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始まりの地<4>

 村を出発してから少し山を登り森に入る。ゲーム時代はこのあたりは低レベルだが好戦的なのまものが現われる場所だった。

 アキバに帰還する。しかも帰還呪文を使わずに帰るとなれば、実際にその足で道のりを踏破するしかない。そしてここはエルダーテイルの世界で、その道のりはまものの脅威にさらされているのは確実だ。

 当然自らの手でその障害を取り除かなければアキバにたどり着くことは到底できない。そのためには、この世界での戦闘方法を習得しなければならない。

 スーノはそう考え、まず危険が無いだろうこの低レベルゾーンに訓練の場を選んだ。


 スーノはレベル80の森呪遣いである。

 森呪遣いは戦闘力の高い前衛職では無く、回復職であり単独での狩に向いているとは言えない。それでも同じ回復職である<施療神官>(クレリック)と<神祇官>(カンナギ)、これら他の二職と比較すれば攻撃能力もあり、単独での活動にも対応ができるともいえる。

 さらにスーノ・菅原直人は、メインキャラクターではレベル90の守護戦士であり、ゲーム経験八年のベテランプレーヤーである。今の自分の身体である<森呪遣いのスーノ>をまだまだ使いこなしているとは言い切れないが、それでもその能力にそれなりに自信を持っていた。


 ゲーム時代ならば、このゾーンでの狩は単独行でもまったく不安を感じることは無かったが、さて、この世界ではどうだろうか。

 スーノはゲーム時代と同じようにステータス画面を開いてミニマップを確認しようとする。しかし、そこにミニマップは存在しなかった。


「ちっ」


 舌打ちする。

 そうだった、ミニマップが存在しないことを忘れていた。そのことはこの世界に転移させられて始めに確認したはずだ。

 どうしてもゲーム時代の感覚が抜け切らず、ゲームで存在していた機能はここでも当たり前にある、と思い込んでしまう。おそらく、ゲームをやりこんだベテランプレーヤーこそが陥りやすい問題だろう。

 なにか他にも確認し忘れていることは無いか?とステータスウインドウを見回す。 そのため周囲に対する警戒が疎かになる。すでにまものに囲まれていることにスーノは気づいていない。


 その時、けたたましい獣の叫声がスーノの耳に突き刺さった。


 目を細めるスーノ。幾重にも重なるまものの哮りに、スーノの警戒レベルが一気にレッドゾーンに跳ね上がる。


 完全な出遅れ。

 すでに周囲はまものに囲まれ、その包囲網は徐々に、そして確実に狭められていく。鼓動の速度が跳ね上がり、呼吸が浅くなる。装備した薙刀を握る拳に力が入る。

 スーノは周囲を見回すが、ここは森の中で下生えも深く視界は良くない。まものの気配はジリジリと感じ取れるが、その姿を見ることが出来ない。そのことにスーノは焦りの色を隠せないでいた。スーノをあざ笑うかのように、叫声は周囲360度どこからも聞こえてくる。


 何体に囲まれているのか?四、五いやもっとか・・・

 心臓の鼓動の音が耳について煩わしい。スーノはせわしなく首を振るが魔物の姿は視界に入ってこない。

 背筋に冷たいものが流れるのを感じる。このエリアのまものなら、数体に囲まれようとも十分対抗できるはず。理性ではそう理解できていても、感情がその理解を阻み、正常な認識を妨害する。見えない敵の恐怖に焦燥感だけが高まっていく。


 その緊張が極限まで高まった時、背後の死角から褐色の影が飛び出した。下生えを抜け飛び掛ってくるその音はとても小さかったが、冒険者の超人的な聴力はそのかすかな音でも聞き逃さない。

 咄嗟に振り返って、手にした薙刀を振りかぶるが、それに先んじてまものの鋭い牙がスーノの喉元に向かって正確に襲ってきた。手を返して薙刀の柄でまものの牙から急所を守る。

 次の瞬間、別のまものが背後からが飛び出し襲い掛かってきた。

その後は右、左、と連続して飛び掛られ、スーノの身体にまとわりついて攻撃してくる。

 このままでは何もできずに体力を減らされてしまう。スーノは手にした薙刀を無我夢中で振り回し、まものを振りほどく。そして這う這うの体で足を取られ躓きながらも距離をとる。その姿は情けなく無様なものだったが、それを気にする余裕など今のスーノには有りはしなかった。


