第九十四話 ゲームの時間はほどほどに
この話は三話構成です。
午後三時ーーーー
エレイナが率いる料理班が作ってくれる昼飯を食し、少し経ってからのこの時間。
今日は書類整理が早めに終わり、ぐうたらと過ごせるこの時間。
……だが同時に、小腹が空く時間でもあるーーーーこの時間。
魔王部屋には海斗、シウニー、バルが何かを持ち佇んでいる。
彼らはひたすら時が過ぎ去るのを待っていた。
そして……それはやってきた。
「……」
ーーーーペリッ
持っているものはそうーーーーカップラーメンだ。
彼らは3分という限りなく小さい時間を待っていた。
蓋を開ければ、部屋にいい匂いが充満した。
お湯を注ぐだけで発せられるそれは、簡単ながらに絶大な打撃を身体に与えてくるのだ。
箸で麺を掴み口へと運ぶーーー
まだ熱をこれでもかと含んだ麺は非常に食べにくいものではあるが、そこは己の技量と経験で冷ましながら味わう。
なんとも人工的な旨味が味蕾を刺激する。
それが次の箸の動きを促すのだ。
「たはぁ〜……たまにはいいですねぇこういうのもー……」
「違った美味を求めるのも大事な行為ですからね」
何日かに一回食べるカップラーメンは格別なのだ。
エレイナ達が作る料理も美味しい。 とても美味しい。
海斗自身、行ったことはないが恐らく三ツ星レストランで提供されるそれに勝ると思えるほど。
ーーーーだが、たまには、本当にたまには離れてカップラーメンを食べたいと体が鼓動するのだ。
わかってくれる人も決して少なくは無いはずだ。
「美味しいです……」
ほっこりした顔で食す3人。
だが彼らが食べているラーメンの種類は、どうやら別々のようだ。
パッケージの色が違っている。
「やっぱり私はスタンダードに醤油ですね、安心してかっ喰らうことができますし!」
シウニーは醤油味。
一番定番な味だ。
なるほど彼女が選ぶ理由もわかる気がする。
定番に勝る安心感はなかなか無い。
「何を言いますか、やはりシーフードが一番です。 海の恵みを感じながら食べるラーメン、これ以上の身を震わせてくるものがありますか」
バルはシーフード。
彼女は魚などの魚介類が好きなのだ。
だからこそあっていると言える。
具が多いということも気に入っているようだ。
「……お前らな、いつまでそんなこと言ってやがる……カップラーメンはカレーだろうが」
海斗はカレー味。
うどんにカレー……などはわかるのだが、ラーメンにカレーは中々やらない。
しかしやってみれば美味しいのだ。
彼は異色ともとることができるその味を気に入っているのだ。
「いや、シーフードでしょう。 味が濃すぎることもなく、魚介自体のコクと旨味が染み込んきていますので。 美味しすぎるので」
「いえやはり醤油ですよ。 王道に勝てるものはありません」
彼女達二人はどちらが上なのか言葉を投げた。
シーフードが持つ魚介という武器。
醤油が持つ定番、王道、皆に昔から親しまれているという盾……
それらは火花を散らし、互いに拮抗し合う。
「あのな……王道走ってたらいいってもんじゃねえんだよ。 醤油もシーフードも、俺からしてみりゃあどっちも定番。言い争う理由を持たねえ味だ」
「……魔王様はカレーですよね?」
「そうだ、俺はカレーが好きだ。 このラーメンで再確認できた節もある」
「王道王道言ってたらいいってもんじゃねえ、この世に必要なのは定番の中に埋もれるひとかけらの異常……それがこれだ」
海斗は持論を広げだした。
「確かに美味しいですけど……そこまで言えるものですか……?」
「言える、確かにそう言える。 最近、ゲームにも王道RPGとかいう謳い文句をつけてるし……」
「あれいるか? ゲームに王道ストーリーなんてつきもんだろ、わざわざ広告にデカデカと貼っ付けるもんじゃねえんだよ」
「そ、それ言ったらおしまいでしょう……」
