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第二百一話 いつも一緒にいる人物が離れた時の喪失感は果てしなく大きい

「はぁ〜……せっかく来たのに、海斗がいないだなんてー……最悪の世の中だわ。やっぱり魔界滅ぶべきよ」


「その考えは天使としてどうなのかね? 先ずはそれを滅ぼすべきなのでは」


二人の女性の声がする。

一つは綺麗で純真な、されどもどこか毒のある声色。

もう一つの色も綺麗で、サバサバしたものだ。


前者は花音ーーーー後者はベリアル。

彼女達の声が響いている場所は、ベリアルのガレージ前であった。

花音は丁度良く台形の形になった岩の上に腰掛け、出されたお茶をすすりーーーーベリアルは相も変わらず薄着で工具を持ち出して機械をいじっていた。


「というか、そんなに会いたいのなら自分から会いに行けばいいんじゃない? 大まかな場所なら知ってるから教えてあげるよ?」


「いーえ、それはいいわ。 私は海斗の部屋で寄り添いながら時を過ごしていたいの。 『THE 幼馴染』 的な事をしたいの」


「難儀なことで…………で? 何故その暇潰しのために私を選んだんだい?」


ベリアルは複雑な花音の心境を聞きながら、彼女に問うた。

何故、自分の所へと時間つぶしに来たのかと。

別に自分の家で待って、時が来たと思ったらまた戻ってきたらいいんじゃないのかと。


機械いじりの手を止める事なく、花音の方へと目を向ける事なくそう尋ねた。


「だって……まともに話せそうなの貴女しかいなさそうだし」


「……どういうこと?」


「だから、他の悪魔を思い浮かべてみなさいよ、特に七つの大罪組。 何を企んでるか分かったもんじゃないルシファー。 暴力三昧サタンに粘着マモン、嘘つきのくせに他人の嘘が嫌いなレヴィアタン。 色欲なのに清楚ぶるアスモデウス、何もかも意味不明なベルフェゴール……唯一まともそうなベルゼブブは 『だぁ!』 しか言えないマスコット…………こんな奴らのところに行こうと思う?」


「難しいかもね」


「でしょう? だからここを選んだの。 貴女は特に考える事なくアホみたいに機械いじくりまわしてるだけだから。 ストレス感じる事なくいれるかなー、って思ったの」


「遠回しに貶されてる気がするよ」


そして花音は感情を顔に乗せる事なく答えを言い放った。

次にその答えを真だと見せるように、また、茶をすすった。

口を離した後に残った落ち着き。

間違いなく魔界で天使が見せる姿ではなかった。


「まぁ一番近づき難いのはマモンとレヴィアタンね。 前者は海斗を粘着してるから完全なる敵だから。 後者は後者で海斗に呪いみたいなのかけてるし……最悪よ最悪。 悪の道ここに極まれりみたいな悪魔よね」


で、最後の嫌味として、現在一番嫌な部類の悪魔の名を挙げた。

マモンとレヴィアタン。

いずれも、海斗にちょっかいをかけている、と彼女がみなした悪魔であったーーーーその理由となるものは仲良くなりつつあるバルバロッサの口から耳に入れたのだ。


これにはベリアルも苦笑い。

その表情には 『あんまり気にしないほうがいいのでは』 という感情と 『確かに確かに、幼馴染ならそう思うかもね』 という感情が入り混ぜになっていた。

どちらが大きいかと問われれば、後者の方であるが。


「……で…………」


ここで、花音は初めて表情を変えた。

今まではほぼほぼ 『無』 に近い顔であったのにもかかわらず、 一文字の言葉を放出したと同時に、物凄く嫌そうな顔に作り変えたのだ。

そうして視線が移り、移り、移りーーーーベリアルの方ではなく、またガレージがある右方面でもない左方面へとスライドして、止まった。

そこにはーーーー


「ねぇねぇマモン! ボク達褒められてるよ! ぶっちぎりで賞賛の声が聞こえるよ!」


「素晴らしい事ですわぁ……まさか天使の方から褒められるなんてぇ。 これ以上の甘美な褒め言葉は他にないでしょうぅ……」


花音が挙げた名を持つ悪魔二人がバーベキューをしていた。


「なんでこいつらがいんのよォッ!!? 嫌気がさす事この上ないんだけどォッ!!」


「だって私の雑草しか生えてないガレージの前でやるバーベキューが一番良いって言うから……」


「だからってなんで私がいるこの時に!? ていうかなんでバーベキュー!? さっきから良い匂いばっかさせて……! 良い匂いも度がすぎると嫌がらせになるって事! 覚えときなさいよ!」


