決戦
~決戦~
爆音がどこかからする。いや、いたるところでするため距離がつかめない。郡司が言う。
「まずいな。確実に軍隊が来ている」
まだ兵を直接みたわけじゃないが明らかに殲滅する勢いで攻めてきているがのがわかる。でも、一体どうして。ヴィルヘルム・バウアー、ドイツ、ひょっとして佐波が来ているのか。こんな強硬手段で来ると思わなかった。ひそかに連れ出すのかと思っていたからだ。
ざわざわ。
草むらから音がしたかと思ったら人が出てきた。迷彩服に身を包んだサングラスとした2名が銃をこちらに向けている。屈強な体躯をした郡司も両手を上にあげる。私も同じように手を上にあげた。銃を向けているうちの一人がサングラスを外す。そこにいたのは佐波だ。佐波が言う。
「間に合ったみたいだな。行こうか」
佐波がそう言ったがもう一人の迷彩服を着た兵士は郡司を力いっぱい殴ってロープで縛りあげている。佐波が言う。
「あの、やんちゃな阿久根首相の娘さんも助けたから。もう大丈夫。後は潜水艦に戻るだけだ。MINKAも助かったしな」
佐波がまさか碧子まで助けてくれると思っていなかった。だが、まだいけない。私は佐波に聞いた。
「雪を知らないか?」
だが、佐波の表情は暗い佐波が言う。
「あの子は中央にいる。さすがに中央には防衛用に兵や武器もあるみたいだ。時間もない」
差し出された手を素直に受け止められない。ここでまた雪と別れてしまうのか。それだけは避けたい。黙っていると佐波がいってくれた。
「これから潜水艦は島を時計回りにぐるっとまわる。南に岬があるからそこまでこい。今から20分後にそこにつく。そこで待てても5分までだ。アメリカも中国も日本もそこまで待ってはくれない」
そう言いながら佐波は銃を貸してくれた。佐波が言う。
「でも、大変だな。潜水艦の中で起きる修羅場までは知らないからな」
そうか、すでに潜水艦には碧子がいる。佐波に聞いてみた。
「なあ、私と雪をドイツに連れて行ってくれないか?雪も誰も『赤い翼』を知らない所にいけばまた前みたいに笑えると思うんだ」
佐波は困った顔をしてこう言ってくれた。
「大変だぞ。誰も知らない所に行くのは。って、こっちもMINKAと二人でドイツに戻るつもりだ。というか、もともとドイツから依頼があって日本に来ていたからな。MINKAはただ単にアイドルをしたかったみたいだけれど、私は人頭税について仕組みを知りたかった。ドイツにも似たような法があるからな」
言われてドイツのことをまったく知らないのだと思った。知らない所で一からやり直せたらいいとしか思っていなかった。佐波は続けて話す。
「ジズヤって言う名なんだ。日本の人頭税のようなものなのだが、こっちは20歳から65歳までの収入があるもののみに課せられている。定職についていないものは同じEU内で仕事を探せるから日本の就職率に比べるとはるかにいいんだ。多分、七海なら仕事にすぐつけると。あんまりここで時間を使うわけにはいかない。じゃあ、20分後に会おう」
そう言って佐波は走って去って行った。20分しかない。それまでの間に雪を説得して南にある岬にいかないといけない。絶対に雪を連れて行く。私は走って行った。
謁見の場のようなところに戻ってみた。だが、そのまま中に入らず離れたところから様子をうかがう。さっきまで雪がいたところに雪はいない。ここにいるのは男性ばかりだ。しかもみなライフルを持っている。人数は7名だ。中心に正利がいる。一体雪はどこにいったのだ。一旦建物の外に出て周りをぐるりと回ってみる。人は結構いるがみな走りまわっていて周りにそこまで注意が行っていない。いまだに島のあちこちから爆発音が聞こえる。誰かが走って謁見の間に入っていく。耳を澄まして聞いていると、どうやら島のあちこちに時限爆弾がしかけられていて爆発は誘導であるとのこと。昨日佐波が夜に来たのはこういう意味があったのか。また、違うものが入ってきた。そのものはMINKAと碧子がいなくなったことを告げた。正利が言う。
