表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/293

第二十九話 懺悔

「またドーナツですか......かたあげドーナツありすぎでしょう。 流石にこれだけじゃ飽きてくるんですが」


 牢屋の真ん中で、ちょこんと体育座りするシウニーが複雑そうな顔をしたら、サライは苦笑した。

 彼女の前には、ドーナツの袋が投げ込まれていた。


「一応君捕虜だからね? まさか高級料理が出てくるわけないでしょう」


「だっておやつだよ〜って渡してきた食べ物もかたあげドーナツ! もう食べたの? はいって言いながら渡してきたのもかたあげドーナツ!! もう飽きましたよ!

 高級まではいかなくとも、なにかあるでしょう? 夜だから焼きサバ定食とかハンバーグ定食とかあるでしょうよ。 作れるでしょ」


 サライは呆れ笑んで、

「君、思考が異常に高級だね」

 膝に手をやり立ち上がった。


「ま、その生活も間も無く終わる」


 シウニーは首を傾げたが、そこから視線を外し、さらに続けた。


「どう終わるかは、君の仲間と……新しく国のてっぺんに立った、あの男の選択次第さ」


 そう言われても、まだわからなかった。

 あの男……それは海斗だ。 そこまではわかるが、その先が出てこなかった。 こんな窮屈な空間に、ただ暇な時間を貪っているからだろうか、頭が思うように動かなかった。

 すました顔のサライを、じっと見つめていると、なにかの振動がお尻が感じ取った。 小さな揺れだったが、次第に大きくなるそれに眉をひそめ、慌てるように辺りを見回した。

 そして遂に、立ち上がろうとしたが、しかし立てないくらいの揺れに変わった。

 シウニーは、揺れて定まらない、尖った視線をサライにぶつけた。


「これは……なんですか! 一体、なにをやろうとしているんですか!!」


 サライは横顔をシウニーに向けたまま、目をやった。


「君、自分がどこで捕まっているのか、考えたことあるかい?」


 その質問に、シウニーは困った顔をした。 答えなんて、1つしか思い浮かばなかったからだ。


「え……そんなの、あなたの国の、地下とかじゃないんですか。 こんなにメカメカしいのも、捕まえた人を容易に抜け出させないため……」


「そうじゃないよ」


 そしてサライは、視線を顔の先にやった。


「ここは……我が国、『シール・アーセナル』が誇る浮遊要塞、『ギガンシア』。 いまから、アリフトシジルに向かう。 僕の、国王特権によってね」


挿絵(By みてみん)


「シール……でも、国王はシッターさんじゃないですか!」


 シウニーは目を見開かせた。


「いつの間に、変わったんですか……この要塞で、私の国になにをするんですか!」


 それだけの言葉で、なにをされるかはわかっていた。 でも、聞かざるを得なかった。 姫もいない、海斗とも離れてしまった。 心が落ち着かなかった。

 ふと、中央街に行く前の、海斗を思い出した。 彼は言った、「アイナたちに言うぞ」と。 なぜ、自分はそうしなかったのだろう。 なぜ、姫の言葉にのってしまったのだろう。

 国には、もうこんな状態になったことが知らされているんだろうか。 シウニーは目頭が熱くなった。


 悔しくなって、不安になって硬い床に落としていた視線を、サライに向けた。 すると、意外なことに、心底楽しそうにしていると思っていたのに、なんとも複雑そうに目を細めていた。 口の中でも、歯を食いしばっているような閉じ方をしているように見えた。

 そのあとは早かった、振動が絶え間なく続く微弱なものになった頃、サライは、「まぁ、どうなるか祈ってなよ、僕も祈るからさ」と言って、出て行った。

 シウニーはサライが去って行った方をずっと見ていた。

 どう言う意味だろうか、その言葉は。 いままで投げかけられたもので、一番わからなかった。

 壁に目を向けると、さっきまで光っていなかった、壁の継ぎ目に埋め込まれたさまざまな四角形のランプが明滅していた。



 中央街にサイレンが鳴り響いている。 そして女の声でこう言うのだ。


『現在、シール・アーセナルから、中央街に向かって浮遊要塞が向かってくるのが確認されました。 テロの可能性がありますので、みなさん、避難してください。 くりかえします……』


 通行人たちは、1度目の放送に、顔を上に向け聞いていて、事態が分かるや否や、災害がくる前のネズミのように散って行った。 不安の喧騒がどよめく中、ダゴンは、ガラスケースを拭いていた。