 ここでようやく現在の状況を確認できた。

 襲ってきたまものは、殺人ウサギ(ボーパルバニー)。現実世界のウサギを三まわりほど大きくして凶暴にしたまものだ。愛らしいウサギの外観はそこには無く、その牙は剣のように長く鋭利で、低レベルの冒険者では油断すると一噛みで首を飛ばされてしまうこともある。

 だが、襲ってきているボーパルバニーはレベル10程度だ。今のスーノの能力であるなら、まったく問題なく退治できるはずだった。

 そう、ゲームであったならば。


 しかしそこにいたのは、現実の脅威であるこの世界のまものであり、その迫力は想像以上だった。なにより恐怖を感じたのは、その意志の力。こちらを殺そうとするその意思が色を帯び、炎のごとくゆらゆらと立ち上っているようにすら見える。


「これが現実・・・」


 急所である首や顔を守った腕は、ボーパルバニーの鋭い牙によって抉られ出血している。幸いなのは、この世界の冒険者の身体の性能故か、その傷には見た目ほどの痛みは伴っていないことだった。骨を砕かれる、または腱を切断される等、機能不全(バッドステータス)を引き起こす外傷さえ受けなければ、戦闘に支障は無い。

 だが、本当の問題は精神的なものだ。実戦の恐怖、まものから直接浴びせられる殺意、それらはゲーム時代では考えられない本物の暴力だ。

 スーノは、まものと距離をとり正対する。目の前のまもの、ボーパルバニーの数は五匹。その燃えるような眼光に、膝が笑い、腰が砕け落ちそうになる。

 このままでは、何もできずにこの戦闘に敗北するだろう。敗北の結果、逃走?それができなければ死亡?


 スーノはここにきて自分の見通しの甘さに気づく。ゲーム時代の感覚から抜けられていない。ここ程度の低レベルエリアのまものならば、今の自分のレベルであれば敗北はありえない。この認識が誤ったものだと言うことを、ここにきてようやく自覚する。さらにこの世界でゲーム時代と同じように死からの復活がある保証はどこにも無い。

 スーノは、死からの復活が在るかどうか、この世界では判明していないことを納得していたつもりだった。そしてこの低レベルゾーンならば、苦戦したとしても死ぬようなことはありえないだろうとも、考えていた。しかし、まものに包囲され実際に死に直面した今、その覚悟が甘い考えだったと悟る。


 恐怖に身をすくめて、悲鳴を上げて逃げ出すか、それとも。

 一瞬、スーノの脳裏に杏奈の泣き顔が浮んだ。

 僕が逃げ出す訳にはいかないよな・・・


 スーノは決断する。戦わなければ駄目だ!!

 ここで戦わなければ、おそらくこのまま恐怖に支配されてしまう。それは、短期的に見ればこの戦闘での敗北だ。もし逃走し逃げ切ることが出来たならば、この戦闘を終わらせるとはできる。

 しかしそうした場合、これ以降戦闘をすることに恐怖を感じ、二度と戦闘をすることが出来なくなる、という確信がスーノにはあった

 逃走に失敗したなら、まものに殺害されることになるだろう。そしてゲーム時代のように死からの復活があったとしても、やはり今後戦闘をすることに恐怖を感じ、戦闘を避けるようになってしまうだろう。

 そして万が一死からの復活が無ければ、その時はそれでおしまいなのだから、考える必要は無い。


 スーノは覚悟を決めた。

 今ここで逃げればそれで終わり、この先逃げ続けるだけの存在になってしまう。恐怖で縮み上がる心に活を入れ、両足を大きく広げた


 逃げない!!


