第七話 からまった糸を見たときほどうんざりすることはない
「海斗さんは、知っている悪魔とかいますか?」
「……サタンとか」
会話がはじまってどれくらい経っただろうか。
時間的にはそこまでなのかもしれないが、海斗的にはかなり長く経っているような気がしていた。
自分には帰りたいという目的があるわけだし、バルバロッサ側にも用事があるようなのに、その鍵を握っている彼女は会話にお熱で、なかなか鍵穴にさしこんでくれないことに、多大な焦りを感じて、手はずっと拳を作っていた。
そしたら、初めの質問よりもかなりまともなものを投げかけてきて、海斗は少しうなって答えた。
するとバルバロッサは、にこりと微笑むではないか。
「あぁ~、確かに各世界で有名ですもんね、あの子」
「悪名高いですよね」
「でも結構可愛いんですよ?」
海斗の眉がぴくりと反応した。
「可愛いんですか?」
「ちょこっと手はかかりますけど」
「ちょこっとで済むんすか?」
微笑みながら向けてくる視線に、こちらを見ているようで見ていないと思った。その微笑みと瞳の奥には、昔を思い返しているような色が混ざっている気がしたのだ。
「えぇ⋯⋯少しでもイラッとしたら暴れて家をぶっ壊すことがありますが、こっちはそれを叱るくらいなので」
「それのどこがちょこっとなんですか? でかすぎやしませんか?」
「でも、前にプレゼントを、食堂で渡されたんですよ。突然、みんながいる前で」
「へ、へ~……よかったじゃないですか。なにくれたんですか?」
「うさぎの刺繍が入ったパンツです」
「馬鹿にされてますよ、きっと。おもしろがられてますよ、きっと」
「それも『ここで履け』なんて言い出して……とんでもないサプライズだと思いました」
「あなた多分姫として認識されてないですよ。絶対馬鹿にされてますよ」
海斗は苦笑しつつ、眉をひそめた。
はたして、自分はこの人を信用してもいいのか?
疑念が生まれたこのあと、海斗は少しだけ、なんとなく違和感を抱いて、眉を下げた。
本当になんとなくだが、彼女の今の性格が本当のものでは無いのではないか? と思ったのだ。
楽しげな感じで話してはいるのだが、なにかをひた隠しにしているとも感じた。なぜかはわからなかった。突如として心に浮かんだのだ。
海斗の頭の中は、それに対する疑問でいっぱいになった。
したら、いつの間にか、日本に帰る、という目的が脳からずり落ちてしまっていた。
もっと話してこのモヤを晴らしたい。
海斗は、今度はこっちから話してみようと先に口を開かせようとしたが。
「姫、ここまでにしておきましょう。もうじき……ですので」
アイナがこれ以上の会話にストップをかけてきたのだ。
バルは微笑みを小さくさせて、アイナと視線を合わせた。
そして二人の視線がいくらか触れ合った頃「そうですか」と、再び海斗に視線をやった。
唐突に来た終わりに、海斗は言葉につまってしまい、彼女が腰をあげるのをただ黙って見ていた。
こんなあっけないおわりもあるのかと、どこか悲しく思ってしまっていた。
バルバロッサは、海斗を笑顔で見下ろした。
「それでは海斗さん。お話、楽しかったです」
その笑顔に、海斗は不思議で胸を満たした。楽しかったのなら、二色の瞳に光をやどして、えくぼを作るはずだから。だけれど、向けてくれた笑顔は、乾いた、不自然そのものであった。
バルバロッサは背を向け、顔だけ振り向いた。
「良い……思い出になりました」
そして二人は、ランプの灯りが不十分な、薄暗い廊下の先へ、歩いて消えた。奇妙な終わりだと思い、そのさまをずっと眺めていた海斗は、ただ頭を悩ませていた。
やはり、あの笑顔は変だと思った。あの人は、きっとあんな性格ではない。きっと、なにか悩みを隠している。
