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マウントリムの隧道<3>

 光の中の黒い影、まものの姿が大きくなってくる。まものの右手が鷲掴みにしているのは人の頭部だ。光の中の影なのでシルエットしか判別できないため、それが誰なのかはわからない。でも革鎧の形状から傭兵団のメンバーだということだけは杏奈にも分かった。そしてその身体が腰から真っ二つに切断されていることも。

 杏奈は自分の足の遅さがもどかしかった。自分は冒険者の中では足が遅いと言われる守護戦士だ。しかも重量のある金属鎧を身に纏い、背中には大きな盾に重い大剣を担いでいる。そのため、その駆ける速度は更に低下している。

 本当なら全て投げ捨てて駆け出したかった。そうすれば、一秒でも早くあの人を助け出せる。あの人を助けたい。きっと苦しんでいるはずだ。だって身体が半分にされてしまているんだよ。痛くて苦しくて辛いだろう。早くあのまものから開放してあげたい。

 焦れったい速度だけれどそれでも距離が近付くと、シルエットだけでなくまものの姿がステータスと共にボヤけながらも見えてくる。まものは鉄躯緑鬼ホブゴブリンレベル五十。粗末な金属鎧と刃こぼれし殆ど棍棒のような使い方しか出来ない剣を持っている。左手には男の髪の毛を鷲掴みにしてニタニタと酷薄な笑みを見せている。

 男の姿も杏奈に確認できた。あれは傭兵団の七番隊、斥候を担当していた隊の隊長さんだ。このトンネルでも七番隊の人たちは先行して偵察をしているはずだ。同じような役割だからか、七番隊の人たちは団員の中でもエンジと仲が良くとてもエンジを可愛がってくれたいたので、杏奈も良く会話をしていた。真面目で任務に忠実な、だけれど冗談の好きな笑顔が見合うおじさんだった。早く助けてあげたい。杏奈はそれだけを想って全力で駆けている。


 本当は杏奈にも分かっていた。身体を切断されて生きていられる人間はいない。あの隊長さんは既に死んでいるのだろう。でも、杏奈の感情はそれを認めることが出来なかった。

 杏奈は身近な人の死を経験したことは無い。親類で他界しているのは父方の祖父だけで、それも杏奈が幼児の頃の話だ。もちろんそのときの記憶は残っていない。だから本当の意味で人の死に直面したことは無い。杏奈にとって「死」という存在はニュース記事の文字の中の一つでしかなく、リアルに存在するものでは無かった。そうこの瞬間までは。


 杏奈の感情が爆発する。瞳から涙が溢れていることにも一切気に留めず、杏奈は全力で駆けていた。


(もう少し、もう少しであの隊長さんを助けることが出来る)


 ホブゴブリンの姿など、杏奈の視界には全く入っていなかった。見えているのは七番隊隊長の姿だけだ。

 だが、まものの左手に掴まれたその上半身だけの亡骸が光を放ちだす。そして外界の光の中でもなお輝く光の粒子と化して、徐々にその姿が空に溶け消えていってしまう。

 その時杏奈の耳に悲鳴が聴こえてくる。泣き叫ぶような絶叫、そしてそれが自分の口から発せられていることに気づいた。もう杏奈には自分の感情をコントロールすることは出来なかった。なにか分からない原始的な衝動に駆られ、ホブゴブリンにその感情をぶつけるべく背中の剣と盾を構える。そして左手の盾を前面に押し出して、ホブゴブリンに体当たりをした。

 

 左手の男の亡骸が完全に消滅し身軽になったホブゴブリンが、杏奈の突進をその屈強な体躯で受ける。杏奈とホブゴブリンの身長は同等。だが身体の太さが全く違う。エルフの女性の杏奈に比べればその胴体も腕も足も倍ほどのボリュームで、体重でみればおそらく倍近く違うだろう。ホブゴブリンもそれを見て十分受けきれるだろうと予想し、むしろこちらが押し返しそのまま蹴散らせると考えたのだろう、杏奈の盾のぶちかましを筋肉で盛り上がった(ハガネ)のような肩で受け止める。

 その衝撃は、現実世界で例えれば重量級の相撲の力士の立ち合いと同等、だがその力士がどちらも金属の鎧を装備していることなど現実ではありえない。あえて例えるのなら自動車の正面衝突といったところか。金属同士がぶつかり合う衝撃音が周囲に響く。