 ボーパルバニーの刺すような眼光を真正面に受けて、それでも構えた薙刀に力を込め両足を踏みしめる。覚悟が決まったためか、浮ついた腰がどっしりと落ち着き、今までふわふわと宙に浮いたように重さを感じなかったその足に重力を感じた。

 パニックに陥りかけていた思考が冷却され、現状の自分の状態が冷静に認識できる。HPに被害はあるがそれも2割ほどで、機能不全バッドステータスは無し。MPはほぼ減少無し。冷静に判断すれば、恐れることは何も無い。


 まだやれる

 スーノの心に余裕が生まれた。


 仕切りなおしだ。

 スーノは、まずハートビートヒーリングを詠唱し、自身のHPの回復を図る。ゆっくりとであるが確実に自信の体力が回復していくのを感じる。余裕が無いため確認することは出来ないが、ステータスウィンドウのHPの数値は上昇しているはずだ。

 そして次に特技、バーニングバイト発動。

これは、武器攻撃時に追加ダメージを与えるものだ。今回のように単独行動でスーノ自身が攻撃を行わなければならないような状況だったならば、戦闘が開始された時に発動しておくはずの特技である。

 ゲーム時代、ソロ活動での戦闘時にはこの特技を開始直後に使用し、自らの打撃力を向上させていたのだが、やはりこの世界での戦闘に緊張していたようで、このことをスーノは完全に忘れていた。


「遠慮は無しでいくよ・・・クチハ、来い!!」


 スーノの傍の空間が輝きだし、ガラスが割れるような音と視覚エフェクトと共に、そこから巨大な影が現われた。

 特技、従者召還<ワイルドボア>

 その影は森林の祖霊である獣の猛猪、召還したプレーヤーと協力して共に戦闘を行う召喚獣だ。

 ゲーム時代この特技をスーノは好んで使用していて。個人的にロールプレイの一環としてパーソナルネームを与えて可愛がっていた。さらにメインキャラクター時の人脈と資産を利用して、この特技を反則と言われるくらいにレベルアップさせていた。

 クチハはスーノにとって頼りになる存在であり、彼の森呪遣いとしてのビルド<殴りドルイド>において、契約獣の山犬エンジと共に攻撃力の中心になっている。


 ブハッと大きく鼻息を吐き出し、猛猪がスーノの前にゆっくりと踏み出る。それを警戒するように、ボーパルバニーが囲み込むように距離をとった。


「行け、クチハ!!」


 スーノの掛け声と同時に猛猪が太い四肢を踏みしめて走り出し、その巨体からは想像もつかない速度で襲い掛かる。その後ろから、猛猪の影に入るようにしてスーノも駆けた。

 猛猪の突進で一匹のボーパルバニーが蹴散らされる。背後のスーノが、猛猪の突進を回避するのに精一杯だった別の一匹に襲い掛かり、薙刀を振り下ろす。ボーパルバニーはその猛攻により散らされ、数に任せた攻撃ができない。

 狙い通り、とスーノはほくそ笑み、返す刀で二撃、三撃とボーパルバニーに薙刀の斬撃を叩きつける。バーニングバイドの効果が発揮され強化されたスーノの薙刀の威力に、そのボーパルバニーは甲高い断末魔を上げた。


 動揺さえ無ければ、このボーパルバニー程度のまものであるなら、森呪遣いのスーノであってもそのレベルの差を生かし一方的な戦闘になるはずであり、実際そうなりつつあった。

 残りは三匹。スーノは孤立した左に位置するボーパルバニーに突進し薙刀で切りかかる。

 しかし猛攻を受けた混乱から立ち直りかけたそのボーパルバニーはスーノの斬撃を紙一重で躱し、反撃を加えようとスーノの喉元に襲い掛かる。

 その瞬間、猛猪がボーパルバニーの背後から風を巻き上げながら姿を現す。そしてその巨体を武器にして体当たりを仕掛けた。


 スーノは薙刀で切りかかる一瞬前に、特技フランカーファングを発動していた。

 この特技は術者と従者が挟撃できる位置取りから同タイミングで従者に攻撃させるもので、その挟撃により打撃力向上と同時に対象を混乱させ回避能力を低下させる効果がある。猛猪の体当たりと次のスーノの薙刀の斬撃により、さらにもう一匹のボーパルバニーが倒れた。

 これで残りは2匹。

 猛猪の唸り声と地面を掻く前足の音、そして腰を落として薙刀を構えるスーノ。

 