なぜだかわからないが、さっき、急にこんな思いがほわっと浮かんだのだ。海斗自身、人の感情を見透かす才覚があるとは思っていないし、なんのきっかけでそう思ってしまったのか本当にわからなかった。
「初めて会ったのになァー……。そのはずなんだけどな……」
よく思えば、あの二色の瞳も見た覚えがある気がした。
だが、本当に気がするだけなのかもしれない。ルビーとサファイアは何度か見た経験があるから、似た記憶としてそう処理されているだけなのかもしれない。
机に頬杖をつき、浅く長く、ため息をついた。
記憶がぐちゃぐちゃだった。
なにがどうして、こんなに複雑な感情になるのだろうか。まるで自分のものではないように思えて、気味の悪さをおぼえ、眉を下げて目を細めた。
きっと彼女はあんな性格じゃない? 悩みを隠してる? バカ言え。きっとそれは、結局杞憂になるだろう。思えば、たまにあるではないか。この人、元気がないな、なにかあったのかな、なんていう思いを抱く時、あるではないか。
ひとまず変な状況を一旦綺麗に整理しようとして、記憶を整頓し始めようとしたとき、また流れ星のようなものが脳裏をかすめた。
「……あ。どうやって帰るの」
そしてまたすぐにその正体を見破り。失念していた目的が、ぼっとりと海馬に落ちてきた。
「聞くの忘れてたァァァッ! なんで俺あの人のことばっかり考えてんだァッ!? 自分の運命の行く末を考えろよ……ッ! まずはそっちからだろうがよ……ッ!」
他人を心配する立場ではなかった。さっさと帰る手段聞いてさっさと帰れば良かったのに。アイナは式に支障がでるとか言っていたから、時間は本当になさそうだった。悔いて悔いても時間は舞い戻ってはこず、後悔だけが心を埋めた。
そして海斗は、慌ててイスから飛び上がって走り出した。
「ダメだ! 姫さん! 行っちゃダメだ!! 待ってェェェェェッ!!!」
また随分と離れてしまった二人の距離。
もうこれ以上離されたら本当にどこへ行ったのかわからなくなると、全力で廊下を駆けた。戻れないという最悪の結末に恐怖を感じた海斗は、F1カーの如く、どこかにバルバロッサの背中を追った。
*
顔をうつむかせるラーファの手を、エレイナは優しく握りしめ廊下を歩いていた。気にしないでおこうと思っても、どうしても視線がラーファの方に移り気味になっていた。
そしてエレイナには、どうにもランプ一つ一つの灯りが、ラーファを撫でていっている手のように見えてしょうがなかった。
絵画や花瓶でさえも、胸に鎮座する鈍痛の如き感情をほぐそうとしているように見えたのだ。
そんな調子のまま、二人は食堂についた。
やはり、どこにいっても灯りの色が、今日ばかりは、「ここがあなたたちの居場所であり、いつなんどきも変わりはしない」と訴えかけてきているような感じを抱いた。
いや、もうだめだめ。そんなことを思ってはと、ふつふつと生まれくる気持ちを首を振って霧散させ、ラーファをイスの一つに座らせた。
そしてキッチンの横にある、誰でも触れる冷凍庫をのぞき、一つの、水色の袋を手に取り戻った。一日一人一本の、調理班がサービスで置いている氷菓子のコーナーだ。よく城を往来する者たちはいつもこの冷凍庫を覗き、仲間たちとここで楽しく食べている。自分もたまに、その中に混じって食べたものだ。
そしてラーファの前でかがみ、目線を合わし、ふくろを縦に裂いて、中から取り出したソーダ味の氷菓子を、肩をすぼめるラーファに手渡した。いつもなら、やったと掴みかかってくるはずが、受け取ろうとしなかったため、若干むりやり持たせるように渡した。
子供にとって、アイスなどの甘いものは一種の神様のようなもので、目にしたら、にぱっとよろこんでくれる。
