side雪夜32
もうすぐ文化祭だ。全くやる気が出ない。中学までの文化祭って勉強中心の文化祭だもんね。1-Bは郷土文化についての研究発表をする事になった。図書館での調べ物と、この辺に住んでるご老人からの聞き取り等々。実につまらない。やってるオレらもつまらないけど見に来る生徒もつまらないだろう。まあ2年はクラフト研究のようなものをやってるようなのでそれは案外楽しそうだ。3年は修学旅行について。行った先の歴史を調べたり。その建物の写真と実際の感想なんかをまとめてる。部活関連では吹奏楽が面白そう。
部屋で携帯用ゲームをしていると月姉が入ってきた。
「ユキ、中学はもうすぐ文化祭ね。」
「そうだね。」
ゲーム画面から顔を上げないまま返事をする。
「文化祭デートってときめかない?」
オレは吃驚して顔をあげた。
「一緒に校舎を歩き、吹奏楽を聞きに行ったり演劇を見に行ったり…同じ時間を共有する。手なんて繋いで廊下歩いちゃったりして…」
想像する。……いいかも。大いにときめくね。文化祭に彼女(仮)とデートとか青春の醍醐味じゃないか。
「今度の会議で結衣さんを誘ってもいいわね?」
月姉は『愛を取り戻せ!計画』の会議で発表するつもりらしい。
「いいよ。」
「来てくれたら嬉しい?」
「すごく。」
オレはにっこり笑った。結衣来てくれるかな?来てくれたら嬉しいな。神崎さんはこないとして、藤森に邪魔されないようには気をつけなくちゃな。
後日、月姉は結衣から了承の返事をもぎ取ってきた。
文化祭当日。
携帯を気にしつつ正哉と亮太と敦士と喋る。正哉はこの後、後藤と文化祭デートで亮太は隠れて一日寝るつもりらしい。敦士は「文化祭に可愛い外部の女子中学生が来るかも!」とわくてかしている。「可愛い外部の女子中学生がきたら親切に校舎内を案内してあげるんだ!」って言ってた。「あわよくばアドレスゲットー!」とか下心満載。…ああ、アンチ女子派だった敦士がモテたい盛りの思春期少年に……微妙に気持ち悪いな。
オレたちが生ぬるい目で敦士を見ていると携帯にメールが入った。
『雪夜君。学校に着いたよ。今、下駄箱の所にいるよ。』
結衣からだった。オレは男友達に別れを告げて結衣を迎えに行った。
これまた結衣は可愛かった。首元にビジューの付いている花柄のワンピースを着ている。地は黒っぽく渋い色合いの赤や黄の花がプリントされているもので、長袖で丈はちょっとミニ。ボルドーのカラータイツを履いている。秋っぽくてすごく可愛い。
その可愛い結衣はぼうっとオレを眺めていた。
「結衣、どうかした?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事。」
何考えてたのかな?オレの事見てたからオレに関する事だと思うけど。
「とりあえずうちのクラス来る?」
「うん。」
1-Bクラスに行く。入った途端、結衣は一部の女子から敵意の眼差しを送られている。結衣は今日はめげないで戦うつもりらしい。ふんっと身体に力を入れている。
1-B組は郷土文化についての研究発表をしている。クラスの奴らが古い写真とか引っ張りだしてきたので良い資料になった。特産物や県出身の著名人なども調べた。因みに此処は関東の某県である。結衣と色々話しているがその間どうも結衣がじろじろ見られているようだ。結衣が中学に来たという事はつまるところ周りへの牽制なのだろう。なら協力しようじゃないか。オレは結衣と手を繋いだ。クラスがザワっとざわめいた。知らん顔で発表を読む。ちゃんと作ったつもりだったけど、ここのところ消しゴムかけ忘れてるな。
結衣が戸惑った声を出した。
「雪夜君、手とか繋いで…冷やかされたりしない?」
「するよ。でもいいの。」
ああ、結衣はやっぱりオレの心配してくれる。なんて愛おしい…オレは嬉しくて笑った。冷やかされるくらい何程の事もない。
