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もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
中央街騒擾編
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第百六十一話 夢も雪だるまも大きく

六話構成ーーーー1話目

「なぁ」


「なんですか」


「……わざわざかまくら作って餅焼く必要性は?」


「ありますよ〜。 風情を味わう、それが何よりの必要性です」


現在の季節は冬。

気温が下がり、生物の活動を抑え込もうとする季節。

その冬の狙い通り、多くの生物は冬を何とか越そうと、活発な動きを止めて眠るのだ。

しかし知性のある者達は、これを楽しもうとする。

どうにかこの寒さを乗り切るついでに楽しもうとするのだ。

その一端が旅行。


生活している場所から離れ、また違った場所に向かうという行動で、より楽しく冬を過ごそうとするのだ。

そして今は雪が降った後で、魔界は白銀の世界が覆っていた。

むき出した岩肌、草原はもちろん、山にも雪が積もっている。


海斗達は、この季節を少しでも楽しく味わおうと、国から離れた山にあるコテージへとプチ旅行してきているのだ。


「わ〜。 膨らんでる〜」


「ふくふく」


「ほら〜。 子供達も喜んでるじゃないですかー。 魔王様も年齢からいえばまだ子供なんですから、 綺麗な心を取り戻してはしゃげばいいのに」


「俺の心はもう復元不能なところまで錆びきってるんだよ。 お前らだけ楽しめばいい。 俺はこの餅で胃を満たす」


現在、かまくらの中に七輪を持ち入れ、お餅を焼いている。

時間が進むにつれ膨らみ、やんわりと焦げ付いていっているさまをラーファとエリメは興味津々に眺めている。

バルもそれを楽しそうに眺めているーーーーが、海斗は無表情である。


「そんなこと言って……ほら、横の人もお餅に興味津々ですよ?」


バルは、そんな彼に向かって横の人物について言及した。

その横にいる人物とはーーーー


「海斗って、餅には砂糖醤油派? きな粉派? それともそのまま?......え? 私? 私はね…………海斗派」


「おい誰かこいつをどけろ。 意味不明な単語の羅列を繰り返している。 即病院に連れて行った方がいい」


花音であった。

彼女は海斗の左腕に巻きつき、離さんとしている。

それはもう蛇の如く巻きついているーーーー故に彼は嫌気がさし、光が消えた顔をしている。



「多分もう手遅れですよ。 恋の病はどんな病院でも治すことはできませんからね。 成す術なし。 怯えながら残りの人生を楽しんで下さい」


「恋の病でもんでる方の病とどうやって過ごしていけばいいんだよ。 お先真っ暗だよ、楽しめねェよ」


彼女本人はただ純粋に意中の彼にひっついているだけだ。

しかし彼側に立ってみると、彼女の気持ちはかなり湾曲して見えてしまう。

病んでいないのに、俗に言うヤンデレという属性ではないのに、かなりおどろおどろしい狂気の恋に見えるのだ。


彼は現在もそれに悩まされ、幸せが人生の道から失われてしまったような感覚に襲われている。

すると、そんな彼を呼ぶ者が現れる。

かまくらの狭い出入り口に、顔をひょこりと覗かせる女性が一人。


アイナだ。


彼女はこの休みの日であるというのに、あらゆる事象に対し、何時如何なる時でも対処できるように剣を腰に差している。

それは彼女の役職がそうさせているのであろう。


「海斗、外ではっちゃけている奴の相手をしてくれ。 私だけでは手が回らん」


「お……そりゃあいい。 やっぱこういう時は外で遊ばにゃ損でしょ」


アイナの誘いは海斗に響いた。

折角の雪の上にいるのだ、彼自身も遊んでおかないと、と思っていたのだ。

そうして彼は少しかがんだ状態でかまくらから出て行こうとしたーーーーその時。


ガシリーーーーと、彼の腕は何かに固定される。

それも、何かの腕……ということは答えは一つ。

花音である。


「あれ? 私海斗専用のストラップだから離せないんだけど……大丈夫? このままじゃ動きづらくない? 外に行くのやめとかない?」


「離せ! 俺は外に行くんだ! 寒くても外で動くんだァッ!」


「そんな事よりも私とネチャネチャラヴラヴしよ!? 海斗お餅好きでしょ!? 私お餅に負けない粘着持ってるから、くっつくから!」


「人の粘着質なんてマイナスポイントになるだけだろ! 離せ!」


どうしても離れたくない花音。

湧き出す海斗の欲を抑えようと必死になっている。


「ハッ! 残念だったな天使! 最近の男はさっぱりした女が好きなんだよ! となればこの私……この 『彼氏のプライベート、思想には空気を読んで入り込まない系彼女』 の私が最高なんだよ! さぁ、わかったらその腕を解け! お前がストラップならば、相手は2Dで十分! 持ち歩けるサイズにするんだな!!」