 だがどういうことだろうか、吹き飛ばされたのは体格に秀でたホブゴブリンのほうだった。もちろんレベルの差がそこにはある。ホブゴブリンと守護戦士である杏奈のレベル差は四十にも及び、その力の差は圧倒的である。そして衝動に突き動かされている杏奈は、自らの本当の力を存分に振るっていた。












隊長さんの身体が光の粒になって消えていった。

アタシはその光景を目にしてから、自分が何をしているのか自分でも分からなくなってしまった。

怒り、悲しみ、絶望、さまざまな感情がアタシの心を駆け巡って自分が今何を考えているのかすら分からない。

でも一つだけしっかりした軸になるモノがアタシの心の中心にあった。

それは、「みんなを守る」そんな言葉。

アタシはそれに必死にしがみ付いて自分を見失わないように耐えていた。


以前スーノさんが言っていたことを思い出す。





この<折剣傭兵団>は優秀だ。おそらく大地人の武力集団としては随一の存在だろう。その戦術も、そしてその覚悟も。

だけれど悲しい話だが、それでも冒険者の能力はそれを軽々と超えていってしまう。

大地人の集団がどれだけ戦術を極めようとも、強靭な意志で己を律しようとも、比較しようも無い強大な「力」の前では、砂上の楼閣のようにいとも簡単に崩されてしまうだろう。

冒険者は、大地人からすればある意味超人といってもいい存在だ。大地人にとってまともに相手をすること自体無謀と思えるほどの力の差がそこにはある。

そして同じように冒険者が相手をするべく造られた「まもの」も、大地人には対処しきれない存在だろう、と。


「だから杏奈、本当のピンチの時は僕達が前に出てみんなを守らなければならない」






スーノさんの言葉が脳裏に浮んでくる。多分”その時”が今なんだと思う。

正直に言えば、やっぱり怖い。体当たりで吹き飛ばしたホブゴブリンが剣を地面に突き立てて起き上がってくる。

その顔はアタシを睨みつけ、牙を剥き出し涎を流している。そして大きく口を開けて吼えて威嚇してきた。

そんなホブゴブリンの姿を目にして、アタシの膝は笑って足が竦んで力が抜け、その場でしゃがみ込んでしまいそうになる。

手は震えて、構えている剣や盾を取り落してしまいそう。

顔は涙でグチャグチャでガチガチと歯の根が合わずに、顔を逸らし逃げ出してしまいたくなる。

でも、アタシが逃げたらダメなんだ。なぜなら


「だってみんな(大地人)は死んじゃうんだよ!!でも、アタシ達(冒険者)は死なない。そんな死なないアタシ(冒険者)が逃げちゃダメだ!!」


自分に気合を入れるように、アタシは声を張り上げた。

リナにディーノさん、エンリコさんにボーメさん、それに傭兵団の人たちみんな。それぞれの顔がアタシの脳裏に浮んでは消える。

そして昨夜のこと思い出す。飛び入りだったのに嫌な顔なんて全然見せないで、喜んで演奏に迎え入れてくれたディーノさんとエンリコさん。アタシのつたない演奏でも心の底から楽しんでくれたみんな。そんなみんなを守りたい。


「<フォートレススタンス>!!」


左手に構えた半身を隠せるほどの大きさの盾を地面に突き刺し両足を肩幅に広げ、アタシは特技を発動した。

この特技の効果の詳細を、実は良く分かっていないし、もしかしたら使い方を間違えているのかもしれないけど。

でも今のアタシにとってのこの特技の意味は、この場を一歩も引かないという覚悟だ。みんなを守りきるという宣誓だ。

足元から青いオーラのような何かが光り輝き、それと共に風が巻き上がる。歯を食いしばり、ホブゴブリンを睨みつけるアタシの髪がその風に煽られ巻き上がって広がった。


気づくと、周囲に傭兵団のみんなが追いついてきた。

その姿に、アタシは勇気づけられる。そしてこれ以上絶対に誰も犠牲にしないと心に誓う。

団のみんながアタシを中心にして戦列を組んだ。

目前には、ホブゴブリンだけでなく、それよりも小さいゴブリンが群れを成してうごめいている。


「うああああーーー!!!」


そしてアタシは喉が張り裂けんばかりにお腹の底から<ウォークライ>を叫び上げた。


これは、ほんの少しでもみんなに勇気を与え、なによりアタシ自身の覚悟を決めるための心の叫びだ。

叫ぶアタシに合わせ、みんなが武器を振り上げて雄叫びを上げてくれている。みんなの気持ちが一つになった。それで十分。













 <マウントリムの隧道>の出口で待ち伏せていたまものは、ホブゴブリン二体にゴブリンが二十五匹。

 ゴブリンは数は多いがレベル二十を超える程度と個々の戦力は低い。この場にいる傭兵団三隊ならば対抗することは可能だ。しかし、その数の多さは侮れず数に任せて包囲されてしまえば十分な脅威となるだろう。大事なことは、しっかり戦列を維持し集団で組織だった対応をすることだ。