資料制作中の話とかも話した。クラスの男子が藤森の手に誤ってマジックのインクつけちゃった話とか。藤森激怒してた。「女の子の手にマジックつけちゃうなんて信じらんなぁい!そんなくず死ねばいいのにぃ~」とか言ってた。死ねは言いすぎだろ。それからもネチネチチクチクいたぶるように貶したので見かねて割って入った。徐光液で消せば綺麗になるだろ。謝ってんだからもう許してやれと。「雪夜君がそう言うならぁ。仕方ないなぁ。」とか可愛い子ぶってた。
オレが密かに楽しみにしていた吹奏楽にも誘った。結衣も嬉しそうに頷いてくれた。ニコニコの結衣と手を繋いで廊下を歩く。後ろから足音がする。嫌な感じだ。振りかえろうと思った所で後ろからタックルされた。
「雪夜くぅん、あゆみ探しちゃったぁ。どこ行ってたの?……なんで結衣さんがいるのぉ?」
藤森がオレの背中にしがみついたまま頬を膨らませる。
「オレが招待したからだよ。」
「ふぅん?今度はどうやって仕組んだのぉ?卑怯な結・衣・さ・ん。」
仕組んだのは月姉だよ。大体いつ結衣が卑怯なことした?お前らの中で一番控えめだぞ?3人不平等は自覚してるけど、それはオレのせいだ。結衣に非はない。
「どうせ来たって雪夜君と雪夜君の保護者にしか見えないしぃ?父兄って感じ?」
誰が中学生になってまで姉弟で手を繋いで歩くんだよ?多少年が離れてるのは認めるけど、たかが4つ差だぞ?50歳の夫と54歳の妻とか普通だろ?学生生活が終われば違和感も無くなるだろうよ。
「結衣、気にしないで?行こう。吹奏楽の演奏始まっちゃう。」
「うん。」
「だめぇ。雪夜君はぁ、あゆみと一緒に3年生の修学旅行の写真見に行くのぉ。」
藤森がオレに抱きついて引きとめる。うざい。払腰とかかけたらいかんかな?修学旅行の写真も見る予定だったけど、とりあえず演奏の時間になっちゃうから体育館に行かないと。
「オレ、結衣を案内する約束だから。」
「ずるぅい!じゃあ、あゆみも吹奏楽聴きに行くぅ!」
邪魔くさっ。結衣と手を繋いでいる反対側の腕に絡みついてくる。何度振り払っても絡みついてくる。何なのコレ。
吹奏楽は中々だった。吹奏楽曲ではなくてアイドルグループの曲をメドレーにアレンジした物など演奏している。すげー…楽器が苦手なオレからするとどれほど練習してもこの域には達する事が出来ないと思う。楽器やってる奴ってすごいよ。アコギとか憧れるんだけどな。
吹奏楽の見事な演奏を聴き終わった後は3年の修学旅行の写真を見に行った。場所は京都、奈良だ。定番だよね。関東の人たちの修学旅行の定番は京都、奈良だけど関西の人の修学旅行の定番地はどこなんだろう?
伏見稲荷とか行ってみたいよね。平等院も行ってみたい。銀閣寺、哲学の道コースも良いな。銀閣寺の近くに美味しいうどん屋さんがあるらしい。行ってみたい。
「結衣は中学の修学旅行どこ行った?」
「私も京都、奈良だよ。奈良は法隆寺。奈良公園も行ったよ。鹿せんべい持ってたら鹿に追いかけられて怖かった。京都は嵐山あたりに行って散々観光して鯛茶漬けとか食べた。美味しかったな~。天龍寺とかすごかった。でも一般的な観光コースからすると嵐山はちょっと遠いんだよね。私は父方の実家が京都で、法事の度に京都は行ってるから、ちょっと外れてても行きたい所にしちゃった。雲龍図が見たくて。龍なら相国寺の鳴き龍なんかも面白いかもね。食べ物系は結構ぶらぶら行ってるけど、気になってて未だに行けてないのは清水寺付近の土産物屋で売ってる八橋クレープ。多分大した事ない味がするんだろうけど気にはなってる。」
「へー。初めて行くなら?」
「やっぱり金閣寺とか、清水寺とか、三十三間堂じゃない?メジャーだし。一度行っておいて損はないよ。手軽に食べるなら鰊蕎麦とか…ちょっと値は張るけど湯豆腐とか湯葉も美味しいよね。扇子の絵付け体験とかも面白いかもね。オリジナルの扇子が作れるよ。」
「ふーん。行ってみたいな。」
修学旅行も良いけど、結衣の案内で京都観光とかしたい。