泣き出したり、不機嫌になっているとき、あやすために差し出す親も少なくないだろう。
それに漏れず、ラーファもそうだ。
さみしそうにしていたら、エレイナはこうしていつも一緒にアイスを食べていた。
だがいまは違った。
ラーファの顔には、深い影がおとされて、ぴくりとも笑おうとはしなかった。アイスを口にしようともせずに、ただただ自分の足元に視線を投げていた。
エレイナは少しでも話題がつくれたらいいなと思って
「ほら、海斗さんもういなくなってる。やっぱり姫は帰らせる方法を知っていたのね」
と周りを見渡しながら言った。
したらまた、反応しづらい返しが、ラーファの口から放たれた。
「でも姫は、自分の問題を解決する方法をしらないの」
ラーファの視線に、エレイナは吸い込まれた。
「ねぇエレイナ……私はいつ、姫とあそべるの?」
少女のまん丸な瞳は儚く、エレイナを捕らえ続けた。
*
やはりバルバロッサ達との距離はひらいてしまっていた。どこまで走っても二人の姿を見ることはできず、さまよい続けていた海斗は不安に息を切らしながら走っていた。
「どこにいんだよ……! 部屋に入っても姫どころか誰もいねェし!」
こんなに走ってみてもまったく姿がみえないために、目にする扉をあけては覗いていた。しかしいない。姫どころか、住人すらいなかった。
また一つ、ノックしても返事がない扉をあけてみるも、誰もおらず、思わず舌打ちし、少々乱暴に閉めてしまった。
こんなことが立て続けに起こっているからか気が立ち始め、息も荒くなっていた。
城内の匂いにももうすっかり慣れてしまったことにも、ある意味不安の種であることに、海斗は気づいていた。
しかし、やはりこうして探すしかない、乱雑に扉の開閉を繰り返すしかないのだ。
「……あん?」
階をいくつか駆けあがって廊下を走っていると、一つ、扉に目がいった。
今まで見た扉の中で一番綺麗な扉だと感じて立ち止まる。
扉の中心に、羽ばたく鳥を形取った鉄の装飾がほどこされていて、なおかつ幅広い両開きの扉。目につかぬほうがおかしかった。こんな状況なら特に。
海斗は、これだ、と近寄って、静かにノックしたが、返事はなかった。
んん、またか……?
肩を落としそうになるが、期待は捨てない。
必ずここに姫はいる、いや、いてくれなくては困るのだからと、ゆっくりドアノブに手をかけ、肩で押すように扉をあけた。
が、やはり誰もおらず、不自然に照明が四つほどついていた。期待はずれであった。
ただ、本来ならばため息をつくところだが、海斗はむしろ瞳を大きくさせて部屋の中央一点を見つめた。
そこには、純白のウエディングドレスを着させられたトルソーがあったのだ。大胆に胸をはだけさせ、腰にはアシンメトリーにつけられた白いバラ。ちりばめられた小さな宝石も、けっしてドレスから主役を奪うことなく輝いていて、あまり間近にドレスを見たことがなかった海斗は目を奪われた。
「キレーなことで……」
思わずそう漏らすも、いけない今はドレスを見たいわけじゃないと首を振って、急ぎ足で部屋をあとにした。
また一人っきりになったそれからも、ドレスは輝きを放ち続けていた。
*
「いやもう本当にどこだよ。笑えねェよ? 好きな体位の話して終わりとか何しに来たのか分かんねェよ」
いやもう本当に、こんなの誰が望んだのか。
理不尽に連れてこられた先で話したのはスケベがほとんどなんて、受け止めきれる話ではない。
エレイナが「話をつけてきます」というまでの鮮やかに運んだ帰宅ルートはいったいどうなったのだろうか。海斗は歩きながら、乱暴に頭を掻いた
「あ~あ。なんで目的を忘れるかなァ……。つーかなんであんな話をし始めたんだよ、あの人」
