Game.03 VS-Drive
また、朝が来る。
蛇口から落ちる一滴は、シンクにぶつかった。朝焼けに晒された銀は、思うよりも傷が多い。
乱雑に物が散らかるのは相変わらず。
「まあ、泥棒は勝手だ。どこに入り、金品食い物あの子のハート――何を盗もうが勝手だ」
その中に立つ、一人の男。
水のように低く涼やかな声が、埃舞う不衛生な空気を優しく振動させる。
眉間にしわを寄せて、両腕をかっちり組み合わせて仁王立ちする羽々斬が言い聞かせる相手は――。
「――だが、何故よりにもよってこの部屋を選んだ」
言うまでもない、昨夜の泥棒少女。
くわ、っと見開いた目が、ソファーに身を沈める彼女の姿を入れた。伸びた背筋は決してぶれず、膝に置かれた手が力なく開かれている。
彼の質問に口をつぐむ当人は、あっけらかんとした態度のまま無秩序な室内を見回した。
夢であれ、と願いを込めて眠れども、起きた時には彼女がいた。とんだボーイミーツガールだ。
受け入れがたい現実を前に、未だ曖昧模糊な認識を内包する額に手を当てる。
「いいか、ウチは残念ながらSP枯渇寸前なんだよ。つまり貧乏なんだよ、わかるか?」
「……………………」
少女は寡黙……というよりかは無口に近く、羽々斬が先ほどから何を語りかけても言葉を発することはない。
ずうっとこんな調子なものだから、ややもすると水を掻き切るほどに無意味な行為なのではないか。彼はそう考える。
だが、ストックしておいた食料を食い荒らされた怒りは、収まらない。故にこそ粘り強く事情を聴き取らんとする。それが繋がっていた首の皮一枚を切られた人間の、最低限の権利だとも思うからだ。
「おい、いい加減何か話してくれ」
「……………………」
依然、彼女は無表情、無口のまま首だけを動かして、何度も視界を切り替える。
揺れる髪の繊細さは、闇の中では決してわからなかったものだ。
彼の輪郭さえも蚊帳の外に放りそうな彼女が、何も持たぬ空を指差した。ようやく発生した明確なアクションを、彼は見逃さない。
「な、なんだ!?」
「……ハエ」
言った、確かに。
消え入りそうな声ではあったが、確実に「ハエ」と。そう言った。
そして彼女が指差す先には、無遠慮に小汚い羽音を撒き散らすハエが一匹。
「……それで?」
「ハエ」
尚もそういう彼女に対し、羽々斬は、ある疑問を投げかけた。
「それは、あれか? 俺なんかより、ハエの方が気になるってことか?」
「……ん」
頷きは、彼の堪忍袋の緒を盛大に切ってみせた。
「俺の存在感はハエ以下かッ!!」
「おっ」
びくっ、と跳ねる体。突然の大声に驚いたのだろう。そこでようやっと彼女の目は彼を入れることになる。
「答えろ! 所属校は!」
「……………………」
「名前は!?」
「……………………」
「ここへ来た理由は!!」
「……………………」
「何故、数ある部屋の中でここを選んだ!」
「……………………」
「俺への嫌がらせか!? なんか不幸せそうな雰囲気あるだろ! 幸薄そうな顔してるだろ俺!!」
「……………………」
「……ダメだ、自分で言ってて悲しくなってきた」
少女は口をすぼめて物珍しそうに聞いているも、やはり答えるようなことはしなかった。
上目が不思議と彼に突き刺さる。
「……もういい、とりあえず風紀委員に――」
「羽々斬くん、学校いーこーおー」
「…………ちっ」
チャイムを鳴らす主を、羽々斬は知っている。鬱陶しさに舌打ちを禁じえない。
