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もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
エルフ城危殆再来編
132/293

第百二十三話 海には危険が蔓延っている

四話構成ーーーーー2/4

寒い季節の海。

風は冷たく体に当たり、身震いを引き起こす。

その上閑散とし、ただただ寂しい。

来たとしても、ほとんどの場合虚しさを引き起こしてくる事だろう。


そんな時に海斗達は海に来た。

当然、上の文章に記してあるもの全てがのしかかっている。


しかしながら、バルはここに来た意味はあるという。

それは海斗とエリメは知らない事だった。


「魔王様とエリメちゃんは、まだやった事が無いので仕方ありません……私達の国では必ず一年に一度は行う事です」


「……そうなのか」


海斗の小さい返事に頷くバル。

それから彼女は、海の方へと目を向けて話し始めた。


「実はこの海を出て約百メートル地点の真下には、神殿が建てられています。その中に入るんです」


神殿の内部はとても広く、迷路のように形を成している。

だがそれは毎年形を変えるという。

まるで命を宿しているようだと……

もちろん敵になる生物もいる。

彼らはとても好戦的らしい。

とても危険だーーーーなのに何故、命をかけていくのか。

その理由は一つだけ。


神殿の最奥地には、魔力が密集してできた卵がある。

簡単明白な目的だ。


「それを手にし、国に持ち帰ればこれから一年の経済、環境、犯罪、災害……その尽くの安定が確立されるんです」


卵は国に着いた瞬間土地に染み込み消失するが、それらの恩恵として形を残す……そうも言った。

国というのは容易く倒れる。

何が原因で、何が元凶なのかはっきりしないままに。

一瞬で崩壊するかもしれないし、誰も気づかずに何年もかけて何かにより瓦解されるかもしれない。

それを、そんな貴重なものを苦労するだけで手にすることができる……なるほどわざわざそんな危険なところに行く理解ができる。

魔王としても是非取りに行きたい。


……だがどうやって?