エレイナから聞かされていたはずだ、自分は元の世界に帰りたいと。そこで始めたあの会話の意図がわからないし、そもそも意味がないことに、いま一度頭を悩ませていた。
「ほんとに……え、もしかしてほんとに俺の人生、猥談で終わるのか……? そんなことは……あ?」
雲行きまっくらに絶望していると、向こうから複数の足音が聞こえてきた。それは小さかったが、次第に大きくなって、音の主が姿を現して海斗は歓喜した。
五人の女性が走ってくるのが見えたのだ。
これはチャンスだと思った。姫の居場所を聞く絶好のチャンスだと。
少し慌てているような感じが見て取れたが、ここで聞かなければ、最悪の結末である、「猥談人生終了」が現実のものとなってしまう可能性があるため、勇気を出して叫んだ。
「ごめんなさーい! ちょっと聞きたいことがあるんですけどー!」
ヒッチハイクでグッドサインを出すが如く、高く手を上げて「自分困ってますよアピール」を元気よくした。
しかし、女たちは止まらなかった。海斗を、まるで置物と認識しているように、左右に分かれてすっと通過していった。
起こったことに、言葉もでなかった。
小さくなる足音を背中で聞きながら、冷めた顔が出来上がっていくのを感じていた。
それからも根気よく探し回っていると、少しずつ誰かとの遭遇率があがっていったが、呼びかけても苦笑されながら断られるか、素通りされるかのどちらかだった。
海斗は遠い目をして、廊下をとぼとぼ歩いていた。
*
バルバロッサはまた、窓辺の丸椅子に座り、街を見下ろしていた。
扉を背にするアイナの視線は一直線に彼女の背中をとらえている。
前と変わったのは、廊下のものと同じのランプが壁で一つ灯り、若干部屋が明るくなっただけだった。その灯りを受けた時計の秒針の音だけが、空間を独り占めしていた。
バルバロッサはしばらく街並みを眺めたあと、口をひらいた。
「……楽しい人でしたね」
アイナは少し間をあけ、「そうですね」と頷いた。
バルバロッサは、また言葉を紡いだ。
「それに、なんだか懐かしい感じがしましたし……。なんでしょう、昔の友人と再会した時みたいな?」
いまの言葉に、アイナは思うところはあったが、何も反応しなかった。
「なんとなくですけどね。しかももう再会しないという」
「姫」
しかし、ここで言葉をぶった切った。
彼女の話を断つのはかなり心苦しいかったし、なにも動じる様子は見えなかったが背中がシュンとなった気がして、心がぎゅっと苦しくなった。
だがこの会話を、いつまでも続けてはならないとも思った。
いまのバルバロッサは非常に楽しそうに見えたからだ。声の抑揚もあったし、声量も大きかった。なにより口数も増えていたから、これはまずいと判断した。
この感情のまま、姫を送ってしまったら、きっと、姫の胸は潰れてしまう。巨大な「喜」という感情は、「悲」という現実の殺傷能力を高めるのを知っているから。
アイナの眼光は鋭くなった。
「……もう、約一時間となりました。身支度のほどを」
だから自分は心を無にして言おう。嫌われても構わないから、少しでも楽に出発できるようにしてあげよう。──それこそが、今の自分にできる最高の奉仕なのだから。
アイナの顔を、ランプの揺らめきが、一度、なでた。
バルバロッサはしばらく、なにも反応を示さず街を眺望した。無言がアイナの心を締め付けた。
ただもう話題はないし、あっても会話を許さぬと覚悟したアイナ。和気藹々という空気を、いまは求めてはいけない。振れる話題は、もはやない。
「じゃあアイナ、しばらく私を一人にさせてくれる……?」
アイナの瞳は大きく開かれた。
「準備する前に、少し……ね? いいでしょう?」
そして、いまのいままで外に向けられていた顔が、アイナの方を向いて、弱く、ニコッとはにかんでみせた。
これを見てアイナの心は、完全に打ち砕かれた。
