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始まりの地<6>

 村への帰路、二人の間に会話は無かった。落ち込む杏奈の姿に何か言葉をかけようとするが、スーノにはかけるべき言葉が見つからなかった。エンジも心配そうに杏奈に視線を向けるが、できることは足取りの重い俯いたままの杏奈の隣を共に歩くことだけだった。






初めての戦闘、あれはゲームなんかじゃない本当の命を懸けた戦いだった。

確かにスーノさんが教えてくれたように、まものに攻撃されてもそれほど痛みを感じることは無かったし、ステータスのHPの減少も気になるほどではなかった。

そういう意味では、命賭けなんかではなかったろうけど、そんなことよりとにかく怖かった。

その姿は三まわりくらい大きくなったウサギだったけど、絶叫を上げる姿と牙の鋭さが目に焼きついていつまでも脳裏から消えない。

その吊り上った目から炎が出てるようにすら見えた。

怖い、アタシには無理だ。







 スーノのホームタウン、アキバに帰るには自分が戦闘をできるようになることが絶対必要なのは杏奈には十分わかっていた。

 この守護戦士の身体は優秀で、低レベルエリアでの一回の戦闘では大きなダメージなど受けることは無かったことからも、杏奈のこの世界の身体であるレベル90の守護戦士カトーが十分な能力を持っているのは、この一回の戦闘経験だけで全くの素人である杏奈にも十分理解できた。

 しかし、それは”心”が伴って初めて意味を成すことだ。恐怖に萎縮して何も動くことができなければ、どんなに素晴らしい能力を持っていようが生かしようも無い。

 杏奈には、自分ができること、そしてしなければならないこと、すべてが何もかも分からなくてなっていた。


 杏奈は、力なく足を引きずるようにして歩みを進める

 そのとき、杏奈の耳元に携帯電話のコールのような音が響く。もしかしたら、スーノが教えたくれた念話の呼び出しかもしれない。その呼び出しのことをスーノに話す。


「誰からの念話かわかる?」


 杏奈はウィンドウに表示された名前を見る。ギルド名はブラックモア、杏奈の兄が所属しているギルドだった。

このカトーというキャラクターは杏奈の兄のものだ。当然フレンドリストの名前を杏奈が知るはずもない。念話を繋げるべきか杏奈は躊躇する。どうしたらいいか、杏奈の顔に困惑の色が浮ぶ。

 回数が20回を数えたころ、そのコールは消えた。縋るようにスーノに目を向ける。すると、再び念話のコールが杏奈の耳元に鳴り響いた。杏奈はビクッっと肩を震わせる。念話を掛けてきたのは先ほど同じ人物だった。

 そしてそのコールをこれ以上無視し続けるのは杏奈には無理だった。


「ようやっと繋がったか。カトー、お前もコッチに来てたんだ」


 男の声が耳元に大きく響く。その声は興奮しているようで、自分の声が大きすぎるということに気がついていない。


「どこにいるんだよ。ミナミはヤバイんだよ。カトーも早くミナミに帰ってきてくれよ!!」


 怒鳴るように畳み掛けてくる。杏奈は言葉を発することができない。


「おい、どうしたんだよ。何か言えよ」

「アタシはカトーじゃありません」


 意を決して言葉を搾り出す。


「はっ、何言ってんの。寝ぼけてんじゃねぇよ。ていうかなんだその声」

「だから、人違いなんです。たぶんあなたが知ってるのはアタシのお兄ちゃんで、アタシはその妹です」

「人違い?妹?何言ってんの。ふざけてないまじめに答えろよ!!!」


 念話相手のウインドウには当然フレンドリストに登録してあるカトーの名前が表示されているはずだ。当然念話を掛ければ、その相手に通じるはずで、通常であれば違う相手に繋がることなどありえない。

しかし、今の杏奈の状況は普通ではない。兄のキャラクターに、なぜか妹が憑依している。

 そもそもこのゲームのような世界に転移させられてしまっていること事態が異常ことなのだが、それに加えてキャラクターの中に違う人物が入ってしまうなんて話を、まともに説明してもそうそう納得してもらえることではないだろう。

 スーノも、目の前で見たからこそその状況を納得できているだけで、話を聞いただけならとても理解するのは無理だ。ましてや念話の相手は興奮していて、杏奈の話に耳を傾ける余裕は無い。

