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いつもの電話。話の途中で勇気を出してデートに誘ってみた。
「ゆ、雪夜君がよかったら、都合のいい日、あ、会えないかな?」
これじゃあ、意味伝わらなかっただろうか…私はドキドキしながら返答を待つ。
「いいよ。土曜は予定があるから日曜でもいい?」
「う、うんっ!」
雪夜君とデートだ。わーい。
「雪夜君どこ行きたい?」
「え?オレ?」
決定権が与えられる事がさも意外だとでも言うふうに聞いてくる。雅さんやあゆみさんとのデートでは違うのかな?
「うん。」
「どこでもいいの?」
「うん?うん。」
海外とか言われたら困るけど、日帰りできるなら遠出でも大丈夫だよ。
「じゃあ結衣の部屋。」
「え?」
ユイノヘヤ…?え?……ええ!?わ、私の部屋!?私の部屋はデートスポットでもアトラクションでもないぞ!!?雪夜君が楽しめるものなんて何にも置いてないし。家に来てもウノくらいしかできないよ!!でも二人ウノってむなしい…。二人っきりでそんな所にいてもとても間が持たないんじゃない?不安すぎる!ト、トランプとかする?あ、オセロもあるよ。チェスとか将棋とかはルール知らないし。えーと、えーと…
「……ごめん。別の所で良いよ。」
私の沈黙を拒否と受け取ったのか雪夜君が言いなおしてきた。
「あ!違うの!私の部屋でも全然構わないんだけど……でも雪夜君が楽しめるような要素は私の部屋にはないなあ…って。」
私が言うと雪夜君はくすくす笑った。
「別にアトラクション的な何かを期待している訳じゃないよ?ただ結衣が過ごしてる空間を見てみたかっただけ。」
「前に雪夜君にはイメージと違うって言われたよ。」
「そうなの?ますます興味あるな。」
うーん。お姫さま仕様のこの部屋を見て幻滅、みたいなことにならないと良いんだけど。「雅さんやあゆみさんの部屋はどんなのなの?」とは聞けなかった。聞くのが怖い。うんと素敵な部屋かもしれない。
「じゃあ、私の部屋で過ごそう。時間はどうする?」
私は細かい時間と待ち合わせ場所を決めた。たまには私だって雪夜君を迎えに行きたい。
前日私は張り切ってケーキを焼いた。レアチーズケーキだ。甘酸っぱいブルーベリーソースをかけていただくやつ。雪夜君の好きなコーヒーにはちょっと合わないかもしれないのが難点。
当日はわくわくしながら駅まで雪夜君をお迎えに行く。胸元がボリューミーなフリルになっている白いシャツと黒いプリーツスカート。ミントグリーンのカーディガンを着用した。一応コンタクト。雪夜君と出会ってから以前にも増してコンタクト率が上がっているような気がする。眼鏡女子生きろ。
天候はあいにくの雨。激しい雨ではないがしとしとと降り続いている。じとじと鬱陶しい。早めに駅について改札口を眺める。私が雪夜君より早く待ち合わせ場所に来るのなんて初めてじゃなかろうか?予想していたのより一本早い電車で雪夜君は来た。雪夜君はベージュに焦げ茶の縦縞が入った薄手のカットソー素材ジャケットと臙脂のインナー、デニム姿だった。今日も格好良い。改札を出てすぐに私を見つけてくれた。
「結衣、待たせた?」
「ううん。全然待ってない。行こう?」
私の傘はくすんだ水色にデフォルメされた大きなバラが一輪入っている傘だ。雪夜君の傘は紺と白のストライプ。二人並んで歩く。傘を持っているので手は繋げない。もどかしい。
取り留めもない事を話しながら家へ案内する。鍵を開けて家に入る。雪夜君はお土産にお煎餅をもってきてくれてた。夜電話してる時にうちのお父さんは甘いものが苦手と言ったのを覚えていてくれたのだろう。
