side雪夜⑯
自分で言うのもなんだけどオレは勘が良い。神懸かり的と言っていい。そのオレの勘が結衣に手作りのお菓子をプレゼントすると良いかも、と告げている。何を贈ろうかな~。いつも月姉や桃姉の誕生日に作ってるしクッキー?もうちょっと花のあるものを作りたい気分だけど、そんなに難しい物は作れない。ネットであれこれレシピを検索する。結衣が喜んでくれるもの。結衣はお菓子はどれも概ね好きだからな。とりあえず丁寧に心をこめて作ろう。マフィンにした。チョコレートのゴロゴロ入ったマフィンは見た目も華やかだし食べ応え有りそう。
ココアパウダーとベーキングパウダーと生クリームとチョコを買う。100均でマフィン型を買う。残りの材料は家にあるのを使おう。
水曜日、今日は合気道の稽古はお休みしよう。学校に行く前にバターを冷蔵庫から出して常温に戻しておく。学校から帰って手を洗ってエプロンをつける。生クリーム、卵を出しておく。本当は常温に戻したいけど、ちょっと冷たいまま作ると思う。
「あら、雪夜、何か作るの?」
義母さんが聞いてきた。
「うん。チョコマフィン。」
「へー…結衣ちゃんに?」
「うん。」
「母さんも作るとこ見てていい?」
「良いよ。変な事やったら教えて。」
薄力粉、ココアパウダー、ベーキングパウダーを計って篩にかける。オーブンは天板を抜いて170度に余熱しておく。バターとグラニュー糖を計る。常温に戻ってるバターにグラニュー糖を少しずつ分け入れ、白っぽくなるまで混ぜる。ちょっともったりしてきたからこれで良いかな。溶きほぐした卵を分離しないように小分けにして混ぜ入れる。粉類の3分の1と生クリームの3分の1を入れてさっくり混ぜる。それを繰り返して全部入れたらチョコを加える。カップ7分目くらいまで生地を入れ飾りのチョコをつける。170度で20分位焼く。焼いてる途中で結衣が来た。
ピンポーンとチャイムが鳴る。インターフォンの映像を見たら結衣だったのでオレが出る。
「結衣、お帰り。」
結衣はオレとエプロンの関連性を頭の中で結びつけているようだった。
「結衣に食べてもらおうと思ってマフィン焼いてるんだ。出来上がったら食べてもらえる?料理上手な結衣からしたらホント駄目な作品かもしれないけど。」
結衣は素直に驚いた顔をした。オレがお菓子作りとかって珍しいもんね。
「ホント?凄く嬉しい…私もダックワーズ焼いてきたんだ。食べてくれる?」
「ダックワーズってどんなお菓子?」
聞いた事ないお菓子だ。
そうか結衣もお菓子を焼いてきてくれたのか。今日は二人で焼いたお菓子を交換しよう。
「メレンゲを焼いたお菓子なの。」
「へえ。」
マフィンは我ながら結構うまく焼けたと思う。
結衣と義母さんは夕食の支度をするようだ。ついでだからオレも手伝った。折角エプロンしてるし。シチューの具材を包丁で切る。混ぜる作業に比べて『固い具材を一口サイズに切る』という作業は難易度が高いように思う。ほ、包丁が震える…料理できる奴ってすげー。オレもちょっとは頑張らないとな。将来たまにくらいは家事代わってあげられる夫になりたい。
全員揃って夕食。
「結衣ちゃん、橘君から調理実習で作ったマフィン貰ったんだよね。」
桃姉が発言する。ふぅん。今回の勘の元はそれか。て言うかそうゆうことがあったらちゃんと報告してくれよ、桃姉。こんなところで爆弾投下してないで。ほら。月姉の目が輝いちゃったから!
「う、うん…」
「へー。橘って例の美少年だよね。」
「うん、まあ…」
結衣はどう思っただろう?喜んだ?やっぱりちょっとは嬉しいと思ったりするよなあ…妬ける。
「ユキが作ったのとどっちが美味しいかな?」
「どっちが美味しいかは食べてないからまだわからないけど、どっちが嬉しいかなら、雪夜君から貰った方が嬉しいよ。」
ここで『橘君に貰った方が嬉しいよ!』とか言われたらオレの心はベッキベキだが、そのような悪夢は起こらなかったようだ。良かった。
「ユキにもライバル登場ね。」
月姉。涼しい顔しても無駄だよ?オレをおちょくりたい心が顔に出てるから。これは結衣が帰った後根掘り葉掘り聞かれて、不安を煽られるような事言われまくるな。
食後。結衣にマフィンを持って行った。
「結衣の為に作ったんだ。食べてみてくれる?」
「うん。ありがとう。頂きます。」
結衣はしっかりと味わっているようだ。
「美味しい。このコクはもしかして生クリーム使ってる?」
「あたり。」
ちょっと食べただけですぐわかるとかすごいな。
「リッチ~。チョコがゴロゴロしてて美味しい。雪夜君有難う!私の作ったダックワーズも食べてもらえる?」
「うん。頂きます。」
ダックワーズは平たいクッキーのように見える生地が二枚合わせられてるお菓子なようだ。二枚の間に何かのクリームが挟まってるっぽい。
セロファンを開けて中身を齧った。
ふわっと薫るコーヒー味。間に挟んであるクリームがコーヒー味なんだな。
「ふわっとしてておいしい。それにこのクリームはコーヒーの風味がいいね。オレの好きな味だ。ありがとう。結衣。」
多分オレの趣味に合わせて作ってくれたのだろう。オレのこと想って作ってくれたんだな。嬉しい。
うちの家族もそれぞれの菓子を口にして舌鼓を打っている。
「ユキ、やるわね…」
「結衣ちゃんのお菓子おいしい~。」
「朝比奈さん。ユキに惚れ直した?」
「……惚れっぱなしです。」
恥ずかしそうに言う結衣にうちの家族は笑ったけど、オレは一人でときめいていた。
結衣を送って帰ってきたら案の定月姉が待ち構えていた。
「や~学園で2年間一緒に過ごせるってアドバンテージは侮れないわよ~?」
「ゴメンね。ユキ、全部喋っちゃった。」
桃姉が謝る。
「自分の事忘れちゃうような男と一途に自分を慕って傍に居てくれる後輩、朝比奈さんはどっちを選ぶかしら~?」
「結衣はオレを選ぶよ。て言うか選ばせる。」
他の男になんて目を向けさせない。一緒にいられる時間が橘よりも短くったって、もっと結衣の気を引いて、釘づけにしてみせる。
「あらあら。恋人(仮)が(仮)もとれないうちに大口叩くじゃない~。」
「………それだけ好きってこと。」
駄目だ。照れる。しんどいしんどい。オレなんで姉に向かって結衣への恋心を吐露しなくちゃならない訳?まだ結衣にも言った事ないのに。柄にもなく恥ずかしい。思わず小声になっちゃったよ。
「へえ。もう惚れてんの?ちょろいやつぅ~」
「月姉嬉しいくせに~」
月姉と桃姉はキャッキャウフフしている。人の気も知らないで。ったく。




