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もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
中央街騒擾編
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第百六十四話 一番近くにある力ほど忘れやすい

六話構成ーーーー四話目

「ベリアルから持たされていた通信機器がまだ生きていました。 これで国に救助要請の信号を送りましたので……このまま待っているだけで大丈夫ですけど、どうします?」


「そりゃ決まってる。 動く。 動き続けてできるだけ帰り道に到達してみせる」


動き始めてから少し時間が経った今。

バルの服の中には、国につながった簡易な発信装置が入っていた。

それには幾つかのボタンが付けられており、今陥っている状況によって知らせる内容を送れるようになっている。

それが電波により、国へと位置情報と共に国へと送られ、救援部隊がこちらへと送られてくるという仕組みになっている。


老婆心だが、この旅行で何かあったらいけないーーーーとベリアルがもたせてくれていたものだ。

先程の雪崩によって壊れたかと彼女は思っていたようだが、傷一つない。

流石機械バカのベリアルが作っただけはある。

そして彼女はすぐさまそれを使ったのだ。


……それならば、救援部隊を待つならば、その場に留まったほうがいいと思うのだが……海斗はそうしなかった。

雪崩から皆を守れなかった恥からか、それとも魔王としてのプライドからか、その足を止めようとはしなかったのだ。

だが、それを皆迷惑だと思うことはなくーーーーただ、頼もしい背中として海斗を見ていた。


「あの、歩き続けるのは結構なんですけど」


ここで一人の女性、シウニーが声を上げる。

やけに重苦しい声色であった。

同時に何かに気づいて欲しいと願うか細さも含んでいる声だった。


「……これ……いつまで続くんですか」


そうだ、まだ『まな板そり』は続いていたのだ。

これにより、彼女の足は疲れていないが、精神的に痛めつけられ、目の光は失いつつあった。


「どうした。飽きたのか」


「飽きたっていう問題!?この状況には飽き飽きしてますが、単純に嫌なんですよ!なんで私はそり役なんですか!私も歩いて行きたいです!」


「板が歩くとか初めて聞くんだが」


「前から言ってますけどあんたは私をどう見てるんですかッ!!板板ばっかり!」


「赤髪のカツラを被った二足歩行型まな板のUMAだろ?」


「悪魔ですらなくなったァッ!!」


「あくまで悪魔なんだろ?」


「純度百パーセントの悪魔です!!!」


シウニーはそのまま積もり積もった鬱憤を吐き出し続ける。

だがそれは海斗にはまるで届かず、ひらりひらりと躱されていった。


「ちょっと魔王様。 あまり大きな声を出さないでください。 ここが雪山だからといって原生生物がいないわけじゃないんです。 魔界の雪山に住む生物は凶暴なのが多いんですからね」