神殿は海の中にあると言っていた。

向かう手段があるのだろうか。

もしかして……泳いでいくなんてことあるまいな……


「確か……海の中って化け物がうようよ泳いでるって前に聞いたんだが……どうやって行くんだ。 泳ぐならパスで。 俺は帰る」


「そんなわけないでしょう……ちゃんと方法はあります。 それは巨大な空気の泡を作り、潜水艦のように向かうんです」


「なるほど……魔力で?」


「魔力で」


目的、移動方法が分かった。

あまり頭が受け入れていない部分はあるが……まぁそこは乗り切るしかない。

それにこれはやり遂げなければならない。

魔王も付いて行ってこそ果たされる。

ならば嫌々言っていられない。

言ってはならない。


彼の意志を確認した経験者。

バルがベルフェに合図を送ると、彼女は波打つ海水に白に光る輪っかを作り始めた。

それは時間が経つごとに肥大化し、最終的には直径二メートル程にまで成長した。

バル達経験者は何も抵抗、疑問無くそれに足をかける。

彼女達は海の上に立ったのだ。

他でもない光る円盤のおかげ……なのだが、海斗は怪しそうに眺めている。

少し間が空き、意を決して足を動かす。

棒立ちしているエリメを両手で担いで皆と乗った。


全員乗ったことが確認されると、円盤は海の中へと徐々に沈みだしたーーーーー

ただ沈むだけなら水に触れてしまう。

そうなると溺れは必須。

だが、直径二メートルを守るように水は円形に跳ね飛ばされているのだ。

丁度バルが答えていた通りになる。

本当に泡の中に彼らは存在している。


「すげぇな……海の中の神殿まで泡で移動するとか……ゼルダの伝説が頭に浮かぶよ」


「そう思ってくれて構いません。 多分その概念を刻み込んでいた方が楽に感じると思いますので」


移動の途中にも会話が弾む。

現実に体験していないことは実際に楽しいものだ。

ラーファとエリメは泡の隅に立ち、海中の景色を眺めていた。

彼女達……特に海斗と同じ経験に無いエリメは楽しそうだ。

ほとんど無表情だが、深部には笑顔が見え隠れしている。


「ていうかそう言うと思いましたのでパチンコ用意しましたよ、はいこれ」


「用意周到なこって……で、これ使えるの? 敵倒せる威力あるのこれ」


「無いですよ。 何パチンコに期待してるんですか」


「無いのかよ! 何で持ってきたんだよ!」


「雰囲気作りのために決まってるじゃ無いですか。 それ以外無いですよ」


「魔王様はそれを使ってガノンドロフまで倒すんですよ? 頑張ってくださいね……」


「威力無いって言ってたんだけど! せめて爆弾をくれよ!」


「火気厳禁に決まってるじゃ無いですか。 本当に頭回らないですね魔王様は〜」


「こんなパチンコ用意することにだけしか頭が回らないお前に言われたかねェんだよ!」


「ちょッ! うるさい! 本当にうるさいですから! 狭いからよく響きます、鼓膜震えますゥッ!」


騒がしさをやめるように訴えるシウニー。

それには理由が存在した。

海の中を独占して泳ぐ化け物達、彼らが原因だ。


「あいつら音に敏感なんですよ……空気から液体への音の振動は伝わりません……でもそんな常識奴らには通用しません。 振動という細かな変化は確実に海の中を伝わります、それがはっきりとした音でなくとも。 奴らはそれに気付き、遠くからでもやってきます。 だから神殿に着くまでは静かにしていてください」


ということらしい。

確かに、先ほどよりかは動きが活発になった気がする。

まるで獲物を探しているようだ。

彼女の言う通りに、少し静かにしていた方がいいのかもしれない。


「本当ですよ魔王様!! 貴方はただでさえ声がでかいんだから少しは大人しくしていてくださいッ!」


「お前もうるせェよ!! シウニーの注意聞かなかったのかこのポンコツ駄姫ェッ!!!」


「いや二人ともうるさいですよ!! 私もねッ!!!!!」


注意が注意を呼ぶーーーー

それは固定された範囲の中だけには収まらなかった。

少しずつ脅威を手繰り寄せていたのだ。


「魔王様ぁ……」


「? どした」


ラーファとエリメが海斗に顔を向ける。

頬はまだ興奮と感動により紅潮しているのがわかる。

とても子供相応の反応だ。

こちらまで楽しくしてくれること請け合い……なのだが。

彼女達は 『楽しい』 から一つ飛び出した投げかけをしてきた。










「あっちから大きな黒い塊が泳いで来ています」


その通りだった。

ラーファがこちらを向きながら反対側に指を差す。

示す方向からは青い、青い景色に溶け込んだ黒が一つ。

それは徐々に大きく……大きくなっている。


正体はーーーーウツボ。

超巨大生物と化したウツボが、人間界では見ることができないくらい大きなウツボが近づいているのだ。


「……魔王様……」


「……うん、早く行こう? ベルフェお願い」


「ーーーーできません」


「……ベルフェお願い」


「できません」


「お願いします」


「これが最大出力でぇす」


「……」


ベルフェはニコニコ。

その他は無。

泳いできているウツボに目を当て、無表情になっている。

どれだけ願いを請おうと、どれだけ祈ろうと変えられない現実が手から離れようとしない。

これが現実。

これが永久不変の真理。

ソクラテスもびっくり。

無知の知も力不足。


神殿までの距離は大体二十メートル。

おそらく泡が進む速度は秒速二メートルあるかないか。

黒いウツボは戦闘機の如く泳いでいる。

今となってはもう口を半開きにしているのが見えている。

海斗達を食べるつもりだろう。








「ダァァァァァァァッ!!! 早く進んでくれェェェェッ!」


海斗、バル、シウニーは進行方向へと身体で泡を押す。

胃袋に仕舞われるのが先か、それとも神殿にたどり着くのが先かーーーー


3/4へ続くーーーーー

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