「誰の彼氏がたまごっちよ!! 貴女こそ武闘派女子なら、相手はポリゴンでいいんじゃない!? お似合いよ、お似合い!」


「私の彼氏がストリートファイターズなわけないだろう!! あいつはもっと解像度いいわッ! だからーーーー」


「あのねー、お二人とも」


言い合いが過激になってきたところで、バルが横槍を入れた。

それは少ないことばであったが、切れ味が良く、瞬時に言い合いが止まった。


「意中の人でも、常に眼中に存在するとは限りませんからね〜」


彼女はそう言った。

そして二人は周り見渡したーーーーすると。

海斗はかまくらから消えていた。



ーーーーー



「何熱心に作ってんだシウニー」


「あぁ、魔王様。 見てくださいよこれ。 自信作ですよこれ。 いい形していると思いません? この雪だるま」


海斗は既に外に出ていた。

外はかまくらと同じような寒さであったが、彼にはこちらの方が似合っているようだった。

そして外に出て真っ先に目に入ったのが、彼女、シウニーの姿だった。


「あー。 これ雪だるまだったのか。 なんだ、じゃあこれは自分の望んだ姿とかそういう系のやつ? 自分は角張った姿だから、雪だるまの丸みが欲しいとかいうやつ? 大丈夫大丈夫、色は同じだから」


「魔王様の頭には、私にまな板という概念しかないんですか!? そろそろ拳が飛んでいきますからね……!」


どうやら彼女は雪だるまを作っているようだ。

雪があれば、反射的に作ってしまうもの。

とても陳腐な作り物だ。

それでも、不変的な可愛げがあるのが 『雪だるま』 というものである。


……しかし、彼はどうしても気になる部分があった。

シウニーが作ったその雪だるまは、他のものとはなにか違う。


「……なぁ。 それさ…….」









「大きくない?」


挿絵(By みてみん)