不毛な言い合いを続ける彼らに、バルが忠告した。

ふんわりした雪の世界に身を置いているとはいえ、ここも紛れのない魔界。

人間界よりもはるかに危険な生物が潜んでいるのだ。

不用意に大声を出してしまえば、それは彼らに居場所を伝えてしまうことになる。

彼女はそれを懸念し、二人に釘を刺した。


「こっちの方が凶暴なの多いだろうが。 アイナと花音とか、並の凶暴超えてるわ。 だから大丈夫大丈夫、向こうの方がヤバさを察知して近寄ろうともしないから」


だが海斗はその忠告の内容を気にしていないようであった。

こちらとあちらーーーーどう見積もってもこちらの方が凶暴に違いないと。

頭がおかしい集団だからこそ、相手はヤバさを勘付き、近寄ろうとしないと。


「そうですよ姫。 我らの方が凶暴なのですから。 主にベッドの上で」


「お前はもう少し悔しがれ。 バカにされてんだからな?」


「まぁでも、そうそうそんな最悪な状況なんて出くわしませんよ。 慣れない雪の上で、凶暴生物に襲われるなんて」


その上、アイナと花音もそこまで重く捉えていないようだった。

それは、問題をあまりにも大きく肥大化させ、気を重くさせないためでもあった。

直面している問題が問題なために、他の生物に襲われるなど考えたくもないからーーーーというのもあったのかもしれない。

……だが。


ーーーーーーーーッザ。


「そうだな……襲われるなんて考えるだけでも嫌悪感が……そうはなってほしくないな……」


「お前はすぐに発狂するからな」


「海斗以外には襲われたくないですよね、シェイラ様」


「お前は少し自重しろや。 何? お偉い様の従者って変人しかいないの?」


ーーーーッザ。


「……?」


ここでアイナが何かに気づく。

雪と何かの摩擦音。

それか雪が物体により傷られる音が耳に入る。

それは微弱であるが、確かに耳をくすぐった。


そうして彼女は、音が聞こえた右方向へと目を向けたーーーーすると。


「……最悪な状況……目の前に降ってきたぞォォォォォッ!!!」


その先には、乱立された木の間から身を乗り出している、数多の白狼が存在した。

彼らは深く喉を鳴らし、海斗達を獲物としてみているかのようだった。


「ダァァァァァッ! 本当に出てきやがったァッ! 狼!? 狼だよあれ! 群れなしてるよォッ!!?」


「スコルウルフ……! この地の原生生物だ! これは……戦おうにも相手の方が雪の所為で幾分か有利となる! 背を向けないように距離を取るぞ!」


アイナはできるだけ焦らないように指揮をとる。

しかしーーーー


「ダメですアイナ! 左には崖が……!」


逃げようにも崖がそれを防いだ。

これではどうにもならない。

翼がまだ生きていればどうにかなったろうが、今の状態では全員で飛び降りることも叶わない。

退路は絶たれた。

ならば……これに逃げずに当たらねばならない。


「クソッ……! どうにかならんか……!」


「とりあえず盾を前に出せェッ! その間に対処策を考えるぞ!」


「とか言って私を盾にしないでくださいィッ! イヤァァァッ!」


この刹那、寝かされていたシウニーは起こされ、皆の盾にされる。

またもや叫ぶ彼女ーーーーこれにより狼達はますます刺激され、攻撃性を増したように思われる。


「何かないか……誰も傷を負わないで済む方法が……!」


シウニーによってもたらされたこの安全な時間。

これ使い、案を思い浮かばせるアイナ。

危機を危機となくならせる方法をーーーー誰も怪我をしない最適な対象方法を。


「あれ〜? なんで対処法を考えるだけなのに海斗にひっついてるのかな〜?」


「え?」


アイナの考察の間に、花音の声が混じる。

その瞬間ーーーードンッ、という鈍い音も発せられた。

それと同時にアイナの身体には何かの衝撃が加えられ、浮遊感がもたらされる。

彼女はこれが何なのか、瞬時に理解することができなかった。

しかしただ一つ、感じられたのはーーーー


「早くしないともっと追い詰められるから。 そんな長く考える時間いらないからね〜」


彼女の、不敵に笑った顔が遠のいていくということだけだ。


「貴様ァァァァァーーーーーーーーーーー……………」


アイナは花音により崖へと突き落とされた。

それは無慈悲に行われ、アイナの焦りが篭った声が段々小さくなって辺りに木霊していた。


「何仲間割れしてんだァッ! 知恵をしぼるか腕を振るうかどっちかにしろォッ!」


「とりあえず、死んだフリでもするか!? 少しリアリティを出した感じで」


「そうですね……では剣を胸に突き刺して寝転びますか、シェイラ様」


「それもはや死んでるからァッ! フリになってないから!」


どうすればいいのか悩む一行。

積み重なる焦り。

事を円滑に運べない憤り。

最善の手を尽くせない窮屈感。

全てが重くのしかかる。


「……ゥゥゥ……」


そんな姿を良しとせずに見ている白狼の群れ。

白狼からしてみれば、慌てふためく姿は威嚇をしている姿となんら変わりないのだ。

故に昂ぶってゆく闘争心。

それを知らずまま膨らませてゆく海斗達。


その闘争心が最大限にまで達した時、彼らが行うことはただ一つーーーー


「ゥゥ……ァァァァァッーーーー!!!!!」


獲物を胃の中に収めんと、襲うだけだ。


「ーーーーッ!」


彼らは一斉に海斗達に飛びかかるーーーー

そこに頭脳を働かせる余地など全く無く。

ただ本能に従い、時間の流れに沿って行われるものでしかない。

それは彼らが、この形式で数々の獲物を手中に収めたという経験からくるものであり、狩りを行う際には群れをなして個の力を集結させた方が安全という結果論からくるものでもある。


一秒、一秒、また一秒進む度に、彼らの計画は完了に近づく。

それを海斗は目で捉え、その間も策を練る。

身体が動くのが先か、頭がそれを制止してしまうのが先か。

それは定かではないが……彼の身体は間違いなく、皆を庇おうと腕を広げていた。









ーーーーッドォッ!!!!!ーーーードッ、ドッ、ドッ!


刹那、大気に亀裂が走る。

金色に光ったそれは、次々に白狼を穿っていった。

避雷針に誘われる雷の如く、的確に直撃を繰り返していったーーーー


「……」


まだ理解ができていない海斗達はそれを呆然と眺める。

いきなりやってきた反撃。

しかしそれは海斗やバルがやったことではない。

完全にふらりとやってきたものだった。


だが、その核となった者はすぐ近くにいたのだ。


「やった〜! 食料ゲットだね! 魔王様!」


「飢餓はない〜」


途端に発せられた声の主は少女二人の声。

ラーファとエリメである。

彼女達は嬉しそうに飛び跳ねていた。


二人の視線の先には、命を失い身体だけが放棄された白狼の姿があったーーーー

四話目終わりーーーー五話目へ続く

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