表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
エルフ城危殆再来編
130/293

第百二十一話 愛を詰め込めすぎたらどんな料理もダークマターになる

二話構成ーーーーー後編

三人はエレイナに料理を習いたいと願った。

彼女はこれを快く承諾した。

こんな自分でもよければーーーそう言ってくれた。

彼女はこんなにも謙遜しているが、三人にとっては申し分無い先生だ。


現在は昼の三時ーーーー


四人ともエプロン姿で厨房の一角に立っている。

今回は料理の基礎にあたるものを教える。

そのため厨房全体を使うことは無いのだ。

材料も調理器具も必要最低限のものだけ用意されている。


「では、基礎的な料理を作ります。基礎といえど、適当にこなしていいものではありません。基礎の大切は、騎士の御三人なら分かるはずです」


確かに。

基礎というのは大事だ。

構え、伴う威力、受身、捌き……どれも最初に習い最後まで使う動き。

簡単といえども、それを疎かにしてしまえば命取りだ。

決して嘲り避けてはならない道だ。


三人はふざける様子もなく、真剣にエレイナの言葉を飲み込み頷いた。


「ならば、やっていきましょう。まずは卵焼きです。簡単そうに見えて実はたくさんの確認と慎重さを伴います。料理は卵焼きから始まり卵焼きに終わる……そうも言われています」


「そこまで言えるものなんですか……」


「そうです。普段お弁当やら定食に何の変哲もなく置かれているものですが、調理者の腕がふんだんに込められているものなんです」


笑顔で話すエレイナ。

彼女自身、教えるのは久しぶりなのだ。

もう料理班に入っている悪魔達には、教えることはすべて教えた。

故にこの時間はとても楽しく感じてしまっているのだ。


「味付けは、魔王様好みの甘めにします。この際に用意する材料は……卵二個、砂糖大さじ一、醤油小さじ二分の一です。これが一人分です」


「なるほど……」


小さいメモ帳に文字を入れる三人。

何が何でも今日覚える、という意気込みを感じさせる。

エレイナもこれには笑顔。

一生懸命とはいつ見ても良いものだ。


「次に調理方法です。まずはボウルに卵を入れます」


言う通りに彼女は卵を二個投入する。

慣れた手つきで、片手で卵を割った。

三人はそれを顔で反応した。

流石、とでも思ったのだろう。


「ここでよく初心者が陥るポイントがあります。それはよくかき混ぜてしまうことです。白身の部分は箸で摘んで切るように、全体的に泡立てないよう混ぜてください。気泡がたくさんあると崩れやすくなってしまいますから」