 念話相手の興奮した声が耳に響いている。頭の中が真っ白になった杏奈は、なにも考えることが出来なくなり念話を切断する。


「なんだったの」

「・・・わかんないです。相手のひと興奮していてなんかよく分からないこと一方的に話すだけだったし」


 そう話している最中に、再び念話コールがきた。


「・・・また掛かってきた」


 杏奈の瞳には涙が溢れんばかりに溜まっていた。何かのきっかけがあればそれが決壊するのは誰が見ても分かっただろう。スーノは目を閉じて首を横に振る。

 初めて経験した戦闘の恐怖、そして相手もこの異世界に混乱しているとはいえ、同じ境遇の冒険者から生のマイナスの感情をぶつけられたショック。それが杏奈の心に鋭く深い傷を残していることが、スーノにもはっきりと分かった。


「通話拒否できるよ」


 そう話すと、杏奈に念話を拒否する手順を教えてやる。杏奈がその操作を終えると、コールの音も止まっていた。杏奈の聴覚に静寂が戻る。


「もうやだ」


 その言葉をきっかけに、杏奈の瞳から涙が一滴落ちた。そして顔を手で覆うと、嗚咽を漏らす。


「こんなのやだよ。ウチに帰りたい。もうやだ~」


 しゃくり上げ声を上げて泣きじゃくる杏奈。その姿は母親を求める子供のようだ。スーノは何か声を掛けようとするが、どんなに考えても、スーノには掛けるべき言葉を見つけることが出来なかった。


 その後、無言で歩き続ける杏奈は涙でぐちゃぐちゃになった顔を取り繕うことすら忘れていた。


「お帰りなさい~」


 宿に帰りつき、店の娘が出迎えてくれるが、その言葉に答える余裕は杏奈に無く、そのまま階段を上がり昨日と同じ部屋に入っていった。

 どうしたの?と娘が尋ねてくるが、スーノは首を横に振るだけだった。











 翌朝、杏奈は日が高くなるまでベッドから離れることはなかった。スーノも無理に起こすことはせずに、杏奈の気の済むようにさせてやる。

 焦ってもどうしようもない。

 とりあえず今日一日は休みにしようと、スーノは何をするでもなく村の中をぶらぶらと散歩したり、村人に挨拶したり、食堂兼宿屋の親父と語らったりと、静かな時間をすごす。

 昼過ぎに部屋に帰ってみると、杏奈が起きていてベランダのロッキングチェアに腰掛けていた。白いシャツに青のデニム、リラックスした装いで、傍には昨日から一時も離れようとせずに侍る白い山犬が座っている。


 スーノは杏奈のとなりに小さな椅子を持ってくる。

 杏奈と向きを同じ向きに椅子を置き腰を下ろし、同じように前を見る。その視線の先には青々とした麦畑、左手遠方には頂上付近にまだ雪を残した急峻な山の姿を見ることが出来る。

 ちらりと、隣の杏奈を伺うと、杏奈の瞳は何に焦点を合わすとも無く、ただ前の風景に視線を向けていた。


「スーノさん、アタシどうしたらいいのかな」


 杏奈が小さな声で尋ねる。


「わかんないよ。人間、出来ないことはどうやっても出来ないんだしね。無理してもいいことはないよ」


 クスッと笑って「なんかテキトー」と杏奈は小声で呟く。背もたれに体重を掛けると、ギギギと鈍い音をたてて前後にゆっくり揺れた。


「それって、スーノさんの人生訓?」

「そんな大層なモンじゃないよ、まあ現実世界じゃ社会に出て四年経ったけど、僕は意地張って良い結果出たこと無いからね」

「・・・投げやりだね」

「人それぞれだよ。がむしゃらに頑張る人もいれば、僕みたいにヌルヌル~と世渡りしていく輩もいるしね。正解なんて無いと思うよ」

「そっか・・・アタシは今まで頑張るのが当たり前だったからなぁ・・・」


 そう言い、杏奈は立ち上がりベランダの手すりに手を掛け、村の広場を覗き込む。忙しく働く村人がそこにはいた。小さな娘が手を振っているのが見える。あれは食堂の給仕の娘だ。野菜を満載にした手押し車を押してこちらに向かっている。食堂の仕入れだろう。


「あの娘タマラちゃんっていうんですよ。お父さんがイヴァンさんで、お母さんはタマラちゃんの出産の時に亡くなってしまったそうです。男手ひとつでここまで育ててくれたお父さんのことが大好きって言ってました」


 杏奈は笑顔で手を振り返す。杏奈が、元気が無かったから心配されちゃったのかな、と自嘲するように語った。

 一人のとき、彼女から話しかけてきたんだ、と。

 まだ子供なのに、しっかりした娘だ、と。


「お店に来る常連のユーリさんとヨハンさんが手のつけられない酔っ払いで、毎晩グダ巻いて大変なんですって。いつも最後には二人とも奥さんがやってきて怒られながら帰るんだけど、ホント男の人ってダラしないってぼやいてましたよ。でも11歳なのに仕事熱心で偉いですよね・・・」


