マウントリムの隧道<2>
「六番、八番隊は前線を構築。基本装備は盾。九番隊は弓だ!!」
ディーノの指示に、各隊員たちは各々の役割をこなすために位置取りをする。急ごしらえの指揮者だが、隊員達の動きに迷いは無い。
その動きに満足そうに手ごたえを感じているディーノの横に、スーノが背後から近付いてくる。
「エンジは遊撃で後方に位置させる。僕も後方からバックアップに入る」
「ああ、頼む。冒険者の能力はこの場では頼りになる。特にスーノの力は」
年齢はまだ二十二歳と若い部類に入るが、早くからこの稼業に就いたディーノの経験はバカにならない。冒険者の能力についてもかなり詳しい知識を持っている。もちろんスーノのメイン職業である<森呪遣い>についてもだ。
「ああ、任せてくれ」
そう応えるスーノ。そして隣にいるエンジの首の勾玉に手をあわせ、その勾玉に語りかけるように呟く。
「封じられた姿を現し真なる力を解放せよ」
勾玉が光を発しその光が見る見る大きくなっていく。エンジを包み込んだ光は更に拡大し、やがて光の内部から突風が巻き上がりその光を吹き飛ばした。光が消えそこに見えるのは本来の大きさに戻ったエンジの姿だ。
その光景を横目に見ていた団員達がエンジの姿に目を見張る。事前に説明はしていたが、実際にその全長三メートルにもなる巨体を目にして驚くのも無理は無い。それでもさすが名を馳せる<折剣傭兵団>の兵。大きく混乱することも無く、戦いに意識を戻した。
ぐるる、と低い唸り声を響かせ、エンジがスーノに頭を擦り付ける。久しぶりに本来の姿に戻り満足気な様子でスーノに甘える。
だが、すぐにその顔をトンネルの暗闇に向け、歯を剥き出し威嚇しする。そしてスーノの耳にエンジの声が届いた。
「きた、たくさん」
聴こえてくるエンジの声。それに若干遅れ、前線の隊員からも声が上がった。
「接敵!!距離五十メートル。大型がひとつに小型は十から十五。」
思った以上に接近されてしまっている。これでは弓での先制攻撃からの制圧戦闘が展開できない。さらにこの暗さからの視界の悪さで、敵の種別の判断がついていないのも問題だ。
焦るディーノの横で、スーノが魔法の詠唱を開始した。
<フレイミングケージ>
詠唱が終わや否や、敵集団の周囲に炎の壁が出現した。この特技は直接攻撃力よりも状態異常効果の持続性を伸ばす効果が第一の魔法であり、今回もあまりダメージを与えているようには見えないが、それもスーノの計算のうちだ。その目的は、その炎の明かりでまものの正体を暴くこと。真っ赤な炎の光にまものの姿が照らされ浮かび上がる。現れたその姿は
「<鼠人間>数十二、大型は<牛頭大鬼>!!」
ラットマンはまだいい、数は多いが十分傭兵団の三隊で対処できるだろう。だが大型のまものミノタウロスの姿を見たディーノの額に冷たい汗が流れる。
スーノも同様にまもののステータス表記を確認して、焦りの表情を浮かべた。そこに見えたのは、ラットマンLv二十五~三十。そしてミノタウロスLv五十、パーティーランク三!! それは同レベルの冒険者が三人で対抗できる強さを持ったまものだということだ。今この場にいる冒険者はレベルは八十の森呪遣いのスーノただ一人。もちろん傭兵団の皆も戦力になるだろうが・・・
「ディーノ、ラットマンの集団は任せる。僕はミノタウロスの足止めをする」
スーノはそう言い放ち、同時に特技<従者召喚>発動。
「おいで、アサギ!!」
スーノの足元に小さな光が輝き、ポンと可愛い音を発して、何か小さな影が現れた。それは身長五十センチほどの緑の衣装を身に纏った緑の髪の妖精。本来ならば少女の姿をとるはずだが、現れたのは性別不明の生意気そうな顔のおそらく少年であろう姿の従者<アルラウネ>。
