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あの事件があってから次の金曜日。私はいつも通り雪夜君と空手道場に行ったが、空手道場にはあゆみさんの姿はなかった。どうしたんだろう…?稽古の合間もタオルは雅さんから受け取っているが、スポーツドリンクは自分が持参したものを飲んでいる。

稽古が終って差し入れタイムになった。いつも通り、大きなタッパーを道場の皆さん用に渡して、雪夜君専用の小さなタッパーを雪夜君に渡した。雪夜君は中からレモンの蜂蜜漬けをつまみだして食べている。


「雪夜君、今日は藤森さん来てないね?」

「藤森はもう来ないよ。二度と。」


雪夜君は当たり前のような顔をしてレモンを食べている。


「もう来ないの?」

「二度とオレと結衣に近付くなって言った。同じクラスだから席が隣になっちゃう事とかはあるかもしれないけど、オレは必要以外の口はきかないつもりだし、今も話しかけられても無視してる。結衣も藤森に何か言われたらオレに言って?」


雪夜君はこの前の件、相当怒っているらしい。あのタフなあゆみさんを黙って言う事聞かせるとは相当きつい事を言ったのかもしれない。可哀想だとは思うけど、自業自得なんだよね。


「うん…」

「可哀想だと思ってる?」

「ちょっとは。でも雪夜君、藤森さんに結構困らされてたように見えたから…雪夜君が困る事が少なくなったなら別にいい。」

「ん。」


でもこれで雪夜君を争う一人が減ったな。後は雅さんとの一騎討ちか。こればっかりは雪夜君の記憶が戻らない事には勝手に別れたりする訳にはいかないから二人ともどっちつかずなんだよね。雪夜君が好きだったのは私なのか、雅さんなのか。二人と交際してたなんて…ないよね?雪夜君の告白、信じていいんだよね?



しばらく平和に過ごしていたが、校門前にまたあゆみさんがいるのを発見してしまった。うあああん!雪夜君と私に近付かないんじゃなかったの!?やっかいごとはごめんだよ!私は他の帰宅する生徒に隠れるようにして帰宅した。

しかし翌日、またあゆみさんが校門前にいる。しつこいよ!また私は他の生徒に紛れて帰宅しようとする。


「あ、結衣さぁん!」


気付かれた…


「藤森さん。こんにちは。雪夜君に、雪夜君と私には近付かないよう言われてるって聞いたけど?何か用?」


先手を打って牽制する。


「ちょっとその事でぇ、お話があるんですぅ~。」

「悪いけど、私これからバイトだから時間取れないの。ごめんなさい?」


脇をすり抜けようとするが非常に強い力で制服を引っ張られる。やめれ!皺になる!


「お時間はとらせませんからぁ。」


キャッチセールスの売り言葉みたいだな。あゆみさんに引き摺られるようにして『春蘭』へ連れて行かれた。あゆみさんはまたコーラ。私はウーロン茶を頼んだ。この前と同じように注文の品が来てから、あゆみさんは喋り始めた。


「あゆみ、結衣さんにヤキモチやいちゃって、ちょっとだけ嘘ついちゃったんだぁ。」


あれをちょっとの嘘だと申すのか!学校に先生まで来てアリバイ確認とかされたんだぞ!しかも雪夜君との恋愛関係がばれて学校中に注目されるし!


「そうしたらぁ、雪夜君がすっごぉく怒っちゃってぇ、自分と結衣さんに近付いたらダメだって。先生にあゆみのこと話したみたいで、先生も雪夜君の味方するのぉ。『これ以上七瀬さんに迷惑をかけてはいけません』だってぇ。そんなに迷惑かけてないよねぇ?雪夜君に話しかけても無視するしぃ…おうちに電話かけてデートに誘っても断られるしぃ…この前雪夜君の家に行ったらぁ、雪夜君があゆみのママに電話して、ママに家に連れ返されちゃったぁ。パパとママにすっごぉく叱られたんだぁ。」


家にまで行ってたのか。それは迷惑だったろうなぁ。


「それで?私に何のご用なの?」


長々と苦労話(?)されても困る。全く同感できないし。


「結衣さんにはぁ、雪夜君にあゆみともう一度仲良くしてくれるよう、とりなしてほしいのぉ。」


はぁ?なんで私がそんな事をせねばならんのだ?あゆみさんは100パーセント自業自得だぞ?大体普通に恋敵じゃないか。敵に塩を送るようなお人好しではないのだ、私は。


「やってくれるよねぇ?だって雪夜君が怒ってるのって結衣さんのせいなんでしょお?結衣さんがちょっとの嘘で大騒ぎしたりしたから雪夜君が怒ってるんだぁ。そんなのってぇ、酷いと思う。結衣さんはあゆみに謝って、ちゃんと雪夜君との間を仲裁してくれるべきだと思うんだぁ。」


