第三十六話 嘘と真実は紙一重
「ハヤ、嘘は言ってはいけないよ。 つき続けちゃったら、誰からも信用されなくなっちゃうんですからね」
昔、お父さんが亡くなって、僕ら2人きりの家族になる前、病弱で布団から動けないお母さんからよく言われていた。
言われていたのは、そのときと同じように朝だった。 お母さんからすれば、朝の習慣だったのかもしれない。
──私は、母親らしいことをまったくできていない。
これがお母さんの口癖だった。 でも、僕からしてみれば、こうしてお母さんのそばで話ができるだけで十分だったんだ。 そんなお母さんはもう、病院で暮らしている。 昔のように会話できる体力はなくなったが、僕が話すと、まばたきで頷いてくれる。
お父さんの遺産と、交通事故での保険でなんとか病院の費用と、アパートの家賃を払えることができている。
「おい、今日も警察かなんかに言わなかったよなァ?」
言ってません。 僕はそれしか言えなかった。 すると男は、ぼんやりと蛍光灯の光で照らされた6畳の部屋であぐらをかいて、ちゃぶ台に腕ごと突っ伏した。
部屋のはしの方で座っていると、「水」と言われて、台所に行った。 慣れようとしているのに、やっぱり、殺人者が家にいるという怖さには慣れず、手間取ってしまった。
「おせェんだよグズ!!」
コップを渡すと、僕は突き飛ばされた。
水がパタタ、と畳に落ちたけど、男はかまわず飲み干して、また突っ伏した。
僕は、いつまでこうしていたらいいんだろう。 「ちょっと買い物にいってきます」と嘘をついて、警察か誰かに泣きつけたらどれだけ楽だろう。
お母さん、教えてくれよ。 僕はここでも、嘘をついちゃダメなの?
*
アリフトシジルの城の周りにすっくと立つ広葉樹に、鳥たちが遊んでいた。 枝から枝へ1匹が移れば、翼ひろげ追う鳥もいて、そのまま目だけで追う鳥もいた。
その下を歩く悪魔たちの頭を、葉をかいくぐって落ちる日の光が撫でていく中、城の一階の窓の向こうで、走る海斗の姿があった。
かっぴらいた眼に映るは、小さなバルの後ろ姿。 たまに通り過ぎる従者のあいだをうまくかいくぐって、バルはちゃくちゃくと距離を離していた。
「テメェ、マジで待ちやがれェッ! 何回俺のまんじゅう食ったら気がすむんじゃワレェッ!!」
従者三人をよけた海斗に、バルの声が届いた。
「だってあれだけの量が冷蔵庫にあったら1つくらい食べてもいいかって思うでしょケチー! 1つくらい許してくださいケチー!」
「給料も少ねェクセに何がケチだ!! それに何回もやらかしてるヤツに許しをこう資格はねェんだよ!! さっさと止まれワレェッ!!」
過ぎた従者たちは、なんと仲睦まじいことかと、微笑を浮かべていたが、海斗にとってはそんな生易しいことではない。
楽しみにしていた饅頭を、知らぬ間に減らされるというのは苦痛でしかない。 しかも何回も、反省する様子もないのに、なにが仲睦まじいことか。
軽い身のこなしをして、左に分かれた廊下から、また五人程度の従者が現れたのを見て、そちらに曲がっていった。 彼女らは、「なにごとか」と言わんばかりに目をかっぴろげた目でバルを追ったが、続けて走り来た海斗の鬼気迫る姿に、また驚いた。
海斗は、曲がった先を見た──あまり長くなく続いた先の突き当たりで、左右に枝分かれしているのが見える。 しかしバルの姿は見えず、走りながらどちらに進んだのかを考える。 ただ、バルが進んでいったのは、城の内部。 なんのためなのか、入り組んでいるため、バルを探すのは難しくなる。 半ば、いま追うのは諦めるしかないという気持ちが浮かんだ直後、右から女が歩きでてきた。 水色の髪を揺らし、気分良さそうにうっすらと微笑んでいる。