その二人に苦情を入れる花音。

顔のパーツを歪ませながら口から怒号を発し続けてゆく。

それは止まる事を知らず、マシンガンのように飛んで行った。


「……欲しいの?」


「……え」


そこで、苦情の波を築きつつある花音にレヴィアタンが言葉を、彼女が紡ごうとしている言葉の間に差し込んだ。


「欲しいんだよね? ここまで言うって事は欲しいんだよね、そうだよねマモン」


「えぇ……とても欲しいのでしょうぅ……多分 『海斗と食べたほうが絶対美味しいけれども、長く、長く味が付着した匂いに味蕾をやられてしまった……くやしい! でも食べたい!』 みたいな事を思いながら苦情を言っているのでしょうぅ……」


「なぁっ……!」


「多分そうだよね。 素直に欲しいって言えないからああ言ってるんだよね」


「そうですぅ……結局は女戦士は欲望に勝てないのですよぉ……口では反抗的な事を言っておきながら、心では野蛮なナニを欲しがっているのですぅ……」


「い、いやいらないわよ! 悪魔が作った、しかもあんたらが作ってるものなんて……!」


まだ否定的な声を紡ぐ花音。

そこでレヴィアタンは得意げな顔で、おいしそうに焼けた肉が刺さった串一本を彼女に見せびらかした。

嫌でも大気を伝達する匂い。

滴る肉汁。

第三者の食欲を掻き立てるには十分な要素を兼ね揃えた肉。


「……ッ!」


彼女も肉のその術中にはまりかけていたーーーー












「……い、頂くわ……」


というかはまっていた。


「でもこれ呪いかかってるよ」


「あ、じゃあいらないわ」


しかしレヴィアタンの言葉によって食欲は消え失せた。

『呪い』 一つで拒否反応が投下され、食欲の欠片一つ残らなかった。


という、やり取りを横目に機械をいじっているベリアルーーーー

仲がいいのか悪いのか。

口と行動がある意味真逆をいっている彼女に、少しだけおかしいと思える心の色を出しながら、また彼女は機械いじりに精神の百パーセントを注ぎ始めた。


『ーーーーザッーーーーーここで、入ってきたニュースなのですが……』


「?」


の、横に置いていたラジオ。

そこから発せられる声に、ベリアルは少しの興味を惹かれ、耳を傾けた。

今入ってきたニュース……彼女達のやりとりの舌直しとしてはいいのかもしれない、と思ったのだ。


『中央街の至る所で、爆発が起きている模様です。 今から中央街に向かおうとしている方達は注意が必要です。 もしくはそこまで重要な用事ではないのでしたら、しばらく立ち寄ることをやめたほうがーーーー』


