表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

挽肉

作者: 山田柔道

 日曜の昼過ぎに渋谷で諸用を済ませたあと、自分には到底縁のない洒落た百貨店などの立ち並ぶ大通りから一本逸れた裏通りを、どこか手軽に昼食の取れる店はないものかと店内の客層を窓ガラス越しに一瞥くれながら、屋外のテラスで数組のカップルが談笑するレストランの前を「ここはダメだ」と内心呟いて足早に通り過ぎ、あるいは外装が比較的地味で客も少なげな喫茶店の前で一瞬立ち止まり「ここなら私でも」とドアノブに手を伸ばした瞬間、店内のカウンターの中でさも暇そうに往来を行き交う人々を眺めていた店員と不意に目が合って、そこで臆せずドアを開けて飛び込めばいいものを私ときたらとんだ間違いをして誤解を解こうとするように首を細かく左右に振り躊躇なく逃げ出す始末である。その一部始終を見ていた通行人にあたかも嘲笑されたような気分になって顔を紅潮させたまま、どんどん駅から遠のいてゆくうち言いようもない気怠さが増してゆく。路地は一本道でなく途中で二股に折れたり階段を登ったりするのでだんだん駅の方角も見当がつかなくなるが、ここまで歩いて来た道を引き返すのはすべて無駄骨であったことを認めたくないので頑なに拒んでいる。だから複雑に入り組んだ道を左右へ折れながら運良く見知った場所に辿り着こうと、腹のへり具合もすっかり忘れて四苦八苦したまま彷徨っていた。

 しばらくしてアイスクリーム屋の前に屯する女子学生らを避けるようにして道端を歩いていると、とつぜん鼻孔の奥を強く刺激する臭いに襲われた。それは如何にも濃厚で脂臭く、嗅いだだけで胃の調子をやきもきさせるほど強烈な肉の臭いだった。ついさっきまで生きていた豚をそのまま丸焼きにしたかのような獣臭さだ。今までに体験したことのない種類の悪臭に脳が判断を停止したのか、数秒ほど鼻をひくひくさせて臭いを嗅ぎ取ろうとしていたが、臭いの染み込んだ空気の塊が肺から上昇して腔内へ一気に逆流すると、思わず吐きたくて堪らなくなった。急いで何度か咳き込むが、そのぶん酸素が必要となるので再び悪臭を吸い込むはめになる。どうにかしてこの場所から離れなくては。しかし視界がぼんやりと霞みだし次第に意識も薄れてゆく。やがて膝から崩れ落ち地面に這いつくばったまま火事の際に酸素を吸う要領で、必死に息を吸っては吐き吸っては吐きを繰り返し藻掻いていると、すぐそばで談笑していた女子学生が話を中断して自分のもとへ駆け寄り、「大丈夫ですか。」などと心配の声をあげる。おそらく私は恐ろしく歪んだ形相で彼女らを睨み上げただろうが、彼女らは臆せず語りかけてくれたのだ。私は彼女らの親切心に応えるべく残った力を絞りだし右腕を宙へ伸ばした。一番間近にいた女子学生が私の手を優しく握ると、ぐいと後方へ勢い良く引っ張るようにして私の身を起こさせた。

「きっとあれを食べれば元気になるわ」と言って、アイスクリーム屋を指さしている。少女の肩に身を預けたままアイスクリーム屋に近づくと、カウンターの中で割烹着に身を包んだ女性の店員が、かき氷機にも似た得体の知れぬ機械のハンドルを手早く回している。機械からは真っ赤な挽き肉がもりもりと溢れでて横に置かれたトレイの上へとぐろを巻くように積み上げられてゆく。店員の女性はすこぶる笑顔であり楽しそうに作業を続けている。

「あれは何をしているの?」

 私は少女に尋ねてみた。

「肉を挽いているのよ。」

 女性は私たちには目もくれず、夢中で肉を挽いている。あたかも肉を挽くことで言い知れない快楽に身を震わせているかのような有様で、傍で見ているこちらまで嬉しい気分になってくる。肉を挽く彼女はすばらしく輝いていた。

「綺麗だ。」

「そうでしょ。」

「私もやってみたい。」

 すると少女は私の顔を覗きこんで言った。

「おじさんには無理よ。」

「どうして。」

「あれって、意外とすごく難しいの。」

 ふうん、と私は頷いた。しかし諦めきれない。そんな私の様子を見兼ねて、少女は少し微笑んで言った。

「落ち込まないで。これをあげるわ。」

 そう言って、少女は片手に持っていた食べかけのアイスクリームを差し出した。ラズベリー味のアイスか何かのように思えた濃い紫色のそれは、コーンに注がれた生の挽肉であった。私は何の躊躇いもなく挽肉にむしゃぶりついた。

「どう。美味しい?」

「ンッチャ……モッツァ……グッチァ……美味い!」

「良かったわ。ふふ、間接キスね。」


書き終えた後で、こういうやり方は安易に過ぎるしいい加減書いていて楽しくないと思った。最初の色々と描写する場面も読み返すと全く面白くないので、どうにか良い文章を書きたい。長さも気をつけたい。あと、後半はテンポが無茶苦茶です。やはり自分は気分が高まると文章が先走ってしまうので、余計に下手くそになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