海斗は止まって、急いで彼女に、「ごめん! バルとすれ違わなかったか!?」と声をかけた。
女は「んー?」と首をかしげた。 すんだ川のような、水色の丸い瞳に海斗が映った。
「いや、だからバルとすれ違ったかと……」
「……あー! うん、すれ違ったよ。 あっちに行った」
「ほんとか、ありがとよ!」
そう言い残し去ろうとする海斗を、女は呼び止めた。 なんだ、と丸くした海斗の目を、女は微笑み返した。
「追いかけっこしてるの?」
「うん? あ、あぁ。 まんじゅう食われてよ」
女はケラケラと笑った。
「そうなの。 じゃあさ、いいこと教えたげる。 姫ってさ、隠れる時には食堂近くの個室トイレを使いがちなんだよね」
「え、マジか!? あんにゃろう賢い女と思わせといて実はバカかぁ……? よしわかった、ありがとよ!」
そう言って、海斗は走り去った。
曲がり消えるまで、女はずっと海斗の背中を見ていた。 愛おしむような、面白がっているような丸い水色が。 当然海斗は、そんな視線に気づくはずもなかった。
そこから、食堂へと一直線に向かった。 まっすぐに伸びた廊下が、途中で膨らんだような形になっている城の食堂。 その西に伸びる廊下の壁には、3つの個室トイレがある。 1つの部屋にトイレを何個も作るとなると、掃除が面倒だ、ということで分けたらしい。
──見えた、一番奥にいやがる!
誰かが中にいても、鍵をかけていなくてもわかるように、使用しているトイレには、扉にかけてある小さな看板を裏側に回し、「使用可」から「使っています」に変えておく。 青と赤という色の違いもあり、遠くからでもわかった。
その前に立って、歯を出し笑って、思い切りドアを開けた。
「おらお前、自分の罪が真っ黒いくせに真っ白なトイレに隠れてんじゃねェよォッ!!」
そこにはバルではなく、サタンが座っていた。 ズボンを下ろして、太ももに腕を乗っけてがら悪く座って、海斗を鋭く仰ぎ見た。
廊下の向かいの壁には人型の穴がポッカリあいて、しばらくかかった修理を、食堂利用者は奇怪な目で見ていた。
*
「まま、これで勘弁してくださいませんか」
バルは、不機嫌そうに頬杖をたてる海斗の前へ、「和菓子屋 餡」と書かれた、団子が数本しまわれた包みを見せた。
追いかけっこののち、海斗はついにバルを見つけることが出来なかった。 彼女は普通に自室にいたらしいのだが、サタンの件で冷静さを欠いた彼に、灯台下暗し、なんて言葉はなかった。
翌日の今日、そのことに対しバルが誤っているにも関わらず、海斗は思いつめた顔のままだった。
どうしたのか、と聞けば、彼は小さくうなって口をあけた。
「嘘が不愉快に繋がるって、あいつはわかんねェのか?」
バルは包みで口元を隠した。
「私はわかってます」
「知ってらァ。 お前は包み隠さず罪を犯して、その場で反省しないから怒ってんだバカ。 あいつだあいつ、あの水色の髪の……魚のしっぽみたいなのが耳らへんについてる」
バルは眉をあげた。
「レヴィですかね?」
海斗は、どかっと背もたれにもたれた。
「知らね、名前聞いたことねェ」
「多分レヴィですよ、レヴィアタン。 あの子よく嘘つきますからね〜。 そうですか、魔王様もつかれましたか、嘘」
海斗は渋い顔をした。
「はぁ? なに、あいつ七つの大罪組? 国の重鎮が嘘ついてんの? やばない? お前より愚かじゃん」
どんな嘘をつかれたのか聞いてみると、やれエレイナの嘘の誕生日を教えられプレゼントを渡し恥をかいただの、やれ魔界特有のビールを頭からぶっかけなくてはならない記念日があると教えられただの、ろくでもないちんけな嘘がほとんどだったが、彼にとっては非常に悩ましいことらしく、うなりながらテレビに目をやっていた。