「あとな、王道言ってたら売れると思ってんじゃねえよ。 もうちょっと的確に心を惹きつけるキャッチコピーあるだろ。 『もう勇者しない』 とか 『エンディングまで、泣くんじゃない』 とかさ」
「……は、はぁ……」
「王道なのはいいけどそういうのは書くべきじゃないと思うんだよ俺は......人間はな、王道ばかりに頼ってちゃ成長しねえんだよ。 王道だけじゃなく、獣道に移り変わる時代が来たんだよ」
「完璧にカップラーメンから脱線したんですけど、キャッチコピーに七変化したんですけど」
「何事もキャッチコピーでできてんだよ、謳い文句がちゃんとしてたら買いたくなるって話なんだよ、わかったか? Aカップラーメン君」
「Aカップラーメンってなんですか!? 最近胸のいじり雑すぎないですか!?」
「何も雑じゃないですよ、魔王様は見た通りの事を言ってるんですよ、わかりましたか? 値段110%オフカップラーメン君」
「それもう凹んでます! クレーターです!」
「クレーターでもいいじゃねえか、丁度隕石が中央にあrーーーーーーー」
海斗が会話文を言い終わろうとした瞬間ーーーー
シウニーは彼の顔に、器に残った汁を思いっきり投げつけた。
ーーーーー
白いタオルで顔を拭きながら廊下を歩く海斗。
「ひどい目にあったな……」
しかし最後のあれは言いすぎた感じもする。
止められたのはある意味僥倖だったのかもしれない。
ただ熱かった。
それに彼女は胸の扱いが雑いと言った。
もっとまな板呼びするべきだろうか……
彼がまた間違った方向へと考えを巡らしていると後ろから一人近づいてくる。
海斗はそれが約3mほどに近づくと、存在察知し表情をピクリと反応させた。
「やぁ魔王様、おひさっ!」
「おー、本当だな、元気にしてたか」
存在の正体はベリアル。
普段通りの作業着としている白のタンクトップ、青のジーンズを着用していた。
いつもの軽い雰囲気をぶつけてくる彼女は、会話をしていて気持ちいいと感じられる。
「そりゃもう機械をいじり倒してたよ」
「いつも通りだなお前は……」
機械が好きな彼女は、よく国の端っこにある自分専用のガレージで作っている。
そしてその腕は確かだ。
以前に貼るのラジオを直しに行った時、かなりの短時間で直してくれた。
周りに聞けばこの国にある機械はほぼ全て彼女が作ったものらしい。
驚愕だ。
「……でさ、話は変わるんだけど……魔王様はRPG、好き?」
「?……好きだぞ」
ーーーーー
「私さ、最近ゲーム作りハマってて、いろんな種類を作ったんだーーーその中で、現時点最も最高傑作をやってもらいたいと思ってね〜」
「へー……どんなもんなんだ?」
ガレージの中にある、地下へと続く階段を下る二人。
螺旋状になっており、等間隔に壁にたてかけられているランタンだけが、静かに橙色を与えている。
「それはね、ゲーム機をピコピコ画面一つに集中するもんじゃあないんだ。 自分自信を転送させてやるゲームなんだよ」
「自分自身? 精神だけとかじゃなくて?」
「そうだよ〜、魔王様自体を転送させる」
「それは……楽しそうだな……」
「うん、しかも王道RPGの代表格、モンスターを集めていくストーリーだよ」
「王道か……」
ここでも王道という言葉を聞くとは……
海斗は先ほどの状況を思い出す。
「王道嫌い?」
「嫌いじゃねえよ、よしじゃあやらせてくれ」
階段を下りきり、ボタンを押して開扉した瞬間、目に入ってきたのはーーーーー
ただひたすらに真っ白な部屋。
金属によるツギハギと機械の輪郭だけが黒として浮いている。
部屋の中央には、大きな機械……おそらく原動力だろう。
あとは半透明のカプセル。
例えるなら……それはひまわり。
種の部分が原動力、花びらの部分がカプセルとして置かれていた。
「これは……」
「さ、これがゲーム機となる機械だ、カプセルに入ったらゲーム世界に転送できるーーーーー楽しんでおくれよ?」
彼女は無邪気な笑顔を浮かべた。
中編へ続くーーーー




