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もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
中央街騒擾編
169/293

第百六十話 しかし自分も結婚したらやりかねないので心配になる

二話構成ーーーー後編

「はい、まずは年賀状ですよ。 折角皆さんが書いてくれたんですから、ちゃんと読まないと」


シウニーが、炬燵の腕に置かれた年賀状の塔をズズイと押し、海斗の近くに寄せる。

彼は少し嫌がる表情を見せるが、しょうがないと感じ、積み上げられた年賀状に手を伸ばす。


「……で、これ主に誰が書いてんの?」


「この国の人達ですね」


「直接渡せよッ! 城の中に大体いるだろ! 俺ッ!」


「年賀状を直接渡すなんてお正月らしくないじゃないですか。 だから皆さんはこうやって送ってきてるんですよ」


言葉を淡々とつなぎ合わせていくシウニー。

確かに彼女の言い分は一理ある。

『はい、これ新年のご挨拶です魔王様』 と言って、はい、と渡されるのは味気ない。

そうだ、うん、そうだ。

それ以上に、年賀状を送ってくれるのは嬉しい。

大した仕事をしていないのに、国民全員が送ってきてくれるのは非常に嬉しい。


しかし、数が多すぎる。

国民全員となると、桁は千を迎える。

一日、通しで読むのは気が遠くなるというもの。

とてもではないが、無理である。


「ほらほら! 別に全部今日中に読めって言ってるんじゃないんですから! 書類は私達が少し受け持つんで、年賀状を読んでいってください」


「うん…………」


そう言うと、シウニーとバルは海斗の向かい側に座り、書類に手をつけ始めた。

それを見て彼は観念したらしく、年賀状に手を伸ばした。


「……本当にまともに書いてきてんだなぁ……」


「そりゃそうです。 年賀状におふざけなんていりませんからね」


「……」


年賀状を一枚ずつ手に取っていくと、そこには一様に新年の挨拶を書いていた。

『あけましておめでとうございます』 やら 『今年もよろしくお願い致します』 などの文が描かれている。

ボールペンであったり筆であったり、とりあえず皆普通に書いているようだ。

新年の初仕事がこれ? などと思ったりもしたが、これはこれで楽である。

なんせただ読めばいいだけなのだから。


「んー…………ん?」



『出番が欲しいです。 海斗、どうにかしてください』



……いや、違う。

違うのがいる。

挨拶なんて微塵も考えていない奴がいる。


「? どうしたんですか?」


「いや、この小説に催促してくる奴がいる。 新年に対してじゃなくて作品に干渉しようとしてくる奴がいる」


その年賀状の差出人はーーーーシェイラ。

女騎士のかしら

以前龍を討伐した時に、再会を果たした海斗の知り合い。

そんな彼女からの挨拶、もといお願いであった。

確かに彼女の出番は少ない。

最近長編もあってか、ますます影が薄くなったように思える。


そして海斗は、シウニーにその文面を見せた。


「えぇ……こわ。 やはり出番というのは求めてくるもんなんですね……」


「こんなの俺に言われても知らんわ! ストーリーなんて作者が決めることなんだしよォッ!」


「まあまあ、落ち着いて。 やっぱり人って偶には心の中を見せなければやっていけない時ってあるじゃないですか。 それですよ。 それがたまたま年賀状という形で送られてきただけですよきっと」