そこにはニュースが流れていて、「中央街で起きた殺人事件の容疑者が、5日たったいまも捕らえられていない」という内容だった。 防犯カメラに写っている、かすかにぼやけた顔は、ぼんやりながらも悪辣そうだと分かるほどだった。
それがおわり、次のニュースが流れようとした時、扉の向こうからドタドタと足音が聞こえ始め、それがアイナであると扉が開け放たれた瞬間にわかった。
アイナは焦った顔で叫んだ。
「姫! 中央街での殺人者が、我が国に忍び込んだとの情報が!」
バルは慌ててアイナに、情報の出所がどこなのかと詰め寄ったところ、「誰かが国のどこかで、『中央街のあの殺人者がいま目の前を通った』と叫びあげたのを、団員が聞いた」という、どうにもあやふやなものであって、バルははじかれたように海斗を向くと、そこにはレースカーテンを風になびかせる、開け放たれた窓が見えるだけだった。
海斗はそのまま一直線に、周囲を見渡しながら噴水の広場へと走った。 しかし、どこにいってもおらず、慌てる団員が見えるだけであり、「こっちにいるぞ!」なんて声は上がらずじまいだった。
どうしたものかと、広場で落ち着かないでいると、ケラケラと笑い声が、近くの家の屋根上から聞こえた。
「まーたひっかかってるよ魔王くーん♡ 鵜呑みにして情報に走らされないようにって習わなかったの〜?」
そこを見ると、レヴィアタンが腰を下ろしていた。 マイクを持って、にやにやと海斗を見下ろすのだ。
いまの言葉を聞いて、海斗は、「また騙されたのだ」と、肩を落とすとともに、徐々に怒りがこみあがってきた。 なぜそんな嘘をつくのか、みんなが混乱するではないかと思うと、彼女は立ち上がってマイクに声を吹き込み始めた。
「みんなぁーっ、犯罪者がうんぬんっていうのは、うっそでーす! いざっていうときに動けるようにするための訓練的なやつでしたー☆」
国のあちらこちらに建てられたスピーカーから、彼女の声が放たれた。
そんな理由で……思いもしなかったそれに、海斗はただただ彼女のにこやかな顔を見つめるしかできなかった。
マイクをオフにして、彼女はウインクをした。
「いや〜、みんなもそうだけど、魔王くんは嘘にひっかかりやすいな〜♡ 反応も見てて可愛いし、もう最高〜♡ こんなことならもっと早く嘘ついとくんだった〜」
呆然としていた心から、また怒りが湧いてきた。
気づけば、隣にアイナがいた。 こちらの顔を覗き込んだり、彼女の存在に気づいて手を振っているレヴィを見上げたりしていた。 気づけば、自分たちの周りを、団員などの悪魔が、なんとも言えない表情で囲んでいた。
レヴィに、なにか言ってやろうと、喉まで出かかっていた暴言をなんとか取り戻した自制心で腹のなかに押し戻し、部屋へと戻った。
レヴィは、ずんずんと白の方へ戻っていく海斗の背中を見つめた。 人間が──魔王になるには珍しい存在が、やはりまったく魔王らしくないことに、おもしろみを感じていた。
*
次の日の昼は、少し、つめたい風が吹いていた。 こころなしか、中央街を巡る者もいつもより厚着をしているように見えた海斗は、どこか良い店はないかと探していた。
すると、左から、その視線を店から奪うように、レヴィがわっと出てきた。 眉をハの字にさせて、顔の前で手を合わせている。
「ごめんってー! そんなに送るなんて思ってなかったよー! ね? このとおり!」
そうやって謝罪すると、彼はそっぽをむいた。 またレヴィの声が聞こえないふりをして、店を探し出した。
