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自由都市イワフネ<2>

 通用門をくぐった二人は、街の中央通りに歩みを進める。通りの路面は石畳で舗装され、建物は木造と石造り両方が混在していた。

 それは日本の都市の姿とは似ても似つかず、ヨーロッパの伝統的な街並みのようでもあった。


 スーノは職業柄か、興味深く街並みを観察する。

 建築は専門では無いので詳しくは無いが、道の舗装や排水設備などを見てみると、この街は結構手がかかっているということが見えてくる。道自体も中央が盛り上がっていて端には側溝があり、雨水を排水することが考えられた造りになっている。さらに足元には石で出来た丸い蓋がある。もしかしてこれはマンホールか?ということは、道路の下には下水設備があるんじゃないか?


 スーノの思考に何かが閃く。そしてスーノは唖然として周囲の街並みに目を配る。

 ここにはゲームの画面で見れたような書割の街では無い。人が生活し日常を暮らす生活の場としての街なんだ。

 それと同じように、この世界は現実のようなゲームの世界、ではないのではないか。菅原直人が日々生きてきた現実世界では無いが、またそれとは違う別の”本当の世界”なのだろうか。

 スーノの心は千々に乱れていた。



 そんなスーノの思いを知ってか知らずか、杏奈は興奮した面持ちで、街の中あらゆるものに興味を引かれていた。

 そんな姿を見て、スーノの心も落ち着きを取り戻す。


 杏奈は、人の群れを目にして声を上げている。

 注目すべきは、街の通りに集まっている人間の数だ。祭りは明日から始まるらしいが、すでに街の中には大勢の人が集まり、混乱と活況が渾然一体となった喧騒を作り出していた。


「すごい人の数。この世界にもこんなに人がいたんだ・・・えっあれって何?」


 杏奈が人波で埋れた通りの一角を指差し、驚きの表情を見せる。その指の先には、猫の姿を模した人のような姿があった。


「あれは猫人族だよ。・・・って僕もこの世界では初めて見たけど、ホントに猫の人だなあれは!!」


 訳知り顔で説明していたスーノも、実際に猫人族の姿を見たのは初めてであり、その異形に目を見張る。


 エルダーテイルの世界には、人間以外にも数多くの種族が暮らしている。

 人間、エルフ、ドワーフ、ハーフアルブ、猫人族、狐尾族、狼牙族、法儀族。この八種類の種族が社会を形成し、この<セルデシア>という世界を支えている。


 良く見れば、その姿が目立つ猫人族や、頭の上に狐耳がある狐尾族だけでなく、エルフやドワーフも人間に混じって街を闊歩している。

 それらの人々の姿を目にして、あっけに取られたように杏奈はポカンと大きな口を開けていた。


「本当にファンタジーの世界なんだ。ここって」


 呆けたように、間の抜けた声で話す杏奈。スーノも同じように呆然として、人々の流れを眺めていた。


 エルダーテイルの世界では、通常人間の街に人間以外の種族の者がこれほど存在することはあまり無い。

 だがここ自由都市イワフネは、商業的な観点から種族の差による偏見を出来るだけ無くした開明的な政策を取っている。そのため他の都市と比べて少数派の種族の姿を見る機会が多い街として知られていた。


 以上のことは、スーノもゲーム時代の情報として知ってはいた。ゲーム時代にイワフネの街に訪れた経験もあったが、その時も人間以外のNPCの割合が多いことに気づいていた。

 しかし、そうはいってもそれはゲームの画面で見た風景。こうやって現実世界と見紛うばかりのこの現在の世界の風景として、多種族が集まる様子を目の当たりにしたスーノはその異様さに仰天し面食らっていた。


「ははは、こりゃアキバに帰ったら、ものすごいモン見れそうだ」


 スーノはアキバにいるはずの知り合い一人一人を脳裏に浮かべる。当然その中には猫人族や狐尾族、当然エルフやドワーフの者もいる。スーノは彼ら彼女らの姿を想像してみるが、なかなか現実としてイメージが沸いてこない。