 問題はホブゴブリンのほうだ。レベルも五十前後と高く、傭兵団の戦力で正対して叩き合えば、容易になぎ倒されてしまうだろう。

 レベル九十の冒険者の杏奈ならば十分対抗できる力を持っているが、それでも同時に二体を引き受けるのはさすがに厳しい。レベル差があったとしても、包囲されてしまえば受けるダメージも甚大となる。最終的には打ち倒されてしまうだろう。


 どういうプランで戦うか?エンリコの判断が遅れた一瞬、杏奈が戦列から飛び出した。

 杏奈は、まずホブゴブリン一体に切りかかる。コイツはトンネル出口で待ち伏せしていたヤツだ。すでに杏奈の攻撃<シールドスマッシュ>でダメージを与えられている。

 

「この化け物!!」


 そしてそのホブゴブリンに対して<タウンティングブロウ>を仕掛け、杏奈は罵りの言葉と同時に剣を突き立てる。その突きは間合いも遠く腰が入った有効な攻撃ではない。その目的は自分に攻撃を集中させるために敵愾心ヘイトを稼ぐこと。

 更にその隣のホブゴブリンに杏奈は目を向けた。

 

「お前の相手はアタシだ!!」

 

 矢継ぎ早に更にもう一体のホブゴブリンに剣を向け特技<タウンティングシャウト>で挑発した。

 一連の行動で、二体のホブゴブリンの意識は完全に杏奈に向けられる。その怒りに染まった視線が杏奈に集中し、のそりとホブゴブリン達が杏奈に向けて歩みだす。

 これでホブゴブリン二体の敵愾心ヘイトは十分稼いだ。


「団長さん。デカイのはアタシが引き受けます。小さいのをお願いします!!」

 

 杏奈の声に、エンリコが応えた。


「よし、こちらは小鬼ゴブリンを片付けるぞ。こいつらを嬢ちゃんのほうにやるな!!押し潰せ!!」


 「おおっ」と団員達の雄叫びが聞こえ、一列に戦列を組んだ傭兵団がゴブリンの集団に襲い掛かった。周囲から剣戟の音が聞こえてくる。ゴブリンと傭兵団の数はほぼ同数、若干ゴブリンの数が勝るが、そこは戦術でどうにかなる差だ。しっかり戦列を組み遊兵を作らない。ゴブリンの包囲攻撃さえ防ぐことが出来れば、数に劣る傭兵団にも十分対抗は可能だ。

 問題はホブゴブリン二体を引き受けた杏奈のほうだ。エンリコは少し離れた場所でホブゴブリンに対抗している杏奈に視線を向けた。












 展開は杏奈の思惑通りとなった。


(ゴブリンはきっと直ぐに団のみんなが退治してくれる。それまでアタシがデカイのを相手にし続ければ)


 杏奈は動き回って、どうにか包囲されないような位置取りを選んでホブゴブリンに対抗する。<シールドスマッシュ>、そして<シールドスウィング>を多用してとにかく相手の動きをコントロールし、ホブゴブリン二体を出来るだけ自分の正面に位置取りさせるようにしていた。

 包囲されてしまえばいかにレベルが大きく上回っているとはいえども危険なことに変わりない。杏奈は、この世界に転移した初めの村近郊でのスーノと行った戦闘訓練を思い出し、自分の持っている特技を精一杯活用して立ち回る。

 それは恐怖の連続だった。相手にしているのは背丈は自分と同じくらい、体格は倍近くも大きい緑の肌の見た目通りの「鬼」だ。それが敵意をあからさまに見せつけて攻撃を仕掛けてきている。目は血走り牙を剥き出しその吐息は毒々しく着色されているようにすら見える。ホブゴブリンの鈍器のようなナマクラの剣が叩き付けられ、その剣戟の衝撃で盾の表面に火花が散り、金属が打ち合う重く鈍い響きを立てる。杏奈はその振動に身体の芯まで痺れが走る。そして正面の敵に気を取られ油断をしていると側面に回ったもう一体が杏奈の喉元目掛け剣を突き立てる。咄嗟に右手の剣でその打突をすり上げ躱す。

 「恐怖」杏奈の心はその言葉で埋め尽くされていた。


(怖い、なんでアタシがこんなことを!!)