「……これ……」


ニュースとは、中央街に謎の連続爆発が起こっている事であった。

それを聞いて、ベリアルは心配に近い声を上げた。


「……なによ、どうしたの」


反応する花音。

今までとは違う彼女の声色に疑問を感じたからだ。

悪魔二人も会話をやめ、同じく彼女の方へと顔を向けた。


「……中央街って……今、魔王様が行ってるような……」


「……ッ!」



ーーーー



「えらい騒ぎになってもうたな……」


「あぁ。 至る所が半壊全壊、その上該当する建物のほとんどが何らかの会社らしい」


小さくはあるが、札生の会社の一階部分が爆破された。

それだけならまだしも、中央街に存在する複数の会社が同じ被害にあったのだ。

しかも海斗の言葉から察せられるように、札生の案件とは程度が大きい被害もあったのだ。

ほぼ同時刻に。

全てが端無くも行われた事象。


あれから何時間か経った現在、日は傾いて夜の世界を作り出そうとし、まだ周囲には煙たい臭いが微かに漂っていたーーーー


「まだわてらは救われたってことかいな?それならまだ精神的には楽やなぁ。他の奴らには同情するが」


「同情するなら労働力を、だ。先ずはお前の会社を直すのが先決だろうが」


えげつない事が起こった今ーーーーしかし海斗は焦る事なく口を開き続けていた。

それは札生にとってはありがたい内容。

次に海斗はトンカチを右手に持ち、後ろにいるバル達は木材やら金具やらを手に掲げたのだ。

どうやら魔空間で一旦国へと帰り、材料を持って来たらしい。


「おぉ?手伝ってくれるんかいな!? 有難いこっちゃ! おーいお前ら! 魔王と美女達が手伝ってくれるってよ! わてらも本腰入れてやるでぇ!」


そうとなったら話は早い、そんな表情をして札生は部下達の方へと振り返り、彼らに発破をかけた。

一階部分の修復。

会社の早期立て直しのために労力を惜しんでいてはならない。


そういった意味が込められた札生の言葉に背中を押され、重い身体を動かし始めた。


「あ、というわけは、海斗達は工事の経験はあるということでよろしいの?」


しかし待て。

まだ尋ねなければならないことがあるーーーー札生の頭に一つの疑問が生まれた。

それを尋ねなければある意味円滑にこれを進められないような気がした彼。

だからもう一度海斗達の顔を振り返り見た。


「あぁ、ある。 当然だろうが。 でなけりゃあこんなこと言ったりしねェよ。 なぁ? みんな」


「そうですよ〜。私は工事スキルには自信がありますから。ノコギリとか、ドリルで地面に絵を描くとか、そういう基礎をマリオパーティでやってきていますので!」


「確かに!私はどうぶつの森で家建てましたので!」


「一時期サタンと一緒に瓦礫を作ってました〜」


「騎士団の皆と(まさる)の小屋を作りました」


「ちなみに俺はピクミンで宇宙船を直してたぜ」


「一人以外まともな奴おらんやないかァッ! ほとんどゲームの知識やしこれ以上の瓦礫を生み出そうとしてる奴おるしッ! ゲームでの工事経験なんてほとんど現実世界で役に立たんから! マリオカートがは上手かっても免許持ってなかったら現実の車は運転できんやろ!?」


「あそっか。 俺らマリオカートもやってるから工具なんてすぐに上手く扱えるんじゃね?」


「魔王様いつも上手いですもんね」


「毎回一位取ってきますからねー」


「人の話聞いてたァッ!? できないって言ってんだけど! ゲームの現実でのスキルがゲーム上の延長戦にあるなんて思わんといて思わんといてくれやァッ!」


札生の疑問は最悪の道を選んだーーーー疑いは現実のものとなり、あってはならない結果が舞い降りたのだ。

案の定海斗達は工事を行ったことがなかった。

唯一経験したことがあるのはヒルデだけ。

あとはゲーム。

ゲームの中の住民が働いて建てたものを、自分が建てたものとして定義していた。

開いた口が塞がらない現実が、ここにあった。


「え? なに? 文句あんの? これから汗水垂らして手伝おうとしてる人に文句垂らすの?」


「垂らすだろう!!! それ以外何があるんや! ええか!? 現実はそうはいかん! もし失敗して建物が崩れたらどないするんや! ゲームみたいに電源落としてもう一回なんてできんのやぞ!? リセットさんに叱られるだけでは済まんのやぞ!?」


「……は? なにリセットさんて。 なにゲームの話してんの? 俺らが直そうとしてるのはちゃんと現実世界の建物なんだけど」


「お前らが言ったんやろうが……ァッ!!!!!」


のにも関わらず、彼らは押し切ろうとした。

自分達のスキルの無さを棚に上げて手伝う意向を曲げようとはしなかった。

『はぁ? そんなの当たり前じゃん。 俺らが手伝うんだからいいだろうがエセ関西人』 と言わんばかりの威圧。

都合のいいことばかりを正当化しようとする様だった。


「まぁあれだろ? まだ周囲は安全とは言い難い。 全力を挙げて完璧に元どおりにすればまた狙われて努力が水泡に帰す恐れがあるから……取り敢えずは拙い突貫工事でいいんだろ? 雨風をしのげるようによ」