「ネコにキツネにあの人はオオカミかな?すごいすごい!!」


 スーノは、隣でいろいろな種族の人々の姿をみて小躍りしている杏奈を見遣る。そういえば、ここにもエルフがいたっけ。そう考えたら、別にもう驚くことでもないか。

 杏奈の尖った耳を見ながら、そんなことを考えるスーノ。


「すごいですね~ホントにファンタジーな世界なんですね!!」

「ああ、はいはい、そうだね」


 というか、キミ自体がファンタジーな存在なんだが、たぶん自覚してないんだろうなぁ。

 すでに頭が醒めているスーノには、そんな杏奈がちょっと可愛らしく見えた。なんて言ったら失礼か。







 人の流れに乗って、通りを歩く二人。祭りの始まりを待ちきれないように、通りには屋台が並び活気に溢れている。


「あの串焼き美味しそうに見えるけど、きっと味無いんですよね」


 杏奈は、物欲しそうな目つきで屋台に並んでいる串焼き、おそらく牛肉だろうか、に視線を送っていた。どちらに顔を向けても気になるものばかりで、杏奈は落ち着き無くキョロキョロとあたりに視線を向けていた。


 見るもの全てに興味を引かれ、楽しげに周囲を見回していた杏奈に、背後から走ってきた子供がぶつかってくる。衝撃でよろけた杏奈にスーノは手を伸ばし転倒しないように支え、その子供の姿を目で追う。

 子供は伸び放題のまま手入れせずに放っておいたようなボサボサの髪で、その身体は満足に食べられていないのか、酷く細い。

「ごめんよ~」と、子供が謝りながらその横を駆け抜けて、人ごみの中に消えていった。

 全く祭りで落ち着きの無い連中ばかりだな、とスーノは呆れ、駆け抜けていく子供の後姿を見送った。


「あれ?、財布が無いよ」


 杏奈は仕舞ってあったはずの財布を探して懐に手を伸ばすが、そこに財布は無い。「おかしなぁ~」なんて首を捻りながら懐の別の場所や、腰の鞄を探してみるが、やはり財布は見つからない。

 その言葉を聴くや否や、スーノは全力で駆けた。


「っくそッ」


 なんてことはない、スリだ。

 祭りで興奮して浮ついたおのぼりさんを獲物にして小銭を掠め取るなんて、ありがち過ぎて面白くも無い。

 それも身内が被害者じゃ無ければだけどな。

 自分も祭りに浮かれて周囲への警戒を怠っていたと、スーノは反省し、だからこそ絶対捕まえてやる、と息巻いて子供の追跡を開始する。

 さすが冒険者の身体、その疾走のスピードは大地人の子供とは比較にならないものだ。だが、いかんせんここは翌日の祭りを控え人で溢れかえっている街の中。身軽な子供はすばしこく人波を掻き分け、その距離はなかなか縮まらない。


 それでもその速度差から徐々に視界の中の子供の姿が大きくなってくる。もうちょっとで子供の腕に手が届きそうだ。

 その瞬間、会話に夢中でこちらに全く気づいていないカップルが目前に現われた。スーノは足を止めブレーキを掛ける。どうにか直前で停止することが出来て正面衝突をすることは免れたが、子供は間一髪カップルをすり抜け、その姿が人ごみの中に紛れ消えかかる。

「ちっ」と舌打ちするスーノの背後から疾風のように白い物体が飛んできた。


「エンジ、行け!!」


 スーノの号令を受け、エンジがその能力を解き放ち子供の追跡に入る。背後から犬に追われていることに気づいた子供は、追跡を振り切ろうと咄嗟に横道に切れ込んで行った。スーノもエンジの後を追って横道に入っていく。








 横道に入ると世界は一変していた。大通りの華やかな賑やかさとは打って変わり、そこは薄暗く湿気た路地だった。

 明るさの変化にスーノの視界が一瞬暗転する。目を潜め、瞳孔が散大し路地の暗さに適応するのを待つ。徐々に目が慣れ、見えたきたのは、四肢を踏ん張り姿勢を低くして唸りを上げているエンジと、数名の男達だった。