何回も、数え切れないほどやってきているのだろうと感じさせるスムーズな動き。

説明しながら、言葉を発しながらでも的確に作ってゆくーーーー


「ここでかき混ぜた卵に調味料を加えましょう。更に軽くかき混ぜてください…………その後、フライパンを中火で熱し、キッチンペーパーに油を吸わせて均一に敷きます」


この後も説明が続いたーーーー

油が敷けたら、箸先を卵に浸してフライパンに落とす。

それが瞬時に固まればOK。

三分の一だけ卵を流し込み、全体に均一に広げる。


気泡ができれば箸で潰しつつ、半熟になれば手前に折り、奥へと移動させる。

空いた部分に再び油を敷き、そこに卵を三分の一流し込む。

この時、既に整えている卵を箸で持ち上げてやる。

底にも卵を流し入れるためだ。


最後に残った三分一の卵も、上の説明通りにもう一度行う。

それが終わればラップの上へと移し、均等に切る。

これが料理としてすぐに出すならばこれでよし。

しかし弁当のおかずとして作る場合は、ラップに一旦くるみ熱を冷ます。

その後に切るのだ。


ともかく、これで終わり。

エレイナは皿に並べ、完成を口に出した。それは焦げもなく。

鮮やかな黄色。

熟練者が出せる色だ。


「これを私達が……」


「できますでしょうか姫」


「できると思うしかないでしょう。挑戦あるのみです」


三人の挑戦心が揺さぶられる。

料理というのはここまで奥が深いものだったか。

それを初めて知った。

これを、自分のものにしたい。

そう強く思い、三人はそれぞれ定位置についた。


「では、始めてください」


綺麗な卵焼きを作るためにーーーーー




ーーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーー




ほんの一つまみの時間が経った。

エレイナは三人が作っている間、自分が使った器具を洗っている。

いつでも感謝を持って綺麗にするーーーーそれが彼女の考えだ。

誰にも理解されようともしない、何も強要しない彼女の姿だからこそ、教え子達はメキメキと腕を上達させていったのだ。

故に質の高すぎる料理が出せる。

彼女の性格をはじめとする何もかもが良すぎるのだ。


器具の洗いも半分を過ぎた頃、一人が声を上げる。

花音だ。

内容は、完成した。

彼女が予想した時間よりかなり早い。

しかしそれが本当なら良い素質を持っているということだ。

非常に微笑ましい。


そう思いながらエレイナは花音の方向へと振り向いた。


「えーと、完成品はどこに?」


「こちらです」


花音が指差す場所。

コンロの横だ。

そこには白い円盤の皿に盛り付けられた料理があった。


卵焼き。


卵、焼き。


卵……焼き?


卵………であるか不可思議焼き……?


エレイナは花音が卵焼きと称する料理を見て、とても疑問に思った。

果たしてこれは卵焼きなのだろうか……

皿の上に置かれてあるのは二つの物体。

真っ黒い物体。

例えるなら、火山口の真横に転がる岩。

焼かれて廃棄するしかなくなった石炭みたいな色と雰囲気を出している。

決して卵焼きの特徴である 『ふっくりふわふわ』 要素は皆無。

逆を行く 『ガッサリガサガサ』 だった。


とてもじゃないが、口に入れるものではない。

一種の狂気にも思えるのだ。

だって、物体の周りに黒い霧かもやみたいなのが漂っているんだもん。


「……これは?」


「卵焼きです」


「いや、たまg……どっかそこらへんから石を取ってきて盛り付けてません?」


「いえ、卵焼きです」


「私が目を離している隙に劇物とか入れませんでしたか?」


「百パーセント卵焼きです」


「卵焼きただれですか?」


「卵焼きです」


「無理に焼かれた卵ですか?」


「卵焼きです」


「ダークマターですか?」


「卵焼きです」


おかしい。

自分の説明通りに行えばこんなことにはならないはず……

説明に何か不要なものが混ざっていたとは考え難い。

いつも通りの手順を踏み教えたのだ。

自分自身には非はない……


と、なると花音の料理スキルが絶望的なだけ……?


いやそんなはずはない。

たとえ絶望的だとしてもここまでにはならない。

何かへんな魔力とかが飛んできたのだろう。

それを言うのが恥ずかしくてこんな真顔で披露しているのだ。

そうだ。

そうに違いない。

そうでなければならない。

宇宙の真理。


だってほら、他の二人はちゃんとやっているではないか。

シェイラは言った通りに、白身を切っているではないか。

だから安心。

安心……


「ーーーー!?」


いやおかしい。

切っている……

『斬』っている!

自分の剣で斬っている!

剣で白身を斬っている!

そんなめんどくさいことやるの!?

そんな回りくどいことよく思いつくよ!


「ちょっ! シェイラさん!? 何やってるんですか!」


「え? 貴女が言った通りに白身を切っているんだが……」


「それ剣ンンンンン! 私が持っていたの箸ッ!!」


「……あまり変わらないのでは?」


「変わります! 弁天山とエベレストくらい違います!」


「山ということには変わりないでしょう」


「8,842m違います!!!」


まさか少しだけ目を離している隙に、こんなにも天変地異なことになっているなんて……ッ!