アサギは主人であるスーノを守るように、勇敢にも敵集団に立ち塞がるようにスーノの前に立った。
それで収まらず、「危ないから下がれ」というスーノの指示を完全に無視して、アサギは腕を振り回しながらラットマンの戦列に突進しようとする。そんな無茶をしようとするアサギを、スーノは抱きかかえて止めるが、当のアサギは腕の中で駄々をこねるように憤った。不満げにスーノの顔を睨みつけるアサギに半分呆れながら声を掛ける。
「お前の力では物理じゃ相手にならないよ。それよりいくよ<ウィロースピリット>」
「----!!」
スーノが腕をミノタウロスに伸ばして呪文を詠唱する。すぐ横では<アルラウネ>のアサギが主人と同じ動きをして鼻息も荒くその詠唱にあわせた。詠唱と共に周囲の苔から蔦が低い衝撃音を発して飛び出し、ミノタウロスに向かって伸びる。腕や足に狙いを付け伸びる蔦の矛先。ミノタウロスは初撃の蔦を避け、二撃目を腕に持った斧で叩き切るが、三撃目の蔦がその斧を持った腕に絡みついた。それを皮切りに腕に足に胴体、果ては首に至るまで蔦に絡め取られ、ミノタウロスは動きを封じられる。
「良し!!」
「!!」
スーノは拳を握り掌に叩き付けた。アサギも腕を振り上げ、飛び跳ねて喜ぶ。
当然ではあるがトンネルの中は植物の生気が極端に少なかった。<ウィロースピリットは>周囲の植物の生命力を利用して敵の行動を妨害する特技だ。現在のトンネル内部のこの周囲の苔程度の植物では<ウィロースピリット>の効力に自信が持てず、万が一を考え植物属性の妖精<アルラウネ>を召還したスーノだったが、それが功を奏したのかミノタウロスの動きを封じることに成功する。
「コッチはどうにか抑えた。ディーノ、まずそっちの数を減らせ」
「おうよ、任せとけ!!六番八番戦列維持、九番弓放て!!」
ディーノの指示を受け、陣形は整えた傭兵団がラットマンの集団に攻撃を開始する。ディーノも構えた弓から矢を放つ。だが、ここは暗闇に支配されたトンネルの中、まだスーノの特技<フレイミングゲージ>の炎の明かりが残っているとはいえ、ラットマンは水を得た魚のように縦横無尽にに動き回り、射手は狙いを定めることが満足に出来ない。
ちっ、と口を曲げディーノが舌打ちするが、それを隊員に悟られては士気に影響する。間髪いれずに、ディーノは声を張り上げた。
「前線盾構え、残りは抜剣。乱戦にはするなよ。戦列を維持してネズミ共を押しつぶせ!!」
六番八番隊の前線がラットマンの集団とぶつかり合う。盾を叩き付けラットマンを押し返すが小さい体躯ながらその力は侮れない。両陣営とも互角の圧力で前線が膠着した。
現在の位置取りは、前線でぶつかり合う傭兵団とラットマン集団。傭兵団の後方でミノタウロスを押さえ込む特技<ウィロースピリット>の維持に集中するスーノと<アルラウネ>のアサギ。そして前線の向こうで蔦に雁字搦めにされ動きを止められているミノタウロス。
スーノの意識はミノタウロスに集中している。レベルは五十とスーノより三十も低いがパーティーランクモンスターであるミノタウロスは、本来一人の冒険者で相手が出来るような生易しいまものでは無い。気を抜けば<ウィロースピリット>の拘束はいとも簡単に振り払われてしまうだろう。
一歩下がった位置から、スーノは戦線の様子を視界に入れているが、そちらに加勢する余裕は無い。だがそのための戦力はある。
「エンジ、側面アタック。ネズミを蹴散らせ!!」
後方で出番を待っていたエンジが、ぎりぎりと溜め込んできた力を解放して突進する。前線を回りこんで側面からラットマン集団に突撃した。その攻撃力にラットマンの集団は翻弄された。白い疾風が集団を横に走り抜け蹂躙していく。
