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「私、料理には自信あるのよ?あなたはどの程度なの?」

「あゆみの料理だって雪夜君は喜んでくれるはずですぅ。」


空手道場で稽古が終わり、雪夜君を待っていると、雅さんとあゆみさんの声が聞こえてきた。何か料理の話をしているけどなんなのだろう。汗を拭きながら雪夜君が二人の取り巻きを連れてやってきた。


「雪夜君、お疲れ様。はい、差し入れ。」


当然だが差し入れは他の皆さんにも渡してある。


「ありがとう。」


雪夜君はレモンの蜂蜜漬けを口に含んだ。


「あれ?今日はちょっと味が違うね?」

「今日はロズマリーの蜂蜜を使ってみたんだ。フレンチトーストとかにかけると美味しいらしいよ。口に合わない?」

「ううん。これも美味しい。」


雪夜君はにっこり笑った。雪夜君の味覚は結構鋭い。ちょっとした変化でもすぐ気付く。料理のし甲斐があっていいんだけど、失敗したらそれもすぐ気付かれちゃうだろうから要注意だ。


「朝比奈さんもどうかしら?」


雅さんが冷徹な目で私を見つめ、問いかけてくる。


「えっと。何がですか…?」

「もう秋だし、紅葉を見に行こうと雪夜君を誘っているの。私は雪夜君にお弁当を作って行くつもりなんだけれど。朝比奈さんも一緒に行きたいかしら?」

「あゆみも作るぅ。」


何と言う事!雪夜君とのデートに私も誘うなんて天変地異の前触れか!?これって私が行かないって言ったら雅さんとあゆみさんと雪夜君の3人で行くっていう事?ええ?行くよ、行く行く!私だけ出遅れるとかごめんだよ!


「っていうか、オレはまだ行くって言ってないんだけどね。」


雪夜君がはぁと溜息をついた。あれ?本人未承諾で話が進んでるの?雪夜君が行かないなら意味ないよ。


「なんでそんな話になってるの?」


雪夜君はレモンを齧りながら説明してくれた。


「去年、オレは遠足で山に行ったらしいんだけど。一緒の学校だった友達が紅葉が綺麗だって言ったら藤森が行きたがって神崎さんも便乗した。」


ああ、綺麗だったよね。雪夜君から貰った写メを思い出す。でも山かあ…登るの?体力に自信が無い私はちょっと引く。


「結衣も行きたい?」

「んー…登山かあ…」

「結衣は登山あんまり好きじゃないんだね。やっぱりやめておこうか。」


私の渋い顔色を見て雪夜君が言った。うん。正直デートなら山以外がいい。


「待ってちょうだい。確かあそこの山は最初はちょっと歩くけど山頂までロープウェイが通っていて、歩いて登らなくても山頂まで着けるはずよ。それならいいんじゃなくて?」


雅さんがしきりにデートに誘う。何故私を連れていきたいのかよくわからない。いつもならばここぞとばかりに排除してくるはずなのに。


「神崎さん詳しいですね。」


雅さんは明らかな侮蔑の視線を送ってくる。


「私の小学校も同じ山に登ったのよ。」


へえ。私の小学生の時どうだったっけ…あんまり覚えていない。


「確かに登らないで済むのなら良いかもしれないけど…皆は登りたいんじゃないの?」


雪夜君をちらっと見る。登山って自分の足で歩いて登るのが醍醐味なんじゃないの?雪夜君の返答はさらっとしていた。


「別に登りたくないけど…」


あれ?


「じゃあ決定ね!山に行ってロープウェイで山頂まで行って景色を眺めながらお弁当を食べる。」


雅さんがパンと手を打つ。別に雪夜君は山に行きたいとは言ってないけどな。いいのかな?雪夜君を見ると諦めたような顔をしている。二人とのデートっていつもこんな調子なんだろうか。そう言えば私からデートに誘った時「どこ行きたい?」って聞いたら驚いてたな。


「雪夜君のお弁当はあゆみが用意してあげるねぇ?」

「あら、私も用意するわよ。料理には自信があるの。朝比奈さんももちろん作ってくるわよね?どんな低レベルなお弁当を用意してくれるのか楽しみだわぁ。」


雅さんがせせら笑った。

なるほど。雅さんの狙いが分かった。3人揃ってお弁当を作らせて、その中で自分が飛びぬけて料理上手な事をアピールし、他の二人をこき下ろすつもりだ。以前作ってもらったカルボナーラも美味しかったけど、雅さんは相当料理上手と見ていいだろう。

