第百九十一話 胸が無いと悩んでいる姿もまた愛らしい
「で、どこに行くの? 中央街? また中央街? 何かあったら中央街行っとけみたいなスタイルまたぶちかましてくんの?」
三人はあの後、何の問題もなく朝ご飯を摂った。
エレイナの笑顔を見れたし、他の料理班も見えた。
パイモンの一件が無ければごく普通の一日の始まりだった。
そして今は九時頃。
バルが掴んだ 『土地に眠る魔力』 を解決させるために、より的確な情報を掴まなくてはならない。
そのために、海斗は次にする行動は何だと彼女に問うた。
……少しだけ挑発的な内容で。
「違いますよ〜。 行くことにはなるかもしれませんが、今、私達だけで言っても何も得られませんから」
だがそれは違った。
相も変わらず一抹の面倒くささが混ざったような表情でバルは言う。
「ですから、情報と情報をつないでくれそうな人の元に行きます」
新たな人の場所に赴く、と。
海斗はそれを聞いて、少し戸惑ったようだったがーーーーすぐに何かを理解した。
いや、最初から意味は理解できるものだったが、違う側面を理解した。
「……え。 何? じゃあ、また新キャラ登場? パイモンに続いてまた新キャラ降臨なの?」
「そうですね〜、新キャラです〜。 良かったですね、ますます女性に埋もれますね」
「いや俺は良いのかもしれねェけど、作者が大変だろ。 またキャラ案でうんうん悩むんだぜ? その上、読者さんからも苦情が来てみろ、悲惨なことになるぞ。 作者死ぬぞ? 精神崩壊してヴァルハラに召されるぞ」
「その時はその時です。 もしそうなったら強制ザオリクがレイズで生き返らせて書かせますので。 今回のは本当に必要な人物なので」
へ〜、とよくある納得の声を出す海斗。
大事な人員。
解決の糸口を見出してくれるキーマン。
そんな女性の姿を、海斗は思い浮かばせる。
こんな感じだろうか、はたまたこんな感じだろうか。
彼は出来る限り自分の想像力を駆使し、姿を作り出していくーーーー
と、あることに引っかかる。
「その女性は、貧乳?」
「いえ、巨乳ですよ。 私よりちょっと大きいくらいの」
それは貧乳かどうか、ということであった。
「お〜! 良かったなぁ、シウニー! まだ 『まな板』 というキャラを奪われなくて済んだな!」
「それどういうことですかァッ!? なんで乳の大小聞いたら私に話振ってくるんですかァッ!?」
「だって、お前の髪の毛の色は赤だろ? で、パイモンも赤。 お前が初期に掲げていた 『赤毛はエロい、だから私はエロい』 という謳い文句を塗り替えられたわけだ。 で、その先にまた新キャラ。 もしそいつが貧乳なら、お前はこの小説でキャラ的に死ぬかもしれない、という懸念が出てたんでなー」
赤髪のシウニー、彼女は海斗と明確な関わりを持った時 『赤髪はセクシー』 という言葉を吐いた。
しかし、今回のパイモンの訪れ。
彼女もシウニーと同じく赤髪で、その上セクシーときたもんだ。
故に、その理論はシウニーには通用しなくなってしまったーーーー海斗はそれをこの上ない生ぬるい目で心配に思ってしまっていた。
「意味不明な懸念すぎるでしょッ! というか、私を形作ってるのはそれだけじゃないですから! もっと魅力的なものが詰まってますから!」
「例えばどんな?」
「え……そりゃあ……………………描きやすいところとか?」
「それ魅力じゃなくね」
シウニーに、自分で明言できる魅力は無かったーーーー
ーーーーー
「ほら、胸のこと言ってる内に着きましたよ。 ここが、キーマンの部屋です」
長く続く廊下ーーーー
まだ歩くと思われた時、バルが廊下の右の壁を指差した。
そこには扉。
焦茶色で、隆起が激しくデザインされている。
それらの理由で扉そのものが古いものかと思われたが、中々に綺麗にされている。
埃っぽさなど皆無であり、傷一つ付いていなかった。
清潔好きなのか、はたまたよほどの潔癖性か。
どちらにせよ扉から思い浮かべる第一印象からは、会いたくないなどの感情は生まれなかった。
「ここが……」
「そうです。 シウニーよりもセクシーで巨乳な人の部屋です」
「今の八割くらいいらない内容でしたよね? 八割のナイフに心抉られたんですけど。 早く入りましょう? 待たせてるんでしょ?」