 誰に聞かせるでもなく、自分に語りかけるように話す杏奈。


 そして、杏奈は自分のことを話し始めた。

 子供の頃から、背が高かったこと。

 スポーツをやると、何をやっても人より上手く出来たこと。

 身長を生かせるからと、中学から真剣にバスケを始めたこと。

 すぐにレギュラーになれて県で有名な選手にもなり、中学三年の時には全国大会に出場できたこと。

 高校に入って、本当の実力とは何かを思い知らされたこと。

 センスがあって、尚且つ努力を惜しまない者でなければ、ホンモノにはなれないこと。

 そして、自分はホンモノではなかったこと。


 そう話しながら、杏奈は自分の右膝に何かの思いを込めた視線を送っていた。

 スーノは何もせずに、黙って杏奈の話を聞いていた。

 杏奈はスーノのほうに向き直り、手すりにもたれ掛かる。5月の爽やかな風が杏奈の金色の髪を揺らした。その金色の髪は日の光を反射して自ら光り輝いているようにも見えた。







「また念話だ・・・」


 そう呟く杏奈の顔色は青白く、表情は緊張に硬くなる。


「誰から」


 昨日の男は着信拒否にしてあるから、掛かってくるはずも無い。


「イーサン=Hって人。昨日の人と同じギルドみたい」

「どうする、出るかい」


 杏奈は辛そうに目を瞑り拳を握る。だが心を決めて、顔を上げ目を見開いた。


「出る」


 念話を繋ぐ。そこから聞こえてくるのは穏やかな声だった。


「出てくれたね、ありがとう。私はイーサン。ギルド<ブラックモア>のギルドマスター。お願いだから、念話を切らないで欲しい」


 どうやら、昨日とは違い冷静でまともな会話が出来る人物のようだ。杏奈は安心する。


「昨日はとんだ失礼を。昨日の者には厳しく言っておいたから、許してほしい」

「いえ、昨日のことは良いです」

「それで、確認したいのだけど、君はカトーじゃないというのは本当なんだろうか。いったいどうなっているんだろう?」


 彼は当然の疑問を尋ねてくる。

 杏奈は自分の置かれている状況を丁寧に、そしてゆっくり説明する。普通に考えて納得できるようなことではないけれど、彼は余計な質問をして話を遮ることをせずに、杏奈の話を冷静に聞いていた。


「簡単には信じられないけど、そもそも今自分たちが在る状況だって普通じゃないし、納得するしかないね。で、杏奈さんは今後どうするんだい。もしミナミに来るのなら、私が責任もって君の力になるけれど」


 この話からすると、杏奈の兄がホームタウンにしていたのは、どうやらミナミのようだ。となると、おそらく杏奈が帰還呪文を使用すればミナミに帰還することになるのだろう。これで今までネックだった帰還呪文の行く先が不明だという問題に、確定ではないが回答が出た。

 そして、もし杏奈がミナミに帰還したとしても、仲間になってもらえそうな人物がいる。反面、スーノと共にアキバに帰るには、厳しい戦闘をこなし、長い道のりを踏破しなければならない。


 目を閉じ、杏奈は迷いをみせる。

 このよく分からない世界での自分の立ち位置、戦闘への恐怖、ゲームのキャラクターとしての能力と、杏奈が実際にできること。

 そして杏奈自身の希望は何なのか。

 目を開けると、足元のエンジが杏奈の顔を見据えている。その横では、スーノが口を真一文字に閉じ杏奈を見つめていた。その一人と一頭の姿を見て、杏奈の目に力が宿る。


「ありがとうございます。でもアタシはアキバに行こうと思います。今までお世話になった人と一緒に行きます」


 決然とした口調で杏奈は答えた。


「そうか、それが君の判断なら、私には何もいえないよ。でも覚えていてほしい。君のお兄さんと私は友達だ、今までもこれからもね。だからその妹さんの君のことも私は仲間だと思っているよ。もし私の力が必要になったら、遠慮せずに言ってきてほしい」


 杏奈の瞳が潤む。この数日間突然関わりの無い異世界に巻き込まれ、困惑と恐怖の連続だった。たしかに直接の面識は無いかもしれないが、少なくとも兄の知り合いがこの世界には存在して、その人は兄のことを友達だと言ってくれた。その言葉だけでも杏奈にとっては心の支えになる。