 大勢は既に決した。

 残った2匹のボーパルバニーはジリジリと後退すると、踵を返して深い森の中に消えていった。







「ふぅ」


 スーノは緊張を解き、構えた薙刀を下ろす。猛猪が霞のように実体を無くしていく。その姿に、スーノは「ありがとう、クチハ」と感謝の言葉を掛け、それに応えるように猛猪は嘶き、消えていった。

 周囲には、3匹の殺人ウサギの死骸が残された。


「どうにかなったか」


 額の汗をぬぐいながら、スーノは一人つぶやく。

 ゲームと同じようだがゲームではない、かといって現実とは程遠いこの世界でどう生きていくか。とりあえず、戦闘に関しては、ゲーム時代とは違うと考えたほうが良さそうだ。

 もちろん、冒険者の身体能力は現実世界とは違い、現実ではありえない動き、強さを実現している。反面、精神的な部分は現実世界と同じであり、日本という平和な国に住む人間にはかなり厳しいものがあるだろう。しかし、どうにかこの世界の戦闘に対応しないことには、アキバへの帰還など不可能になってしまう。

かなり訓練が必要だな。スーノは更にその認識を深くした。


「しかし、ウサギが三匹、いやウサギだから三羽かな」


 スーノは倒したウサギを集めた。せっかくの獲物だ、持ち帰らないのは嘘だろう。しかし獣の解体なんてした経験は無いし、どう処理すればいいかな。

 そんなことを考えていると、集めたウサギの死骸が光り出しそこから綺麗な光の粒子が空に上っていく。あっけに取られていると、光の粒子は消え去り、後には一塊の肉片と毛皮、それと幾許かの金貨が散らばっていた。









 その後数回の戦闘を行い、初回のように混乱することも無く順当な戦闘を行うことができた。

 その成果に満足して、スーノは村に戻る。


 すでに日は落ちかけ、西の空が夕日に真っ赤に染まっている

仕事帰りの農夫たちが、農作業道具を乗せた荷車を引いて村へ続く道を進んでいた。

 笑い声の絶えない農夫の集団に続いて、スーノも村の門をくぐった。


 さて、別れる時に杏奈には食堂で待つようにと伝えておいたが、おとなしくしているだろうか。

 スーノは食堂の扉を開けて店内に入る。夕食時の店内では、多くの村人が食事を楽しんでいた。、

 そういえば、自分も朝から水しか飲んでいなかった。この世界への転移に、戦闘の衝撃など、朝から重大事態が続いていたので、空腹のことなどすっかり意識から消えていた。丁度いいから食事を済ましておこうと考え、店内を見回す。

杏奈の座っているテーブルはすぐに見つかった。だが、そこにいたのは


「あ~スーノさん。ここですよ~」


 先ほどの夕日に負けないくらいに顔一面を真っ赤に染めた杏奈が、スーノを見つけ手招きしている。

 テーブルの上には木のジョッキがみっつよっつ・・・

 杏奈は微妙に呂律が回っていない口調で喋りながら、隣の椅子を引いてスーノを座らせようとする。


「お疲れ様です~なんか食べます~」


 赤く染まった顔に呂律の回らない喋り方で、あはは~と能天気に笑っている杏奈。スーノは腰に手を当て椅子にだらしなく座り込んだ杏奈を見下ろした。


「酒呑んでんの?君、未成年だよね」


 呆れたようにため息を吐いて、椅子に座る。


「いいじゃないですか~いつも家じゃパパの晩酌に付き合ってたんですよ~」


 個々の家庭の内情にケチをつける気も無いし、スーノ自身もともと風紀にうるさいタイプではないので未成年であろうと飲酒することを止める気も無いが、十七、八歳の娘が赤ら顔でけたけた笑っているのはあまりヨロシクないでのはないでしょうか?と、会った事はもちろん無い加藤杏奈さんのご両親に尋ねなきゃならないんじゃないか、などと思ったりもするが、どうせできないのだからしませんけどね。