 男達の一人、銀髪の男が先ほどのスリの子供の腕を捻り上げている。ギリギリと捻り上げられる腕の痛みに子供がめき声を上げる。


「いて~よ!!」


 銀髪の男は興味無さそうな態度で、仲間の男達に目を向けながら、子供の腕を折れんばかりに更に捻り上げた。

 ようやく杏奈が追いつきスーノの元へ駆け寄ってくる。そしてこの状況を目のあたりにして息を呑む。「なんですか、これ」と杏奈が小声でスーノに尋ねるが、スーノは杏奈に視線を向けずにその質問を手で制し、銀髪の男を注視していた。


「止めてくれ、折れちまうよ」


 苦痛に悲鳴を上げる子供。銀髪の男が、表情を全く変えずに子供に顔を向ける。


「お前、ここら辺じゃ見ない顔だな。新顔か?」

「うるせ~な、あんたにゃカンケーないだろ」

「ここらで商売スリするには、ここら一帯を縄張りにしている地回りのメルケル・ファミリーにスジ通さなにゃならんはずだが」


 その言葉に子供の身体がビクッと反応する。


「案の定、スジ通しちゃいねぇみてーだな」


 銀髪の男の雰囲気が豹変する。今まで無表情から一変して、鋭い目つきで子供を睨み付ける。


「おまえ、調子に乗ってオイタが過ぎると、祭りが終わる頃には海で魚の餌になる羽目になるぞ。商売するならきちんと仁義を通せ」


 銀髪の男が、額がぶつかるほどお互いの顔を接近させて、落ち着いた低い声で淡々と話す。声の変化と、それ以上に銀髪の男の発する気配が子供の恐怖心を呼び覚ましたらしく、「ヒッ」っと声にならない喉から空気が漏れるような悲鳴を上げ、子供の顔が引きつった。

 その様子を確認するようにじっと見ていた銀髪の男が、子供を押さえつけていた手をぱっと上げて、子供を押し離す。子供はその勢いでつまづき地面に倒れこむ。地面に座り込んだまま男を見上げる目は、恐怖に染まっていた。

 いつの間にか、銀髪の男は子供の懐から革製の財布を抜き取っていた

 その財布を見た杏奈が「あ~っアタシの財布!!」と騒ぎ出すが、誰も杏奈の言葉に注意を払わない。

 そして紐を緩めて金貨を一枚取り出し、親指でピンッと弾いた。金属が振動する甲高い音を立てて、空中高く舞う金貨。子供は咄嗟にその金貨を目で追う。


「今回はこれで我慢しとけ。お前も養わなきゃならない家族がいるんだろ。これに懲りたら、こんな商売からは足を洗うんだな」


 銀髪の男は、その時点ですでに子供から注意を離し、スーノを凝視していた。

 必死に金貨に飛びつく子供。握り締めた手を絶対離すもんかと硬く拳を握りしめる。

 子供は男達に振り返り。「うっっせーバカ。死んじゃえ!!」捨て科白を吐いて脱兎のごとく逃げ去っていった。

 銀髪の男は肩を竦めて、苦笑いを浮かべていたが、その視線はスーノに向けられたままだった。





 背丈は180cmちょっと、たぶん杏奈と同じくらい。体型は見た目は痩せているように見えるが、あれは鍛錬で鍛え上げた身体だ。口だけのチンピラじゃない。

 スーノは銀髪の男を値踏みする。

 長い髪を後頭部でまとめて縛り上げた、甘いマスクの優男風。だがそれは擬態だろうな。目つきの鋭さが隠しきれていない。

 スーノは男に向けた視線を隠すこともせず、じっと睨みつけていた。銀髪の男もスーノを睨み返していたが、ふっと気を抜いたように口元を綻ばせて、再び擬態である優男を演じ始める。


「こっちはスリから財布を取り返してやったんだぜ、感謝されることはあっても、睨まれる筋合いじゃないよな」


 男は、とぼけた態度でスーノに近づいていく。そしてスーノから少し離れた位置まで歩み寄るが、そこからは近づいてこない。


 なるほど、やっぱり戦闘になれた人間だ。


 その距離はスーノの攻撃の間合いからはぎりぎり外れている。

 ゲーム時代、NPCの戦闘力は冒険者と比べれば微々たるものだった。それが今のこの世界でも同じかどうか、スーノは興味を引かれた。


「とりあえず、そこの犬を大人しくさせて貰うわけにはいかないかな。流石に肝が冷えてしょうがない」


 当初からの警戒を解かずに、エンジはいつでも飛びかかれるように低い姿勢で四肢を踏ん張っていた。歯を剥き出しにして鼻筋に皺を寄せたその表情は、油断無くいつでも襲いかかれるぞ、と宣言しているようだ。