それからうちの学校で聞いた残念情報を公開した。うちの学校が利用している京都のホテルの食事は吃驚するくらいまずいらしい。毎年コンビニでおにぎりや総菜パンを買ってきて生徒たちは飢えをしのいでいるというのが先輩情報。
お次は2年のクラフト関係の研究の所に行った。有料でジェルワックスを使った手作りキャンドルを作れるらしい。ジェルワックスをホットプレートで湯煎して顔料で着色。カラーは青にした。有料でラベンダーかオレンジの精油を分けてもらえるようなのでラベンダーをオプションした。アロマキャンドルにする予定。ジェルを細かく切ってゼリー型に入れて、上から透明なジェルを入れる。固まったら型から抜き、芯と座金を通す。青い南国の海みたいなキャンドルが出来た。結衣はイチゴゼリーみたいなキャンドルを作っていた。
「結衣にプレゼント。」
最初からそのつもりで作ったのだ。結衣に使ってもらいたいアロマキャンドル。
「ありがとう。じゃあ私が作ったのは雪夜君にプレゼント。」
「ありがとう。」
にっこり笑った。嬉しいな。結衣のキャンドル…大切に楽しもう。結衣はオレンジの精油をオプションしていたのでオレンジの香りのアロマキャンドルだ。いいね。癒されそう。
「ずるぅい!雪夜君のキャンドルはあゆみが貰う!」
藤森が駄々をこね始めた。「オレは結衣にあげたいの!」と言っても「ずるぅい!ずるぅい!」と言ってその場でジタバタ暴れる。「もういい年なんだから、我慢する事を覚えろよ。」と言ったが聞かない。じたばたじたばたおもちゃを買ってもらえない子供みたいな暴れ方だ。終いには結衣に渡したキャンドルを奪い取ろうとまでした。2年生も困ってこっちを見ている。仕方なくキャンドルをもう一つ作ることにした。一番手近なところにあった顔料で、勿論オプションで香りなどつけない。黄色いキャンドルが出来た。
「あゆみ、黄色大好き~!やっぱり雪夜君はあゆみの事ちゃんとわかってるぅ。」
「偶然だけど?」
「ウソウソ。照れてる~。キャワイイ!」
うっわ。むかつく。藤森は大はしゃぎで2年生にキャンドルを自慢している。藤森バカだからな。今なら抜けだしても気付かれないだろう。結衣の手を引いてそうっと教室から出た。廊下を早足で駆け抜ける。だいぶ遠のいたところでにこっと笑った。
「ゴメンね。疲れた?今度は演劇部の演劇見ない?」
「うん。」
藤森は楽に撒けた。
演劇部の演劇はお嬢様といじめられる少女。その少女の成り上がり物語だった。結衣はその物語を見て落窪物語を連想したらしい。落窪物語のあらすじを話してくれる。落窪が継母に虐められてとか少将と結ばれてとか。その後の少将の苛烈極まりない復讐劇が凄いんだとか。どんな復讐をしたのか教えてくれた。すさまじかった。「すごいね!」と言った。それともう一つ落窪物語で気に入ったのは少将が他に女を作らずに落窪だけを愛し続けた所。良いよね。一途。
最後はまたオレのクラスに戻ってツーショットの記念写真を撮った。二人で一緒に文化祭…楽しかったな。結衣は睨まれてるけど知らん顔することに決めたようだ。でもびくびくしてる雰囲気が出ちゃってるよ。そういう所が可愛いけど。
大切に大切に結衣を校門まで送って行った。
「ゆ、雪夜…お前もしかして結衣ちゃんと付き合ってるのか!?」
亮太が言ってきた。コイツ藤森に賭けてたもんな。亮太の額をぺしっと打つ。
「勝手に『結衣ちゃん』って言うな。朝比奈さんと呼べ。…まあ、まだ告白はしてないけど…良い感じ。」
こないだ橘にオレの事「私の彼氏」と紹介していたし。
「考え直せ。フレッシュでかわいいあゆみちゃんの方が良いだろ?じゃないと俺のレアカードが!!」
「煩い。黙れ。お、敦士。可愛い女子外部生来てたか?」
敦士がしょんぼりしながら教室に入ってきた。
「来てたけど。案内は断られた。」
ナンパ失敗か。
「へえ。」
「雪夜、どうやったらモテるんだ?」
敦士が真顔で聞いてきた。
「知らん。別にモテたくない。」
「お~ま~え~!!」
敦士にがくがく揺さぶられたので手首を掴んで力を入れてやったら痛がってた。バカめ。