部屋に入室する前に、シウニーの精神に傷が入る。
だが真実。
紛れもない真実。
それを胸に堪えつつ、彼女は入室を勧めた。
そして促されるまま扉をノックーーーーすると 『どうぞ』 という返事が聞こえた。
とてもさっぱりした声だった。
海斗はその声に 『失礼します』 と付け足して入室したーーーー
「どうも、初めまして魔王様」
白と黒の髪を持つ一人の女性が、部屋の中央に立っていた。
その後ろには日が差し込む窓、青色と白くて薄いカーテンが一張ずつーーーー手前には白いシーツが敷かれたベッド。
クローゼットやら机やら、生活に必要なものは揃っていた。
部屋そのものの広さは、海斗が仕事をする部屋と大差ないようだった。
「なんか久しぶりですね〜、こうやって静かに会うのは〜。 元気にしていましたか〜」
「私とは面と向かって話すのは久しぶりですよね」
「そうですね。 姫様もシウも、足を運んでいただきありがとうございます」
海斗が先頭になって入室したが、その真横から顔を出すようにしてバルが女性と挨拶を交わし、シウニーは軽く会釈して声を出した。
女性はそれに対し、少し柔らかい無表情で、また、無表情がかった声と翌揚で返事。
ある一定以上の親交度が垣間見える場面だ。
「……」
その様をまじまじと眺める海斗。
目の前にいる、名前をまだ知らない女性に彼は、すべての好奇心を取られていた。
それは、彼女の容姿に理由がある。
先ほど記述した通り、髪は白と黒。
彼女からして左側が白く、左側は黒く塗られていた。
それらを首辺りで二本の青いリボンで束ねられていたーーーー長さは腰の下らへんにまで到達している。
そして白の服装ーーーー少し中華服のようにも見えるそれは、下半身ではマントの如く、風になびかせるように自由にさせていた。
それが強風などで不自由にならないように、白い、普段見るものよりも幾分か大きなベルトで締めていた。
あとは右しか履いていない黒のニーソに、靴はブーツなど……記述するものはあるが、それよりも特筆するべきものがあった。
それが最も海斗が目をひく原因になっているものーーーーそれは。
黒い翼と白い翼を持っている、ということである。
左右は髪の色と同期しており左に白、右に黒。
そして色ばかりか、白は天使の翼のようにふんわりとしており、黒は悪魔のような邪悪さが伺えたのだ。
「……? あ、申し訳ありません。 自己紹介が遅れました。 初めまして、私、ブリュンヒルデと申します」
「初めまして……自分は高村海斗と申します…………? え!? ブリュンヒルデェ!?」
「? そうですが……」
海斗は彼女の名前を聞いた途端驚愕の声をあげた。
ブリュンヒルデーーーー彼は、その名を持つ人物像を強く記憶し、理解しているから。
「ぶ、ブリュンヒルデって、天界の戦乙女じゃないの……!? なんで魔界にいるんだよ!」
「あ〜、確かに天界にいるっていう物語が有名ですよね〜」
「有名っていうかそれが真実なんだけど! 少なくとも俺はそう本に書いてあるのを読んだんだけどォッ!」
「ところがどっこい人間界にあるその本は真実ではありませんでした、というオチですね。 現実はこの国の騎士団の副団長という役職に就いておりまする」
「は……!? 副団長!? 知らないんだけど! 魔王である俺が副団長あるとか知らないんだけど!」
知らない情報が一気にのしかかってきた海斗。
無知。
とんでもなく無知。
魔王として国に君臨しているのにも関わらず、彼女の役職を、いやもう彼女の存在すら知らなかった海斗。
情報の錯綜によって彼の頭は混乱一歩手前となってしまった。
「私の上司ですからね〜。 尊敬できる上司です」
「シウニーの上司……そうか、シウニーは騎士団の一員で…………!」
その時、海斗の脳裏にあるものが浮かぶ。
あまりにもいきなりすぎる飛来だった。
恐らくオーバーヒートしようとしている頭が、混乱を回避しようと無理やり作り出した 『娯楽』 に近しい言葉が。
それは。
「…………あ。 シウニーの上司だからおっぱいが大きくて、おっぱいブリュンブリュn」
アアアアアアァァァァァァァァァァゴメンナサイィィィィィィィッ!!!
とっさに思い浮かんだその言葉。
それは、シウニーの鬼神と思えるような感情を呼び起こすのに十分だった。