 スーノはエンジを抑えるように手の平を下に向けて「大丈夫」と声を掛ける。それに応じて、あからさまな攻撃の意思を消したエンジは、スーノの横で伏せた。しかし、警戒を緩める気はさらさら無いらしく、その視線は男から一時も離れはしない。


「財布を取り返してもらったことは感謝する。礼が欲しいのなら、その財布の中身をそのまま持っていってもらってもかまわない」


 男は口を曲げて、やれやれといった風に肩を竦めた。


「いやいや、そうじゃないんだけどね・・・・あんたら、冒険者だろ」

「確かにそうだが、だから」

「実はウチの親方があんたらに話があるんだ。ちょっと顔貸して貰いたいんだが」

「イヤだって言ったら?」

「もちろんあんたらの自由を奪う気は無いよ。でもあんたらは一緒についてきてくれると俺は思ってるよ」


 男は態度は、さもそれが当然だと言わんばかりだ。周囲の男の仲間は顔色ひとつ変えずにじっと二人の会話を聞いている。

 そして銀髪の男の手首が素早く動く。何かがスーノの胸あたりを目掛けて飛んできたが、スーノはノールックで掴み取り、それをろくに見もせずに背後の杏奈に渡してやる。

「アタシの財布!!」受け取った財布を大事そうに鞄の中にしまい込んだ杏奈はスーノの背後に隠れ、肩越しに顛末を伺っていた。


 いや、全然隠れてないから


 スーノと杏奈の体格差から、隠れているつもりの杏奈の姿は、男達から丸見えだ。

 少し間の抜けた杏奈の行動に、スーノは突っ込みたい衝動に駆られる。

 いやいや、今はそれどころじゃない。とスーノは銀髪の男に気持ちを集中し、その顔を油断無く観察する。


 多分この男達は裏社会の人間だろうな。この世界じゃ、”やくざ”というのか”ギャング”というのかは知らないけど。やっかいな手合いに目をつけられたな・・・

















「アタシ達どこに連れて行かれるの?」


 男達に周囲を取り囲まれ、動揺を隠せない杏奈がスーノの手を握り締めている。


 結局スーノ達は男達の言葉に従って同行することなった。

 あの場で騒ぎを大きくしてしまえば、いくら裏路地だといっても、周りから目を引いてしまうかもしれない。そうなればこの街にも当然居るだろう官憲の注意を引いてしまうのは避けらず、この街に滞在するのは困難になる。

 それ以上に裏社会とトラブルを起こすことのリスクをスーノは懸念していた。

 おそらく裏組織の人間だろう、この男達の要求を突っぱねてしまえば、それでもやはりこの街に滞在することは難しくなってしまうだろう。

 祭りを楽しみにしている杏奈のことを考えると、それは可哀想だという思いもあり、結局スーノは男たちと同行することを決断した。

 先頭を歩く銀髪の男は薄暗く人気の無い路地を進み、何度も曲がり角を曲がる。路地は高い建物に囲まれ、見えるのは建物の壁と、建物の間の細長く切り取られたような空の青ひとすじだけだ。この街の地理に詳しくないスーノには、すでに現在位置がどこで、どこに向かっているのか全く分からなくなっていた。


「ねえ、どうするの。このままじゃ・・・」


 杏奈はスーノの耳元で囁くように話す。スーノも男達に聞かれないように注意し、出来るだけ小さな声で杏奈に答える。


「まあ、大丈夫。杏奈も見えるだろう彼らのステータス」


 意識を集中すれば、男達のステータスウインドウが視界に現われる。男達のそれは、<大地人・二級市民>。良く見ればレベルも見えてくる。その数字は、それぞれ異なっているが、だいたい20を超えるくらい。一番レベルが高いのがリーダー格らしき銀髪の男で、レベル28。