果てしなく大きいのだ。

例えるならーーーーそう、サッポロ雪まつりのために作られる作品の大きさをしているのだ。

遊びのために作られるそれではない。


「いやぁ……やはり何事も大きく! じゃないですか。 だから大きさにこだわったんですよ」


「あぁ……やっぱり自分の胸のことを気にして……せめて、せめて自分の手で作るものは大きくしてやろうと………..」


「そうじゃないって言ってるじゃないですか!! 入り口が違っても終着点は結局それですかァ!!?」


海斗は少し悲しむ表情を見せるが、シウニーはそれを突っぱねる。

全然合っていないと、そう断言する。

その時、雪山が危険だからと、念のために全員に配っていたトランシーバーが反応する。


『おい海斗! あそこあそこ! 二人が二人の所為で大変なことになってるぞッ!!!』


それを通じて声を上げたのは、アノミア。

彼女は皆の安全を優先にし、近くに生えている針葉樹の上で周りを見渡しているのだ。

そんな彼女の目に脅威が見えたようで、海斗に警鐘を鳴らした。

そしてアノミアの言う通りに、周りに注意を向けてみるとーーーー大きな音が耳に入ってきた。

それは爆発音でもなく、硬い何かと何かがぶつかり合う音でもなく…………雪の ボフッ、ボフッ とした音であった。


その方向に目を向けてみると、二人の影が見えたのだ。


二人はーーーー花音とアイナ。


「オラァッ! テメェの彼氏はポリ・ゴン斗で十分なんだよ!! 海斗をやらせはしない!! 幼馴染の実力見せてやるわァッ!!!!!」


「じゃあお前は2D斗かァッ!? ディレクターみたいな名前しやがってェ!! そもそも海斗の名前を遊びに使っている時点で幼馴染失格だオラァッ!!!!!」


彼女達は怒号を浴びせながら、雪で作ったものを当て合っている。

おそらく魔力か何かで固まらせたのだろうーーーー太い丸太のようなものであったり、直径1メートルもの雪玉を作っては投げ、作っては投げを繰り返している。


『あれはどういうことだ! あのままではここら一帯が焼け野原になるぞ!』


「いやそこまではならんだろ! 確かに激しいが、あいつらだって加減はわかってるはず、大事にはならんはずだーーーー」


そう海斗が結論を出した時、アノミアとは違う声が聞こえ始める。


『魔王様! こ、これは……!!!!』


バルの声だ。

かなり焦っているようであった。

もしかして……もしかして、予想とは反して大事が起きてしまったーーーー!?


「バル! どうした! 何かあったか!?」


『えぇ……! 凄まじいことが……!! あ、あぁ……!!』


『うぅ……止まらないよぉ……』


『どうやったら止まるのぉ……』


そしてバルの他にも、子供二人の声も小さく聞こえ始める。

篭った声。

苦しそうな声とも取れる。

しかも、内容が 『止まらない』。


「何だ!? 何が起こった!? 血か!? 血が止まらないのか!?」


『魔王様! 周りが膨らんできています……! 傷を中心に!!!!!』


「傷!?」


やはりそうか。

予想とは違い、彼女達の行動は悲劇を生んでしまったらしい。

傷が膨らむーーーーとは、よくわからないが、ここは魔界。

人間界とは違うことが多々有る。


「具体的に! 具体的に言えばどうなんだ!?」


だがしかし、それだけの言葉ではうまく理解できない。

もっと状況判断できる言葉の量が必要だ。

故に彼はバルに多く求める。


『お餅が膨らんでいます!!!!!』


「尺の無駄遣いだったァァァァァッ!!!!!」


お餅だった。

止まらないのはよだれだった。

傷は切り餅だからだ。


「そんなことでトランシーバーを介して伝えるな! 状況が状況だから間違うだろう!!!」


『海斗! 今はそんな話をしている場合ではない! あれを見ろ! もっと過激になっているぞ!」


彼がバルを叱った時ーーーーまさにその時だった。

二人の武器はもっと大きくなり、凶暴さを増していた。

先に挙げた武器で、太い丸太と直径1メートルの雪玉があったが、それらは約2倍と化していた。


「あ〜。 たまには寒い場所でのんびりするのもいいな〜……」


その過激な事態を背に、アノミアとは違う針葉樹の太い幹の上で寝そべり、のんびり時間を過ごしている女性ーーーーシェイラがいた。

厚着をし、何者にも邪魔をされないひと時。

誰しもが羨ましがる状況に違いない。


そんな彼女の上方から、一本の闇が訪れた。


その直後に轟音が鳴り響き、辺りを包んだ。


『姫ーーーーーーーーッ!!!!!』


シェイラは巨大な雪丸太によって針葉樹ごと潰された。


「目に見える被害がついに……ッ! 早くなんとかしねェと……!」


海斗の心配が巨きく膨らんだ事など知る由もなく、彼女達は乱闘を続けた。


「この……超巨大雪玉を直径10センチまで圧縮した殺人兵器をくらえ……お前が掲げる幼馴染設定とやらを使ってェ! 受け止めてみるがいいわァッ!!」


すると言い放った通り、アイナの手の中には普通サイズの雪玉が収められていた。

しかし、色やツヤが違う。

テカッテカに光り輝いたそれは、太陽光を反射し、狂気であることを物語っているようであった。

そしてそれを彼女は、片足を直上に上げ、花音に向かって放ったーーーー


ブオォッーーーー! と、大気を切り裂くような音をたてながら高速で移動するそれは、花音の元へと一瞬で迫った。


「ーーーーッ!!」


しかし花音は類まれなる反射と身体能力によりそれを回避。

直撃は免れた。


……ただ、問題はそのあと起きた。


そのテカッテカの雪玉は、シウニーが作った雪だるまの下半身に直撃し、雪だるまのバランスを崩したのだ。


「あ」


そうして、そのまま雪だるまはゆっくりと転がり、転がり、転がり、転がるたびに少しずつ速度を上げてゆきーーーー結果。


その先にあったコテージに直撃し、爆破したーーーー

一話目終わりーーーー二話目に続くーーーー

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