超能力ではない。声――もそうだが、この尋常ではないしつこさのインターホンの押し方は、奴しかいない。
ピンポン。ピンポン。ピンポン。ピンポン。ピンポン。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。
ピピンポン、ピピピピピンンンンンポポポポポンンンンン。
「うっせえ!! 今行くわ!」
「…………?」
無言で小首をかしげる彼女へ、
「お前、俺が戻るまでここを動くなよ。絶対にだぞ」
そう念を押す。
「男子寮から女子が出てきたとこを目撃されてみろ……最悪退学だぞ、っと」
俯瞰を止める。拾い上げた鞄を右手に、竹刀を左手に。
「いいか、大人しくしてるんだぞ」
背を向け靴を履くと、地面につま先を数回ぶつける。小気味よい音が、室内に響いた。
「ああ、朝から疲れるってどういうことだよ……」
重い肩を動かして、ドアノブを手にした時だった。
「……いってらっしゃい」
「!」
「……………………」
「お、おう」
幻聴。
そう思える言葉に、特別気の利いた返しも出来ぬまま、彼は部屋を出る。
丸い目を、気付かれぬようにそっと戻した。
出てすぐの場所で待ち受けていた夜暗と「ああ」と、簡素な挨拶を交わす
「鍵、かけてるんだね?」
「俺だって、目につきゃそうするだろ」
『ぐうたらで家の鍵すらかけないお前が、今日に限って珍しい』
言葉の真意は、こうだろう。
陽気な笑顔に、彼はすげなく応じる。一歩床を踏むたびに伝わる足裏への刺激は、意識を完全に覚醒させるのに十分だった。
廊下という狭苦しい空間での声の通りは、大変によろしいもので。
「……彼女だったり?」
「ん、んなわけねーだろバカバカしい!!」
だから、こんな言葉でもすぐに伝播する。
「彼女だァ!? 爆発しろ!」
「おい、リア充がいやがるぞ!! 爆発しろ!」
「証拠を押さえて学校に提出だ! 爆発しろ!」
部屋から出てきた他の生徒たちは、心なしか殺意を帯びていた。
「……はぁ、もう嫌だ」
「あはは、大声出さなきゃ良かったのに。爆発しろ!」
「お前もか!!」
「で、あるからして……」
シャーペンが、暇なく駆ける授業中の教室。立つチョークの音で集中力の塊となった室内は、少しの悪ふざけも許さない――そんな雰囲気だ。
「社会との強烈な摩擦、非日常への憧れ、自己の可能性の探求、エトセトラエトセトラ――様々な理由を抱いて先駆者が訪れる方舟だけど、唯一、運営元であるNOAH自らが先駆者を招き入れるケースがある」
生徒は皆一様にノートを睨みつけ、手をその上で滑らせている。
「それが、災厄――そう呼ばれる存在を発見した時さね」
時として入る消しゴムの摩擦動作が、頭の整理を補助した。
「災厄とは、世界中へ災害レベルの被害を与える能力を持つ先駆者達のことであり、彼らはその力の凶悪さ故に、知る者から恐れられ――同時に、利用のために狙われる存在でもある」
教員が黒板をコンコン、と叩く。実に有意義なひと時。
(……美少女って、生息地はどこなんだ?)
そんな中で、彼はこんな事を考えている。
阿呆。その一言に尽きるだろう。おまけにノートは白紙ときており、余計に救いようがない。
折れかけのくたびれた面杖を修繕する。
(いや、だって、美少女だぞ。悔しいけど、とびきりの美少女じゃないか。話すの初めてなんだが。どうやって帰せばいいわけ?)