 冒険者であるスーノと杏奈、それに契約獣のエンジがその気になれば、圧倒できるだけの能力差が彼らとの間にあるはずだ。


「だからなにかマズい事態に巻き込まれたとしても、僕達の能力なら逃げるだけなら十分可能」


 その言葉に、杏奈の表情が気持ち明るくなる。


 だけどね、とスーノは心の中だけで言葉を続けた。

(戦闘訓練もそうだったけど、レベルだけで全てが決まるとは考えないほうがいいような気がする。とりあえず人間同士の鉄火場での判断と行動力は彼らのほうが数段上で、それに比べてこちらはただの素人)

 それがスーノの現在の認識だった。

 まあそうは言っても、冒険者が何も考えずに暴れまわるだけで、だいたいどうにかなりそうな気もしているが。




 やがて、銀髪の男は扉をくぐり、建物の中に入っていく。そこは喧騒に満ちた料亭の厨房だった。

 白いエプロンを掛けた男達が忙しなく動き回っており、年の若いまだ半人前だろう小僧に、年長の料理人が怒鳴り声で指示を与えているのが見える。

 もっともこの世界の料理人のやることといえば、材料を集めてメニューコマンドを操作することくらいのはずだし、当然作っているのは例の味の無い料理だというのはある意味滑稽にも思えるが、それがこの世界の現実なのだからそれにケチをつけても何も始まらない。


 そして、どう見ても場違いな男達とスーノ達一行が厨房の中を通り抜けても、誰一人文句を言わず、その姿が見えないかのように存在を無視している。もちろんスーノたちが見えていないわけではなく、意識的に無視しているのだろう。

 一行はそのまま進み、厨房の奥にある地下へと続く階段を下りていく。その先には小さな扉があり、それを守っている門番らしき若い頑強な男が小さな椅子に座り周囲を威圧していた。


 杏奈はこの建物に入ってからずっと怯えるようにスーノの背後に隠れていた。それも無理もないことだ。この場の雰囲気はまともでは無い。

 健全な高校生が立ち入るようなところではないだろう。

 それを言うなら、普通の会社員が立ち入るような場所でもない気がする。

 ここにきて正直なところスーノもかなり腰が引けてきている。格好をつけて「ヤバくなったら暴れまわって逃げれば大丈夫」なんて杏奈に安請け合いをしたことを、少し後悔していた。


 いくら冒険者の能力が桁違いに高いといっても、監禁されたら逃げられるかな?なんてあまり楽しくない考えがスーノの頭に浮んでくる。


 なんだかんだ言っても、スーノは現実世界ではただの会社員で、その28年の人生は裏社会には全く縁の無いごく普通の平凡な生活だった。

 それでも、怖がっている杏奈の手前ビビッている姿を見せるわけにはいかず、せいぜいハッタリをかまして強気なところを見せるのが精一杯だった。

 意地を張るのも男の仕事。そう心の中で唱えて、震えが出そうな膝に力を込める。


 実を言うと、一番度胸が据わっているのは、エンジなのかもしれない。

 誇り高く尻尾をピンと張り詰め真っ直ぐ伸ばし、顎を上げ迷い無く前方を見据える堂々とした姿が、スーノの萎えかけた心を支えてくれる。

 スーノは横で歩いているエンジの体をポンポンと軽く叩いてやった。エンジの顔つきは、「まかせろ」と言っているように見えた。


 銀髪の男が門番に目配せをし指を横に動かすと、門番は鍵を回して扉を開いた。

 扉の先には暗い通路、左右にいくつか扉があった。おそらくそれぞれに部屋があるのだろう。そしてその突き当たりに、立派な両開きの扉があった。

 銀髪の男の指示で、一緒にいた男達はその場で別れる。

 銀髪の男はスーノに視線を送り、ニヤリと薄い笑いを見せる。そして重々しい両開きの扉を開けその先に入っていった。


書き溜めたストックが尽きました。次話投稿は少し間が空きそうです。


14/05/05  ログ・ホライズン本編内容を参照し大地人のレベルを修正しました

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