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48時間(2)


(2)


 外務省の相模局長とともに移動する。てっきり一つの車で移動するものだと思っていたら、相模局長は局長専用の車があり、それで移動するとのことだ。

 田鴎外さんと鵜狩さんについては別の車で移動。そして私と碧子もまた別の車だ。5人が移動するのに車が3台という非効率な移動方法。だが、そのことに誰も何も言わない。碧子に軽く聞いたら「この車に誰か乗せるのはイヤ」と言ってきた。まあ、私は乗せてもらえるだけましということなのだろう。あんまりいうと車から追い出されそうなので何も言わなかった。

 車は六本木を経由して走っていく。都心部で車を運転しているのは業務で使用している人が多い。地方は車が主流だが、都心部では今ではバス、電車がかなり利用されている。ガソリン代があがったことから個人での利用者が減ったのだ。代わりにバス路線が充実している。そのため、都内で渋滞に巻き込まれることは少なくなった。これは寒冷化がもたらした一つの変化なのかもしれない。後は地方都市のほうが地方で作れた作物の消費がしやすいということで地方も活性化している。実際一番テコ入れがあり予算を取っている省庁は農林水産省だ。寒冷でも育つ作物の開発や、国営農場の設置・運営もそうだ。実際どの国営農場も人手不足だ。だが、進んで働き手がいない以上、私たちが働き手をさらってくるかのごとく入れ込んでいる。今の日本はぎりぎり回っている。回っていないのが中国なのかもしれない。

 中国の現状は悲惨だ。すでにかなり前に廃止をされたが一時一人っ子政策というものがあったそうだ。おかげで日本以上に高齢社会が進み、また若年層が都心部で安月給ではたらくことで諸外国からの生産を請け負っていたためかなり国内で行き場のない不満が蔓延していた。そこに輸出入の制限が付く。これはするなということではなく、決められた価格での売買量を決めるというものだ。つまり、闇取引が横行することになるものでもある。中国では、作った製品や商品を高価で売りつけたり、中身が少量に変えられていたりする。そのため、日本の商社では、工場だけでなく港湾でも再度チェックをしている。そうでないと量や中身が正しいかすらわからないのだ。

 だが、中国の一番の厳しさの一番は人口と食料提供料があっていないということだ。そのため、食用の人肉というものが普通に流通しているという。批判が出ていたが、今の日本が行っている管理施設「B」の現状を見ると攻められるものではないのかもしれない。

 それに人肉を食べている国は中国だけではない。韓国、インドでもその流れがある。しかも日本から一部の物好きが食べに行っているというのも聞く。若い女性の肉がおいしいとか、子供の肉が柔らかいなどネットで検索して出てくるくらいだ。

 なぜ、こんな人肉のことを思ったかというと、食べる側ではなく捕獲されて食されることの危険性を車に乗る前に告げられたからだ。そんな危険なところによく阿久根首相は娘である碧子を連れて行くことを了承したことがわからなかった。ただ、直接電話で「娘を頼む」と言われた以上何とかしないといけないとも思った。もし、何かの拍子で私だけが助かりでもしたらそれこそ日本には戻ってこられないだろう。追い詰められる人の思考が少しだけわかった。雪も追い詰められていたのだろうか。

 そう、思っているうちに中国大使館についた。表向きはテロに対して遺憾だと告げることとなっている。すでに携帯で官房長官がその旨をメディアに伝えているのは確認している。また、各国の外交官で話し合いをする旨を伝えている。そう思うと行動は早い。どこかに違和感はあるがどこにかがわからない。

 とりあえず、考えても答えが出なさそうなので車を降りて大使館に向かった。この短い距離にもかかわらず記者は囲んでくる。マイクとカメラが向けられる。何を言っているのか聞き取れない。ただ、何かコメントを求められている。何も言わずうつむきながら大使館内に入った。



 大使館内は静かだった。もっと騒がしいものだと思っていたが普通のオフィスのような感じだ。電話はなっているし、携帯で話している人も多いがそれくらいだ。

 作りも立派で、私が働いている場所に比べるとかなり居心地がよさそうだ。交渉に同席するのかと思っていたが別室に案内されて待機となった。待機するのは私と碧子の二人だ。通された部屋はごく普通の会議室という感じで机に椅子が4脚ある。碧子が奥に座ったのでその横に腰かけようとしたらいきなりグーで殴られる。碧子が言う。

