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暴力表現ありです。ご注意ください。
空手道場で差し入れタイムが終わり、雪夜君が着替え終わるのを待っていると、4人組の門下生に囲まれた。皆、私服に着替え終わっているので胴着姿ではないが、流石に何度も通っているので顔を覚えている。門下生たちはいつもは無言で私を威圧するだけだが、今日はそれより剣呑な雰囲気である。攻撃に出る前の野生獣のような雰囲気である。どう考えても危ない。私はさっと身を翻して逃げようとしたが、腕を引っ張られた。大声で叫ぼうとしたら腹部に拳が入ってきた。それから記憶が無い。
ばちんと頬を叩かれて目を覚ますと薄暗い竹林の中だった。私は腕を縛られてガムテープを口に貼られている。周りには4人組の門下生たち。頬がびりびりと痛みを訴えてくる。ああ、眼鏡も手荷物も無くなっている…ここがどこかも、あれからどれだけ時間がたったのかすらわからない。
門下生は冷酷そうな顔で私を見下ろしている。
「お前。もう七瀬に近付くな。」
「雅さんの邪魔をするな。目障りなんだよ。」
蹴りが私のお腹に入る。ぐえっとえづくが口にはガムテープが貼られているので声にならなかった。
「もう二度と邪魔しないと誓うか?」
「七瀬に近付かないか?」
私は首を左右に振る。そんなこと誓えるはずがない。私は雪夜君を諦めないと誓ったのだ。
「お前なんて七瀬が好きだと言いながら雷牙と寝るような尻軽のくせに、よくも雅さんの邪魔ができたものだな?」
私は雷牙君と寝たりなどしていない。抱きつかれたのだって向こうの策略だ。言ってやりたいのに、ガムテープが貼られた口では何も言えず、うなり声しか出なかった。
「七瀬と七瀬の家族を騙しているそうじゃないか。」
騙してなんかいない!
「雅さんがそれでどれだけ悲しんでると思ってるんだ!」
「雅さんは見た目は凛々しいが、とても可憐な人だ。七瀬と温かい家庭を築くことを本気で夢見ている。それをお前がぶち壊しているんだ!」
それは私だって一緒だ。雪夜君と一緒にいたいし、将来は結婚だってしたい!一方的な事を言うな!私はキッと睨みつける。
「なんだその目は?」
がっと蹴られた。私は気が遠のきかけるが、一人が私の頭にペットボトルのお茶をかける。
「寝るな。雅さんの苦痛の一欠片くらい味わえ。」
「雅さんは、七瀬が自分の事を愛しているのにお前が脅しているせいで、言動に移せないと言っていた。七瀬を脅すような卑劣なまねはやめろ!」
そんなことしていない!雅さんが勝手に言っているだけだ!
「七瀬に近付くのをやめるか?」
「雅さんの邪魔をしないか?」
私はまた首を左右に振った。私は絶対に諦めない。雪夜君が好きなんだ。ここで死んだって諦めない。またお腹を蹴られる。
「まあ、お前みたいな尻軽にどこまで効果があるか分からんが、もう嫁には行けないと思うくらいには穢してやろう。」
「本当はお前のような淫乱使うのも嫌だがな。まあ便所だと思ってやるよ。」
突然びりっとワンピースの胸部分が破かれた。中にはキャミソールを着ていたが、それも破られる。ピンク色の下着が露出する。
別の男が足元をまさぐる。慌てて蹴ろうとするが足を押さえられてしまった。スカートの中に手が入ってきて太股を撫でる。シャッターが切られる。撮影しているようだ。
怖い!
