第百八十話 キャラを立たせるために髪の色もよく考えろ
「で、なにしに来たんだよ」
「なにも? ただ遊びに来ただけなんだが?」
日も沈みかけた時間ーーーー太陽が最後の光を届けんと、朗らかな橙を世界に撒き散らす。
伴い、影は伸び、夜の暗さに変化しようと面積を広めていった。
そして生物は、昼との生活行動を抑え、別のそれに変えていくーーーー
晩御飯を作る、大切な人と過ごす、寝る準備をする、あえてだらけてみせるなど、それは様々なことだろう。
まさしく十人十色。
その内容は何者も否定できないと思われる。
そんな時間を、上記の行動をとることなく一つの部屋に集まっている集団が存在した。
「遊びに来ただけって……お前昔はもっと真面目じゃなかったか? すごいゆるい感じなんだが」
「いんや? 昔の私はそんな女じゃない。 今となんら変わらんイケイケ張り切りガールだ。 楽しいことには目がない、な」
海斗、アナスタシア。
「魔王様の方がゆるゆるですよ。 大して差はないんじゃないですか?」
「と、いうより魔王様の方がダメなのでは……」
バル、シウニー。
「すごい言われようですねぇ……」
「……ご主人様はナマケモノ……?」
ルシファー、エリメ。
彼らはこの時間に、海斗の部屋で集まって遊んでいた。
最初の二人はコタツに入り、向かい合いながらのチェス。
次の二人は前者が海斗の後ろで座り彼の左肩に頭を乗せ、両腕は首を包むように回しゲームの様子を見、後者がコタツに入るーーーー彼女は興味と無関心の間のような目でゲームを眺めていた。
最後の二人の前者は最後のコタツの一片に座り、後者が胡座をかいて座っている海斗のその足の上に座っていた。
カーテンが閉められて、明るさが不十分と判断されて点灯された蛍光灯。
太陽光とはまた違った優しい光が彼らを包んでいるーーーー
「んなわけねェだろうが。 俺のどこがゆるゆるでヤンチャな怠け者なんだよ。 キャラ盛りすぎだろ、矛盾しすぎだろ。 俺は紳士なフランス人みたいな性格だろうがよ」
「間違いなくその反対でしょう? 明らかなダメ人間じゃないですか? 普通王様ならこんな状況にもならないし、堂々と遊ばないでしょう」
「部下のことを 『まな板』 なんて呼ばないでしょうしね……!」
「その逆の方がめんどくさいだろ? 無駄に厳格な王様より、触れ合いやすい王様の方がいいーーーーだから俺はこんな感じなんだ。 でもまな板は誰だって言うと思うがな」
「普通は何も言いませんからァッ! セクハラですからそれェッ!!」
「セクハラできるほど近くにいる、すなわち触れ合いやすい王様ってことだ。 そっちのほうがいいだろ?」
「良いように言いますねェ……!!!」
海斗は理論的なことを口にし、シウニーは苦い笑みを浮かべる。
とても日常的だ。
普段の時間だ。
「じゃあご主人様は変態さん?」
「変態じゃないよー。 周りが変態という像をでっち上げたいだけだよ。 エリメを騙そうと、このまな板赤髪は嘘の情報を言ってるだけだからな? 信じちゃだめだぞ目を合わせるなよー」
「だめですよエリメちゃん、この男はいつ襲ってくるかわかりませんよ。 存在が嘘発生装置みたいなもんなんですから信じちゃだめです今すぐそこから退いたほうがいいです」
「海斗、次はお前の番なんだが」
「あ、おう」
彼らのつまらない言い合いが部屋を充満する。
何も変哲のない時間ーーーーいつものこと。
「……」
ただ、それをつまらなく眺めている女性がいた。
それは花音。
彼女は、海斗が普段使っているベッドに腰掛け、目はじとりと、口は横一直線。
完全にいじけている、というのは一目見ただけでわかる。
だがそんなものに彼らが気付くはずもなく、またそれが少しの怒りを生んだのだ。
「ーーーーあのさ。 思ったんだけど」
と、花音。
よく通る声が、いつもより若干低く口から発せられる。
そんな声に、海斗達は疑問を覚えて彼女の方へと目を向けた。
しかしそれでも花音の表情は明るくならずにいる。
すると彼女はそのままの顔と声色でーーーー
「……白髪、多くない?」
そう言い放った。
この現状を見て、この空間を見て感じたことを言ったのだ。
「白髪……ですか?」
その言葉に対し、まずはバルが反応した。
しかしながらまだ疑問が残っていたーーーーいや、理解はできたが 『しこり』 のような疑問が残っていた。
そして海斗はこれに無表情……つまり変わらない。
だがしかし次の瞬間に、周りの女性陣を、首を回して目に入れた。
バルバロッサ、白髪。
アナスタシア、白髪。
ルシファー、白髪。
エリメ、白髪。
花音、白髪。
なるほど、白髪が多いーーーーそう海斗は理解し、現状を飲み込んだ。
この部屋の中で白髪では無いのは、黒髪の彼か赤髪のシウニーだけであった。
「作者が好きなんだろ。 もしくは白髪ならキャラが作りやすかったんだろ。 何対抗心燃やしてんだお前」
「そうですよ〜。 というか私は銀髪ですよ? 多分一話目にかかれてあるはずなんですが……」
「あらあら…………」
彼らは今全てを理解した。
全てを理解した上で、頭が浮かんだことを口から出した。
……しかしながら、それらは花音には届かず、彼女はひたすらに表情を変えなかった。
どうしても変えることができなかった。
「そうだとしても! 時間軸的には、白髪として最初に海斗と出会ったのは私でしょう!? なのに後から出てくる主要人物が白髪、白髪!! ルシファー! あんたが一番気に入らないんです!!!」
そうだ。
これは彼女の内から湧き出てきた感情。
とめどなく噴出する対抗心。
そしてまず敵と認識されたルシファー……彼女はそれを聞いて、左手を顎の側面に滑らせて目を細めた。
そしてそれは花音の眉間にしわを作らせる要因になった。
「だから…………!」
その延長戦にあったものを、彼女はーーーー
「今から! 『白髪の中で一番良い女』 は誰かを! 決めたいと思います!!!」
これからの時間で行うと宣言したーーーー




