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本当に蛇足でしかないお話なのでその辺を注意してください。
イチャイチャラブラブするだけのお話です。
告白から2カ月近くたった。雪夜君は中学一年生になった。春休みをイチャイチャ過ごし、中学生になった時、正式に恋人としてご家族に紹介された。雪夜君のご家族には拍子抜けするくらい快く迎え入れられて戸惑ってしまった。うちもドキドキしながら家族に恋人として雪夜君を紹介し直した。妹はやっぱり…という顔で呆れてた。母はまずまず歓迎。父は戸惑っていた。雪夜君の本気度が心配らしい。とは言ってもまだまだ交際し始めたばっかりなので両親は結婚とかそういう事までは考えていないらしく「まあ、付き合ってみれば?」くらいのノリである。
ゴールデンウィーク。今日はデートだった。ぶらぶらお買い物デートして、帰りに食料品買って雪夜君の家でお夕飯を一緒にするはずだった。夕食を典子さんと一緒に作る約束で私は少し浮かれていた。雪夜君は右手に今日買った衣料品、左手に食料品を持って少し狭い歩道の前を歩いている。私は今日買った靴などが入った紙バックを抱えてその後ろを歩いていた。
私が交差点に差し掛かった時、気が付くと乗用車が信号を無視して突っ込んで来るところだった。まるでブレーキを掛けてない。
避けられない。
今回も交通事故エンド?
一瞬で考えられたのはそれくらいだった。その次の瞬間、私は後ろに大きく突き飛ばされていた。雪夜君が荷物を全部放り出して両手で私の体を突き飛ばしたのだ。目の前の車が雪夜君の体を撥ね上げる。雪夜君の体がボンネットに転がり、車の上を通って後ろ側に落ちる。車は最後まで止まることなく走行していった。私は突き飛ばされて尻もちをついた状態で茫然とそれを見ていた。上手く頭が働かない。雪夜君はピクリとも動かない。
「キャー!!轢き逃げよー!」
「早く救急車!!」
周りが一気に騒がしくなる。私は動けなかった。
「おい、ねーちゃん、大丈夫か?」
そう肩を叩かれてゆるゆると声を掛けられた方を向く。心配そうなおじさんが私の顔を覗きこんでいる。
私はその声に頷いたかもしれない。頷かなかったかもしれない。自分ではよくわからないのだ。
「ゆきや君…?」
よろよろ雪夜君の所まで歩く。雪夜君は目を閉じたまま頭から血を流している。
どうしよう。雪夜君が…
ザザザと音を立てて脳天から一気に血の気が引くのが分かる。
「ねーちゃん、安心しろ。頭は切ってるみたいだが、ちゃんと生きてる。」
辛うじてその言葉が頭に届いて正気でいられた。私は雪夜君の傍らに座って救急車の到着を待った。
救急車は到着すると雪夜君を乗せた。辺りの人に事情を聞くと慌てて私の事も乗せた。いくつかの病院に連絡を取り、受け入れ先の病院が決まった。私は何もできずに雪夜君の顔を見つめるだけ。病院に着くと雪夜君は処置の為運ばれていった。私は病院の人に聞かれるがままに状況を回らない舌で説明すると、念のためという事で状態を検査された。私はどこにも異常はなかった。尻もちをついた拍子に落っこちて荷物の下敷きになった眼鏡は壊れたけど。
しばらくベッドに横になっていると、雪夜君の家族の連絡先と私の家族の連絡先も教えておいたので家族がやってきた。父はまだ帰宅していなかったようで母と妹の麻衣のみである。むくりと上半身を起こす。ちょっとぼやける視界で母を見る。
「結衣、大丈夫なの?」
母が心配そうに聞く。
「…雪夜君は?」
「今処置してるみたい。まだ状態は分からないわ。」
私はじっと布団の上を見た。雪夜君轢かれちゃった。私なんかを助けて轢かれちゃった。死んじゃったらどうしよう…生きてても、もし重い障害が残ったりしたら雪夜君の人生はめちゃくちゃだ…
視界が滲む。
雪夜君のご両親にお詫びしないと…でも顔向けなんてできない…
ぽたぽたと布団の上に雫が落ちる。
「結衣…」
「雪夜君がぁ…ゆっ、雪夜君っ……雪夜君っ…」
私は絶えず零れてくる涙を掌で拭いながら雪夜君の名前を呼び続けた。
母が無言で私の背を撫でてくれた。
私はずっとすすり泣いていたが、気が付くと泣き疲れて眠ってしまっていたようだ。不自然な体勢で眠っていたようで体に痛みを感じる。
「…ゆきやくん…」
「朝比奈さん、起きたの?」
私の呟きを聞きつけて仕切られていたカーテンが開いた。
月絵先輩がいた。
「つきえせんぱい…雪夜君は?」
「ユキなら大丈夫よ。あちこち打撲してるし、頭も打ってるみたいだけど。命には別状ないし、脳波も大丈夫だって。今はまだ眠ってるわ。朝比奈さんが気にしてるかもしれないと思ってお邪魔したんだけど…夜中に迷惑だったかしら?」
雪夜君は大丈夫!