強敵か。メニュー何にしよう…



プチ遠足日。山まで行くバスのバス停で待ち合わせした。ロープウェイ利用なのでそんなに歩かないかもしれないが、ロンTとパーカー。ショートパンツと厚手のカラータイツにスニーカーとリュックだ。朝しっかりお弁当を作って荷物を用意した。普通の装備プラス去年のクリスマスに雪夜君から貰ったカメラを持っていく。待ち合わせ場所に行くと雪夜君とあゆみさんが来ていた。雪夜君はインナーとパーカーにデニムパンツ。ボディーバックを背負っている。あゆみさんは可愛いピンクのスカート姿だった。お弁当が入っているだろう大きな手提げかばんを持っている。山に行くんだよね…?


「結衣、おはよ。」

「おはよう、雪夜君。」


しばらく会話する。私と雅さんを待っている時、バスに乗るおばあさんに「可愛いカップルだわねえ」と言われたんだとあゆみさんが自慢していた。確かにあゆみさんと雪夜君だと丁度良いカップルに見えるんだよねえ。いいなあ。私もあと4歳若ければ…でも結局桃花ちゃんと同じ学校で、ノートの事が無ければ雪夜君には見向きもされなかったか。あーあ。うまくいかないよ。

しばらく待ってると雅さんが来た。すっきりとしたパンツスタイルだがお洒落なシャツにカーディガン姿だ。大学にでも行くような大きな肩掛けカバンを持っている。…山に行くんだよね?


「雪夜君、お待たせ。では、行きましょう?」


私達は予定していたバスに乗り、山のふもとで降りた。ロープウェイが設置されてるところまではやはりちょっと登らねばならないらしい。まあ予想はしていた。雅さんはサクサク登り、後にあゆみさんが続く。私を心配しながら雪夜君が続き、私は最後でひいはあ言っている。山登り、しんどい。つらい。これのどこが楽しいのかさっぱりわからん。


「雪夜君、そんなどんくさ娘放っておいて早く来て!風景が素敵よ。」


雅さんはニッコニコだ。

何とかみんなが足を止めているところまで辿り着いて、雅さんが言っていた景色を見る。山のふもと近くに池があるのだ。紅葉の葉が池にはらりと落ちてとても綺麗だ。透明な池には紅葉の木々が映っている。確かに素敵な風景。


「まさに、風吹けば落つるもみじ葉 水きよみ 散らぬ影さへ底に見えつつ だね。」

「古今集?」


雪夜君が聞いてきた。さらりと当ててくるところがすごい。


「うん。凡河内躬恒だよ。」

「風流だね。」


雪夜君がにこりと笑った。雅さんとあゆみさんは面白くなさげだ。


「ちょっとした山すら登れない人が口だけは上手いのね?感心しちゃうわ。」

「賢しらぶってる人にろくな人はいないですよぉ~。」


うーん、この二人はきっと私が何をしても面白くないんだろうな。


「オレは結構好きだけどね、そういうの。」


二人がどう言おうと雪夜君がいいと言ってくれればいいのである。

二人はぶーたれたまま再び山を登り始めた。しばらく登っていると雅さんに追いつこうとして足を速めたあゆみさんが盛大にこけた。


「大丈夫?」


雪夜君が手を貸して立たせる。


「いったぁ~い!!」


あゆみさんの膝は擦り剥けて土が付いていた。あーあー。スカートなんかで来るから…そのスカートも土で汚れてしまっているし。


「もう最悪ぅ!」


あゆみさんが疳癪を起した。


「とりあえず傷を洗いましょう?土がたくさんついているから。」


とにかく追いついて、私はミネラルウォーターのキャップを開けて、傷口を水ですすいだ。沁みるようであゆみさんは痛そうだった。


「歩ける?」


雪夜君が聞く。


「……ウン。痛いけど頑張る。」


その根性は称賛に値するよ。あゆみさんを気遣いながら私達はロープウェイ設置個所まで登った。のろのろ移動していたので雅さんは非常に苛々していた。雅さん、誰もかれもがあなたみたいに体力あると思わないでよね。