「あ、ちょいちょい!」


そして札生を押しのけて一階部分が大破した建物に近づいていった。


「まず……割れた窓部分を板で覆わなけりゃあいけねェな。 これじゃあ中にいても寒いまんまだからな」


「だからエエって! 失敗する確率の方が高いやろうし!」


注意する札生ーーーーしかし聞こうとしない海斗。

彼は持って来た面積の広い、窓の表面積よりも若干広い木板を持ち上げ、釘とトンカチを働かせた。


「魔王様〜」


の、最中に耳に入るバルの声。

彼女は彼と同じく聞いたを持ち上げていた。

しかしなにか分からないことがあるらしく、海斗を呼んだ。


「コンクリートに釘って打ち込めるんですか? セロハンテープでいいんですか?」


「セロハンテープ!? 姫さん工事にセロハンテープでくっつける様なことはないですよ!?」


「バル、ちゃんとコンクリート釘っていうのがあるんだ。 そこに置いてあるから使え。 打ち込む時はちゃんと力入れて打ち込むんだぞ〜」


「はーい。 分かりました〜…………ッシャオラァッ!」


あっけなく疑問は解決。

彼女の固くなった表情は柔らかくなって、再び作業に戻った。

『ちゃんと力を入れて打ち込む』ーーーーその言葉が頭に強く残ったまま。


結果、彼女が打ち込もうとした壁は木っ端微塵に吹き飛んだ。


「姫さんんんん!!? 力入れすぎですからァッ! 打ち込む場所無くなって釘が迷子になってますからァッ!」


「あんれ〜? あんまり合わねェな……」


「今度はなんやァッ!?」


「いやさ、他の場所よりも傷が狭いところがあるんだよ。 ほらこれ。 木板の大きさはこれしか持って来てないし……でもこれだと木板がもったいない気がするし……」


バルの次は海斗が疑問の声を上げた。

それは単純明快。


これまで木板をはめ込もうとしていたところはほぼほぼ窓が破られたところーーーーつまり面積が広い場所。

しかし今回、海斗が見つけた場所は窓があった場所ではなく、ただの壁が爆風によって欠落している場所。

故に被害の面積は大きくはない。

ただ、あまりにも木板との面積の違いがあって、使うのがもったいないと思ってしまっていたのだ。


「そんなもん、はめこんだらええやろ。 それがなんらかの崩壊につながるやもしれんのやし……」


「いや、でもなぁ……」


「ならぁ〜、私にいい考えがありますよ〜」


そこで解決の役割に名乗りを上げたのはルシファー。

彼女は不敵な笑みを浮かべながら、二人にゆっくりと近づいていった。


「要するに〜、面積を変えればいいんですよ〜」


「あ、なるほど! 木板を小さく割ればいいんやな! こりゃ盲点盲点。 やっぱり七つの大罪に数えられた悪魔はちがうわ〜」


「あ、いえ、こっちです〜」


ゴバァァンッ!