私は唖然とした。こんな滅茶苦茶な理論があるものなのか。


「私が謝る必要はないと思います。藤森さんがついたのは非常に悪質な嘘で、罰されるべきものだし、雪夜君との仲を仲裁する必要性も感じられません。雪夜君は雪夜君に夢中になるばかりに周囲に危害を及ぼすあゆみさんを疎んじて距離を置いたのだと思います。雪夜君は行動で示しているのです『藤森さんが迷惑だ』と。」

「あゆみ迷惑なんかじゃないもん。あゆみが笑いかければ誰だって喜ぶし、あゆみに声をかけられればそれに応じるのがフツーだもん!雪夜君は喜ぶはずなのに!なんでなんで!近付くなって言うの!?なんでなんで!結衣さんの事庇うの!?そんなのおかしい!」

「藤森さんは世界が自分を中心に周っていると思ってるんですね。非常に滑稽です。藤森さんに笑いかけられれば誰でも喜ぶと言いますが、それは藤森さんの容姿が優れているからでしょうか?」

「そう!あゆみはカワイイの!学校でも男子はみんなあゆみに夢中だもん!」

「私は藤森さんが足元にも及ばないほど可愛らしい人を見た事があります。それが雪夜君のお義姉さんです。お義姉さんを見慣れている雪夜君が藤森さん『程度』の容姿を尊ぶとお思いですか?」


確かにあゆみさんは可愛い。けど桃花ちゃんの方が数千倍可愛い。性格だって良い。だから雪夜君に好かれている。キリリと痛む心を隠して続けた。


「それに雪夜君は容姿で人に対する態度を変えたりする人じゃないと思います。ちゃんと人の性格を見ます。雪夜君にとって藤森さんの容姿はさほど価値があるものではないんじゃないでしょうか。」

「なによ!地味女のくせに!」


バシャッ。

はい。コーラ二回目~。あゆみさんが私の頭上からコーラをかけた。来るかも!?と思いつつ避けられなかった運動神経の無さよ…髪からべたべたする滴が落ちてくる。慌てて店員が寄ってくる。見てたらしい。お絞りを渡してくれたので眼鏡を拭く。目にコーラが少し入ってしまったようで滅茶苦茶しみる。


「酷いことばっかり言って!あゆみはカワイイの!誰でもあゆみに優しくするのが正しいの!雪夜君もそうするべきなの!結衣さんはさっさと雪夜君とあゆみの仲裁をすればいいの!早く!早くして!雪夜君に会いたいの!」

「……雪夜君を呼びます。」


私がそう言うとあゆみさんの顔が輝いた。「さっさとそうすればいいのよ」とか言っている。この状況を見て仲裁ができるとか思ってるんだろうか?アホか。雪夜君に連絡を取り「今、藤森さんと一緒にいるから『春蘭』と言う喫茶店に来てほしい」と告げた。喫茶店の場所も口頭で教える。喫茶店の店員がものすごく迷惑そうな顔でテーブルと床を片付けてくれた。すまんな。それから春日さんにも事情があって今日は欠勤する旨を伝える連絡を入れた。

雪夜君が来るまで謝罪を要求され続けたが無視した。誰が謝るもんか!

30分くらいして雪夜君が慌ててやってきた。柔道の稽古をブッチしてきたようだ。申し訳ない。でも迷わずに来れたようで何より。


「結衣!」


雪夜君が私に駆け寄る。


「どうしたの!?すごい濡れてる…コーラ!?」


私の髪からはまだコーラが滴り落ちている。当然白かったブラウスも真っ茶色だ。

雪夜君がハンカチで髪からコーラをぬぐってくれている。私はあゆみさんの言い分とあゆみさんにコーラをかけられた事を告げた。因みにこれが2回目である事も告げておいた。仲裁してもらえるものだとばかり思っていたあゆみさんは顔を真っ赤にして怒っていた。雪夜君はぎりぎり拳を握りしめた。


「オレは藤森がものすごく迷惑だ。オレの事だけならまだしも、こうやって他の人まで巻き込まれるの、非常に不快。正直殴りたい。オレはずっと藤森が鬱陶しかったし、その言い分も理解できない。可愛ければ優しくされる?意味がわからん。優しい人が優しくされて、他人に迷惑かける人間は粛清されるのが普通だろ?大体藤森が可愛い?結衣の方が数億倍可愛いし。思い上がりも甚だしいんじゃないの?オレは藤森なんて大っ嫌いだね。これから未来永劫仲良くする気はないし、出来る事ならば口もききたくない。寧ろその顔二度と見たくない。」


