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第百七十九話 人の性格はそう簡単には変わらない

「ごめん……なさい……ごめん……なさい……」


リリスは、海斗と二人きりになった瞬間豹変した。

それはおぞましいものであった。

清らかな印象は崩れに崩れ、同じ空間に居たくはないと感じてしまうほど。

故に海斗は逃げ出そうとしたーーーーあまりの驚愕に、思うように動かせなくなった身体を引きずらせながら。


扉までもう少しーーーーと、なった時。


突然、後ろからは狂気に歪んだ笑い声ではなく、悲しみを大量に含んだ嗚咽の声が聞こえてきたのだ。

彼は妙に思い、ドアノブに伸ばされた手を引っ込めて彼女の方へと振り向いたーーーーすると。


両手で顔を覆いながら、泣き崩れている彼女の姿があった。


とても痛々しい姿だった。


彼女らしくない姿だった。


初めて顔を合わせた時の印象もやはりなく、狂っている彼女と同じ類のような感じがした海斗。

悲しみに悩む姿ーーーー狂いに狂う姿ーーーーどちらにしても彼女らしくない印象を与えた。


「ど、どうした……?」


「ごめんなさい……私…………また……」


彼女は何かを背負っている様であった。

それはどうしようもないものでもあると感じたし、恥でもあると感じた。


「また……やってしまいました…………」



ーーーーー



それから数分が経ち、彼女は幾らか落ち着きを取り戻した様だ。

まだ僅かに涙が流れ出す時があったが、それでも言葉を紡げる様にはなった。

そして二人は、向かい合う形で、木でできた丸椅子に座ったーーーー


「ごめんなさい……恐ろしかったでしょう……? いきなりの変化に……」


「え……ま、まぁ…………大丈夫、でしたよ」


海斗は彼女の言葉に否定部分を多く織り交ぜた。

しかし、どれだけ言葉を和らげようと、恐ろしかったのは事実。

そのために言葉がギクシャクと不可解な結びになってしまった。


「……でも、なんであんな人格に?」


それでも、彼が知りたいのは恐怖の余韻でも感想でもない。


『何故、彼女はああなってしまったのか』 だ。


それについて聞いてみると、リリスは再び悲しみの感情を表情に上乗せした。


「……なってしまうんです。 私が、誰かと二人きりになってしまうと……ああいった性格に……」


そしてより一層の落ち込みを見せる。

声色も暗い。

目線は下に落ち、背も丸まってゆくーーーー

彼は彼女が、過去の自分自信に酷く後悔しているのが分かった。


「二重人格、っていうことではなく?」


「はい……あれは間違いなく 『自分』 の性格……裏の顔でもない、正真正銘の自分なのです。 その時の記憶もはっきりとあります。 でも……その時に抑制しようとしても……できないんです……手の施しようがなくって……!」