「これから中国に行くのよね。テロもあったから何もないといいけれど、この機会だから言っておく。私を選んでくれて、その、一度しか言わないからな。ありがとう」

 そう言うなり照れからなのかまた殴ってきた。その時の碧子の顔はかわいかった。ボコボコと殴ってくるがそこまで痛くない。なんだかふいに碧子の頭を撫でてみた。

「調子乗るな!!」

 顔を真っ赤にした碧子が次は力強く殴ってきた。だが、そんな碧子を見ながらこう言った。

「多分、ここまで来るのに碧子はいっぱい壁を乗り越えたのだと思う。だから言うよ。ありがとう。まだ正直色んなことが起こりすぎて気持ちの整理はついていないけれど、でも、今は碧子にありがとうって言いたいんだ」

 そう言って、ポンと碧子の頭に手を置いた。だが、碧子の様子は違った。

「気持ちの整理がついてないだと!」

 ブーツで足を思いっきり踏まれた。そこですか、引っかかったところは。だが、痛がっている私を見てかどうかわからないけれど碧子は笑顔だった。なんだかその笑顔を見て私も笑顔になった。私の笑顔をみて碧子は一言「きもい」とだけ言い放った。


 しばらくしても何も変わらない。ずっと実はトイレに行きたくて我慢をしていたのだ。緊張からなのかわからないが尿意がどうにも止まらなくなっていた。立ち上がると碧子から「どこにいくの?」と言われトイレと伝えたところブーツでまた蹴られた。

 扉を開けるとそこにはSPが2名立っていた。トイレに行く旨を伝えたところSPは二人ともその場に残っていた。彼らが守るのは碧子であり私ではないのだと改めて思い知らされた。通路を歩いていると、いきなりぶつかられた。何事かと思っていたら手に何かを渡された。だが、すぐにその相手は「ソーリー」と言ってそのまますぐに走り去っていった。一瞬雪かと思ったが確認はできなかった。いや、確認することはできる。この手に残っているものだ。私はトイレにいき、個室に入るとすぐに手に持っていたものを確認した。小さな紙切れだ。そこにこう書かれていた。

「七海の気持ちが知りたい。もし、まだ、私のことを思っているのなら、今日出国する時に手話で雪を2回表してほしい。それとこの手紙は破棄してほしい。七海の気持ちにかかわらずあっていいものじゃないから 雪」

 雪から手紙だった。さっきの女性は雪だったのかわからない。けれど、雪は日本であの婚約会見を見ていたんだ。そして、危険を顧みずこの手紙を渡した。直接なのかどうかはわからないけれど、これは確かに雪の筆跡だ。そして、手話で雪のこと。これは二人で見たドラマの中であったから覚えている。親指と人差し指で輪を作り、上から下にひらひらと動かすのだ。雪との思い出、雪と過ごした月日は消えることなんてない。それにあの雪との別れから色んなことを知った。そして、雪も私のことを忘れてなんていない。それがわかっただけでも十分だ。迷わない。雪にメッセージを届けたい。でも、どうして私が日本を出ることを知っているのだ。おそらく協力者がいる。しかも私の身近なところに。特定するのは難しいと思うが私が雪に対して明確な意思表示をすれば変わるのかもしれない。どうせ、このまま行ったら人質にしかなれないのだ。

 意識が変わると、思いが固まると強くなれそうな気がした。まずは絶対に気づかれてはいけないのが碧子だ。碧子は感がいい。普段と少しでも違うだけで何か行動しそうだ。私は自分に冷静になれと言い聞かせた。個室から出て手洗い場で手を洗った後に顔を洗った。気合いをいれるためだ。冷たい水が意識を高めてくれるような気がした。ビリビリに破いた手紙もさっきトイレで流した。燃やせたら一番なのだけれど天井にあるのが煙探知機のように見えたから火を使うのはやめておいた。だから水に流すことにした。

 トイレを出てさっきまでいた会議室に行く。外にはSPがいる。扉を開けて、中に入るてっきり「遅い」と言われると思っていたが、そこに碧子はいなかった。外に出てSPに向かって聞く。

「碧子はどこかにいった?」

「中にいないのですか?」

 SP二人が中に入る。そこにはやはり碧子はいなかった。一体どういうことだ。机の下にでも隠れて驚かそうとしているのかと思って探すだけ探したがどこにも碧子は見つからない。代わりに見つかったのは手紙だ。そこにはこう書かれていた。