「NOAHは、そんな先駆者達を『保護』している」
「先生」と、挙手する生徒がいた。質問するらしい。
「災厄と呼ばれる生徒達に、戦闘義務は適用されるのですか?」
「ん、いい質問さね。答えは『されない』だよ」
(エサとかどう食べるんだろう……いや、人間なのか)
「災厄は、運営より戦闘を禁じられている。代わりに、月一で所属校より支給されるSPで生活の安定化を図ることができる」
教員が「そして」と接続詞を用いる裏では、シャーペンを無意識で触る彼の独白が展開する。羽々斬は、話を聞く気など毛頭ない。
「首には能力を抑制するための輪が付けられ、監視衛星によって二四時間体制で監視されている」
(ネットで『美少女 生息地』と検索したはいいが、結果は『もしかして:二次元』だったし)
「一般の住人は勝負を挑めず、災厄もまた勝負を受けられず。利用するのも大罪であり、『学生法』に違反する。そういった不可侵の構図を――」
「先生」――再び、教員を呼ぶ声が。それも、羽々斬が良く知る男の声。
「どした、夜暗」
「羽々斬くんが、女の子ばかり見て授業に集中してません」
「……は!?」
「よし、放課後に職員室」
「はあああ!?」
「戦いな」
水溜まりに雨粒が落ちる音――中途半端に低い声は、そのように表現出来るかもしれない。
あまりに突飛な担任の一言に、羽々斬はクエスチョンマークを頭上へ浮かべた。
授業に疲れるのは、生徒だけではない。
教員とて、疲労はするのだ。こうして放課後になっても働かねばならないのだから、ともすれば寧ろ生徒以上に疲れているのかもしれない。
コーヒーと紙が混じったような独特の匂いは、彼の意識を既のところで繋ぎとめる。職員室の目まぐるしい人の出入りの中で、うすぼんやりとしていた自己を覚醒させる。
「すいません、ちょっと何言ってるかわからないです」
「戦いな、と言ったんだよ」
「わからないな」
隣の夜暗を一瞥。した後に、眠気を宿した眼を中空に放るも、理解できない事に変わりはない。幾度反芻しても、だ。
だから彼は今一度、意志を表示する。
職員室に呼び出され、いきなり「戦え」などという支離滅裂な話もあるまい。いくら罰だったとしても、だ。
「もーっ、面倒だねぇ」
「いいかい?」と、言い聞かせるように、担任は話し始める。
時を同じくしてイスが回ると、担任の体はデスクから彼らの方へと向いた。
すると、スーツを着込んだ二十代くらいの茶髪の女性が彼らの目の前に現れた。手短に言い表すならば、美女という言葉が適当だろう。
鋭角的な目元に、艶やかな白桃を髣髴させる血色。均整の取れた魅力的な体型の中で、胸は激しく自己主張する。一般的に身につける者を細く見せる黒色も、彼女を前にすればかたなしである。
大胆に組まれた脚に、二人の男子は図らずも目を引かれた。
「実力テストさね、実力テスト。学力テストに続いてね」
「じ、実力テストだあ?」
担任は、口先で咥えていたボールペンの尻を、羽々斬に向けた。
「そう。被験者を限定した、先駆者としての実力試し――早い話が模擬戦さね」
が、当然羽々斬が飲みこめるはずもなく。
「おいおい、ふざけんなよ。それが授業を不真面目に受けていたことへのペナルティってか? いくら教師だからって、生徒バカにするのもいい加減に」
「違うよ」
羽々斬の言い分に言を重ねられ、やがて会話の主導権は彼女に渡る。
「ζ波の発生のみで、能力そのものの発現が見受けられない生徒は、どのみちこのテストを受けなきゃいけなかったさね。運営側の決定だよ」
返す言葉もない、といったふうに、彼が眉間にしわを寄せる。
「まあ尤も――本来は今日じゃなくても良かったんだけどねぇ」
「はあ? じゃあ、なんで」
「ここで、罰だよ。あんたの試験日程を前倒しにしてやったんだ」
「くっそ……それでも、この仕打ちはねえだろ……」
「場所は第三スタジアム、相手は着いてからのお楽しみさね」
歯を出し、ししし、と子供じみた笑いをする担任へ、羽々斬がある質問を投げかけた。