所詮、エンジは冒険者のスーノと契約した獣だ。元来のレイドモンスターであった<大神>の力は失っており、その力は<ミニオンクラス>でしかない。攻撃に特化し強力な打撃力を持つエンジだが、反面防御力は低く決して打たれ強くは無い。レベルの低いラットマンの集団であろうと、包囲され攻撃を集中されることは絶対に避けなければならなかった。
それを承知しているエンジは、決して立ち止まらず敵集団を走り抜ける。その牙で数体のラットマンに強烈なダメージを与えた。そのため、当然ながらラットマンの敵愾心はエンジに集中し、ラットマンの意識は前線の横に走り抜けたエンジに向けられた。結果、傭兵団の戦列に加わる圧力が大きく下がることになる。
そしてディーノはその瞬間を見逃さなかった。
「よし、前進っ押しつぶせ!!」
戦力が側面のエンジと前面の傭兵団に分散したラットマン集団は圧力を増した傭兵団の戦列の前進を止めることが出来ない。じりじりと押し込まれ後退するラットマン集団。ディーノはタイミングを図っていた。この状況で適時、適所に攻撃を集中させればラットマンの戦列を崩壊させることが出来る。大事はことはそのタイミングを誤らないことだ。
ディーノの隣で「早くかまそうぜ」とジャンルカがしきりに急かす。そんなジャンルカに「落ち着け」と怒鳴るレオの顔も真っ赤に紅潮していて興奮を隠せてはいない。それでもディーノは自らの焦る気持ちを宥めすかし、ラットマン集団の動向を注意深く観察していた。
そのディーノの目に、前線左翼の六番隊と対峙していたラットマンの腰が引けているのが見えた。それはわずかな綻び。側面からのエンジの攻撃に気を取られ、ラットマンは六番隊の圧力を受け止め切れない。
ここがチャンス!!そう見切ったディーノの指示が飛んだ
「六番隊戦列中央開け。九番隊、突貫!!ネズミ共をなぎ倒せっ」
雄たけびを上げたディーノが先頭に立ってラットマンの壁に体当たりを掛けた。既に腰が引けかけていたラットマンはその突撃になすすべも無く、その戦列が崩壊した。ディーノに次いで九番隊の面々が戦列に空いた穴を走りぬける。そして背後を取られ焦り混乱するラットマンを撫で斬りにしていった。
この攻勢に敵集団は既に死に体だ。残ったラットマンを半包囲にし、一方的な攻勢を掛けようとディーノが指示を出そうとしたその刹那、バンッ、と鋼鉄のワイヤーが引き千切れたかのような音が炸裂しトンネル内に響き渡る。
「ダメだ、牛頭を押さえ切れないっ」
その音と同時にスーノの叫び声が響く。ディーノの目に映るのは、右手に撒きついた<ウィロースピリット>の魔法の蔦を豪腕の力のみで引き千切ったミノタウロスの姿だ。そしてミノタウロスは残りの手足、胴体、首、身体全体に纏わり付く蔦を右手の斧でそれぞれ切断していった。
スーノの悲痛な表情が目に入る。スーノの足元では、<アルラウネ>のアサギが唇を噛んで泣きそうな自分を必死に誤魔化していた。
あれはマズイ。ディーノの掌に冷たい汗がにじみ出る。
あのまものは今の六番、八番隊では受け止め切るのは不可能だ。あっという間に蹂躙されてしまう。しかし、引くことは出来ない。引けば先ほどのラットマンの集団の崩壊する様を、今度は団が見せることになってしまう。
ディーノは考えられるパターンの展開を出来うる限り思考する。だが・・・
「ディーノ、一旦下がって戦列を組みなおせ。あのデカブツは僕の相手だ」
その声に背後に振り返ったディーノの視界には、新たなる従者を召還したスーノの力強い姿があった。
(ダメだ、ディーノ達がラットマン集団を殲滅するまでミノタウロスの拘束はもたない)
<ウィロースピリット>の拘束に抗い暴れるミノタウロスの様子にスーノはそう判断した。相手はレベル五十とはいえパーティーランクモンスターだ。スーノの特技だけではこれ以上押さえ込むことは無理だ。