 一瞬でも気を緩めれば、ホブゴブリン二体に囲まれ串刺しにされてしまうだろう。

 杏奈はその恐怖に震える。そしてその場を逃げ出したい欲求に囚われる。

 

(でも!!)


 剣を上段に構える杏奈。


 <クロススラッシュ>!!


 正面のホブゴブリンに攻撃を繰り出す。上段からの打ち下ろしから、連続しての左右へのなぎ払い。その攻撃の威力に正面のホブゴブリンがたたらを踏んで一歩下がった。


(アタシが戦わなきゃ、みんなを守れない!!)


 追い討ちをかけるように左手の盾を叩き込む

 

 <シールドスマッシュ>!!

 

 既に恐怖から杏奈の顔は涙だけで無いいろいろな体液でグチャグチャになっている。でも、そんなことを気にしている余裕は杏奈には無かった。


(もう誰にも死んで欲しくない。またみんなで一緒に笑うんだ!!)


 盾に押し倒されたホブゴブリンに更なる追い討ちをかけようとするが、代わってもう一体が剣を叩き付けてきた。その攻撃を右手の剣で受け、そのまま流れるようにホブゴブリンの胸に蹴りを入れて押し倒す。

 二体のまものと距離を置いて、自分の状況を確認する。

 さすがにHPがガタ落ちになってきている。おまけに特技を多用したせいでMP残量もイエローゾーンに入ってしまった。

 杏奈の背筋に冷たいものが流れる。

 HPが無くなればそれでお仕舞い。でもMPが無くなることもそれと同様に重大な問題だ。MP切れは特技の使用ができなくなることに直結する。特技を使ってどうにか二体のホブゴブリンを押し留めているこの現在の状況で、特技が使えなくことはホブゴブリンの行動をコントロールできなくなることとイコールだ。焦る杏奈はゴブリンに対抗している傭兵団の戦列に目を向けた。











「焦るな、目の前のゴブリンだけに集中すればいい!!」


 ゴブリンの斧の一撃を盾で受けたエンリコがゴブリンの鎧の隙間を狙う。そして右手の剣をゴブリンの喉元に突き立てた。骨と筋を切り裂く感触が剣を持つ右手から伝わってくる。ゴボゴボと液体と空気と混在したものがゴブリンの喉から溢れ出る。足をゴブリンの頭に掛けて力任せに突き刺さった剣を抜き去ると、その傷口から青い体液を噴出しつつゴブリンは大地に倒れそして絶命した。

 周囲を確認すると、大勢はほぼ傭兵団優勢で推移している。生き残っているゴブリンの数も十匹ばかり。それもほぼ瀕死の状態で、あとは時間の問題だ。

 そしてエンリコの注意は一番の難敵ホブゴブリン二体を引き受けた杏奈に移る。少し離れた場でホブゴブリン二体と対峙している杏奈の状況は一進一退のようだ。だが、ゴブリンが殲滅しかかっている今の状況、傭兵団から杏奈へ援軍を回せばそれもどうにかなる。

 エンリコが一人頷く。


「ボーメ、隧道内のキャラバンが気になる。もうトンネルから出してもいいだろう」


 ゴブリンの攻撃を盾で受けつつ、ボーメは答を返す。


「そうだな。いつまでも護衛無しでトンネル内に留まらせているわけにはいかない」


 二人の意見が一致する。何らかの原因があるだろうが、<天神の守礼>の効力に疑いが掛かっている今の状況では、トンネル内でのキャラバンの安全は保障されないとみるべきだろう。背後を振り返るとトンネルを出て右側、現在ゴブリン集団と交戦中である場所の反対側に、三方を崖に囲まれたキャラバンの馬車全てを停車するに十分な広さの広場がある。トンネル内に待機させるよりもそこに誘導するのがキャラバンにとって一番安全だ。


