二日目昼休み
昼休み、食堂で弁当を広げながら5人は顔をあわせた。まずは自己紹介からだ。一人ずつ本名とキャラネームを話していく。
カロリーzero。第一印象はアニメが好きそうな人だった。そしてまったくその通りだった。
人帝。こう書いて読みはじんてい。なんか偉そうな名前だと思った。自称引きこもりらしい。そう言われるとそう見えてくるから不思議である。
シエール。かっこよかった。5人の中で一番かっこいいと思う。
SIRIASU。自称ヤバい人らしい。まだ会ったばかりなのでわからないが、昨日は一番奇声をあげていたという。
最後に僕。ナチュラル。zeroにオススメのアニメを教えてもらって最近見始めるようになった。将来の萌えぶた候補生。
軽く自己紹介を終えた後、zeroから本題を聞かされた。といっても昨日最後までゲームに残っていた4人はすでに内容を知っているということで、僕に説明するような形となった。だが、これがなかなか大変な話だった。話を始める前にzeroが自分のスマホからある画像を見せる。
「これは・・・メールの画像?」
なんでzeroが僕にメールを見せるのか分からない。首をひねってるとシエールが教えてくれた。
「これはゲームでzeroのメールボックスに届いたメール。リアルじゃないよ。」
ああ。なるほど、ネットゲームにはメール機能があるのか。納得納得。
「でも肝心なのは内容」
そう言ってzeroがスマホを差し出す。画像を拡大して読んでみる。
To :迷惑行為対策ギルド
Sub:迷惑行為へ対する対応について
今回のあなた方の連続したチャット発言は、こちら側で迷惑行為と見なしましたので、その行為へ対する処置内容をお知らせします。
本日より四日後の四月二十日 21:00に闘技場での公開決闘を申し込みます。そちらが、末参加及び決闘での敗北時はキャラクターの削除をさせて頂きます。勝利時は、今回の事は無いものとしますので、二度とこのような行為を起こさないようお願いします。
この趣旨のメールを運営に送り、実行許可を得ましたので送らせて頂きました。
対象キャラクター
カロリーzero/人帝/シエール/SIRIASU/ナチュラル
決闘ルール
三対五によるPT決闘方式
そちら側のアイテム使用可
以上
分かったことは、僕たちは4月20日に決闘というものを行うらしい。昨日が水曜日だから20日は日曜日か。休日にしたのはプレイヤーが揃いやすいからだろう。そんなことを考えながら、読み終わったのでzeroにスマホを返す。
「朝言ってた、上位プレイヤーが動くってこの事?」
シエールは一緒に話を聞いているが、人帝とSIRIASUは二人で盛り上がっている。
「そう、これが朝言ってたこと。」
そう言ってzeroはこのゲームの慣習を話始める。
このゲームがサービスを開始してしばらくすると、当然のことだか迷惑行為をはたらくプレイヤーが現れ始めたそうだ。最初は運営が積極的に対応を行っていたが、いつしかプレイヤー達が即座にそのような迷惑プレイヤーを糾弾し始めるようになったという。それがいつの間にか今のような形に落ち着いたという。
「で、重要なのは今から。俺たちはこの決闘で闘わなくちゃならない。そして勝たなくちゃな。なんでかわかる?」
zeroはそう言って僕を見る。そんなの簡単だ。決まってる。
「そりゃ、負けたらキャラ削除されちゃうじゃん。」
でしょ?とzeroに回答を促す。
「まあ、簡単にいうとそういうことだ。」
自分の出した答えが不正解でないことに安心しつつ僕は聞く。
「それでどうやって勝つの?教えて。そして今日から準備しようよ。」
言い終えると人帝とSIRIASUが会話を止めてこっちを見る。何か言いたげだ。え?僕悪いこと言ったかな?なんて思っているとzeroが口を開く。
「このゲームが始まって9年、その習慣が始まってから7年経つが……」
ここでzeroが間を置く。なんだよ。早くしてよと思いながらもzeroはすぐに会話を続けてくれた。どうやら一呼吸したらしい。なんだか緊張しちゃうじゃん。
「今までに勝ったプレイヤー及びPTはいない。」
・・・・・。え?僕はちゃんと耳掃除はしてる人間だ。聞き間違えるはずはない。じゃあ、zeroはなんて言ったんだ?
ぽかんとしている僕をみかねたのか人帝が口を開く。
「だから、過去にその決闘に勝ったやつらはいないんだってよ。分からないの?」
いや、そんなことは分かってる。今ので最終確認はとれた。僕は恐る恐るzeroに尋ねる。
「じゃ、じゃあ勝算は・・・?」
返ってきた答えは想像通りのものだった。
「勝つ可能性は0%負ける可能性は120%だ。」
自信満々だった。せめて負ける可能性を100%にしてよと思うが口に出さない。zeroは話を続ける。
「でも、勝率を0%からいくらか上げることはできる。今日はそれを話に来た。」
そう言うzeroの目はとても輝いていて、負けることを恐れない、むしろこれから起こることを楽しみにしているかのように見えた。この時、僕はこいつと一緒に闘いたいと思った。周りのみんなもいつしか真剣な面差しだった。
こうして僕たち5人は決闘に向けての準備を始めたのである。