「ありがとうございます。気に掛けていただいて感謝します」

「それじゃ、なにかあったら念話してくれていいからね」


 そう言いイーサンは念話を切断した。

 ホッとしたようにため息をついて、杏奈は椅子に深く座りなおす。緊張から開放され弛緩した身体に血流が戻り、杏奈の頬に赤みが差し暖かさが戻ってくる。


「言い切ったね」


 スーノは面白そうにニヤけながら、上目遣いに杏奈を覗き込んだ。


「でもいいのかい。ミナミに行ってそのお兄さんの友達を頼るっていう選択もアリだと思うよ」


 そのスーノの言葉に、ハッとしたように顔色を変えて杏奈は立ち上がった。


「アタシは、やっぱりスーノさんと一緒に行きたいです。戦闘もちゃんとできるように頑張りますので、よろしくお願いします!!」


 杏奈が体育会系らしく大きな声と、キビキビとした動きで頭を下げる。

 スーノは笑いながら「頑張ってね~僕は頑張らないけど」と杏奈の肩を小突く。

「頑張るのは得意ですから!!」と胸を張って杏奈も笑っていた。

 そんな二人の姿を眺めていたエンジは、満足したのか丸くなって居眠りを始めた。





















 翌日から、二人と一頭の戦闘訓練が再開された。







やはり怖いものは怖い。

まものの姿にどうしても身体が硬くなってしまうが、それでも前回のように何も出来ずに立ち尽くすようなことだけはしないで、出来る限り役に立とうと頑張った。

だけど、スーノさんに説明してもらった、守護戦士の役割とその特技の使い方とか、考えなきゃいけないことが在り過ぎる。

精一杯やっているけど、結局スーノさんとエンジにフォローをして貰わないとうまく立ち回れない

「どうしても出来ないんです!!」って涙目で訴えるアタシの姿を見たスーノさんのアドバイスは「出来ることと出来ないことをきちんと判別しろ」だった。


守護戦士が一番にしなければいけないことは、壁役となりまものの攻撃を一身に受けパーティーの攻撃職や回復職の仲間に攻撃の矛先を向けさせないことだ。

そのためには、まものの敵愾心ヘイトをコントロールしなければならない。

守護戦士の防御力はエルダーテイル全職の中でも随一だ。

ここの低レベルエリアのまもの相手ならば、問題になるようなダメージを受けることは無い

だけれど、もっと敵の脅威が高いエリアだったなら、アタシが敵の攻撃を一手に引き受けなければ、この二人と一頭のパーティーは瞬時に崩壊してしまう。

だから、まものからの攻撃を自分の身に集中させ、それを防御する。

この役目は、森呪遣いのスーノさんにも、契約獣のエンジにもできない。何が出来なくても、この役目だけはアタシがやらないといけないんだ。


何回かの訓練をしてみて、この世界の戦闘がなんとなく理解できてきたように思える。

スーノさんの役割はバスケットボールでいえば、ポイントガード。

戦闘の司令塔で、戦力の配分と攻撃のタイミングを計り、戦闘をコントロールする。

エンジはフォワードだろう。

実際の攻撃の主役であり、そのスピードと打撃力で、相手にダメージを与える中心戦力だ。

そして守護戦士のアタシの役割はセンターだ。

チームの中心となり、相手の矢面に立って身体をぶつけ合うチームの壁役だ。

バスケでもセンターが当たり負けするようでは、そのチームが勝利するのはかなり難しくなってしまう。

そしてアタシのバスケのポジションもセンター。

センターの責任は、バスケットボールで嫌というほど経験しているからよく分かっている。

アタシが逃げてしまえば、このチーム・パーティーは敗北してしまう。

そして、スポーツであるバスケットボールと違い、この世界の戦闘で敗北すれば待っているのは死だ。


スーノさんの話では、ゲーム時代ゲームでの死は現実世界の死とは違い、当然のごとく死後の復活が在ったのだけれど、この異世界で死からの復活があるかどうかは不明だそうだ

そして死からの復活を試してみるほど、アタシは楽天家では無い。


だから、守護戦士のアタシは絶対に逃げちゃいけない。どんなに怖くても、しっかり目を見開いて足を踏ん張っていなきゃ駄目なんだ。


「なんだけどさ~」


戦闘後の休息、野原に座り込んでアタシは傍のエンジの身体を抱きしめる。

抱きしめているエンジの体は、初めて村で会った時より何倍も大きくなっていて抱き心地は格別だ。

もふもふ毛皮も暖かくて気持ちい。