彼の身体にしがみついて、あちらこちらに向く顔を追って謝罪しても同じ反応が繰り返されるばかりで、周りをすぎる者の視線が集まりだした。
「まぁまぁ、謝るのは謝っているのです。 謝罪に耳を傾けるくらいはしてやってもいい……くらいには感じているのでは? 魔王様」
謝罪と虫の平行線が続いているなか、バルが口をはさんだ。 その横にいるシウニーも、微苦笑を浮かべている。
お、これは謝罪が通るシチュエーションになるのではないか、と、レヴィの胸は希望に軽くなった。
実際、海斗はそう感じていた。 昨日の今日にとんでもなく傍迷惑な嘘をつかれたとはいえ、時間は腹立ちもおさえてくれる万能薬らしく、レヴィに対する怒りの炎はとうに消え失せていた。
数度つかれた嘘も、冷静になって考えてみればほとんどが小さなことで、怒るのもバカらしく思えてきた者だ。 しかし、男のプライドというのは厄介で、簡単に許しては、なんだかな、なんて感情をわかせるのだ。
自分でもわかっているこの心のいざこざを、さらにはバルにも見抜かれて、どうすればいいのだろうか……。
まだそっぽをむいていると、レヴィが口をあけた。
「ボクの知ってるおいしーぃ肉まん屋を奢るからさ! 機嫌なおして? ねぇ?☆」
海斗は呆れた顔をした。
「お前はいますぐ頭をなおしてこい。 いつまたあんなしょーもねー嘘つかれるかわかったもんじゃねェからな」
そう言うと、レヴィはシウニーの陰に隠れた。
「ひどーい☆ でも言い返せない☆ シウニー、ボクの代わりに言い返してやってよ!」
「えっ。 ……魔王様も最近よく誰かに仕事肩代わりしてもらってるでしょ。 知ってるんですよ。 魔王様もそのサボりぐせ、直した方がいいんじゃないですか?」
「うっせェお前はそのまな板どうにかするために豊胸手術してこい」
「は?」
「おっきい私たちがはさんでも巨乳にならないのはどういう了見なんでしょうかね?」
「私なに色なんですか? 黒ですか? 貧乳は悪だとでもいうのですか!?」
なんて話をしていると、いつの間にか目的の店の目の前にまでたどり着いていた四人は、レヴィが注文した肉まんを頬張った。
おいしいと、海斗は素直に思った。 コンビニで買ったり、レンジで作ったりで食うあれとは全く違う。 当たり前といえば当たり前だが、それが今の感情を崩す、ちょうどいいきっかけになった。
どう? どう? と彼女自身も頬張りながらしつこく聞いてくるレヴィにはうんざりしたが、最後には気に入って、あとで食べる用として、9個箱詰めされているものを買った。
まぁ、これで許して良いだろうと思い始めた海斗は、「次どっか行きますか〜?」というバルの言葉に、そうだなー、と空をあおいで考えていると、箱がはいった袋が手からはがされるように離れていった。 そちらに目をやると、それをつかみ走り去る男の子が見えた。
「あ、テメッ、待ちやがれェッ!」
つかのま思考が停止していた海斗は追いかけ始め、その後に続いてバルも翼を広げて追った。
男の子は路地にはいっていくのが見えたシウニーも追おうとしたが、半分も走らずに、海斗が男の子の襟首をつかみあげて戻ってきた。 横にいるバルの手には、袋がぶらさがっていた。
シウニーはそれを見、微苦笑を浮かべた。
「逃走劇が短い……」
バルは、男の子の顔を覗き見る海斗を見て、口をあけた。
「いま魔王様は食べ物に関して根強い関心と執着をお持ちですからね。 さすがです、普段のお仕事もそのくらいお早めにしていただければ助かります、主に私が」
海斗は鋭い目をバルに移した。 バルは目を閉じ、さっと反対側に顔を向けたのを見て、また男の子を睨みつけた。
「俺ァ食いもんも食われたし嘘もつかれたし、こういうことに許せなくなってるだけなんだよ。