「でもね~変なんですよ~食べものにね~味無いですよ~」


 だって味が無いかどうかいろいろ試さなきゃいけないじゃないですか~このビールも味の無いただの水なんですよ~変ですね~あっでもしゅわしゅわする感じはあります~

 などとよく分からないことをグダグダのへべれけでのたまって、真っ赤な顔を近づけてくる。

 顔近いし、酒臭いし、唾飛んでるし、この酔っ払いメンドくさい。どうせ酔っ払ってるから味なんて分かんね~だろ。


 現実世界の基準で見れば、上位数パーセントに入る美女のはずで、もしリアル世界でこの顔を直視したら恥ずかしくなって視線を合わせていられない自信がスーノにはあるが、こうなるとその魅力はかけらも発揮されない。

 残念美女とはこういうことなのかね。

 まあ、良く考えれば、自分もここではそれなりに整った顔立ちをした、しかも女性になっているんだよな。この世界に転移したとき、まじまじと自分の顔を鏡で見たことを思い出す。

 基本的にはプレーヤーキャラクターとして作ったスーノの顔も、世間一般からはカワイイといわれる程度には造りが良い。しかしスーノにはその顔にどことなく元の自分、菅原直人の面影が残っていることが気になって仕方なかった。特に目つきの悪いところなど、自分以外の何者でもない特徴だ。できればそこの部分こそ似てほしくなかったのだけれど。


 スーノは酔っ払った杏奈をまともに相手せずに立たせようとするが、腑抜けた身体は芯が抜けたみたいにだらんとテーブルに突っ伏している。傍で床に座り込んでいるエンジを見ると、一瞬視線を合わせただけで、オレはしらん、と言いたげに鼻息ひとつ立ててそっぽを向いてしまった。

 「今日はご苦労さん」ねぎらいの言葉を伝えるが、エンジは興味なさそうに、それでも尻尾をふたつみっつと振って答えた。




 そんな二人と一頭の姿を見て笑いながらやってきた店主に、スーノはとりあえず杏奈の食事と酒代の清算を済ます。


「ここ宿もやってるんだよね。部屋空いてるかな」

「ええ、空いてますよ。部屋は二階ですよ」


 店主は階段を指差してそう答えると、杏奈を肩に担ぎ上げようとしているスーノに手を貸そうとする。普通に見ればスーノと杏奈の体格差から、子供が大人を担ぎ上げるようで無理そうに見えるが、スーノも伊達に冒険者ではないので、楽々とは行かないまでもどうにか担ぎ上げ、階段を上っていく。

 店主に給仕の娘、それに夕方の食事時のため賑わっている店内の客の好機の視線に、アルコールも入っていないのにスーノの顔が紅潮する。


 ちなみに杏奈の顔はスーノの何倍も紅潮しているが、こちらの原因は恥じらいではなくただの酔っ払いなので、誤解なきようにしてもらいたい。

 さらに担ぎ上げた結果、背中に感じる二つの柔らかな物体の大きさや、なんとなく脳裏に浮んだ重さ的な具体的な数字については、淑女のプライバシーに関することなのでこちらも伏せさせていただきたい。そもそも淑女は酒に呑まれたりしないし、酔いつぶれた娘のプライバシーなど知ったことか!!とか思ったりもするけれど。

 そして、引きずるように杏奈を運び部屋のベッドに放り投げる。


 なにすんですか~

とか不平を溢しているような気もしたが、酔っ払いの文句など埒もないので無視し、そのまま放っておく。スーノは、今度こそ自分の食事を取ろうと食堂に下りていった。


「たいへんですね~」


 給仕の娘の笑い顔に苦笑いを返して、適当に食事を頼み、椅子に座り込んで、足を投げ出す。

 女性としてはだらしない姿で、あまり他人には見せられないとも思うが、まあ”中の人”は男なんだし許してもらいたい。

 考えるのは、この世界のこと、そして今後のこと。

 やがて給仕の娘がやってきて、テーブルに皿を並べる。そこには並べられたのは湯気を立てるシチューとパン、生野菜のサラダだ。これは旨そうだと、木のスプーンでシチューを掬い口に運ぶ。そして、先ほど杏奈が言った言葉をその身をもって実感した。


「味が無い・・・」



低レベルモンスターと言えば、ボーパルバニーは外せません。でもクリティカルヒットを食らったことはありません。この話でニヤりとしたあなたは、ワタシと同じWIZ世代。

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