つい先ほどラットマンの前線は崩壊した。あと三分もあればラットマン集団を圧倒することができる。だが、そこにミノタウロスの戦力が投入されれば、戦況は一気にまもの側に傾くだろう。それほどミノタウロスの力は抜きん出ている。
ガッチリ組み合って、殴りあうしか無い!!覚悟を決めたスーノは、召還していた<アルラウネ>のアサギを下げる判断をした。
おれはまだ戦える!!といきり立つアサギは、召喚を解除されその存在が薄れていく最中ずっと不満げに口を尖らせていた。だけれど消え去るその瞬間、そのアサギが不安に表情を曇らせ泣きそうな顔をしていたのをスーノは見ていた。
(心配させたかな?情け無い主人でゴメンな。今度召喚した時は一緒に遊ぼう)
そしてスーノは新たなる従者を召喚した。特技<従者召喚>フォレストベア。
スーノの背後の空間が光を発し、ハレーションを起こしたようにボヤけた。その光からゆっくり歩み出たのは大きな影。身の丈二メートルを超える、それ以上に身体の太さ厚さが特出している焦げ茶の毛皮に包まれた巨大な獣だ。その迫力は相対しているミノタウロスに負けることは無い。ただならぬ気配を感じて振り返ったディーノはその獣の巨体の迫力に言葉を失う。
「ケンポウ、牛頭を抑えろ!!」
ケンポウと呼ばれた大熊はトンネルに響き渡る咆哮を上げ、四足でミノタウロスに向け突進した。
その迫力に団員達が咄嗟左右に避け、ケンポウの通れる道を空けた。
スーノの従者の三つ目が、<フォレストベア>ケンポウだ。スーノがメインで育てていた二つの従者の内の一つ。一つ目は<ワイルドボア>のクチハ。こちらは攻撃力を重視し成長させていた。そしてもう一つが<フォレストベア>のケンポウ。クチハとは対称的に防御力に特化し壁役を担うスーノにとって頼もしい従者だ。
ゲーム時代、スーノ/菅原直人はスーノというプレーヤーキャラクターを主としてソロ活動で使用していた。
その時、契約獣のエンジをアタッカーとし自らを後衛の回復役とすることで、ソロでも擬似的なパーティーとして機能させていた。
そして状況に応じてその擬似パーティーに追加するのが、<従者召喚>の召喚獣一体。
バランスを考えた場合は壁役となるべく<フォレストベア>のケンポウ、そして攻撃力重視のパーティーとするならば更なるアタッカーとなる<ワイルドボア>のクチハだ。
もちろん、あくまでプレーヤーキャラクターはスーノ一人なのだから、総合的な戦力が向上するわけではない。それでもソロ活動時は確実に行動のバリエーションを増やすことが出来る。
団員とラットマンが押し合う前線を駆け抜け、ケンポウがミノタウロスの直前に滑り込みその場で後ろ足二足で立ち上がった。ミノタウロスの巨体とケンポウの巨体。どちらも背丈は同等だが、上半身の筋肉の盛り上がりでその膂力を見せ付けるミノタウロスと身体全体のボリュームで地力の強さを誇る<フォレストベア>のケンポウ。タイプは違えどどちらもパワーに溢れていた。
ミノタウロスが手の斧を振り上げ、牙をむき出しにして咆哮を上げ威嚇する。それに怯むことなく、ケンポウも両手を高々と上げ鋭い爪を見せつけた。
二つの巨体が己が力を誇示するが、どちらも決定的な差を見せることは出来ない。そしてどちらも唸り声を上げてガッチリ腕を組み合った。
目前で繰り広げられるミノタウロスと大熊の組み合いに、ディーノは活路を見出した。
「デカブツはスーノの大熊が相手してくれている。いいかヤローども!!オレ達はネズミ共を駆除するぞ!!」
ディーノの声に、団員の「おお!!」という雄たけびが応えた。弱気に囚われていた団員達からも「これで勝てる」とう自信が湧き出てきていた。
◆
馬に鞭を入れ速度を上げる馬車が大きく揺れる。振り落とされないよう手すりを握る手に力を込め、杏奈はキャラバンの進む方向を見据えた。不安を煽るような漆黒の先に、ほんの小さな光の一点がポツリと現れた。