おい坊主、なんでこんなことしたよ。 なんでまた俺から楽しみにする食いもんを遠ざけようとしたんだオイ」
男の子はきゅっと目を閉じ、そっぽを向いた。
「い、言わない……!」
ますます表情悪くし、「あぁ?」と声を漏らした海斗を、シウニーは「まぁまぁ」と制した。
「こういうのは優しく言わないと、誰だって言いたくないものなんですよ。
ねぇぼく? なんで他人のものを盗ったりしたの?」
それでも、「言うもんか! お前なんかに!」男の子は頑として理由を言うことはなく、シウニーはその言い方に少し怒りをにじませた苦笑を浮かべるだけだった。
海斗はそれを見て口をあけた。
「やっぱりまな板じゃあダメなんだよバーカ。やっぱお前は黒だ黒」
シウニーは海斗を睨みつけた。
直後、レヴィがシウニーの横に行きながら、「じゃあボクなら大丈夫そうだね」と、前屈みになり、Tシャツの襟をつまんで、男の子に谷間を見せた。
「ボクに……聞かせてくれるかなぁ?」
そう言うレヴィの顔は穏やかであった。男の子は服いっぱいにつまった胸と、彼女の顔とを、頬を赤らめ交互に見た。
どうしたらいいか分からず、おぼつかない口を動かして、やっと紡げた言葉は
「い……言わない、よ……」
目をそらしながらのこれだった。
海斗は、「ほーん」と声を漏らした。
「やっぱり巨乳は効果的面だわ。真っ黒いやつでも白に変えられるほどの力をお持ちだわ」
シウニーはは声をあげた。
「悪かったですねッ!」
このあと、男の子は理由を吐いた。
バルの、「理由を話すまで返さない」「あれだったらご両親を呼びましょう」という言葉に、とうとう折れたのだ。 渋々と、わかった、と言う前の顔が突っ張っていることを、バルは見逃さなかった。
場所を移して理由を聞くと、どうやら、母親が病弱で病院で寝たきりになっているらしく、父親は少し前に亡くなり、その生命保険と遺産で乳飲料、マンションの家賃、その他もろもろを支払っているのだと言う。 その上、
「病院でのごはんはおいしそうじゃないし……おいしいものを食べてもらいたかったんだ。 お母さん、肉まん好きだったし」
海斗は気に入らない顔でうなじを掻いた。
まぁ、なんとなくわかる。 彼がしたことは犯罪でも、母を思う気持ちは簡単に理解できた。 しかしやはり犯罪は犯罪である、許されるべきではないと、座る男の子と目線を合わせた。
「嘘はいけないよ君☆」
するとレヴィが、言葉を挟んできて、あわせ始めた二人の視線が彼女に向かった。
目を細めたレヴィは、口をまたあけた。
「まだ言っていないことがあるね? 隠してるよね?」
男の子は、「隠してることなんて……なにも、ないよ」と、気まずそうな顔を下げた。
「ボクさぁ〜、嘘をつくの得意だし、嘘を見破るのも得意なんだ〜。 だからわかるよ、お母さんのことだけじゃないはずさ」
レヴィはその顔のまましゃがんで、男の子の顎をすくって上げさせた。
気まずそうな顔をしていた男の子だったが、そこから本心を吐いていくのは早かった。
全て話し終えたあと、海斗が、「ハヤ」という名前を聞き出した。 そして立ち上がりながら、ハヤの頭に手を置いた。
誰にもワケなんて話せなかったし、そもそも話せる人なんていなかった。 親族は病弱のお母さんのみ──お父さんなんて、とうの昔に死に、その時点で祖父母の姿もなかった。 嘘をついて、汚職? とかして夜逃げをしたんだって聞いた。
そんなことも知らず、微笑み見下ろしてくる海斗と名乗る人たちの顔が、路地の影のなかにいるというのにまぶしくて。 気づいた時には、彼らはもうすでに路地を出ようとしていて、僕は急いで追いかけた。