ルシファーが札生の納得の声を否定した瞬間、彼女の強烈な右手パンチによって悩みの種となっていた壁が粉微塵となった。

辺りにたちこめる瓦礫の砂埃ーーーー瞬く間に、彼女のおかげで悩みは解決された。


「いやなんでェッ!? 別にこっち粉砕せんでよかったよねェッ!? 木板を割ったほうがよかったよねェッ!?」


「え? 必要な粉砕でしたよ?」


「不必要よねェッ!? どう考えても不必要だったよねェッ!? いらぬ犠牲が生まれたんやけど!!」


「あ〜でもルシファー。 これじゃあ今度は逆に 木板以上の面積になったぞ。 1.3枚分くらいになったんだけど」


だが今度は違う悩みが生まれた。

今海斗が言ったように、風穴が思ったよりも広く空いてしまっていたのだ。

しかも木板一枚分以上。

これでは材料不足が起きかねなくなってしまう。


新たな悩みをうんうんと、次は海斗も強く考え込む……それは果てしなく、多分太陽まで届かんばかりの長い、長い道のりであったーーーー


「……あ、そっか。 あるじゃん、0.3枚分の板」


「え、あるん? あるんやったらそれ使えばいいんやけんども……」


が、彼はその結末に辿り着いた。

長い道のりを一瞬で無視できるチート技に気がついたのだーーーーそれは。


「ほら、これこれ。 こいつを使えばいいんだよ」


シウニーを掴んで破壊された壁に当てがった。


「誰かー、釘持って来てー。 打ち込むからー」


「なんか可哀想なんやけんども!! 流石にもう胸の事は言わんといてあげて!? 見るんも辛いから!」


「…..うせ……んか…………だめなん……ははっ」


「ほらなんか唱えてるでェッ!? 世界の不条理を撃滅せんとするばかりの呪文唱えようとしてるで!?」


瞳の光を失ったシウニー。

自分に与えられた現実を受け止めきれずにいる生きた(まな板)だ。

胸なし、と嘲られようともそれを跳ね除けられないメンタルしか持っていない哀れな(まな板)だ。


札生はそれを可哀想と言って、気分を紛らわす事を求めて視線をあっちこっちやった。

すると見つけた。

それも、ちゃんと作業をしているヒルデの姿だった。


「ほらァッ! あの姉ちゃんはちゃんと作業してるで! 扉みたいなんを作ってる! すごいわァッ! そういうのを魔王にも学んでほしいわァッ!」


そして近寄って、彼は彼女に尋ねた。


「すごいなぁ、扉を作れるなんて。 簡単なようにみえて、中々に難しいからなぁ、扉って」


「えぇ。 ですから経験者の私にお任せを。 今ならオプションも付けときますよ」


「そんなことできるん!? すごい! ドラえもんみたいな!? ちなみにどんな機能!?」


「この六つの穴から銃弾が放たれ、入ろうとした奴ら全員を殺すオプションです」


「それわてらも含まれん!? 敵味方見境なしみたいな言い方したけど!!」


やはりダメだった。

全員まともな作業はしていなかった。

期待しただけ無駄だったのだ。


「もうええわ! お前らどっか行って情報集めるなり本陣いくなりしてこいや!!」


故に札生は、彼らを建物から遠ざけた。

これ以上の傷を増やされては敵わないーーーーそう判断した結果の行動だった。

少々怒り気味の札生。

彼は五人を遠ざけたら、自分の建物の方へと戻っていった……その動きにも多少の憤りを乗せているようであった。


「……追い出されちまったな」


「まぁいいんじゃないですか? 所詮ゲームの知識ではダメだったんですよ。 私達は私達にしかできないことをやりましょう」


「……そうだな」


ポツンと残った五人。

『まだやれた』 『きっとやれた』 という感情はあった。

だがその思いと真逆に怒られてしまったわけだが、それはそれ、これはこれ、と置いた。

札生も怒ってしまったし、もういいや、とーーーー彼らは後ろに続く道を歩き始めようとしたーーーー


「…………ふんっ」


「!? アイタァッ!?」


置いた直後、海斗の頭に 『バシィッ!』 という重く、軽快な音が打ち込まれた。

その音と共に発生する痛み。

海斗はそれらに困惑し、この原因を作ったものを目に入れるために頭と目を動かした。


そこでブリュンヒルデが手のひらを開き、下に降ろしていた。

こいつだーーーー海斗は胸中で声を上げる。


「おいィッ! なんで叩いたの!? 必要あった今の!?」


流石の海斗もこれには怒りを表す。

怒りの種類は意味不明な部分を探すためのものであったが、それでも憤りはあった。

しかしそんな勢い有り余る海斗の態度を前に、ヒルデはひたすらに真っ直ぐに彼の視線と自分のそれを合わした。


「いえ、魔王様がふざけなかったらまだ直せていたのに、と思いまして。 そしたらなんかイラッとしてきたので 『セクハラによる二回攻撃』 の内一回を使ったまでです」


「が、ァ…………なにも反論できねェ……悪かったな! そうだよなにもできないよ俺は! 俺は戦うことしか能のない人間ですー! ごめんなさいね! だから行くぞ早く! 俺に戦いの場所を与えるためになァッ!」


大振りに進もうとする海斗。

自分の力量に対し恥ずかしさを覚えたのか、若干のわざとらしさが垣間見える。

ヒルデはこれをじとりとした目で眺め見る。

まぁしょうがないと感じて、彼の後ろを付いていこうとする。


するとーーーー


「バルバロッサ様! 魔王様!」


一人の女性が走り寄って来たのだ。

息切れを起こして、今にも倒れてしまいそうなほど疲弊していることが見ただけで理解できた。


「おぉー……あれ? 君はパイモンと一緒にいた……」


そうだ。

彼女はパイモンと共に彼の前に訪れた黒髪の女性だった。


「あ、あの……っ……そ、それが、女王が……!」


そして彼女はここに訪れた理由を伝えようとした。

絶え絶えになった呼吸のリズムをとりながらーーーー


「パイモ…………ッ!!?」


そこで、海斗は異変に気付く。

それは頭上。

真上からの、微妙な大気の動きを察知した。

他四人も察知したらしく、身体を瞬時に動かした。

動かした方向は狭い路地。

自分達の身を守ろうとしたのだ。


しかしまだ何が起こったのかいまいち理解できていないようだった黒髪の女性ーーーー

故に海斗は無理やり彼女の身体を抱いて共に路地へと瞬時に移動した。


ーーーーそのあとに鳴り響いたのは銃声。

発射された銃弾は、海斗達が立っていた場所に着弾した。


「……おいおい……なにが 『わてらは大丈夫』 だよ……」


海斗は路地から少し顔を出し、周りに乱立する建物の屋上を眺め見たーーーー

そこには。


「敵さん、もうここまで来てんじゃねェか」


銃を携え、こちらに向けている大勢の男の姿だった。

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