「中村七海を探せ。あいつは裏切った可能性がある。殺すなよ。尋問しなきゃいけないからな。関与していなくても何か知っているはずだ」
ここにいては危ない。私はゆっくりその場を離れて行った。とりあえず雪を探さないといけないがどこにいるのかわからない。というかこの島のことがまだわからないのだ。とりあえずどこかに避難をしているのだろう。城間義一も平良作人もいない。一緒にいるのかもしれない。とりあえず見つかりにくいように森の中に入って周りを観察する。正利が指揮をとっているが報告はするはずだ。謁見の間から誰がどこに行くのかを監視しよう。しばらく監視を続けたが、他に報告に行くものがいない。時間もない少し近づくか。
そう思って草むらから出たら肩をつかまれ草むらに押し込まれた、口をふさがれる。見つかった。あきらめて相手をよく見たら押さえつけているのは宮崎だ。私が抵抗しなくなって宮崎は手をほどいてくれた。宮崎が言う。
「こっちは危険だ。皆お前を探している。でも、俺には友達の方が大事だ」
宮崎がそう言ってくれたのがうれしかった。宮崎に聞く。
「雪を知らないか?」
だが宮崎は首を横に振るだけだった。宮崎が言う。
「ひょっとしたら地下のシェルターかもしれない。地下はかなり広いのだが、一部入ることができない区画があると聞いたことがある。ちょうど司令部のあたりだ」
そう言って宮崎は謁見の間付近を指差した。あそこからしか入れないのだろうか。いや、どこかに脱出用の道は用意しているはずだ。だが、どこに。この島の地下の構造が少しでもわかればいいのに。
「この島の地下の構造ってわかるものある?」
わらにもすがる気持ちだ。時間もない。宮崎が言う。
「資料館にならあると思う。ここから南に行ったところにある建物なんだ。今多くは海岸線に人が行っている。森の中にある建物だから人はいないかもしれない。そこまでなら案内するよ。流石にずっといなくなるわけにもいかないからな」
そう言って宮崎は森の中木をかき分けてしばらく進み、人がいないことを確認して道を歩き出した。しばらく歩くと森の中に建物がある。作りは古い。コンクリートの壁に窓枠にはガラスではなく木でふさがれているだけだ。扉もあるが別に鍵がかかっているわけでもなかった。扉を開けるとそこには書類からよくわからないものまで置いてある。宮崎が言う。
「ここはかつて第二次世界大戦時に使われていたらしいんだ。その時の遺留品っていうのかな、そういうものがここに置かれている。実際この島の地下部分の一部は当時のままなんだ。シェルターとして使っているのもその一部だしな」
言われて確かにと思った。朽ちてしまったヘルメットの残骸や、国旗もある。何かの折に使ったのだろう横断幕らしきものもおかれてあった。本棚がありそこをみる。ほこりでよく見えないがその中にそれらしき資料を発見した。地下の見取り図だ。司令部と言われている理由がわかったのは当時の見取り図でもあの場所が司令部という名称だったからだ。そして司令部から地下に行けるようになっている。地下は防空壕の変わりとされているが、水源確保のため井戸が中にあるのがわかった。その井戸は地上にもつながっている。また、空気を取り入れるための場所もある。地下シェルターの逃げ場所はあるが島の北側にある崖の中腹であることがわかった。今から行ったのでは間に合わない。だが、通風孔として使われている場所なら近くにある。そこから降りるか。だが、降りることはできても雪を連れてあがることはできないかもしれない。とりあえず近くに行けば道が開けるかもしれない。私はここから一番近くにある通風孔へ向かうと決めた。宮崎が言う。
「そろそろ戻るわ。後は頑張れよな」