全身に恐怖が駆けめぐる。ここで犯されるんだ。血の気が引く。犯されたら…雪夜君はどう思うだろう。見限られる?ううん、雪夜君は優しいから見限ったりしない。でもこれが自分のせいだと自分を責めて距離を置こうとするかもしれない。雪夜君と離れるのなんて嫌だ!雪夜君以外にこういうことされるのも嫌だ!私はじたばたあがいて殴られた。
「こっちです、七瀬君!!」
雷牙君の声がした。顔を向けると慌てて走ってくる雷牙君がいる。
「何しに来た、雷牙!」
雷牙君が思いっきり殴り飛ばされる。
「結衣!」
雪夜君の声だ。
「雷牙、ここは良いから警察呼んで!あと、救急車!」
雪夜君は強かった。走ってきたままの勢いをつけて顔面にジャンピング膝蹴りで一人目。相手の拳を腕ではじいて反対に拳を入れる。拳拳蹴り、間に割り込んで来たもう一人を引っ掴んで背負い投げ、相手は勢いよく竹にぶつかって動かない。拳を入れてきたもう一人におもいっきりハイキックの回し蹴りで昏倒させる。最後の一人は足を払いあげて体を浮かせたところに腹を全体重と勢いをかけて踏みつけた。雪夜君の空手だけに括られない異種格闘技の強さだ。
「結衣!!」
雪夜君が全員を昏倒させると慌てて私のもとへ駆け寄ってきた。口にはってあったガムテープを慎重にはがしてくれる。
「ゆ、雪夜君…」
助かったんだ…私、犯されないですんだ…雪夜君が私を縛っている縄目を探っている。
「ごめん、縛られてるけど、紐の結び目がきつくて解けない。刃物はもってないし。すぐ警察が来ると思うからちょっと待っていて。」
「うん。」
雪夜君が私に上着をかけてくれる。そう言えば下着丸出し状態だった。下着まで破られなくて良かったけど。
「あの…写真、撮られたみたいなの…」
「写真?」
雪夜君が辺りを探してカメラを回収してくる。デジカメだ。確認すると、胸元が下着丸出し、ロープで腕は縛られており、スカートの間に男の手が入りこんでいる写真が現れた。
「写真、消した方がいい?」
雪夜君が遠慮がちに尋ねてくる。こんな姿誰にも見られたくはない。でもこれは犯罪の証拠写真だ。強姦未遂罪になるのかな?それとも蹴られたし傷害罪?後からやってないとシラを切られるのはご免だ。
「それ、証拠写真なんだよね。ならそのままでいい。下着姿だけだし…水着だと思えばセーフ…かな?」
雪夜君がぎゅうっと私を抱きしめる。
「ごめん。本当にごめんね。オレのせいでこんなことに巻き込んで…どう謝ったらいいか分からないよ。本当にごめん。」
肩に温かい滴が落ちる。雪夜君の涙だ。あの雪夜君が泣いてる…「結衣、結衣」と私の名前を呼びながら。胸の中に温かいものがこみ上げる。
「雪夜君。謝らなくてもいいから一つだけお願い聞いて。」
「…うん?」
「私を遠ざけないで。雪夜君が私を嫌いになったからって言うならいいの。でも雪夜君の傍にいると私が危険だからとか、そういう理由では私を遠ざけたりしないで。私は雪夜君の傍にいたいの。何があっても。」
「でも、次は間に合わないかもしれない。」
「それでも離れたくない。」
「わかった。……守るよ。必ず。」
雪夜君はそっと私の髪を撫でてくれた。遠くからはサイレンの音が聞こえてきている。
警察の人に縄を解いてもらい、救急車に乗って病院へ搬送された。連絡を受けて慌てた家族もやってきた。唇を切って、お腹と顔に痣がある以外は異常はなかった。産婦人科の方も検査するか聞かれたので「いりません!何もありませんでした!」と言っておいた。これってもしかして後から風評被害あるんじゃないの?やだなあ。
雪夜君は付き添いたそうだったが、雷牙君と共にパトカーの方に乗って行ったので、その後がわからない。
翌日朝からやってきた雪夜君はうちの両親に土下座した。
「お嬢さんを危険な目にあわせてしまって申し訳ありませんでした。」
玄関で地面に額を擦り付けている。当然うちの両親は困惑した。
「まあ、まあ、雪夜君、頭を上げて。雪夜君のせいと言う訳ではないんでしょう?」
「だがなあ、今後も結衣が危険な目にあうとしたら、ちょっとお付き合いは考えた方がいいかも知れんぞ?」
「お父さん勝手な事言わないで!雪夜君、頭を上げて?」
雪夜君は額を擦り付けたままだ。