思いもしなかった。


エレイナは頭を抱えた。

そして混乱した。

様々な経験を積んでいる彼女にも、こんな状況を踏んだことがなかった。

教え子達にもこんな不可思議を起こすものはいなかった。

下手な子はもちろんいたが、それでも焦がすなどが最上級の過ち。

でもそれはすぐに修復できる。

何回もやればいいからだ。


……だとしてもこれはない。

ない。

絶対的にない。


暗示にも見える思いを巡らせるエレイナ。

その横ではまたしても悩みの種を生み出す元がいた。


「流石姫! 剣できるなんてセンスありすぎでしょう!」


「……!」


アノミアだ。

彼女もやらかしていた。

ミキサーの中に卵を流し込みかき混ぜていた。

容器は真っ黄色。

卵の怨念がこびりついているよう……


「貴女も貴女で何しているんですか!」


「いやだって、手早くしなくちゃいけないではありませんか! 卵焼きはかき混ぜるという動作が必要になる。 ならばそれを簡略化するんです。 それに一番合っているのがミキサーと言えるでしょう!」


「全く言えません! 言語道断! というか泡立てないようにって言いましたよね私! すごい泡立っているじゃないですか! バブルバスじゃないですか! バブル時代じゃないですか!!」


「やはりアレンジを加えることは大事だと思うんですよ」


「それが一番ダメ! 初心者がアレンジするなんて一番失敗する元になるんですよ! 最初は言われた通りにするのが良いんです!」


「その心意気を褒めて欲しいですな」


「結果が滅茶苦茶じゃあ褒めようがないでしょッ!!」


ダメだ。

これはダメだ。


よくテレビで料理下手なタレントがいきなり適していない料理器具を使い出す……とか見たことあるのだが、それはヤラセとかふざけてやっているのだと思っていた。

だが違う。

あれは本気なのだ。

良かれと思ってやっているのだ。

これが正しいのだと思っているのだ。

良いアレンジだと思っているのだ。


だが、エレイナは諦めなかったーーーーー


特別、卵焼きだけが不得意の範疇に入っていたのだと思ったのだ。

その奇跡に身を委ねた。

だからこそ色んな料理をありったけ教えた。

とんかつ、オムライス、炒飯、肉じゃが……できるだけ簡単に教えた。

……しかしどれもうまくいかなかった。

このどれもが地獄の業火に焼かれたように真っ黒く豹変するか。

爆発四散した。

ダイナマイトもびっくりな威力だった。


遂に、エレイナが匙を投げた。


厨房の前には張り紙ーーーー


『料理班以外ここに立ち入るべからず』


そう書かれていた。




ーーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーー




ある日の人間界。

時間帯は昼。

平日なので海斗は学校にいる。

今ちょうど昼食を取ろうとしていた。

そこに花音がやってきた。

彼は何も驚くそぶりも見せずに迎えた。

どうやらいつものことらしい。


だが一つだけ普段と違うところがあった。


「海斗、はいこれ」


青い布に包まれた弁当箱を持っていたのだ。

それを海斗に差し出す。


「え……お前料理できたっけ……?」


「エレイナさんに、教えてもらった」


「あ、そう……これを俺に?」


そうだ、と頷く。

顔は自信満々。

上々の出来だそうだ。


海斗は、彼女の料理スキルに疑問を持った。

作る姿を見たことが無かったからだ。

しかしエレイナが関係しているのならば大丈夫だろう。

そう確信した。


そんなことならばいただきますーーーー彼は弁当箱を開ける。

そこで真っ先に目に入ってきたものは……


「……何、これ」


真っ黒い二つの物体だった。


「卵焼き」


「……無駄死にした卵?」


「卵焼き」


「哀愁漂う卵焼きだろ」


「卵焼き」


「そこら辺に落ちてる隕石拾ってきたのか?」


「卵焼き……いいから食べるッ!!」


しびれを切らした花音。

卵焼きと称した物体を掴み、海斗の口に入れる。

彼は抵抗した。

したが遅かった。

口の隙間を広げてそいつは入ってきた。

味は苦い以外の何物でもない。

もう砂糖とか塩とかの次元ではない。


そいつが完全に体内に侵入したーーーー瞬間。








海斗の胃が破裂した。


終わり



弁天山(徳島県) 標高6.1m


エベレスト(ネパール) 標高8,848m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