そう言って宮崎は走って行った。私は資料館に会ったロープを手に地図をもとに歩いて行った。通風孔と言われる場所はまるで遺跡のように大きな石に石が乗っていた。登ってみると確かに穴が開いている。空気の流れを感じるがどうやって降りようかと考えていたら鉄の梯子がある。ゆっくり下に降りていく。しばらくすると下の方から明かりが見えてきた。明かりとともに誰かが話している声も聞こえる。だが、聞こえるけれど聞き取れるようなものではない。音をたてないようにゆっくり、一段ずつ降りていく。足元には金網が引かれている。ここが通風孔の端なのだろう。金網の横をのぞくと小さな鎧戸がある。目を凝らして中を見るとそこは真ん中にテーブルがあり城間義一と平良作人、そして雪が座っている。出入り口に一人、城間義一の背後に一人屈強な男性がライフルを持って立っている。周りを見てみるとさらに下におりる階段がある。音を立てずに降りていく。一体どこにたどり着くのだろう。そう思って降りていくとかすかに光が差し込んでいる場所がある。のぞいてみると部屋を次は水平に見ることができている。しかも後ろは通路になっている。これが北側に抜ける道なのかもしれない。方角については自信はないが、さっき上から見ていた限りでは一つだけの入り口にだけ注意を払っていた。崖の中腹に出るこの先から人が来ると思っていなかったのだろう。そして通風孔から人が降りてくることも考えていなかったのかもしれない。耳を澄ましていると声が聞こえる。下にいると何を話しているのかが聞き取れる。
「戦火は落ち着いたのか?」
「今、正利が指揮を取っている。大丈夫だろう」
「人質がいなくなったと報告があったぞ」
「また、やり直せばいい。こっちには他国にはないノウハウがあるのだ」
「中村七海はまだ見つからないらしいな」
「雪、あれはあきらめろ」
雪は一言も話していない。ここからは雪の表情は読み取れない。だが、ここで見ているだけじゃ何も変わらない。どうにかして状況を変えないといけない。そう思って周りを見渡すと反対側にも梯子がある。登ってみると左右対称になっているのがわかる。鎧戸を見ると取り付けてある金具が見えたロープを金具に結び再度階段を降りる。降りてから力いっぱいロープを引っ張る。鎧戸は外れなかったが「ガタッ」と大きな音を立てた。
「なんだ、今のは?」
「様子を見てこい」
入口付近にいた男性が鎧戸に向かう。だが、様子がわからないのかそこに立っているだけだ。
「上に行って様子を見てこい。そこはどこにつながっているんだ」
そう言って鎧戸を見ていた男性が上に上がって行った。城間義一の後ろにいた男性が入り口付近へ移動する。今だ。
私は扉を開けた一気にみんなが振り向く。一番近くにいるのは城間義一だ。城間義一に銃を突きつける。
「動くな、撃つぞ。銃を捨てろ」
そう言うと入り口付近にいた男はライフルを床に置いた。
「平良作人も壁際に行け。雪を返してもらう」
「ふ、何を言うかと思えば、雪は私の子だ」
城間義一はこう言ったが震えているのがわかる。私もふるえそうだが、感づかれるわけにはいかない。
「雪、一緒に知らない世界で一からやり直そう」
雪は涙を流しながら「はい」と言ってくれた。それだけで十分だった。雪が笑ってくれている。やはり雪は笑顔がいい。私は左手で銃を持ち、右手でポケットからペンを取り出した。
「雪、先に向こうへ」
雪が移動するのを見て私も駆け寄った。手に持ったペンはすでに赤いボタンを長押ししている。ピッという音も聞こえた。私は銃口を向けながら後ろに飛び去りながらペンを投げた。
爆発音を聞きながら私は梯子を駆け上がる。鎧戸から覗き見をした。うずくまっているが3人とも生きているのがわかった。命を奪うつもりはない。そうまでして自由を得たくないからだ。梯子を駆け上がる。時間はあとどれくらい残っているのだろう。今から南に向かって岬に行く。佐波は待ってくれているだろうか。光が見えてきた。外に出る。少しの間だけなのに空気がこんなに住んで気持ちいいのがわかった。