ロープウェイから見る景色はとても美しかった。例えようもない立体感のある山々。山間やまあいに緑、黄色、赤の木々が立ち並び、色とりどりの風景を描いている。山道を登る人々が小さい粒のように見えた。どこからかピーヒョロローという鳶のような鳥の鳴き声も聞こえる。風雅だなあ。


「きれい。」


私は窓の外に見惚れていたがふと雪夜君を見ると、びったりと雅さんとあゆみさんにはりつかれている。3人とも窓の外の風景など全く見ていない。もったいないなあ。

同じロープウェイに乗っていたおじいさんが「別嬪さんを二人も連れていていいのお」と言って目を丸くしていた。あ、私さりげなく取り巻きから除外されてる?

とりあえず雪夜君から貰ったカメラと、携帯のカメラ両方で撮影をしておいた。写メの方は里穂子ちゃんと、雪夜君のご家族に送るんだ。インスタントの方はぺらりと写真が出てきたので映像が浮かび上がるのを待つ。あとで文字を書いて今日の記念にしよう。私は最近アルバムを作っている。出来れば山頂に着いたら紅葉を背景に雪夜君とツーショットとか撮りたいんだけど、それを雅さんとあゆみさんが許してくれるかどうか。うーん。

雪夜君が雅さんとあゆみさんに囲まれてあれこれ言われているうちに山頂に着いた。

昼食にはまだちょっと早いので辺りを散策。山頂は結構開けているというか、整備されている。最近の山ってこんな感じなの?お弁当作ってきたは良いけど、食べる所なかったらどうしよう、などと考えていたので拍子抜けした。ところどころでレジャーシートを広げている人々が目につく。人々がくつろいでる所からちょっと離れてみると、赤く染まった紅葉や、名前のちょっとよくわからない赤い木の実などが可愛い。トンボが我が物顔で飛んでいる。秋だなあ。雪夜君と写真…撮れないかな?雪夜君をちらと見てみる。ぱちっと雪夜君と目が合った。にこっと笑ってくれる。…かわいい。両腕に雅さんとあゆみさんをくっつけているが。私はそっと雪夜君に近付いた。


「あのね、雪夜君。あっちで一緒に写真撮らない?」

「いいよ。」

「あ、あゆみもぉ!雪夜君とツーショット撮りたぁい!」

「私も雪夜君と写真が撮りたいわ。」


全員ついてきてしまった。良さそうな紅葉の背景を探して、それぞれ雪夜君とツーショットを撮ることになった。雅さんの写真を私が、私の写真をあゆみさんが、あゆみさんの写真を雅さんが撮る。


「上手く撮れてなかったら許さないわよ!」


雅さんに脅されながらツーショットを撮るが、気に入らなかったらしく3回撮り直しさせられた。紅葉と自分たちがアップで写るように、とか周りの雑草は写らないようにとか細かい注文付きで。デジカメなのでその場で見られる。

次に私と雪夜君の写真だ。その場で写真が出てくるので、編集はできないが、撮り直しは可能だ。相当変な写真じゃなければ撮り直したりしないけど。パシャリと一枚写真を撮られると、雪夜君が「もう一枚撮って。オレも欲しいから。良い?結衣?」と聞かれた。もちろん「良いよ」と答えた。あゆみさんにもう一枚撮ってもらう。

最後にあゆみさんの写真だが、あゆみさんが持ってきたのは使い捨てのインスタントカメラだ。雅さんがにやにや笑いながら撮影した。おいおい、ちゃんと撮れてるんだろうな?

雪夜君と雅さんとあゆみさんとリンドウやリュウノウギクなど秋の野草を見てあれこれ言い合った。この場に四月朔日君がいれば盛大な花言葉蘊蓄が聞けたことだろう。ちょっと聞きたい気もする。


「そろそろお弁当にしましょう。」


雅さんの音頭でレジャーシートを広げる。4人ともそれぞれレジャーシートを持ってきていたので接合するとかなり広い面積が取れた。雅さんとあゆみさんと私はお弁当の用意をする。雪夜君はお弁当を持ってきていないので見てるだけ。うー…ドキドキする。皆どんなお弁当持ってきたんだろう。

それぞれがお弁当箱を開く。


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