「あー……なあ」
「なんさね?」
「アンタは、あの件をまだ恨んでたりするのか?」
数秒の思考。
慌ただしく移ろう時の狭間で、彼女がどれだけのことを想起したか? わかりはしない。
彼女、鵜飼 雪絵は――本来ならば、羽々斬と知り合うことなどなかった人物だ。
しかし、彼の生みだした「因」に巻き込まれる「果」により、来るべくして来る存在と相成った。
彼の担任になるはずであった新任女教師は、羽々斬よりセクハラを受けてから、担任を降りる事を切望――そこで急遽代役として任されたのが、彼女であった。
教育者が子供に対し恨む――というのも杞憂とは思うが、彼なりの負い目のようなものも、ひょっとしたらあるのかもしれない。
そう考えたからこそ、こんな事を問いかけたのだろう。
「別に良かったとは思わないけど……恨むわけはないだろ、これが仕事なんだからね」
「…………」
「夢に向かい羽ばたいていく青少年らの勉学の手助けをする――こういうもんでしょ。教師ってのは」
鵜飼は、背もたれに全体重をかけた。そして羽々斬を仰ぐ。
「……まあ、毎晩寝る前に『死ねばいいのに』とは願うけどねぇ」
「がっつり恨んでんじゃねーか!!」
――広い。
最初にこの場を訪れた者は、皆決まってそう口にする。
前へ進むも、後ろへ退くも、右へ行くも、左へ行くも、それはそこに立つ者の自由である。
阻む物は何もない。途方もなく大きな空間は、空を丸く成形した。
もぎたてのオレンジのように丸く、瑞々しく、眩い輝きを放つ夕陽は、オーバルの器に湛えられる。
陽だまりの周りをぐるりと囲うのは、人だまり。
肌に伝わる熱気は、果たして見物人によるものか、この太陽によるものか。客席から来る騒々しさが、プレッシャーという形に変質して全身を痺れさせる。
羽々斬は聖鎧より移動し、既にスタジアムに立っていた――――。
夜暗と共に。
「えええええええええ?」
「『疑問で疑問でしょうがない』って顔してるね」
「そりゃそうですよ、なんで僕まで戦うみたいな雰囲気になってるんですか! 僕は普通客席でしょ!?」
「あんたも羽々斬と同じく、能力発現させられてないだろ?」
「の゛わっ……」
「ものはついで、強制参加さね」
短い、悲鳴じみた心の叫びが漏れると、夜暗は黙りこくった。
それを確認した鵜飼は腕を組み、二人に今回のテストについてあれやこれやと説明を行う。スタジアムのど真ん中で、全方向から受ける視線も構わずに。
「形式は2vs1の変則マッチ。倒すべき相手となる試験管は一人。制限時間は、代表戦と同じ六〇分。勝利条件は“相手を戦闘不能にする”こと。勿論殺しはダメだからね。あと今回は特例で、風紀委員から『SPを懸けない戦闘行為』が許されてるから――」
「いいや」
「?」
「懸けようぜ」
不敵な笑みでそう言ったのは、羽々斬。
「いいのかい? アンタ達もSPは多くはないだろ。特に二桁の方」
「名前で呼んどけクソ女ッ!!」
大きく息を吸って小休止を挟み、再び会話を続ける。
「――そっちのがやる気も出るし、2vs1っつー有利な状況で懸けない方が、俺からすりゃナンセンスって話なんだわ」
「……まあ、違いないね」
「なら、いいだろ。ポイントは懸けて戦うよう、先方に口利きしてやるさね」
上にでかでかと掲げられた巨大モニターが、俄然として大きな音を出す。鳥はそれに驚き、どこぞへと逃げ出した。羽が三人の眼前に、柔らかく落ちた。
「来たよ」――鵜飼の一声で、一気に緊張が走る。距離という地理的な問題の所為でもあろうが、客席は聖鎧の生徒よりも、興味で観に来た他校の生徒が多い。
だが、盛り上がりは十分。
試験官となる生徒が、白煙と共に現れた。
その姿を直視して、二人は愕然とした。
二メートルを優に超えるであろう身長の、まるで塔のような大男が出てきたのだから。その男は大衆の期待の声を全身に浴びて、三人の元へ歩み寄る。
「おい、今からテストキャンセル出来る? やっぱ無理だわ俺」
