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第百三十五話 恋愛は語るものではなく想うもの

男は、周りにあるものは手中に収めようとする。

それは簡単なものでも、困難なものでも同じ。

己の力が及ぶ及ばないなども関係は無い。

目に見えるものには、必ず身体のどこかに欲求が生まれる。


自分よりも高い位置にそびえ立つものであればある程、それは強くなってゆく。

具現化しているものならばなんにでも手を伸ばすだろう。

豪邸や土地、己の装飾品となり得るならば尚更の事。


そして最終的に追い求める果てはーーーー

『女』

男にとって最大の癒しであるがともに、最大の能力値とも言える。

美女であればあるほど、地位が上であればあるほど周りから讃美の声が上がり、妬み、疎まれる。

当事者の男はそれが何よりの快感、つまみとなる。


……だが、最大のものだけあって最も掴みにくい。

あらゆる種類、有象無象とも言える男達がいる中で、目標となる 『その』 女は一人しかいないのだから。

掴む道中で、紆余曲折あり断念する者、他者からの妨害で諦める者、相手の女から拒否され断念せざるをえなくなった者……

着地点は様々だ。


それから彼らは妥協をし、時には逃げ、時には女方の

所為にした。

どれも正しい。

どれも間違ってはいない。

他人が追い打ちをかける権利はない。


ならば、妥協の先にあるものは?

自信を持って、獣にも似た欲求をひけらかし、一直線に向かって行って折られたその代償は?


「……さぁ……忘れちまったなぁ……」


男はワイングラスに酒を注ぎ、彼方の産物を呟いたーーーー




ーーーーーーーーーーー 


ーーーーーーー


ーーー




「〜♩」


「お……? 何聴いてんだ?」


仕事が終わりし昼の刻ーーーー

普段と変わらず椅子に座り力を抜かす海斗。

手を後ろに組み、完全にくつろぎモードとなっている。

仕事を滞りなく終わらせた後の彼は大体これだ。

散歩も、自主的に皆との関係を深めようともしないのだ。

周りの悪魔も、少々諦め気味……

何を言っても少ししか行おうとしない。


そんな彼の前、机を挟み右腕だけを上に乗せ、音楽再生機器からイヤホンで何かしらの曲を言いている女性が一人……

シウニーだ。

彼女は最近、海斗から雑用係として思われている。

なので、書類が多い時はほぼ彼女を半ば強制的に誘い、共に仕事をこなしているのだ。

そのやるべきことが終わった今、休憩として音楽を聴いている。

海斗は軽くつまめる食べ物を取りに行き、旨さに浸っていたので気付かなかった。

それで今、彼女の事が目に入ったので尋ねている。

その尋ねに対して、シウニーは片方のイヤホンを外して海斗へと目を向けた。


「これですか? 今は恋愛ものの歌を聴いてるんですよー。 いやぁ〜、私もこんなに蕩けるような恋をしてみたいと思いまして〜」


「お前が恋? やめとけやめとけ。 お前と付き合うことになるのは漂白剤くらいなもんだからな」


「恋愛にまでまな板を引きずらなくてもいいでしょうが……! そういう魔王様は恋したことあるんですかァ!? 恋したことないからそんなこと言えるんじゃないんですかね!?」


若干食い気味のシウニー。

やはり女性の思う恋愛には口出しをされたくはないようだ。

むしろ相手の言い分を折る様に、勇猛果敢に攻め立てるーーーー

シウニーは海斗へ恋愛事情を勢いそのままに問いただした。


「あるぞ」


「……え、あるんですか」


送り返されたのは、予想を覆した答えであった。

そのために彼女からは拍子抜けた返事が口から漏れる。


「あるに決まってんだろ……俺だって悩み多き男。 一回くらいしたことはある」


「えぇぇ、意外。 そんなもの興味はない、とか言い切りそうな感じなのに……」


「あるある。 十二分にある」


もう一度 『へぇぇ』 と返事するシウニー。

先ほどの反感の炎は鎮火されたようであった。


「いやな……? 俺がさっきから言いたいのは、ラブソングなんて恋する前にはあまり聞くなよってことだ」


「……え? どういうことですか」


後ろに組んでいた手を前に移動させ、今度は腕を組んだ。


「あのな、恋愛なんて、そんなラブソングみたいに綺麗なもんじゃねェんだよ。 実際はヘドロの塊……そのままうまくいくなんて一握りの世界なんだよ」


「そ、それは……ある程度承知の上ですが……」


「いんや、お前は何もわかっちゃいねェ。 無知な子供が、絵本に描いてある情報をそのまま鵜呑みにするかのごとくだぜそりゃあ。 いいか? 恋愛なんてな、うまくいかない方が多い。 これ基本」