命に別条ない!
良かった…良かったよぉ…
「あ、ありがとうございます、月絵先輩。雪夜君が大変な時に寝ちゃって…その、すいません…私のせいで雪夜君に怪我させちゃってごめんなさい。ご、ご両親にもお詫びを…」
「あら?悪いのは撥ねた車の運転手よ。朝比奈さんは悪くないわ。それにユキだって惚れた相手の事くらい守れなきゃ、そっちの方が後悔するわ。私はユキが起きたら良くやったって誉めてあげたいのよ。」
「で、でも…」
「謝らないで。朝比奈さんが無事で本当に良かったわ。怖かったでしょう?」
月絵先輩が私の髪を指で梳く。
「…轢かれそうになった時は何が何だか分かりませんでした。でも頭から血を流してる雪夜君を見たら、こ、怖くて…このまま、このまま、死んじゃったらって…」
私はまた泣き出した。月絵先輩はそっと頭を抱き寄せてくれる。
「うん。怖かったわね。二人とも生きてて良かったわ。ユキが目が覚めたら会ってあげてね?」
「は、はい…」
雪夜君は大丈夫だと分かったのに私はボロボロ泣いてしまった。
翌朝、非常識ではない時間帯を待って雪夜君の病室に行った。そこには眠る雪夜君とご両親と月絵先輩と桃花ちゃんがいた。
「おお、結衣さんか。良く来てくれた。もう起きて大丈夫なのかい?痛い所はないのかね?」
伸一さんが心配そうに迎えてくれる。
「あ、はい、私は大丈夫です。雪夜君は…?」
「それがねぇ、まだ眠ったままなのよ。憎たらしいくらい健やかに寝てるのよ。顔見る?」
典子さんが困ったように笑う。
「はい。」
雪夜君は眠っていた。布団の胸元が静かに上下している。頭の一部には包帯が巻かれているが、それ以外はそれほど大きな怪我をした様子はない。顔色も良く、今にも目覚めて笑いかけてきそうだ。
大丈夫なんだ…
なんだかそれが実感できてちょっと力が抜けた。
私は雪夜君のご家族に振り返る。
「あのっ。す、すいませんでした…わ、私のせいで雪夜君が怪我しちゃって…本当に申し訳ありません…」
90度頭を下げる。本当は土下座したいくらいだ。
「もう、朝比奈さん、謝らないでって言ったでしょう?」
「結衣ちゃん、結衣ちゃんは何も悪くないわ。謝る必要なんてないのよ。」
「そうとも。それに雪夜が結衣さんを守れて私は誇りに思う。これは雪夜が望んでやった事だよ。結衣さんに落ち度はない。」
月絵先輩も典子さんも伸一さんも私を責めない。私は痛む心がどこへ向かっていいのか迷走する。桃花ちゃんが握りしめられていた私の手を取る。
「結衣ちゃんがそうやって『自分のせいだ…』って思ってるとユキが悲しむと思う。ユキが目を覚ましたら、できれば笑って『ありがとう』って言ってあげて。きっとそれが一番喜ぶから。」
はっとした。私を責め続けることは私の罪悪感を薄めるためのただの自己満足だ。私は雪夜君の気持ちを考えなくてはいけない。身を呈してまで私を守ってくれたんだ。ちゃんとお礼言わなくちゃ…できれば、笑って。
私はずっと雪夜君の病室にいたが、雪夜君はまだ目覚めない。食事を勧められたが喉を通りそうになかったので辞退した。なんとか水分だけは摂る。
雪夜君が事故に合ったことはすぐに広まったらしく、夕方になる頃には病室に人が溢れた。ご両親、月絵先輩、桃花ちゃん、空手道場の師範と私くらいの年齢の娘さん、同級生の男女4人。…何故か睨まれるんだけど。こんなに室内に人がいたら病院の迷惑になるんじゃないかな。でも今帰るのはイヤ。他の人も同じ気持ちなのか病室から出る人はいない。