あぁ、姫は、覚悟を。
そして一人にしてほしいと言った意図も理解してしまって、目の前が不自然にゆがんだ。
別に涙が出ているわけではなかった。下のまぶたのふちを親指でなぞったが、涙はつかなかった。頭も痛いわけではない。しかしすさまじく身体が不安定になった。それは、五時間前にここへ報告に来た時のように、全体重が消失した感覚だった。それがもっと強く、大きくなって襲いにきたのだ。
そしてまた理解した。
自分は、もはやここにいる資格はないと。ここにいてはいけない存在なのだと。守りきれない騎士が、姫の前にいて許されるものか、と。
アイナはすぐに言葉が出ず、魚が水面でパクパク口を動かすように、何度か空気を噛んだ。
「承知、しました」
やっとの思いでそう言うと、自然と身体が動いていた。いつのまにか廊下へと出ていて、バルバロッサの背中を見つめていた。まるで誰かが自分を操作しているように一連の動作がスムーズに行われた。
しばらく、再び外に視線をやっているバルバロッサの姿を見つめた。とても小さく感じられる背中。それは守れる場所にあるにもかかわらず、手を伸ばすことができないという現実に、アイナは歯を食いしばった。
「失礼、しました」
浅く一礼し、閉扉した。
そしてゆっくりと扉を背にし、視線をいくらか上にした。
急に気分が悪くなった。でももう視界はゆらめいてはいなくて、それでも気持ち悪かった。
どうしてこんなことになったのか、ついに分からなかった。なにが皮切りとなっていたのだろうかと何度考えても、答えには行き着かなかった。
数年前にあった祭りを共にまわったときだろうか。それとも姫と一緒に肩を並べてアイスを食したときだろうか。そんな些細なことさえも原因の一端と考えてしまっている私は、もうダメなのだろうか。なんとかしたいと思う私の感情もダメなのだろうか。
今一度考えてみても、疑問は連鎖して、手にあふれるほど生まれ出た。
いつのまにか、涙が流れ出ていた。
だんだんと嗚咽も混じり始め、口をおさえるまでに大きくなった。気をぬくと手から声が漏れ出して、姫に聞こえてしまうと、精一杯声を喉の奥へと押し込んだ。
アイナは精一杯口を閉ざしてむせび泣いた。
心をぢくりと刺す痛みの隙間から、ほつほつと顔を出す姫との、皆との過去。食堂での他愛ない会話に、汗を流した仲間との鍛錬もあった。どれもが本当に大事なものだ。それらはにっこりはにかんで、涙を生んだ。
これをたやすく手放せる性格であればどれほどよかったか。││アイナは己を恨んだ。
足元に、頬と手を伝った涙がこぼれ落ちた。
足は、重くなる身体を必死に支え続けていた。
*
海斗はますます、疑問が巨大になって、姫を探す足が少しばかり遅くなってしまっていた。
なぜ、こんなに、見る人見る人焦った顔をしているのだろう。
城に入る前、エレイナは祭りのようなものがあると言っていた。しかし、ならばもうちょっと楽しげな空気が作り上げられるのではなかろうか。
忙しいのはわかる。ただその先にある皆とのふれあいを思って動くのだから、あんなに険しい表情はしないはずだし、作り出される空気は、こんなに痺れてはいないはずだ。
姫の居場所とともに、その理由も知りたいと思った。
皆、なぜこんなにも慌てふためいているのか、これを解消したい、と。
海斗の足は軽やかに、ランプの薄い灯りをかき分け、走った。
同時刻、海斗は未だ知らない、彼女らを悩ませる原因がこの地に近づいていた。
もうほぼ距離はなく、数十分で到着してしまう位置にまで到達していた。
一歩、また一歩と近づくその軍団の長は、巨大なモグラに乗り、口を緩ませ、薄く見えてきたアリフトシジルの城へと、視線を注ぎこんでいた。
運命の分岐まで、あと一時間──。