだけなのだ。 エリメちゃんも同じ。 彼女も治癒魔力をうまく扱えていない。 本当なら、あらゆる傷を治し、且つ魔力があれば飲み食いせずに生活することが可能になる! だから私の創作のため使うのだ!」
男はこれから創作するであろう絵画を想像した。 まだ見たことのない色を持つ者が現れて、創作の幅を広げて己を描いた夢まで突き上げてくれるのがありありと浮かんだ。 それはいつまでも善だと思う。 よくみんな言っている、「夢を叶えるには努力し続けなさい」──それそのものをしているだけなのだから。
「やっぱ殺人じゃねェか」
だが、海斗はそれを許さなかった。
「その子がそうなっちまった時点で、その子の未来はなくなったんだ。
生と死の境界なんてもんは、死で決められるもんじゃねェ。 未来で決められるもんなのさ。
お前が子どもを銃にしちまった時点で、その子の未来は『自分』としてではなく『兵器』として語られることになった。 その時点で死が決まったんだ! お前がやっているのは生まれ変わらせることじゃなく! ただ未来ある者を殺しているだけだ!」
海斗の目は鋭かった。
本来ならばこのまま自分として進むはずだった男の子。 なにか夢をえがいていたかもしれないし、考えていなかったかもしれない。 ただ、いまは友達と遊べればよかったのかもしれない。 でも、いずれにせよ、自分が決める道を歩くことはなくなり、まったくべつの物がすすむであろう未来を歩むことになってしまった。
それが人殺しじゃない理由はないだろうが──海斗は怒りを覚えた脳裏に、エリメを浮かばせた。 エリメももうすぐ、こうなってしまうかもしれないと思うと、ますます憤りを感じた。
「……んん。 その精神力と戦闘力。 素晴らしいと思うし、色としてあつかいたい。
でも君ぐらいの戦闘力ならごろごろいる。 んでもっていまの私の作品を完成させるには君じゃない。 エリメだ。 これまでは『あいつら』のミスでなかなか捕まえられなかったけど、まだ奴隷商にとっつかまえられてないから今度こそなんとかなりそうだし」
男はそう言いながら、オーバーオールのポケットから筆をとって、付着した青の絵の具で壁にバッテンをかいた。
するとすぐにそのバッテンから長い豪腕が現れ、拳で海斗の腹を打った。
海斗の顔がゆがんで、うしろに飛ばされ転がった。 急すぎて反応できず、もろにくらった海斗は苦しみにもだえたが力をふりしぼって前をにらみ見た。 すると梅干しのようなしわくちゃの赤黒い球体のばけものが路地にいて、うえに男が乗っていた。
「君はエリメちゃんを捕まえたあとに色にしてあげる。 なんならエリメちゃんとまぜてあげるよ。 美少女とまぐわうの、好きでしょ男の子って。
それまで自分の身体を大事にしててね」
球体は両腕をはやして、建物に指をめりこませて、内部に侵入した。 のっている男も化け物の能力の恩恵をえるのか、同時に消えていった。
痛みが腹のなかをむしばんでいた。 されどもエリメが危ない──そう思うと、後悔にさいなまれる自分を未来に見て、腹にかかえて立ち上がった。 幸運に、やつらがはいっていった建物の裏戸口がすぐそこにあって、すばやく壁伝いで中に駆けはいった。
はるか向こうに化け物の背中が見えた。
これ以上突き放されたらたまったもんじゃない。 海斗は無理矢理に激痛から目をそらして思いっきり走った。 いつでも斬り掛かれるように柄に右手をかけた。
今度はすぐに切り殺してやる。 少なくともどちらかは消してしまわねば。
その思いにかられる海斗は、少しずつではあるが近づいていっている気がした。
しかしその直後、海斗の前にだした右足は、床をふむことはなかった。 海斗は突如としてあいた床になすすべなく落ちていった。
穴の中はまっくらやみで、どこまで続いているのかはっきりと見えない。
いったいいつ地面が現れるのか──そう思い始めて間もなく、海斗はやわらかな地面に尻をぶつけてはずみ、今度はかたい床にぶつけ顔をしかめた。 すると背後から歯のあいだをとおったような大きな口呼吸が聞こえ、急いで立って振り返ってみたが、いまだくらやみで何も見えずに、身構えた。
急に明かりがついて視界がひらけると、海斗は驚いた。 前にピンク色の、巨大なクマの顔があったのだ。 身体はネバネバととけて、壁や天井にクモの巣ようにへばりついている。 彼は海斗を認めると可愛らしい口をひらいてキバを見せて、激しく吠えた。 それほど大きくないメカメカしい部屋で、こいつをどうにかするのは、どう想像しても難しく、海斗の目は見開いた。
「彼は私の絵画だ。 まぁ、もう運用はおわったからここに投げ捨ててるんだけどさ」
部屋のすみからあの男の声がした。 目をやると、はたして彼はそこにいて、化け物の身体の一部がこの部屋に出ていて、そこに男は立っていた。
「テメェそんなとこに……」
クマがもう一度吠えて、海斗は口を閉ざした。
「今夜、きみんとこの国を襲うよ」
海斗は眉をつりあげた。
「エリメの姿がない……彼女をさがしにいった絵画からの連絡もないしね。 でもはやくあの子がほしい……だから手当たり次第に、あの子が行きそうなところを潰していくことにしたんだ。
だから、はやいとこ、君はここから出たいだろう。 手っ取り早く言うね。
ここは私の、使い道がなくなった絵画たちを詰め込んでいく地下20階の塔だ。 ここから出るには各階にいる絵画たちが体内にもつカードキーをとって、扉をぬけなければならない。 いいかい? 20体だ。 いまから君は彼らを全員倒さなければでられないんだ」
海斗は木刀に手をかけた。
「じゃあ説明終わり! 私は下準備にかかるから、会えたら会おうね! まぁ……明日にここでご挨拶することになるかもだけどね」
男は化け物と一緒に壁へと消えた。
クマはさっきと同じように口呼吸した。
海斗は木刀をひきぬいて、まっすぐ前を見た。
ここで自分が膝をつけば、エリメも、国も危うくなる。 なれば帰る。 帰らなければならない。
海斗は一呼吸して、クマがのばした手をさけ、一気に距離を潰して木刀を脳天に振り下ろした。