というか、エンジって本当はこんなに大きかったんだね。







今日の戦闘訓練を始める前に、スーノさんはアタシに「驚かないように」って一言言ってから、エンジの首の勾玉に手を掛け目を瞑って何か呟いた。

するとエンジの身体が光り出し、風が巻いていろんな物が巻き上げられた。

そしてそれが落ち着いた後、気づいたらエンジの身体がずっと大きくなっていた。


ううん、大きいなんてモンじゃないよ。トラ?ライオン?良くわかんないけど、犬じゃないよこれ。


これがエンジの本当の姿だって、スーノさんが教えてくれたけど、あまりに大きいその身体を初めて見てアタシは恐ろしくなってしまった。

だってこんなに大きいんだよ。

無意識のうちに、アタシは後ずさりエンジから離れていた。

そんなアタシを上目遣いに見たエンジは、落胆し寂しそうに視線を逸らす

エンジの自慢の尻尾がだらんと垂れている。

そして信じられないくらい大きいはずのエンジの身体が、小さく縮こまってるように見えた。


その姿を見たスーノさんがアタシに首飾りを渡してくる

エンジの首に括り付けられている勾玉と同じデザインの首飾りだ。

それは<獣誼の勾玉>といい、エンジの首にある勾玉とその首飾りで一組で、それぞれを装備した人間と動物が意思を伝え合うことが出来るらしい。

アタシはその首飾りを首に掛け、恐る恐るエンジの前に出る。

視線を逸らしたままで、アタシの顔を見ようとしないエンジが、おずおずと「あんな、おれ、こわいか」と、話しかけてきた。


えっ、今のってエンジの声?


アタシは目を丸くして、「声が聞こえるっ」って叫んだけど、スーノさんは当たり前だってちっとも驚いてもくれなかった。

そして聞こえてくるエンジの声から、エンジも怖がっているのが感じ取れた。

自分の大きな身体をアタシがを怖がっていること、そのことがエンジは悲しくて寂しいんだ。

おどおどとしたエンジの姿に、アタシは申し訳ない気持ちで一杯になった。


なんで一瞬でもこの子のことを怖いなんて思っちゃったんだろう。


エンジと言葉を交わせるという嬉しさの興奮と、怖がってゴメンネという気持ちが入り混じり、頭の中がグチャグチャになったアタシは、エンジの真っ白で大きな身体に飛び掛りその毛皮に顔を埋める。

これがエンジの本当の姿なんだね。

そうだ、この子は何も変わっていない。

だから大きくなってもかわいいし、それにかっこいい。

アタシの気持ちが通じたんだよね、緊張して身構えるみたいに硬くなっていたエンジの身体に柔らかさが戻ってきた。

「おもい」ってエンジの不平が聞こえるけど、その態度は全然迷惑そうには思えない。

アタシはそんなエンジの声が聞こえない振りをして、毛皮に埋めた顔をぐりぐりと押し付ける。


エンジの体は、干した布団の匂いがした。


ちなみに、勾玉を渡しちゃったら、スーノさんはエンジと会話できないの?と尋ねたら、森呪遣いの特技があるから大丈夫だと答えてくれたので、ちょっと安心した

これで二人と一頭の繋がりがもっと強くなったように思えて、アタシはもっと嬉しくなった。









エンジの体を抱きしめながら、その時の思い出を反芻してほんわかしているアタシを見て、スーノさんが笑みを浮かべる。

でもその口から出てくる言葉は「腰が引けててぜんぜんダメ」とか「もっとまものを引き付けろ」と厳しいことばかり。

エンジも「あんなはよわくてなきむし」なんて言ってくる。

二人とももうちょっと優しい言葉を掛けてくれても良いんじゃないかな。アタシは褒められて伸びる娘ですよ。

そんな台詞に、スーノさんは笑いながら、アタシの額にデコピンする。

その浮かべた微笑みのおかげで、いつもの目つきの悪さが和らいで見える。


「スーノさんは目つきがキツいんだよね。もうちょっと優しい顔をしていればもっとカワイイのに」


ちょっと意地悪してやろうと、スーノさんを見るたびにいつも思っていたけど、なかなか言いづらく黙っていたことを実際に声に出した。

スーノさんは憮然として「僕は男だっ」って、いつもの答えが返してくる。


戦闘は相変わらず怖いけど、でもこのチームならどうにかやっていけそうだ。

アタシはそう思いました。

私のバスケットボールの知識はス〇ムダン〇を読んだだけなので、バスケの記述でトンチンカンなことを書いているかもしれません。ご容赦下さい。

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