「そ、そうかぁ……?」


海斗の中に僅かな不安が生まれる。

だがそれを押し殺しつつ、彼は新たな年賀状に手を伸ばした。


「まぁそうだよな。 そんな変なもんが立て続けにーーーー」



『姫様に出番をあげてください』



「いるんだなこれが」


いた。

また、いた。

シェイラの従者、アノミアだ。


「うわぁ……いるんですね、現実は」


「従者の役割を全うしようとするのはいいけど、送る場所違うから! 年賀状こんなん書くもんじゃないから!」


はっきり言って、彼にとっては迷惑そのもの。

たまに来る 『賞金当たりましたよメール』 と何ら変わりはない。


「あれー? 魔王様、それ結構続いてますよ〜?」


「は?」


ここでバルが年賀状の塔に手を伸ばした。

そして一枚一枚手に取り 『ほら』 とそれらを海斗に見せた。



『出番をください』


『姫様に救いを』


『出番をください』


『何度捨てても無駄ですから』


『出番をください』


『エロいキャラって重要ですからね』


『海斗は女騎士を襲ったーーーーくっ、殺せ! みたいな編でもいいです』


『エロい展開って重要ですからね』



「怖ァッ! 何で連携とってんだよッ! そこまで出番が欲しいかよッ!」


「準レギュラーは出番が何よりのお年玉なんですよ。 レギュラー陣の魔王様にはわからないものです……あ、ほら。 この人も悩んでる」


そしてそのまま、バルは次の年賀状を海斗に見せた。



『ねぇ海斗。 私達って幼馴染なんだよね? 幼馴染ってすごい良い設定だと思うんだ…………でもね? 何故か私出番が少ないの。 最強の幼馴染編とかいう大層な編名で出たのに、出番の無さだけ最強になっちゃったの。 だからあの、キバごんとかいうクソ作者に出番をあげてって言って欲しいの。 嫌だったら、私が行く。 いいよね? だって、私は海斗の幼馴染なんだもの』



「お前もかいィッ!」


「やはり皆さん悩んでるんですね〜。 そういう悩みはちゃんと聞かなくてはなりませんよ魔王様〜」


「何他人事みたいに言ってんだよ! ほぼ脅迫なんだけど!」


花音からの年賀状ーーーー

最も身近な人間からのこれは何よりも恐ろしく感じる。

今度からどんな顔して会えばいいのやら……

その不安感と恐怖感を拭うために、彼は新たな年賀状に手を伸ばそうとしたーーーーしかし先にバルが一枚取っていた。


「これ……なんでしょう?」


「ん?」



『魔王様! あれ、くださいね!』



「……あれ? あれってなんだ」


「なんでしょうね?......あら、続いてるみたいですよ。 これ」



『魔王様! あれ! くーださい!」


『魔王様本当にあれください!』


『あの良いやつください!』


『お年玉下さい!!!』



「直接口で言えェッ!!」


差出人はラーファ。

内容はとても子どもらしいものであったが……これは果たして年賀状の内容にふさわしいものなのだろうか。

子どもといえども計り知れない行動力と欲があるのだと、そう感じることができた。


どちらかというと、嫌な意味で。


「はい、次です次。 手と思考を休ませないでくださいね〜。 書類はできるだけやっておきますから」


バルはそう言って、海斗の次の動きを催促する。

海斗は文句の一つも言ってみたくなるが、改めて考えてみると自分はまだ楽な仕事をもらっているのだ。

いや、仕事ーーーーと言っていいのか甚だ疑問ではあるが。

外で修復作業を行っている者達よりかは、遥かに楽な仕事には違いない。

だから手を止めてはならないのだが……うん。

少しばかり読むのが億劫になりかけているのは間違いない。


そう思いつつも、新たな年賀状を読むために手を伸ばすしかなかった。


「次は……」


「え…………魔王様これ本当ですか……?」


するとシウニーが先を気になったようで、年賀状を取っていた。

しかも二枚。

ただそれを見た彼女の表情は好ましくなく……むしろ、ありえないものを見た時のようだった。

そしてその内容を海斗に見せた。

そこには 『ルシファー』 と書かれておりーーーー



『魔王様。 あの時の事を覚えておいででしょうか。 そう、あの時です。 深夜となり、皆が寝静まった時間ーーーー私を呼び出し、ベッドに横にならせましたね。 そして私を思うがまま……その先は言わずとも分かりますね?』


『はい。 あの時はご利用ありがとうございます。 私の身体を使うのは一回、五十万円となります。 これは一度お支払いいただけるとそこから一年間私を使うのは自由となります。 しかしこれを延ばすと、1日五千円の延滞料金が発生致します。 あらかじめご了承ください』