もう昨日事故があってから丸一日たとうとしている。雪夜君は目覚めない。
このままずっと目覚めなかったらどうしよう…
考えると心細くなる。
ぎゅっと雪夜君の手を握りしめる。
早く目を開けて、いつもみたいに「大丈夫だよ」って言って撫でて。
そうでないと…そうでないと…
眼鏡をしてない私の目の前はぐにゃぐにゃに歪んだ。
ぽたり、と雪夜君の手の甲に涙が落ちた。
「……泣かない…で?」
小さく掠れた声が聞こえた。はっと雪夜君の顔を見ると瞼を開けて灰色がかった瞳がこちらを見ている。
「!!ゆき…」
「雪夜君!!」
名前を呼ぼうとした瞬間、隣にいた道場の娘さんに突き飛ばされて椅子から落ちた。イタイ。道場の娘さんは私が握っていた雪夜君の手を取って感動のご対面を始めた。
「雪夜君が事故にあったって聞いて私、凄く心配したわ!もう食事も喉を通らなかったの。心配で心配でお父様と一緒に来てしまったわ。雪夜君の顔が見られて本当に良かった!今お医者様を呼ぶわね?どこか痛い?」
「…や、大丈夫だけど。」
雪夜君は起き上がって突き飛ばされた私を見ている。火がついたように喋り出した道場の娘さんに皆唖然としていたが、典子さんがハッと我に返って私を助け起こしてくれた。
「雪夜くぅん、あゆみもとっても心配した。雪夜君の目が覚めなかったら、今日泊まっていっちゃおうかと思ってたんだぁ」
道場の娘さんを両手で押しのけて同級生の中の焦げ茶色の髪をサイドワンテールにした美少女が話しかける。
「えっ?うん?……てゆーか、誰?」
「はっ?」
その場が凍った。
「だ、誰って藤森あゆみだよぉ。仲良しでしょ?どうしちゃったのぉ??」
「えーと…」
雪夜君は困った顔をしている。
「ゆ、雪夜君!私は!私は分かるわよね!?」
道場の娘さんがあゆみさんを押し返して雪夜君に迫る。雪夜君はちょっと身を引いた。
「神崎雅さんだよね?ちゃんとわかってるよ。」
道場の娘さん…雅さんはふふんと勝ち誇った笑みをあゆみさんに向けている。あゆみさんが悔しそうにぎりぎりと雅さんを睨んでいる。
「ユキ、まさかと思うけど朝比奈さんのこと誰だかわかんないとか言わないわよね?」
「朝比奈さん??」
雪夜君が首を傾げる。
胸の中に黒いしみが落ちた。
「…ぶっとばす。」
「月姉落ち着いて。なんか変だよ。ユキ、なんで病院にいるか分かってるの?」
月絵先輩目がマジでちょっと怖い。桃花ちゃんがとりなしてくれた。
「実はよくわかんない。明日は桃姉の入学式だよね?夜、お祝いしてケーキ食べたところまでしか記憶が無い。何か体中痛いし。」
桃花ちゃんは今高校2年生。入学式は一年以上前だ。いよいよおかしい。
お医者さんと看護婦さんが来た。様子がおかしい事を伝えると雪夜君は連れて行かれてしまった。
典子さんに今日はもう遅いから、と全員帰された。
お待たせしました。『ダブルムーン』の壮大な蛇足編『ハッピーエンドをもう一度』です。あんな盛大な告白しといていきなり記憶すっぽ抜けてじゃねーよ雪夜!って感じですよね。プギャーしてあげてください。あんまり期待はしないでお付き合いいただければ幸いです。




