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隣の不良、隣の天然

作者: 羽鳥アヤ

思いつくままに書いた作品です。

本当に暇潰し程度になると思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!

***



――私の隣の席は、入学式の次の日からずっと空席だった。


入学式の日は用事があって私が来れなかっただけで、隣の席の人は来たらしい。

最初は、登校拒否とか病弱とか…などと考えていたが、つい最近本当の理由を知った。




第一印象は―――


―――頭が赤い。




いや、正確には髪なのだけれど。

ピアスつけてネックレスつけて、見るからに不良でした。

正直、赤い髪なんてテレビ以外で初めて見た。


しかし、それだけならいい。サボり魔の不良ならば、隣の席の女の顔だなんて覚えないだろう。

この時ばかりは上でも下でもない自分の顔を喜んだ。オマケに苗字は鈴木。地味すぎず珍しくもない。現にクラスに5人もいる。



だが、ある日床にコロリとペンが転がった。



私は平和すぎる小中学生生活を送りすぎてきた。

最大の事件が、中2の時先生のカツラがとれたくらいだ。


だから、床にペンが転がっていたら拾う。それは反射にすら近い、当然の行為だ。


そして笑顔で『ハイ落ちたよ』この流れが至極当然なのだ。



その反射に近い、至極当然な行為を、やってしまったのだ。




その赤い頭の不良に。




気がついたのは、既ににこやかに渡し終わってから。


教室中がざわめき、赤頭もポカンとしていた。


無言でペンを受け取り、ふいと顔を背ける。

その瞬間、心の底から安堵した。



――だが、彼はそれから毎日学校にくるようになった。


中学生時代からの有名人らしく恐がる人ばかりで、教師も喜びと恐怖の半々といったところだ。


名前は鬼塚。鬼の字が入ってる時点でピッタリだと思ってゴメンナサイ。



話しかけては来ないが、常に視線を感じる。

何だろう、何か琴線に触れることをしでかしただろうか。




「…おいっ」


小さく、けれど乱暴にかけられた声。


肩が大きく跳ね、けれど努めて笑顔で落ち着き払って、返事をする。



「何かなっ?」



内心では絶叫中だが、そんな様子を見せるわけにはいかない。

語尾は跳ねたが、これが精一杯だ。


赤頭(鬼塚)は、ふいと顔を逸らした後―――小さな小さな声で言った。




「…ペン、さんきゅ…」




見れば、顔は耳まで真っ赤で、目が泳いでいる。


そうか!と私はピンときた。




彼は女子と話すことに慣れていないのかっ!


だから、お礼を言うチャンスを待って、毎日学校に来てたのかっ!!



――鈴木は天然だった。



何だ、良い人じゃないか。一度そう思ってしまえば、恐怖など消えてしまった。今度は自然と、無邪気な笑顔ができた。



「ううん。私、鈴木っていうの。このクラス5人もいるから覚えにくいけど…よろしくね」





――隣の不良くんは、意外と可愛かった。





***


――俺の隣の席は、入学式の日は空席だった。



入学式ぐらいは、おもしろいヤツでもいねーかと行ってみたが、死ぬ程つまらなかった。

だからそれから、しばらくずっとサボってた。



だがある日、気まぐれで行ってみた。そこで、初めて隣の席のヤツを見た。




第一印象は―――


―――普通すぎる。




優等生でもなさそうで、地味でも不良でもなさそうで、校則もそこそこ守ってる、なんというか平均的な女。

名前は鈴木とか。本気で普通すぎるだろ。

現にクラスに5人もいるらしい。


あまりに普通すぎて、顔もろくに見ずに、挨拶さえしてない。俺にとっては普通だが。



そんなある日、床にコロリとペンが転がった。


特に勉強していたわけではないが、持ったら落ちた。特に無意識の行動だったのだ。


拾うのも面倒臭い。

隣の女にでも拾わせようか――そう思った瞬間、平均女(鈴木)は自らそれを拾った。



そして当然と言いたげに――



「ハイ、落ちたよ」



――にこやかな笑顔で手渡してきた。



教室中がざわめいたし、俺も思わずポカンとしてしまった。


そして同時に――その無邪気な笑顔に――惚れてしまった。



何が平均だ!クラスどころか学校一の美少女じゃねぇか!(言い過ぎ)


しかし女と付き合ったことは数多くあれど、優しくしたことや惚れたことなど皆無で――無言でペンを受け取り、ふいと顔を背けてしまった。



その瞬間ほど、普段の行いを後悔したことはない!




――俺はそれから毎日学校に行くようになった。


それもこれも、彼女に逢うため!彼女を一目見るため!



だが、こんな不良オーラ全開の俺が話し掛けては迷惑では――というより何を話せばいいのか――そう考え、なかなか挨拶さえできずにいた。



――そうだ、あの時の礼なら、さりげなく言えるんじゃ…っ!


時間が経ちすぎているとかは関係ない!もはや縋るような気持ちだった。



『この前はペンを拾ってくれてありがとう。』それを頭の中で何度リピートしたことか!


だが、いざとなると中々言い出せない。漸く絞りだしたのが――



「…おいっ」



小さい上に乱暴な声。

ありえねぇ!彼女が怯えるだろ!ほら驚いたように肩が跳ねたぞ!それでも彼女はあくまで笑顔を向けてくれる。



「何かなっ?」



俺はふいと顔を逸らした後―――小さな小さな声で言った。




「…ペン、さんきゅ…」



やべぇ、今耳まで熱い気がする。しかも目をどこに向ければいいのかわからねぇ。


こんなぶっきらぼうな台詞じゃダメだろ!そう自分に言い聞かせても、何の言葉も出てこない。



だが彼女は、今度も無邪気な笑顔を向けてくれた。

どことなく、前以上に明るい笑顔だ。



「ううん。私、鈴木っていうの。このクラス5人もいるから覚えにくいけど…よろしくね」



――どこが覚えにくいんだ?クラスメイトの名前なんて、君以外は覚えてねぇのに。



鬼塚は、鈴木と逆側の腕で静かにガッツポーズをした。




――隣の天然さんは、ものすごく可愛かった。




END



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