「これからどうするの?」
雪が聞いてきた。周りが騒がしい。さっきの爆発音で騒ぎになっているのだろう。
「とりあえず、佐波と合流する。南の岬で待ち合わせているんだ。急ごう」
そう言って、雪の手をとり走り出した。
走っていて気が付いたこと。それは初めの襲撃からいまだに爆音が続いていることだ。どれだけ時限爆弾をしかけたのやら。そう思いながら走っている先で爆発が起きなければいいなと思った。だが、島の沿岸部には兵もいるだろう。どうやってそこを抜け出せばいいのか考えていた。すでにペンの爆弾は切り抜けるために使ってしまった。後残っているのは銃だけだが、相手だって銃を持っている。考えても仕方がない。まずは南のある岬に向かって走るしかない。雪が言う。
「南の岬は崖よ。どうするの?」
見えてくる先を見て思った。砂浜じゃない。岬と言うにふさわしく切り立ったその風貌はどちらかと言うと崖のように見える。
「いたぞ、中村七海だ!」
後ろから叫び声がする。見つかった。追い立てられるように私も雪も岬の先端に向かっていく。追いかけてくる先頭にいたのは正利だ。正利が言う。
「もう、逃げ場はない。戻ってこい。それとも、その岬から飛び降りでもするか?」
向けられる銃口。人数は10名程度。逃げ切れるわけはない。雪が言う。
「やっぱりどうしようもないのよ」
震える雪を抱き寄せた。深呼吸をして大きくこう言った。
「心を殺して生き延びるくらいなら、ここで飛び降りるほうがいい」
雪を見る。雪も頷いてくれた。私は雪を力いっぱい抱きしめ岬から飛び降りた。
海面が近づいてくる。雪だけは助かってほしい。どうにか佐波が雪だけは助けてくれますように。雪の頭を抱きかかえ目を閉じた。
目を開けるとどっちが水面なのか、自分がどっちを向いているのかも分からない。どこかからか声がする。叫び声だ。雪は大丈夫だろうか。そう、薄れゆく意識の中で誰かの顔が見えた。その顔を見たときに思った。ありがとうと。
~エピローグ~
パリ協定の見直しはドイツからの申し立てにより新たに検討され、輸出入に関しては規制が緩和された。この時の協定をケルン協定と言われる。ケルン協定により輸入、輸出に頼っていた経済が再度活性化されることとなった。海洋移動には中世時代の帆船が再度見直されるとともに、海洋で使用できる太陽光船も開発がすすめられた。このことにより遠洋への出航が容易となった。
日本においては特別特区が沖縄海域に新設をされることとなり、漁業に関する見直しがなされた。当時の首相であった前阿久根首相は辞任し、法令通り内閣官房長官が首相代理を務める形となる。阿久根前首相は特別特区の責任者として現地の管理を務めている。『赤い翼』に関してはテロ組織としての認定もされていたが、城間義一、平良作人の負傷により経済特区の受け入れを受諾した模様である。
一部城間正利らによる抵抗もあったが無事鎮圧されたとのこと。なお、過激行動の首謀者であると判断された城間正利については現在国営農場で作業をするとともにカウンセリングを受けるなどをしている模様である。
「ねえ、いつまで新聞を読んでいるの?」
声がした方を向いた。そこには白い肌をした女性が立っている。彼女の名はスノウ。ここではそういうことになっている。二人だけの時はそう呼んでいない。
「ごめん、そっちに行くよ。雪」
いろいろあったが今はドイツで二人で暮らしている。この前碧子から手紙が来た。碧子には住まいを教えることで納得をしてもらったのだ。手紙にはこう書かれてあった。
「日本では死人となった二人へ。勝手に幸せになってください」
日本での手続きをしてくれたのは碧子だった。
「負けたとか思いたくないから」
なんて言われたな。でも、一度だって碧子に勝てたなんて思えなかった。
「何見てるの?碧子さんからの手紙でしょう」
雪はそう言って笑ってくれる。そう、それだけで十分なんだ。