「なにこれ!? ワンクリ詐欺ィ!? 年賀状でワンクリ詐欺なんてやってんのあいつッ!!」


「最悪……」


「魔王様……見損ないました」


「七つの大罪にも恐れず手を伸ばす……次は私ですかぁ? 引きますぅ」


「だぁー……」


身に覚えのないカルマが海斗を襲う。

それで襲いかかるは皆の感じた言葉。

それがグサリグサリと彼の心に刺さってゆくーーーー


「違うから! 俺こんなことしてないから! ほら! 前みたいに、まだこの続きがあるんじゃねェか!? 嘘でしたーみたいな年賀状が!」


それを願い、彼はまた新たな年賀状を手に取った。



『ねぇ海斗、私達幼馴染だよね? 何? やっぱりあの堕天使がいいの? 同じ白髪なのにあいつがいいの? ねぇ? 教えて? やっぱりロングがいいの? ショートじゃダメなの?』



「なんで知ってんだァッ!!」


「あー。 遠くからでも、過去からでも予知できるほど単純で思い切った行動だったんですね。 最低」


「違うって言ってんだろォ!! そもそも俺そんな事しねェし! 相手があのルシファーだってだけで気づけよ! 嘘って!!」


飛んだ濡れ衣を着せられた海斗。

ますます年賀状が嫌になる。

普通は年賀状を貰えば嬉しくなるというのに、今では不安要素そのものでしかない。

だがそれでも、彼は年賀状の束に手を伸ばすしかなかったーーーー



ーーーーー



「ねぇ魔王様……何故、皆が年賀状を、こんな時に送ってきたと思いますか?」


「……?」


年賀状を恐る恐る読んでいた海斗に、ふとバルは声をかけた。

彼女は書類を読みながら、必要な箇所に文字を書きながら、彼に話しかけていた。

その投げかけの内容は、瞬時に理解できないものであった。

何故、年賀状を書くのかーーーーそんなの決まっている。

新年になったからだ。

新年には年賀状はつきもの。

これほどまでに送られてきても、何ら不思議ではない。


ただ……海斗が描いたその答えは、バルの答えとは大きな差異があった。


「それはですね…………魔王様。 貴方を休ませるために、心配させないために年賀状を送ったんですよ」


「……心配させないため……?」


「そうです。 心配させないために送ったんです」


彼女の表情は、幾らか穏やかであった。

そして彼女が動かす手も緩やかであり、隣に座っているシウニーのそれも同等であった。


「だって、よく考えてみてください。 今、国は外から見てもわかるほどボロボロです。 それを一秒でも早く修復しなければなりません。 年賀状を書くという短い時間でも惜しいわけです。 でも国の民は皆、その時間を削って魔王様に年賀状を書いた……しかも、疲労や気負いを感じさせることなく」


「……」


二人は、書類のために動かしていた手を止め、海斗の方へと目を当てた。


「魔王様。 皆、貴方を想っているのです」


そうして、バルは笑顔を作り、シウニーは優しい表情を作り出した。


「だから、貴方を休ませるために、皆は部屋でできる仕事ーーーー年賀状と書類を読む仕事を与えたのです」


「……」


休ませるために……

海斗は様々な考えを巡らせた。

先にあった戦争ーーーー彼女達は、そこで負った海斗の傷を、背負ったものを少しでも軽くするために、年賀状という一つの定型を彼によこしたのだ。

その意味を、彼は深く咀嚼する。

するとバルは、笑顔を少しだけ解いてーーーー


「魔王様。 この一年、ありがとうございました。 これからも……よろしくお願いしますね」


彼女はとても……穏やかであった。

穏やかな顔で、海斗と向かい合ったのだ。

彼もそれに、目を閉じ、思いを受け止めたーーーー










「いや、待って。 今お前書類も、って言った?」


「……はい?」


「だってさ。 俺を休ませるために、皆は書類を用意したんだよな?」


「……」


「ならさ、お前らがやるのは違くない?」


……。

うむ、確かにそうである。

海斗のために用意したのに、彼女たちがやるのは違う。


「……お前ら今、感動で終わらせようとしたよな?」


「……」


「…………なんで書類を手伝おうとした?」


海斗の目は、先ほどのような穏やかなものではなかった。

白い目であった。









「……サボるためです」


「出てけ」


もはや、感動も何もなかった。

終わりーーーー

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