雪夜君は厳しい顔で言いきった。私が数億倍可愛いは何かの方便だろうか?そこは桃花ちゃんと言うべきだろうよ。


「家まで来たのもすごく迷惑だったし。この前もきちんと言ったつもりだったけど、全く伝わって無かったってことだね。今から、藤森の親を呼ぶよ。」


雪夜君は携帯を取り出して、あゆみさんのご家族に連絡を入れている。


「あ、あゆみ、帰る!」


帰ろうとしたあゆみさんを雪夜君が引っ掴む。当然びくともしない。それからまた30分ほどたってあゆみさんのお母さんが来た。


「あゆみ、何やってるの!」


バシンとあゆみさんの頬を力強く打つ。あゆみさんがよろめいて尻もちをついた。

雪夜君があゆみさんのお母さんにこれまでの事情とあゆみさんの言い分を説明した。あゆみさんのお母さんは真っ青になった。


「朝比奈さん。申し訳ありません!この前に引き続き今日まで!!しかも二回目だなんて全く知らず!いいえ、知らなかったからと言って許される訳ではありませんが、申し訳ありませんでした!!」


あゆみさんのお母さんは深々と頭を下げた。なんでこんな普通なお母さんからあゆみさんみたいなのが育っちゃったんだろうなあ…


「藤森さん、その『申し訳ありません』聞くの何度目だと思います?」


雪夜君は全く容赦がない。


「大体、あゆみさんはまだ結衣に謝っていないし、前回の嘘の件で謝罪まで要求しているそうですよ。」


あゆみさんのお母さんが慌てた。


「あ、あゆみ、早く謝りなさい!」

「促されて謝ることに意味があるんですか?」


雪夜君は謝る事すら許さないらしい。


「人に水やお茶をかけて暴行罪で逮捕される人っているんですよね。」


あゆみさんのお母さんは気の毒なくらい真っ青になってぶるぶる震えている。

あゆみさんも青ざめた。あゆみさんは未成年だから逮捕はされないだろうけどなあ。


「今回は目撃者もいるみたいだし、結衣、訴えてみる?」


訴えたらどうなるんだろう。叱責ぐらいで済みそうな気はするが。中学は義務教育だから停学とかもなさそうだし。


「朝比奈さん、七瀬さん、本当に申し訳ありません、もう二度とこのようなことはさせません。今回だけは、今回だけは許していただけませんか?」


あゆみさんのお母さんは泣いていた。


「結衣、どうする?」


雪夜君が尋ねてきた。


「もう二度とこんなことはないと、本当に約束できますか?」

「はい。」


あゆみさんのお母さんの顔は真剣だ。


「あゆみさんも同意してます?」

「……はい。」


あゆみさんは頷いた。一応しおらしく見えるけど、本当に納得してるかは怪しいなあ。後からまた謝罪を要求してきたりして。


「今回は警察に訴えるのだけはやめておきます。雪夜君、それで良い?」

「結衣が警察に訴えないならそれでいいけど、オレは中学の方には訴えますからね。こういう事件を起こしている要注意人物だって。」


内申点は絶望的だろう。あゆみさんのお母さんは小さく頷いた。


「本当に、申し訳ありませんでした。こちら、結衣さんのお洋服のクリーニング代です。」


クリーニング代よりはるかに多くのお金を握らされた。私はその中から正規のクリーニング代と同額の金額だけ抜き取ってあとは返した。


「ゆするつもりはありません。口止め料も結構です。クリーニング代だけ頂きます。」

「は、はい。」


あゆみさんのお母さんは大人しくお金を引っ込めた。ただし喫茶店の飲食代だけは私の分も払ってくれた。まあ前回、あゆみさんの分も私が払ったしね。帰り際、喫茶店の店員さんに「申し訳ないが、もう来ないでくれ」と言われた。色々ごめんね。

あー、おお急ぎでクリーニング出さなきゃ明日の学校に間に合わないよ。私は雪夜君に送られて家まで帰った。雪夜君は大いに凹んでいた。「オレ結衣を守れなかったよ…情けない。」って。「雪夜君はいつも私を守ってくれてるし、今回もすごく頼りになった。」と言ったけど、重い溜息を何度も吐きだしていた。



後日、あゆみさんが四国にある母方の実家に引っ越した事を聞いた。転校したのだ。あゆみさんのご両親はあゆみさんと雪夜君を物理的に遠ざけてしまう作戦に出たらしい。あゆみさんがお金をためてこちらまで押し掛けてきたりしない事を祈る。



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