「首相の娘らは預かった。返して欲しくば、次にZtubeで流れる動画について、正しく声明を出すこと」

 それだけだった。SPはすぐさま電話をする。私はただ茫然としていた。一体何が起こったというのだ。密室だったはずの場所。そこから碧子が一人消える。いや、この声明文では、娘らとなっている。ということは、当初私も浚われる予定だったのだろうか。だが、この部屋に窓はない。出入り口は1か所。しかも外にはSPがいる。いなくなることの方がおかしい。いなくなるとしたらこの部屋に抜け道でもない限り無理だ。もしくはSPが嘘をついているのか、SPが共犯者なのかだ。だが、今この段階でSPを調査することは難しい。とするとできることは、この部屋に何か隠し通路のようなものがあるのかを探すだけだ。まず通気口などの天井を考えてみた。だが、結構天井が高く、上るのが大変そうだ。しかも、特段取り外しが聞きそうな通気口のようなものはない。天井は厳しそうだ。そうなると床か壁だ。壁を見る。ホワイトボードがある。しかも壁に貼り付けるタイプだ。おもむろに手をかけると簡単に外れる。そこにドアがあった。SPもそれを見て寄ってくる。ドアを開けると通路があった。SPの一人が懐中電灯で通路を照らす。奥に碧子が縛られている。SPが碧子に近寄り縄をほどく。近くに下に降りる梯子がある。懐中電灯で照らしたが奥が見え無すぎるため降りるのはあきらめ碧子を部屋に連れ戻す。碧子が言う。

「ホント、信じられない。ちゃんと警護してよね」

 そう言いながらSPはうなだれるだけだ。そりゃそうだろう。警護を任されているのだから。と思っていたら碧子は「無視しない」と言って私を殴ってきた。

「え?警護って私?」

「当たり前じゃない。何言っているの」

 碧子はそう言いながら殴りつけてきた。いつも通り元気な碧子でよかったと思った。携帯が鳴る。見たことがない番号だ。

「もしもし」

「娘は無事だったそうだね」

 一瞬理解できなかった。そう、阿久根首相から電話がかかってきたからだ。

「はい、無事です。ご安心ください」

 そう言いながら、思い出したのだ。バイトの時に携帯番号を伝えたことがあるのを。だが、一度たりともかかってきたことはなかった。妙な汗をかいてしまう。阿久根首相が言う。

「娘を危険なところへはやれん。説得するように」

 それだけ言われて携帯は切られた。多分説得は無理ですから。そう思って碧子を見る。先手必勝と思ったのか碧子がこう言う。

「私、何があっても行くから。それと、次からトイレは私も一緒に行く。でないと死角が埋められない」

 そう言って碧子はホワイトボードがあった、隠し扉の場所を指差した。今になってわかったのだ。向かい合って座って意味を。お互いの死角を補うためだったのだ。

「何呆けているの?バカなの?」

 碧子にそう言われながら頭をぱしっとたたかれた。危機感が無かったのかもしれない。これから行くのはここよりもっと危険な場所だ。もっと気を引き締めないと思った。

「失礼します」

 ノックとともに入ってきたのは外務省の田鴎外課長補佐だ。

「ある程度打ち合わせはすみました。これから中国、上海に向かいます。公式な打ち合わせのためメディアの取材も受けます。出国時刻は16時。これから羽田に移動して専用機で飛び立ちます。事前にホテルで打ち合わせをしますのでこちらでお待ちください。」


 ホテルの地図と場所が書かれた紙を渡されるとすぐに部屋を出て行った。横を見ると碧子が電話をしている。

「ホテルに荷物とパスポート持ってきて」

 その内容を聞いた時に私も家に電話をしないといけないと思った。だが、親に何の報告もしていないため説明が大変だ。いきなりテレビで婚約を知って、次はテロで日本へ戻るように言っている中国に行く。私が親なら卒倒するか、展開についていけなくて現実逃避をしてしまいそうだ。だが、電話をする以外に方法がない。実家に電話を入れた。母親が出た。聞く午前中に黒服の男性がやってきて、説明をした上で、証拠としてテレビを見るようにと告げてくれていたらしい。警護のようにも感じるが家族を人質にとられているようにも感じる。もちろん家には爆弾もあるのだからSPを付ける必要はないのかもしれないが、ここまでメディアに注目されると実家が爆発するだけでも大ニュースになりそうだ。そして、すでに中国に行く可能性もあるから荷造りをするようにとも指示がでていたみたいだ。だが、おかげで助かりもしている。待ち合わせ場所のホテルを告げて、私は碧子とホテルに向かった。そう、この時首相に言われた通り碧子をちゃんと説得をしておけばよかったと思った。けれど、もう時は戻らない。そう、戻ってくれないのだ。


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