「勝手な事を言って申し訳ありません。こんなことになっても…オレ…私はこれからも結衣さんとの交友を続けたいと思っているんです。申し訳ありません!結衣さんと離れたくありません!」
雪夜君は交際ではなく交友と言った。それは記憶が無くて誰と付き合っていたかが定かでないからだろう。でも雪夜君ははっきりと私と離れたくないと言ってくれた。
「結衣も雪夜君と離れたくないのか?」
「勿論!雪夜君が嫌だって言うまで雪夜君と一緒にいるつもりだよ!」
お父さんは肩をすくめた。
「雪夜君、冷えるだろう。中に入りなさい。ほら、頭を上げて。」
お父さんに言われてやっと雪夜君は頭を上げた。額にはゴミが付いていたので私がハンカチで軽く払った。
「結衣、ありがと。」
雪夜君は居間へ案内された。お母さんが緑茶を入れる。今日は何も作ってないのでお父さんの好きなお煎餅が出てきた。お父さんはズズズとお茶をすする。
「で?昨日は何がどうだったのかね?」
お父さんに促されて雪夜君が話す。雪夜君は着替えて私を迎えに行ったところ私がいない事に気がついた。しかも荷物が置きっぱなしにされている。どういう事かと思い周囲を探して回っているところを慌てた様子の雷牙君に呼び止められたと言う。雷牙君はよく見えなかったが多分私だと思われる人物が裏手の竹林の方に担がれていくのを見たらしい。それでとりあえず雪夜君に知らせたそうだ。二人で竹林の入口に行くと私の眼鏡が落ちていた。これはもう間違いないと言う事で二人で竹林の中を探しまわり、後は私を見つけてご存じのとおりと言う訳である。
「そうかい。それは大変だったね。よく結衣を見つけてくれた。その雷牙君?と言う子にもお礼を言わなくてはいけないね。」
雷牙君……私を陥れて以来全く交流を持ってなかったけど、私の事探してくれたんだ。私は複雑な気持ちだ。
「でも雪夜君強いのねえ。4人も相手に…」
お母さんが感心している。
「あれくらい大したことないです。」
雪夜君が謙遜する。大したことあったよ。すごい強かったもん。4人とも雪夜君より体格良かったのにあっという間に倒しちゃって。
「雪夜君、その空手道場は…」
「辞めます。」
雪夜君はあっさり言った。
「え!?辞めちゃうの!?」
だってこんなに強いのに…でも雪夜君の目には強い決意の光がある。
「確かに強くなりたいという気持ちはあります。途中で辞めるのは悔しいです。でも結衣さんを危険な目に合わせるような所、通う気がしません。」
雪夜君…
「雪夜君。君が結衣の事を思ってくれているのは分かった。ありがとう。だが君の強さが廃れていくのはもったいないね。どうかな?私の恩師がやっている空手道場に通ってみないか?」
「恩師?」
「結衣、実はね、お父さんも昔、空手やってた事があるんだ。」
お父さんがにやっと笑った。お母さんもおかしそうに口元に手をやっている。
「ウソ!」
だって全然なよなよだし、今まで一度もそんな事言った事無かった!
「3ヶ月坊主だったがね。全く強くなってないが、どういうわけか恩師とは気があって、今でも時々飲みに行っている。恩師はもういい年だからね、今は息子さんが道場をやっているそうだ。雪夜君、どうかな?」
3ヶ月坊主って…それほとんど習ってないから!なんだよ、一瞬実は超強いスーパーお父さんを期待してしまったではないか。雪夜君を見ると嬉しげに眼を輝かせている。
「ご迷惑でなければ紹介していただけますか?」
「勿論。」
それからちょっと話もしたが、今日は警察に行かなければならないので手短に切り上げた。
今回の事件は傷害罪として取り扱われるそうだ。4家から示談交渉が来ている。刑事事件にすると面倒臭いので一応示談には応じるつもりだ。脅しに脅しまくってたっぷり絞りとってやるから覚悟しろ!何しろ事件の事を思い出しちゃって夜よく眠れない。最近体調が悪いし一人でいるとやたら不安になるのでメンタルクリニックに通っている。もしかしたらPTSDかもしれない。服も破られてたし、拾った眼鏡は壊れてた。顔と腹に痣もできたし。これではした金じゃ割に合わない。相手の提示する金額があんまりにも安い場合は刑事事件として告訴するつもりだ。
因みに雅さんは事件への関与を否定している。
私は雷牙君にお礼のお手紙を書いた。
ついに大事件。
雪夜君がガチ泣きしました。