あれは出口?杏奈は光の点に意識を集中する。
「団長、出口が見えました!!」
一番先頭の傭兵団の馬車の御者役の団員から声が上がった。馬車の中から顔を覗かせたエンリコがキャラバンの進む先、<マウントリムの隧道>の出口があるはずの方向に目を遣る。そこに見えるのは太陽が照らす外界の光。
馬車に乗っている団員が安堵のため息をつく。キャラバンに併走している馬に跨っている団員からも歓声が上がった。その情報が後続のキャラバンの商人にも伝えられた。今まで恐怖に駆られていた商人達も恐らく胸をなでおろしていることだろう。
先頭の馬車に同乗していたボーメも一息つく。もっとも全く表情を変える事は無いのが彼らしいのだが。そして隣のエンリコの様子を伺う。だが、エンリコは前方を見据えたまま、大きく揺れる馬車に乗っていることが信じられないが、ピクリとも動かなかった。
歓声に包まれるキャラバンの面々。
「もうこれで大丈夫なんだよね」
団の馬車に乗っていたリナが満面の笑顔で杏奈に声を掛けた。その言葉を受け、杏奈もほっと安心し一時笑顔を見せるが、何か得体の知れない不安に駆られ外界の光に視線を凝らす。何かは分からない。でも何か気になる。
キャラバンが進み、トンネルの外、外界の光が大きくなってくる。杏奈はその光の中に小さな影があることに気づいた。あれは何?光の中の影はコントラストの差が激しく、その形ははっきり見えてこない。それでもじっと見つめる杏奈は、やがてそのシルエットが何なのか理解した。そして同時に絶望した。
杏奈が影の正体に気づいたと同時に、エンリコの声がトンネルに響き渡った。
「止まれ!!停止だ!!」
荷を満載にした馬車が隊列を組むキャラバンは簡単には止まることは出来ない。先頭が無理に停車すれば後続が追突するのは当然の帰結だ。そして二十台以上の馬車が列を組んでいるキャラバンでは急停止は危険を通り越して命取りですらある。先頭付近では小さな接触で済むだろうが、最後尾付近では単なる追突では済まない。馬車の大破、荷の崩壊。怪我人の発生、最悪死人が出る恐れすらある。そのためキャラバンが完全に停止したのはエンリコの号令から三十秒ほど経ってからのことだった。それだけの時間があればかなりの距離を進むことが出来る。小さな光の点だったトンネルの出口が、キャラバンが完全に停止した位置からはしっかり出口のアーチ状の形状が見てとれた。
そして、その光の中に見えた影は・・・
「ねえ、あれ何?」
その光景を目にしたリナの呟きが聴こえた。リナは何が起きているのか理解出来ていない。
杏奈はその影を確認する。そして目を瞑り歯を食いしばる。
「杏奈、どうしたの・・・」
リナが杏奈の様子のおかしさに声を掛ける。リナに振り返った杏奈は、リナの頬に手を添え辛そうな顔に無理やり笑顔を貼り付けた。
「ちょっと行ってくるね。大丈夫、みんな守るから」
そう言って、杏奈は馬車から飛び降り、トンネルの出口に向け駆け出した。守護戦士の杏奈は決して足が速くは無い。それでも精一杯の全力疾走で、出口の光に向かった。
その視線は光の中の影から離れることは無かった。シルエットだけでも分かる。そこに見えたのは人型の何か、いやはっきり言おう、まものの姿だ。その手は見慣れた革鎧を纏った傭兵団の隊員の頭を掴んでいて、そしてその隊員の身体には腰から下が無かった。
「三番四番、嬢ちゃんに続け!!キャラバンはこの場で待機だ!!一番隊も行くぞ」
エンリコの怒号染みた号令が響く。三番四番隊の隊員はその指示が飛ぶ前に、杏奈に続いて出口に向け駆けていた。
(アタシは冒険者、守護戦士なんだ。アタシが守らなきゃみんなが!!)