 そして、複雑そうに口角を上げた。

 中央街が狙いではないのに……。

 本当の狙いは、その先にある国、アリフトシジル。 そこに向かうため、要塞は起動された。

 だからダゴンは、周りから不自然に思われるだろう、落ち着いた動きをしていた。

 案の定、その動きを見た、たまに来てくれる中年の男が、「ダゴンさん早く逃げた方がいいよ!」と声をかけてきたのだが、ダゴンは微笑んで、「もう行きますから」とだけ返事した。

 そのあともガラスケースを拭き続けて、いつの間にか、通りには誰もいなくなっていた。 時計は、夜9時を指していた。

 もう誰もこない……閉店時間まではあと二時間はあるが、人がいないのならばしょうがない。 希望を乗せて、送り届けた券の使用者もこの時間まで現れなかった。

 間も無く、アリフトシジルは落ちる。 この事態を、なぜ、回避できなかったのか。 サライに、国を落とさせるようなことは、させたくなかった。

 鳩の方へ目をやると、ちょうど目があった。 お前のせいじゃない、全部……いや、誰も悪くない。 たまたま、悪い方へ傾いてしまっただけ。


 その、どうしようもない思いのまま、掃除しきった店内を見ながら、シャッターに手をかけた。


「閉めんのか」


 聞いたことのある男の声に、ダゴンは弾かれたように振り返った。

 すれば、通りの真ん中に、海斗はいた。 少しの間見つめたままだったが、なんだか気まずくなって、大門の方に外してしまった。


「来てくれたのかい。 でも、もう」


 繋ごうとしたダゴンの言葉を遮って、海斗は、

「テメェが寄越した招待状だろうが」

 そう言いながら、ダゴンの横を通り過ぎ、縁台にどっかりと座った。 腰に差した二振の刀がカツンと鳴った。


「三色団子、出してくれるか」


 そして、券を置いて、ふとももに腕をやってうなだれるように、団子が出てくるのを待った。

 ダゴンはつかのま彼を見て、少々重い足取りで店内に入っていった。

 もう遅い。 この時間になって、しかも要塞まで飛んできている。 そこまで速くないとはいえ、いまから状況を覆すなんてことはできないだろう。

 すまない、と思う。 本当のことを黙っていたことを、なんとかして謝りたいと、この場所に呼び出したのに、そんなことばかりを感上げてしまう。 バルバロッサをワイザの手から救った、あの時のように、なんとかしてほしいと思ってしまう。

 ダゴンは、3本の三色団子をとりだし、皿に乗せた、その時、海斗は口を開けた。


「あいつはあんたの孫なのか?」


 ビクッとなった。 胸の奥をぎゅっと握られたような気がした。

 なぜ、そのことを。


「これ、読んでみな」


 こちらからは見えなかったが、懐に隠していたのだろう。 縁台に束になった紙を置いた。

 ダゴンは皿を運ばず、寄って手に取った。 さらりさらりと読んでいく途中で、なんともいたたまれない気持ちになってきた。 これらは間違いなく、国の者たちの手紙だ。

 そこには、自分が知っている情報のほとんどが書いてあった。 しかし、1つだけ、書いてないものがあった。


「……そうさ、孫だよ。 サライはわしの可愛い孫さ。 血の繋がっていないね」


 海斗は振り向こうとして、やめた。


「実孫じゃねェのか」


「あぁそうさ。 あれは、息子のシッターが連れてきた親なしの子供でね。

 自分に子どもができないのを焦ってたのか、世継ぎとして連れてきたのさ」


 海斗は黙って、ダゴンの話に耳を傾けた。


「しかしサライは、心の優しい子どもで、純粋な兵器を軍力とするシール・アーセナルに、いい顔はしなかった。 だから、国王になることを渋った。 そんな兵器に頼るよりも、己の力を磨いた方が楽しいとね。

 シッターも強く言えない性格で、静かにサライの成長を見守っていた。

 だが、その時間の終わりがやってきた。 あいつは不治の病にかかってしまったんだ」


 手紙に書かれていたことを、海斗は思い返していた。 シッターは病気で亡くなったと。


「身内には柔い性格だったけどね。 国のための決断力はあった男だ。 他国への影響は大きかった。

 死んじまった次の日から、サライは実質王になった。 しかしシッターの影響が大きかった我が国は、未熟者が王になったことによる、他国からの侵略を恐れた。 兵器の設計を盗もうとする動きが、たまにみられたからね。

