【続編】「お姉様がいると目立てませんもの」と言われて、妹に追放されたので自ら悪徳令嬢になってざまぁします!〜今さら帰ってきてとせがまれてももう遅い!私の“スパダリ”が一蹴してみせますわ!〜
「エステル嬢.......今日のドレス、実によくお似合いですね」
ヴァルクライン侯爵――レナード様にそう声をかけられ、私は優雅に一礼した。実家崩壊の一件から数ヶ月、私たちは表向き“協力関係”という体で、頻繁に顔を合わせるようになっていた。
「あら、お世辞がお上手でいらっしゃること」
「お世辞ではありませんよ。もっとも、あなたに世辞を言っても、すぐに見抜かれてしまいそうですが」
「あら、随分と自信がおありですのね。それとも、既に何度か見抜かれた経験がおありかしら」
「――否定はしません」
苦笑するレナード様に、私は思わず笑ってしまった。この方との会話は、いつも軽妙でどこか心地よい。
「殿方の褒め言葉は、大抵三割増しで聞くようにしておりますの。殿下の場合はいかほど差し引けばよろしいかしら?」
「私の場合は、むしろ控えめに申し上げている自覚がありますが」
「あら、それは大変ですこと。では、控えめな評価でこの装いということは、本音はもっと過剰な賛辞をお持ちなのかしら」
「――さすが.......鋭い方だ」
観念したように笑うレナード様に、私はますます愉快な気分になった。
「本日の夜会、随分と華やかですこと」
「ええ……エステル嬢、一つよろしいでしょうか」
「あら、改まってどうなさいましたの?」
「協力関係というのも、そろそろ随分と長く続いておりますが.......」
「ええ、そうですわね」
「そろそろ、その関係に、別の名前をつけてもよろしいかと思いまして」
思いがけない言葉に、私は思わず言葉を詰まらせた。
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「まあ、随分と唐突な話ですこと」
「唐突ついでに申し上げますと、私はあなたに、単なる協力者以上の感情を抱いております」
真剣な眼差しでそう告げるレナード様に、私は柄にもなく頬が熱くなるのを感じた。
「あら、殿方にそう言われて動じない女がいるとお思いですの?」
「動じていただけて光栄です」
「憎らしいことを仰いますこと」
そんな会話を交わす、幸せな時間が流れていたその時だった。
「エステル......! こんなところにいたのか......!」
会場に響き渡る声に振り返ると、そこにいたのは、あろうことか父だった。傍らには、すっかりやつれた様子のアリシアの姿もある。
「あら、随分と場違いなところにいらっしゃいますこと。この会場、招待状をお持ちでない方は入れないはずですけれど?」
「そ、それは、その.......旧知の伝手を頼って、なんとか......」
「なるほど、随分と往生際の悪い伝手をお持ちですのね」
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「エステル、頼む.......! もう一度だけでいい、私たちを助けてくれないか......?」
震える声で懇願する父に、私は冷ややかな視線を返した。
「あら、それはどのような意味での『助け』かしら。まさか、また金銭的な援助をお求めですの?」
「そ、その通りだ.......爵位を剥奪されてから、生活もままならなくて……」
「お姉様……いえ、エステル様。どうか、お慈悲を……!!」
涙ながらに縋りつくアリシアの様子に、周囲の貴族たちが困惑した視線を向け始めた。だが、私の心は驚くほど平静を保っていた。
「あら、随分と都合の良いお願いですこと。証拠もなく追い出しておいて、今さらお慈悲を求められましても、ね?」
「そ、それは……」
「それに、爵位剥奪の原因は、あなた方ご自身の横領と浪費ですわ。わたくしに責任を求められる筋合いはございませんの」
「わ、わたくしは、その........目立ちたかっただけで、ここまでになるとは……!」
「以前も同じ言い訳を伺いましたわね。何度繰り返しても、そのバカみたいな理由が免罪符にはなりませんことよ」
「......っ!?」
「それとも、自分の頭の悪さを皆様にひけらかしたいのでしょうか? でしたら申し訳ないことをしましたわね。どうぞ、続けてくださいませ」
淡々と告げる私の隣で、レナード様が静かに一歩前に出た。
「お二方、これ以上の無心はこの会場の主催者として見過ごせませんね」
「ヴァ、ヴァルクライン侯爵……!」
「エステル嬢は私にとって大切な方だ。彼女を困らせる行為は私が許さない」
きっぱりと告げるレナード様の言葉に、父とアリシアは完全に言葉を失った。
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「そ、それでも、家族ではないか……!?」
なおも食い下がろうとする父に、私は静かに、しかしはっきりと告げた。
「家族と呼べる関係は、あなた方が証拠もなく追い出した時点で既に終わっておりますわ。今さら血縁を持ち出されても、心は動きませんの」
「エステル……」
「それに、聞くところによれば、お二人とも、まだ随分と贅沢な暮らしぶりを続けていらっしゃるとか。本当に困窮しているなら、まずそちらから見直すべきではございませんこと?」
痛いところを突かれたらしい二人は、揃って顔を青ざめさせた。
「な、なぜそれを……!?」
「あら、社交界の噂というものは、随分と足が早いものですわよ。爵位を失ってなお、宝石商への支払いが滞っているという話、既に方々で囁かれておりますわ」
「そ、それは……!」
もはや取り繕う言葉すら見つからない様子の父とアリシアに、レナード様が追い打ちをかけるように告げた。
「衛兵を呼びましょうか、エステル嬢」
「いいえ、その必要はございませんわ。もう十分、皆様に真実が伝わったようですもの」
会場中の視線が、すっかり気まずそうに立ち尽くす父とアリシアに集まっていた。手のひらを返すのは、いつだって早いものである。
「お、お姉様.......これ以上の恥は、どうか……!」
「あら、恥をかくことになったのは、ご自身の行いの結果ですわ。わたくしを責める前に、まずご自分たちを省みてはいかが?」
にべもない一言に、アリシアはとうとう言葉を失った。二人が逃げるように会場を後にした後、私はふう、と小さく息をついた。
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「――随分と、堂々としたものでしたね」
レナード様の言葉に、私は小さく笑った。
「あら、感心なさいまして?」
「ええ、大変。証拠もなく人を切り捨てておいて、都合よく縋りついてくる方々を、あれほど鮮やかに退けるとは」
「殿方に評価していただけると、それもそれで悪い気はいたしませんわね」
「それに、先ほどの話の続きですが」
「あら、まだ続きがございましたのね?」
「私の気持ちにお返事をいただけないかと」
真剣な眼差しに、私はしばらく考えた後、静かに微笑んだ。
「――及第点、差し上げますわ。ただし、次に家族が押しかけてきた時も、今日のように守ってくださるのが条件ですけれど、ね?」
「.....っ!? 喜んで、何度でも!!」
「それと、あの二人がまた無心にいらしたら、次は容赦なさらなくてよろしくてよ」
「――随分と物騒な条件も、追加されましたね」
「あら、殿下も先ほど、随分と容赦のないお言葉を仰っていましたけれど」
「それは.......あなたを守るためです」
穏やかに笑うレナード様に、私はとうとう声を立てて笑ってしまった。追放から始まった数奇な人生は、こうして、思いもよらない温かい絆へと繋がっていくようだった。
「――さて、次の夜会も、随分と賑やかになりそうですわね」
不敵な笑みを浮かべる私を、レナード様は愛おしそうに見つめていた。
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正式な婚約に向けた話や、次にどんな家を標的にしていくのか、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