彼女は再び微量の涙を右目から流したーーーー

決して悪気はないと。

決して自ら進んで他人に危害を加えようとしてやっているのではないのだと。

なんとも言えぬ重責に押しつぶされながら、懸命に海斗に訴えた。


それは彼に伝わり、彼は胸中にあった恐怖を取り除いた。

そうして、彼は必死にリリスの言葉に耳を傾けた。



ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー



「まさかこんなに早く無くなるとはな……」


まったく先の見通しが立てられんーーーーそう呟くのはアイナ。


彼女は城内にある自室から出て、城下町へと繰り出していた。

本来の暖かさを届けられずにいる冬の太陽の下を、悩みつつ平然と歩くアイナ。

ある家を目標しに、行き交う悪魔達の間を縫い歩いていたのだ。


その家とはーーーーリリスの家。


訪れる内容は、コーヒーの粉末を貰うためだ。

アイナは酒の他に、コーヒーを好んで飲む。

それはそれは毎日摂取している……頻度だけで言えば、きっと酒よりも多いだろう。


そのコーヒーの粉末を、月初めに飲む量だけリリスから貰うのだ。

しかし、今月は平均よりも飲むスピードが速かった。

故に手持ちのそれを切らしてしまったのだ。

我慢しようとしても、日々の習慣になってしまったものの欠損は苦しいものーーーー

その上愛おしくなってしまうものだ。


これらを理由に、アイナはリリスの家を訪ねようとしていた。


そして、その目標は既に目でとらえられるほどに近づいてきていたーーーー


「…………?」


一つの、不思議な事象と共に。


「……?」


アイナはリリスの家を見た。

何より、家の大きな窓を見た。

続いてそこから目に入ってくるものを見た。


「ーーーー」


「……っ……っ…………」


海斗とリリス。

二人が丸椅子に座っているのが見えた。


「…………!?」


それだけならまだいい。

普通だ。

王が国民と接するのは当たり前のことだ。


……だが、状況が違った。


前者は頷き、時に口を開いているだけであったがーーーー後者は泣いているのだ。

それはもう小動物のように、弱り果てているかの如く泣いているのだ。


そんな不可解な現実が目に入ってきたアイナ。

彼女はいてもたってもいられず、急いで家に近づき、扉を開けた。


とても勢いのある開け方で。


「!? アイナ……!? なんで……」


二人は驚いているようだった。

だがそんなものは知らんと撒き散らすように、アイナはーーーー











「ついにオオカミとなったか、海斗……」


「意味分からん」



ーーーーー



「あ〜! そういう理由で泣いていたんですか!」


「どういう理由で泣いてると思ったんだよ……」


少し強めに睨みつけてきていたアイナに、海斗はリリスがこうなってしまっている理由を伝えた。

彼女は自分の性格に悩みを抱えていると、できるだけ簡潔に、分かりやすいように。

するとアイナは理解できたようで、すぐにいつものような表情に変わった。


「いやー、海斗がリリス殿をベッドに押し倒して獣欲を解放したのかと」


「できるかよ。 実行しても逆レイプされる未来しか思い描けねェよ」


そんなことできない、できるはずがない。

あの時のリリスに解放などできるはずがないーーーーそう彼は誤解していたアイナに言い放った。

アイナは若干安心気味で、今一度胸を撫で下ろしていた。


「分からんぞ? 生き物は欲を抱えて生きるもんだ。 積もり積もったそれが解放されんとした時、スーパーサイヤ人となって近くにいる女を襲うかもしれない」


「発想が飛躍しすぎていてむしろ尊敬するわ。 どうやったらそうなるんだよ、俺のイメージどうなってるんだよ」


「全身性欲まみれ」


「帰れ」


アイナの口から出てくるものは意味不明なものばかりであった。

二人を一目見ただけで、想像をそこまで膨らませられるのであれば、むしろ本当の理由も察せられると思うのだが……海斗は非常に呆れていたーーーー多少の苦笑いを含ませながら。


「……」


……しかしながら、リリスはこの会話を聞いて、ますます表情を暗くさせたのだ。

それには明確な理由があり、それはーーーー


「……羨ましいです……そんなに、自然な会話ができて……」


これだった。

彼らの、二人の世界での会話を目の当たりにして、ますますこの羨望を大きくさせたのだ。


「私は……この性格上、二人きりで話をするということ自体を遠ざけておりました……だから……今のお二人のような会話が、とても羨ましいんです……」


彼らから視線を外し、再び下に向けた。


「どうやったって、普通の会話ができない……二人きりでなく、大勢でいる時も一歩後ろに下がってしまう……だから 『本当の自分』 を全て出し切れない……だから……どんな時も、本気のお話ができない……」


彼女は重責に押しつぶされた末に、か細い声を出した。

とてもとても弱い声を。

しかし、それはどんなものにでもしがみつこうとする意思も含まれているようだった。


「だから……」


故にーーーー彼はーーーー


「じゃあなんで俺に今全部話した」


「……ぇ……」


その意思に手を差し伸べた。

力強く、彼女に適した差し伸べ方で。


「本当の自分を押し殺しているのならば、今の会話はなかった筈だ。 なのに、リリスは今俺に言った。 羨ましいと。 羨ましいなんて言葉、俺だったら本人を目の前にして言えねェよ」


「そ、それは…………」


海斗から淡々と発せられた言葉。

それはリリスにとって思いがけない言葉だった。

本心を打ち明けるーーーー彼女にとっては、羨望の先にあるものだと思っていたのに。

で、あった筈なのに、彼女は無意識に告げていたのだ。


「答えってのは、難問であればあるほど近くにあるもんだ。 だから……ちょいと視野を広くすることだ」


「……」


「それに、話し相手なら俺たちがなるしな?」


「あぁ。 その通りだ。 海斗は性欲を羽織って生活を送っているが、十分な話し相手にはなるだろうさ」


「こいつは夜酒臭いけど話し相手にはなれると思う」


「……」


互いに薦めておきながら、互いに互いの欠点を述べる二人。

言い終わった後、彼らは目を合わせーーーーそして。


笑いあった.

部屋に、心地良い音量で響かせながら。


リリスも、それにつられて……弱く微笑んだ。

強弱はどうあれ、初めての 『笑み』 だったように思われたーーーー



ーーーーー



その後アイナは用事を済ませ、粉末が入った袋をを片手にブラさげながら扉に近づいた。

足取りは軽やか。

表情は穏やか。

難問が解決しただけあって、訪れた時よりも、全てが柔らかになっていた。


「では私は帰るが……打ち解け合いすぎて、ズッポリいかないようにな?」


「余計なお世話だ! 早く帰れよ! 用は済んだだろ!」


「はいはい。 じゃあ、仲良く話をすることだ」


アイナは最後にいたずらな顔を作り、扉を開けて出て行った。

颯爽とーーーー


それにより、家の中に風が入り込む。

冬の冷気に冷やされたそれは肌を刺すものだったが、何故か今になっては心地よかった。

むしろ、現状には必要不可欠と思うほどまでになっていたのだ。


少しばかり傾く太陽。

もう数刻経ってしまえば世界は橙色に染まり始めるだろう。

今日の青々しい空を見るのも、もう残りわずかとなっていた。


それを横目に、海斗は後ろにいるリリスに目を向けたーーーー


「じゃあリリス、どうしようか? 俺はまだ時間あるけどーーーー」


挿絵(By みてみん)













「アァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」


弱い日差しが届けられる魔界の一国に。

一人の男の叫び声が木霊したーーーー

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