 だから、シッターが死んだことを隠した」


 ダゴンは、書類をガラスケースに置いて、皿を盆にのせた。


「それがバレちまった……よりによって、兵器を一番欲しがるワイザの連中に。 フェロスアニマは動物を兵器にする国。 そこに純粋な兵器なんて加わったら、誰の手にもおえなくなる。

 だからサライは、同盟国になることを選んだ。 その関係から初めて、少しずつ兵器の輸出を行なっていくと、決断した。 最悪の未来の訪れを、少しでも遅らせようとしたのさ」


 海斗が口を開けた。


「だから、俺に助けを求めたと?」


 ダゴンは、とっさに首を振ってしまった。


「……そんなことはない。 わしはただ、嘘をついていたのを謝りたかっただけで」


「じゃあその嘘も謝んな」


 ダゴンは、思わず海斗の背中を見た。

 すれば、海斗は丸めた紙をこちらに放り投げてきて、手に取った。


「読んでみろ」


 その言葉の通り、広げてみると、紙のシワにまぎれて、拙い文字が書かれてあった。

 ダゴンはそれを見て、声が出るわけでもないのに、口を開けた。


「子どもの文字だろう。 まったくよ……俺ァイかれた人間、なんて呼ばれてんだろ? そんなヤツに、そんな手紙寄越すかね普通」


 ダゴンは、自分の言葉、思いを恥じた。 なにかをしようと思っても、なにもできず、最終的に券を送って謝ろうとすることしかできなかった自分を、必死に恥じた。

──おにいちゃん、みんなをたすけてください。

 間違いなく、サニの字だった。 まだ習いたての文字で、自分の名を書いて嬉しそうに見せてきたときの字と、まったく同じだった。

 いつ、渡したのだろうか。 こんなになっているということは、戦いが激化する前のことだ。 そんなに前から、あの子は、どうにかしたいと願って、渡したのだろう。


「大人はまだしも子どもまで……しかも俺とぶつかった時にポケットに入れる、だなんて、まるでスリみてェな渡し方をしてきやがった。

 あいつの教育係は誰だよ。 速くそいつ、やめさせた方がいいぜ」


 ダゴンは、顎に冷たいものが垂れてきた感覚を抱くまで、涙が出ていることに気がつかなかった。

 一滴ずつ、文字を濡らしていくのを見ながら、声を漏らした。


「わしだ……サニに文字を教えたのは、わしだよ……」


 海斗は鼻で笑った。


「じゃあ一生和菓子屋やってりゃいいよ。 あんたが教えたらロクな子どもが育たなさそうだ」


 ダゴンも、釣られたぎこちない笑みを浮かべ、メガネのブリッヂに指を当てて押した。


「へへ……そうかもね。 でも、この子のおかげで、やっと、わしの願いが言えそうだよ。

 わしからも、頼む、サライを……」


「その前に、だんご」


 ダゴンの眉がぴくっと浮き上がった。


「なんでまず、客が店主の願い事を聞かなくちゃならねェんだ。 まずは、店主が客の願い事を聞くもんだろ。 ……俺は団子を食うためにここに来たんだ。 さ、団子、出してくれるか」


 喉にせりあがっていた感情をそのままに、ダゴンは盆を手に取り、ゆっくりと、海斗の横に皿を置いた。

 三色団子は、鈍く、淡く、月光をにじませていた。

 皿を手にした海斗は、その月を見上げた。


「あんたの願いなんて、もうすでに知ってるよ。 回りくどかっただけで、どうにかしようとしてたのは、もう分かってらァ。

 だからこそ」


 ジャリと、地を踏む音が通りの向こう側で聞こえた。 ダゴンはそちらに目を向けると、顔を見たことがある女が2人立っていた。

 アイナと、ベルフェだった。 2人は海斗に近づき、立ったまま串をつまみ上げた。 海斗もつまみ、口の前にまで持っていった。


「あのバカ男の頭ブン殴る。 国民の声も聞けねェ王なんていらんってな」


 そして、三人は団子を食し始めた。

 さっと食べ終わったら、海斗は、縁台に五百円玉を置いて、立ち上がる。

 ダゴンは慌てて、「お、おつり……」とカウンターまで近づこうとするが、

「つりは……また今度、もらいに来る」

 海斗は振り向き、そう言い止め、さらに言葉を継いだ。


「だから……この店、やめんじゃねェぞ」


 三人は、要塞が飛んで来る方へと走っていった。 足音も聞こえなくなった頃、ダゴンは、しばらく、鳩に目を向けたままだった。

 それからは、店の外に出て、月を見上げた。 なにかが、決定滴になにかが、変わる……変わってくれるような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