「ボーメ、合図を頼む」


 その言葉を受け、ボーメが懐からホイッスルを出しトンネル内に向け吹き鳴らす。甲高いホイッスルの音色がトンネル内に響き渡った。


「良し、残りのゴブリンは三番四番隊で捌くぞ。一番隊は嬢ちゃんの援護だ。オレに続け!!」


 エンリコは戦列から一番隊を抽出しその戦力を率いて杏奈の援護に向かった。

 どうにか勝利の流れが見えてきた。これも一人でホブゴブリン二体の足止めを引き受けてくれた杏奈の功績といっていいだろう。あとは数の力でホブゴブリンを殲滅すればいい。

 これで先が見えた。












 天井から滴る水滴がリナの頭に落ちてくる。外気より数度も低い温度に高い湿度でトンネル内は肌寒い。さらに周囲の闇の恐怖と、トンネル出口の傭兵団とまものの戦闘の趨勢、静寂に包まれたキャラバンの商人達の不安も暴発寸前にまで膨らみつつあった。

 この場に残された<折剣傭兵団>の団員はリナ一人だけで、更にリナには大事な任務が託されている。

 傭兵団の団員として初めて託された任務に、緊張したリナは武者震いをする。オレもこの団の一員だ。そう胸を張るリナにとってこの任は誇らしく、そしてこの任を自分に授けてくれた団長のエンリコに感謝していた。その期待に応えるためにもだからこそしっかり任を勤め上げなければ、リナは気を引き締めた。


 そこにトンネル出口から吹き鳴らされたホイッスルの甲高い音が響いた。リナの背筋がピンと張る。


「キャラバン進んで、先頭から順に、ゆっくり安全に!!焦らないで」


 リナは小さな身体を殊更大きく使い、手を回してキャラバンに前進の指示する。先頭の馬車からゆっくり動き出した。リナは通り過ぎる馬車の御者それぞれに「焦らず順に。ゆっくりでいいから事故は起こさないで」と声をかける。不安に囚われた商人達も、リナが必死に指示をしている姿に、こんな子供が落ち着いているのに大人の自分がパニックを起こしてどうするのだ、と鼓舞されているのだろう。リナの前を過ぎる馬車の商人達は緊張はすれど、混乱はしていなかったように見える。

 やがて最後尾の傭兵団の馬車がリナの前に進んでくる。団の隊員は全て出払ってしまったため、御者をラバネッリ商会の商人に頼んでいる。傭兵団の馬車を御するのはキャラバンのまとめ役のアルバーニだ。ゆっくりとだが前進を続ける馬車にリナが飛び乗りるが、小さな身体にとって馬車の荷台は高くおまけに右手は未だギプスで固められているため、手すりを掴み損ねてバランスを崩し落車しかかる。そこに御車台からアルバーニの手が伸びてきて、リナの手を掴み取り御車台に引っ張り上げた。


「ありがとう」


 落車の危機を脱し、御者台に腰を下ろしてリナはホッとしたのか大きく息を吐いた。そして隣のアルバーニに感謝の言葉をかける。

 アルバーニは白髪が目立つ初老の商人だ。生粋の商人であり荒事には全く縁が無いようで、傭兵団がまものを撃退する様子を遠く離れた安全な場所から恐る恐る覗いているような男だった。それでもリナの態度の触発されたか、このキャラバンの危機に際してしっかり責任者としての行動を取っていた。


「いやいや、こんな小さなお嬢ちゃんが頑張ってるのに、おじさん達が怖がるばかりじゃ情け無いからね」


 リナの感謝の言葉にアルバーニは精一杯の強気を見せ笑みを浮かべようとするが、それは引きつり真っ白な顔色も相まってどう見ても微笑みには思えなかった。 

 リナは笑ってアルバーニに応える。そして左手で手すりを掴んで馬車から大きく身を乗り出す。前の馬車越しにトンネルの出口を覗き込んだ。それは小さな光の一点でしかなく、そこに何が待っているのか、まだこの時点ではリナには判別出来なかった。


 

戦闘の場面は難しいです。もうちょっとリズムあるカッコいい文章にしたいんですが・・・


しかし、書いてみるとこの世界の守護戦士はきつい職業ですね。

ワタシならこの職業、選択したくないです。

自分で造ったお話ながら、杏奈にはこんな辛い想いをさせて、申し訳なくなってきてしまいました。

比較してみると、スーノの戦闘は楽過ぎたかなぁ・・・うん、アイツはズルイ

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