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もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
中央街騒擾編
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第百六十九話 ブラは胸を包んでいると同時に男の夢も包んでいる

「動きはいい……十二分過ぎる動きだ。 センスあんな、兄ちゃん」


「……え」


路地で用を足すと言う行動を止められた海斗ーーーーその止めた要因を作った者の声が、上から聞こえてきた。

この暗く、光が微弱になっている路地に響く、老け、貫禄が座ったしゃがれ声。

海斗はその声の主を見ようとし、上に目を向けた。

そこに存在していた人物とはーーーー


「女性は世界に多くある……故に、ブラジャーも同じく多くある……その数多のブラジャーを追い求め、この手に掴む日を待ち焦がれるこの男……! そう! 巷を騒がしているーーーーブラジャー泥棒! 竹中金平糖とはおいらのことさ!」


「……」


外見は五十程度、声もそのくらい。

黒いバンダナで口を覆い、落ちないように首の後ろでくくっている。

濃緑色の甚平で身を包ませている男ーーーー彼は自分で、己のことをブラジャー泥棒と言い放った。

そして時間を空けず、彼は五階という高さから飛び降りた。


ーーーーのにもかかわらず、海斗の目の前にすんなりと着地。

彼は恐怖や痛さなどは感じていないようであった。


「よし兄ちゃん。 少し聞きたいことがあるんだがーーーー」


「いや、まずは俺が聞きたいんだけど」


次に彼は海斗に言葉を投げかけた。

種類は質問。

ここは最初に発言をした彼に、言葉のキャッチボールの開始が手渡されるのだが……

そこを海斗が強く断ち切って見せた。


「……? なんだ、言ってくれ」


海斗も彼と同じく質問。

その物言いの強さに、彼は会話の主導権を譲った。


「あの……さ」








「なんで服着るの諦めた?」


「ん?」


男が着ているのは濃緑色の甚平。

胸のあたりには橙色の中着が見えている。

……しかし、下半身にはズボンを身につけていなかった。

筋肉で角ばった足は綺麗に露出され、股間部分だけを隠すために純白の褌をつけているだけだった。


「これの方がよりブラジャーを取る変態に見えるだろう?」


「ブラジャーの窃盗の前に別の罪に問われるぞそれ」


「その時はその時だ。 どちらとしても素晴らしいではないか……さて」


窃盗も猥褻行為も変わらないと言った彼。

やけに自信満々であった。

それだけ自分のやっている行為に自信があるのか……

すると、彼の中で区切りがついたのか、さて、と言ってから息を整えた。


「おいらも質問していいかな?」


次に口から出てきたのはこれであった。

それはそうだ、海斗の質問が終わったのであれば、次は竹中。

やけに真剣な面持ちで、一文を放った。

それには海斗も適当な返事ができず、しかしいつもの顔で一度頷いた。

竹中もこれに満足ーーーーまた一呼吸おいて、海斗に質問の言葉を投げかけた。







「兄ちゃんも同業者?」


「じゃねェよ」


竹中は突拍子のないことを事を聞いてきた。


「え? そうじゃないの? 路地で下半身露出しそうになってたからてっきりそうなのかと」


「違うね? 小便しようとしてただけだね?」


「欲望という小便を吐き出す……ということか。 やはり同業者じゃないか」


「違うって言ってんだろォッ! 誰がブラジャーを盗むか! 誰がお前と同じ立場になるかァッ!」


「いやでも自分の格好を見てみろ。 真っ黒じゃないか。 その色は闇に潜むに適している……そういった理由で黒を選んだんじゃないかな?」


「ちげェッて! これは俺がまーーーー!」


『俺が魔王になった時に作り上げてくれた服』

彼はそう言おうとした。

しかし一つの考えが頭をよぎり、反射的にその言葉を喉から発すことを途切らせた。


それは、相手を捉えるという内容だ。

よくよく考えてみれば、こんな変な姿をしていても、相手は盗人。

昼に見た情報誌で指名手配されていた男だ。


ここで捕らえれば、国の評判も少しはマシになるかもしれない。


そうとなったら、自分が魔王ということは黙っていた方がいいーーーーその考えが、瞬時に頭をよぎったのだ。


「……ま?」


しかし、急に止めても、喉から出してしまった部分がある。

それはしょうがない。

出てしまったものは吸い込めないのだから。


「……ま、まだあんまり服を持っていなかった俺に、彼女が一から縫ってくれた服なんだ」


「あぁ、そういうことか。 ならば君の変態性とは比例しないものだなーーーーではもう一つ質問を」


なんとか、とっさに出てきた切り返しで誤魔化すことができた。

もうこれ以上そのことについて触れようとしない竹中の様子を見て、海斗はそっと胸を撫で下ろした。

だが、竹中は次の質問を投げかけようとした。

なんだろうか……自分の身元を探るような質問であれば、ぜひとも遠慮したいものではあるが……








「彼女さんのバスト何センチ?」


「殺すぞワレェッ!!!」



ーーーーー



「すまんすまん。 つい職業柄で……これが職業病というやつだな。 女性と聞くとすぐに何カップか尋ねてしまうのだ」


「それは職業病じゃなくてただの病だから。 変態の一歩先行ってるから」


彼はすぐに女性のカップを聞いてきた。

本当に一から縫ってくれた女性はいる。

しかし作り話なので、架空の彼女ではあるのだがーーーーそれでもどこか小さな嫌悪感が生まれた。


「それよりも、だ。 おいらは兄ちゃんに頼みたいことがあるのだ。 それを言いたい」


「?……なんだ。 言っとくけど危険な話はパスだ。 俺変態……ではあるけどおっさん程じゃねェし」


「大丈夫だ。 それは問題ない。 痛覚を刺激するようなことはせん。 それはな……」


竹中はまたしても、真剣な面持ちと眼差しを海斗に当てた。

腕を組み、何やら本気の相談があるようにーーーーふざけたことを聞いていた海斗でもそう感じ取れた。


「今日限りの、おいらの相棒をやってほしい」


「……はぁ?」


少々身構えていた海斗に降ってきた言葉はそれだ。

彼の一日秘書ーーーーそれになってほしいとのことだった。


「いやな……おいらは日々、ブラジャーを追い求め、標的の女性を決めてはブラジャーを手にし、決めては手にしの繰り返し……その行動の一連には僅かなミスもなく、焦りもなかった……しかし! 次の標的が厄介なのだ……」


「……」


竹中は、過去に自分がやってきた功績を胸を張って語り始めた。

それには一切の反省はなく、後悔もなく、ただただ誇れるべきものを海斗に見せつけていたーーーー海斗は面倒くさそうに聞いていたが。

それでも竹中は気にせず、その場その場で感じてきた高揚を思い出しながら語り続けた。


「次の標的は……鉄壁の女、鬼の騎士団長と恐れられている女…………『アイナ・エルミーラ』!」


「!!」


海斗は静かに、とても大きく驚いた。

竹中から知っている者の名前が出たからだ。

アイナ・エルミーラ……海斗が統率する国の騎士団のリーダー。

かなり厳格な女性。

武術に優れ、頭も切れるーーーー容姿端麗、文武両道という言葉を常にぶら下げているような女性だ。


竹中は、次の標的に彼女を選んでいたーーーー

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