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第百七十三話 人類滅亡説は数あれど当たった試しがない

「魔王様〜……」


「なんだー……」


「みかん取ってください〜……」


冬は長い。

クリスマスーーーー大晦日ーーーー元旦ーーーー様々なイベントがある季節、冬。

楽しいことがある時は短く感じてしまうもの。

故に冬も短いか? と思ってみたりもするが、意外と長いものだ。

とどまることを知らない寒さーーーー風邪を吹かせて肌を攻め、乾燥でまた肌を攻める……そしてそれらは生物の行動を極めて抑えてしまう。


寒さというものは、たとえ壁で遮られた建物の中でも飲み込んでしまう。

よって、知恵ある生き物はその建物の中の、ごく一部の部屋に暖をとり、その暖かさを閉じ込めて時間を過ごすのだ。

この文からして、なんとも自堕落極まりないものであるが、寒さから逃げるためには一番適切であると考えられる。


そして、魔界にこの時間の送り方をしている者がいた。

海斗とバルだ。

二人とも前者の部屋で寒さをしのいでいるのだ。


寒い冬の季節ーーーー彼の部屋には大きめの炬燵が設けられていた。

上で作業など、物を置くために使われる茶色い机。

その下から四方八方に伸びる赤い布団。

これこそ冬の醍醐味。

冬ならではの暖かさを感じられる設備。


彼らは炬燵の中に入り横になっていた。

海斗の反対側にはバル。

バルの反対側には海斗ーーーーという形で。


「嫌に決まってんだろ……自分で取れよ寒い。 みかんがお前の手で取られたいって言ってんぞ」


「みかんに口があるわけないでしょう〜。 あ、今テレパシーで、魔王様の男らしい手で皮をむきむきされたいって言ってきました。 取ってくださいよ〜」


「みかんがテレパシーなんか送れるわけないだろ。 あ、今手話で、やっぱり美女の手で剥かれて食べられたいって表現してきたぞ」


どちらもみかんを取りたくないようで、頑として動こうとしない。

しかもそのみかんが山盛りになっているカゴも、炬燵の上のちょうど中央にある。

距離は同じ。

運動量も変わらない。

それでも、それだからこそ、各々取りたくないと思ってしまっていた。


「お二人とも、みかんがそんなことできるわけないでしょう。 食べたいのならご自分で食べたい分だけ取ってください」


ここでノック無しに扉が開くーーーー当事者はシウニー。

一本の三つ編みが、部屋に入り込もうとする寒風により揺れる。

彼女はそれを物ともしないように振る舞い、持っている書類の束とともに入室した。


「寒ッ……! 早く閉めてくれよ……もしくはお前がドア代わりになれ……」


「誰が板だ馬鹿ァッ!!」


扉が開かれたことにより生まれる風の動き。

それは温かい空気に慣れすぎた身体には厳しすぎるーーーー鋭利なもので突かれた痛みにも似た衝撃が身体を伝う。

二人の身体にもそれが襲いかかっているのだ。


「はぁ……国のトップ2がこんな体たらくでは皆さんに示しがつきませんよ。 はいこれ。 この書類、半分ほどやりましたので、残りは魔王様がやってください」


苦い顔をして渋々扉を閉めたシウニー。

そんな彼女の次の行動は、彼らが入っている炬燵に、持っている書類を置くことだった。

それは海斗が普段向き合い、戦っている書類だった。


「エェ〜……一人でやれよ。 俺は眠気と戦ってんだよ。 邪魔すんじゃねェ、負けるだろうが」


「それほぼ負け戦でしょうが! そういうのいいですから早く仕事やってください! だらしないですよ! 王が冬の寒さでやられてていいんですか!?」


海斗のだらしなさにため息をつくシウニー。

彼の姿は王のものではないーーーー普通の庶民だ。

国を担う者の責任感はまるで皆無であった。


すると海斗はのそりと上半身を起こし、顎を炬燵の上に置いた。


「もうこのままでいいんじゃね? この小説読んでる人だって俺たちに対した期待持ってないと思うからさ。 そんなに急いで行かなくたっていいと思うんだ俺」


「そういうわけにはいかないでしょうが! 読んでくださる方がいるのなら、それ相応の働きを見せなければ! だから一つでもいいから動きを見せましょう!? 動いたら何らかのフラグは生み出せるので!」


「その必要はないですよシウニー。 無理して動けばそれだけ危険も生むっていうことです……わざわざこの部屋から出る必要性はないんですよ」


次にバルが口を挟む。

彼女は左腕を枕代わりとし、横に寝転んでいた。

目を閉じて部屋に充満する温かみを味わう彼女も、やはり姫の姿ではない。

彼と同じく庶民だ。


「そうだよ。 バルの言う通りだよ。 大体、この小説がどこに向かってんのか分かんねェんだよ。 長編小説とかでも、ラノベとかでもほとんどが最終目的を最初の方で提示してるもんだよ。 後者はほぼ必ずだ。 世界を救うーとか、魔王を倒すーとか。 でもどうだこの小説は。 世界を救うって言っても陳腐だし、魔王を倒すって言っても俺が魔王だし」


「いやそれでも……何かあるでしょう? まずは途中経過ですよ必要なのは! この国には魔王様しか男性がいないんですから、極上ハーレムを築くとか!」


「ハーレム? ポンコツとまな板と酒飲みと変人七つの大罪でか? 誰が羨ましがるんだよ」


「でも私も乙女……だけど…………ぅ……ッ! 反論できない……!」


拳を作り、悔しそうな表情を作るシウニー。

憤りを多大に感じてしまっても、現状が現状だーーーー反抗する手立てがない。


「もうさ。 主人公が先を読めない小説とか終わりだろ。 あと一週間も経たない内にこの小説は止まるね、絶対に。 きっと 『俺たちの戦いはこれからだ』 エンドを実行するんだよ作者は。 で、作者失踪シリーズとして、ネットの暗い海に永遠に晒し続けられるんだよ」


「晒されるほど有名じゃないですけどねー」


「登場人物がそんな内気でどうするんですか! ダメですよそんなんじゃあ! 私達が行動しないと!」


「またそんなこと言って……お前この小説の一話から六、七十話なんて凄まじく薄っぺらい内容だぞ? 地の文なんて人物の会話の間に二、三行くらいしかないんだ。 作者も頑張って改稿しようとしてるけど一章目も改稿仕切れていない……もう無理なんだよ。 終わりだ、終わり」


「それでも見てくれてる人はいるんですから! それを帳消しにするほどの話を展開していけばいいんですよ!」


シウニーは自分ができる限り、奮い立たせる言葉を思いつかせて口に出す。

小説存続の危機。

そう感じた彼女は自分にできることを頭に浮かばせるーーーー

それでも主人公とヒロインのやる気喪失はかなり痛く……表情には出ないようにしているが、内心ひどく焦っている。


そこで、海斗が声を放った。


「と、いうわけで。 この小説の最後を、登場人物の俺たちが予想し、決めていくことにする」


小さめのホワイトボードを、彼は手に持っていたーーーー

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