「そんな否定気味にならなくても……それだからこそ、なんとかうまくやろうと努力するものじゃないんですか?」


「かァーーッ! 無知か! ムチムチじゃないのにそこだけは無知なのかお前は! そもそも俺は、ラブソングだけ聴いてりゃ恋愛経験無しなのに、知ったかぶれるって思ってる奴が嫌いなんだよ! 恋愛って……やっぱり良いよね。 とかほざいてる奴がさァ! 良いよね、とか心に余韻を生み出す前にフラグを生み出せ馬鹿!」


「そこまで私浸ってませんでしたよね!? 良いじゃないですかそれでも! それを明日生きる糧としていけたら御の字じゃないですか!」


「明日を生きる糧にしすぎて出会いを生み出す養分にできてねェんだよお前はァッ!」


「あのね!? 魔王様! 恋愛の歌っていうのは、これから恋をするために、イメージを膨らませるものなんですよ。 それは妄想だけに止まってしまうかもしれません。 しかし! 自分が吸う酸素の代わりになるかの如く、自分を愛し、愛される人を追い求めていくものなんですよ!」


「じゃあその酸素君と別れたらどうすんだ? 二酸化炭素君とでも付き合うのか? 今まで酸素を愛して吸ってたのに二酸化炭素を躊躇なく吸えるのかお前は!?」


「だからそういうんじゃないですって! 飛躍しすぎなんですよ魔王様は!!」


ギャーギャーと言い合いが勃発する部屋。

その声は僅かながらに部屋の外にまで漏れていた。

それ程までに白熱しているのだ。

故に本人達は小さな変化には気づけなくなっている。

そうだ。

扉のノックにも気づけないでいる。

二回、二回ーーーー確認のためにもう二回叩かれる音が響こうとも、二人の声でかき消されてしまう。

ノックの当事者は返事がこないと悟ると、扉をゆっくりと開かせた。


「もううるさいですよ。 外にも漏れてますので静かにしてください……」


扉を開けた者はバルだった。


左耳を塞ぎながら部屋へと入ってきたのだ。

二人もこれには会話を止め、彼女の方に顔を向けた。

熱がこもりすぎて外にまで意識を向けていなかったのは申し訳ない。

少々冷静になる事が必要だろう。


「それは申し訳ないが……シウニーが恋愛のれの字を間違えていたからさ」


「いや間違えたのそっちィッ!変な持論吹っ掛けてきたのそっちィッ!」


また熱を帯びかける。

これにはバルも、ジトーっという視線を送りつける。

また始めるのか……そう感情を込めて。

するとシウニーは目を逸らし言葉を慎んだ。

しかしながら海斗は何も怯えない顔つき。

シウニーが戦闘不能に陥ったと感じると、彼は質問を投げつけた。


「バルは恋愛とかした事あんのか?」


「そりゃありますよ〜。私は高嶺の花子さんだったんですから。自分から好きになった事はない事はないですけど……ほとんどが男性からのアプローチですね〜」


「姫はモテモテでしたからねー」


「えぇ!?モテモテだったの!?えぇぇぇ……」


「なんですかその反応は……昔はモテたんですよ?どれほどの男性が寄って来たか……私は高嶺の花子さんでしたからね〜」


「……お前を好きになった男は、うわべだけしか見えてなさそうだな。蓋を開けてみればぐうたらポンコツ駄姫なのによ。内面知ったら引くぞ」


「だから蓋を開けられる前に、こちらが蓋を開けて断りました。別に急いで結婚したい、なんて思った事はないので」


「そんなんだから、今になっても結婚できてないんだよ。理想が高すぎて女王になれてないんだよ」


彼の言う通り、女王ではない。

彼女は姫だ。


「彼女がいない魔王様にだけは言われたくありませんー」


「じゃあお前は彼氏できた事あんのかよ」


「ないですー!初恋も実らず崩壊しましたー!」


「底辺同士の争いはやめましょう!?醜いだけですから!」


このまま続けても何の得も無い、とシウニー。

なるほど、それは一理あると両者言い合いを止める。

ただここで止めてしまえば海斗は何も思わないだろうが、バルの方は不満が残る。

過去の栄光ではあるが、それはそれで信じて貰えなければ嫌になる。

何か信じさせる案は無いだろうか……

深く考える彼女に、一筋の光が舞い降りるーーーー


「あ!そうだ!中央街に行ってナンパされたら信じてくれますか!?」


「ナンパ〜?何回か行ったけど一度もされた事無いじゃねェか」


「いやいや、それは普段のだらけオーラを纏ってるからですよ!本気を出せばお色気ムンムンッ!下手したら一目惚れされてその場で求婚されちゃうかもですよ!」


「……分かったよ……行ったらいいんだろ。一人で行かせるよりよっぽどいいわ」


勢いよく提案する彼女の姿に圧倒されつつある海斗。

熱弁には流石の彼も敵わない。

拒否しようとしたが、ここまで言われて断るわけにはいくまい。

そう感じた海斗は渋々同行の意を出した。

そうでしょうそうでしょうと満足げなバル。


三人は中央街に向かう事になった。


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