お父さんが喜ぶ顔を見せたかったが、残念ながら不在だ。今日は家族が誰もいないと伝えた。雪夜君はちょっと微妙な顔をした。彼女もどきと二人っきりで密室なんてちょっとぞっとしないよね。ごめん。襲ったりしないから安心して。
雪夜君を真っ直ぐ部屋に案内した。私の心臓は破れそうだ。私の部屋の家具は全てアンティーク調、白とライトグリーンを基調としている。小物も全て可愛らしいお姫様仕様だ。掃除はきちんとしているので汚れはないはず。雪夜君はどんな感想を持つのだろう。
「こう来たか…」
雪夜君は部屋の内装を見て呟いた。
「やっぱりイメージと違う?」
「ちょっと違うかな。でも……可愛すぎて困る。」
「えっ?」
「結衣、可愛い…もう、オレをどうしたいの?」
どうしたいって?どうしたい?質問の意味が分かりません。雪夜君はその場に蹲って頭を抱えた。
「ど、どうしたの???」
「……こういうの萌えって言うんだろうね。」
「えっ?」
「すごくドキドキする。」
言われた私がドキドキするわ。取り合えず部屋は気に入ってもらえたらしい。良かった。幻滅とかされなくて。雪夜君にソファを勧める。
「昨日ね、レアチーズケーキ作ったの。でもコーヒーはあんまり合わない気がするんだけど、飲み物何がいい?」
「じゃあ、紅茶。結衣のおススメでお願い。」
紅茶はキーマンに決めた。ストレートでもミルクでも美味しい。レアチーズケーキを用意して部屋に運んだ。雪夜君は物珍しげに部屋の中を見回している。
「なんか面白い物あった?」
「うん。この本、オレも読んだ。結構面白いよね。」
本棚の一冊を指して言う。最近お気に入りの小説だ。ジャンルは探偵もの。雪夜君といつどこで犯人に気付いたか、とかあそこで伏線があったとか話している。本の話を広げるとかなり趣味が合った。漫画も趣味が合う。会話の端々に色んな本の小ネタを挟んできて楽しい。私が知らなくて、好きそうな本の事とかも教えてもらった。今度読んでみようっと。雪夜君はレアチーズケーキを食べて驚いていた。かなり美味しかったらしい。驚く顔はちょっと子供っぽくてかわいい…
あれこれ話しは尽きなくて、紅茶も3杯おかわりを注いだ。ケーキも二切れずつ食べた。どうなる事か不安に思っていたお家デートだったけど大満足の結果だ。
雪夜君が私が腰かけているベットの上に片手をついてギシッと体重を乗せて近付いた。どこがとは言えないが、なんだか不穏な雰囲気だ。
「結衣。求められたからって、家人がいない日にオオカミさんを部屋に招くとぺろりと食べられちゃうよ?」
雪夜君の綺麗な顔がゆっくりと私に近付いてくる。雪夜君はすっと耳から頬に手をなぞらせた。その感触にぞわりと肌が粟立つ。吐息が届くほどの距離。ドキドキと胸が高鳴る。雪夜君がそっと目を細めた。私はきゅっと目を閉じる。
……むにーっと頬をつままれた。
「ふふふ。油断しないで?迂闊に他の人を家にあげたらダメだよ?」
「ひゃい。」
うわー!!キスされるかと思った!!キスされるかと思った!!勘違い!勘違い乙!思い上がりも程々にしろよ、私!!
雪夜君のこの行動はどう解釈すべき?私が無防備すぎるからちょっと脅かして注意してくれたのかな?結構本気でドキドキしてしまったんだけど。ゆ、雪夜君になら色々されちゃってもいいかも…なんて私の脳内はお花畑だ。
記憶なくして遊びに誘われていきなり自室を要求する男ってどうなの?実は雪夜君も行きたいけど断られるかもしれない葛藤をしていました。結衣ちゃんはよく自室に呼んでたので、危機感的な意味なら全く覚えていませんでしたが。