「頭痛が痛い、めっちゃ痛い。多分いま保健室いかないと死んじゃうかもです」
「いいから武器を持ちな、この腰抜け共が!」
二人は先ほどまでの意気盛んな態度とは打って変わり、及び腰の姿勢で試験管と対面する。仕方ないだろう。威圧感が威圧感だ。
制服は、聖鎧のもの――つまりは同校。胸元のクラス章には『3-E』と刻んであった。
髪は程よい短さで、色はサンドブラウン。鋭く端正な顔立ちの彼は、控えめに笑んで、
「よっ」
気さくに挨拶してきた。
力強い体躯が残す影に飲まれかけながらも、二人も会釈で応える。
「道玄坂 鴎政だ。今日はよろしくな」
見た目に反した優しくおおらかな声で、彼は自ら名乗った。
「羽々斬 颯人、よろしくお願いします」
「夜暗 鵠です、お手柔らかに」
彼に話しかける鵜飼。その様は、実に慣れた風でいる。
「悪いね、いきなり呼びつけちゃって」
「いえいえ、暇してたんで、ちょうど良かったですよ」
「とりあえずこの二人、SP懸けて戦ってもいいらしいから」
「へえ? そいつは……、ガチで来るっぽいなぁ」
「元聖鎧学園生徒会として、ケチョンケチョンにしてやってほしいさね。なんなら再起不能に」
「おいババァコノヤロー! とりあえず老けろ! すっげー老けろ!」
「っていうか、いま……『元生徒会』って言ったね」
その規格を大きく外れたサイズを見上げながら、独り言を呟くと。
道玄坂は参ったように自身の後頭部をさすりながら、「まぁな」と返答する。
「もう、引退して一年になる老兵だ」
夜暗が、納得する。
もし、幾度となく人前で戦ってきている人間だとしたら――人がたくさん集まるスタジアムで一手に注目を浴びても、緊張しなかったのに合点がいく。
――戦い慣れている。そう直感する。
「老兵かどうかは、戦ってみりゃわかるさね」
互いの顔合わせも終えて、握手を交わす。そして鵜飼の最後の一言で、双方は一定の距離を取り、所定の位置で向き合う。
会場のボルテージは、まだかまだかとその熱で戦士達に火をつけた。客席に戻った鵜飼は静観する。
「……じゃあ」
「よし……」
「ああ――」
三人が一斉に取り出した、タッチパネル式携帯情報端末――“VS-Drive”。
それは、先駆者が方舟に訪れた際に、必ず渡されるもの。
電話やメールやインターネットなどの、携帯が一般に持ち合わせる機能は当然、加えてSPのチャージ、支出の管理、方舟内のバトルのリアルタイム検索、対戦相手の検索、リプレイの撮影・保存etc……方舟に住まう戦士の生活全てが『これ』によって管理される。
――対戦。
VS-Driveは電源を入れている間、常に一キロ圏内の範囲に収まるVS-Drive所持者を探知している。
そうして対戦相手の検索は行われる。
対戦相手の名前が画面上にリストアップされ、選択したら――。
『申込!』
対戦の申込。
羽々斬と夜暗が持つVS-Driveの液晶が、一瞬の光を撒き散らす。
駆け抜けた閃きは、そのまま道玄坂の機体へと入れられた。直後に、『ピピピ』と激しいアラートが立つ。スクリーンには二人の名前が。
――対応。
申込を受けた相手は、以下の選択肢が用意される。
受付と拒否だ。
拒否を選択すれば、戦闘は回避される。しかし三回連続して拒否を行った場合、その時点で方舟の住人としての権利を剥奪され、居続けることは許されなくなる。
なぜならそれは、戦闘の義務を放棄していると見なされるからだ。
対する受付は、
「――受付!!」
言うまでもない。
次の瞬間、更なる音が、今までの何よりも大きなボリュームで鳴り響く。戦士達の遊戯が始まりを告げる。
スタジアム中が、沸き起こった。
画面に漂うは「戦闘開始」の四文字のみ。
抜かれた羽々斬の竹刀と、夜暗の双剣。二人を見下ろし構える巨大な拳は、何を思う。
「稼がせてもらいますよ、先輩――ッ」
「南無三……!」
「――来い!!」
博した喝采によって、戦いの火蓋は切って落とされた――。




