夜、ふらつく
ー1人じゃ、淋しい。
佐藤はポケットに手を突っ込んだまま、深夜、歩いていた。
まだ高校生なのだが、勉強がつまらないので、通っていなかった。
唯一の楽しみが、夜ぶらぶらすることだった。
誰も自分に干渉しないし、興味もない。
1人がただ歩いているのみ。
それじゃあ、人間じゃなくてロボットだと思いつつ、石を蹴飛ばす。
「痛っ!!」
え、と思い、顔を上げると、同い年くらいだろうか。
茶髪の少年が足を擦っている。
謝ったほうがいいのだろうかと迷ったが、自分には非はないと、無視しようとする、
「ちょっと待った!!」
少年が立ち上がり、佐藤の行く手を防ぐ。
身長は彼のほうが高く、佐藤はちっと悔しがる。
こんなところに座っているほうが悪いんだと少年のせいにし、睨みつける。
「何だよ?」
「謝れ。痛いだろうが」
「俺じゃない。じゃ」
去ろうとしたのだが、少年が尚も食らいついてくる。
「お前しかいないんだよ!! いいから謝れ」
「謝ったら何かなるのか?」
関わりたくなくて、冷めた声を出すと、少年は顔を覗き込んでくる。
「何だ、その反抗的な目は!! 俺と勝負しろ!!」
「勝負…? 何の?」
「相撲。倒れたほうが負け」
「はっ。馬鹿らしい」
佐藤は一蹴すると、無視して強引に行こうとする。
しかし、少年はしつこく、許してくれない。
「しつこいな。1人にしてくれ」
「嫌だ。俺と勝負。それか謝るか」
「どっちも嫌だ。じゃあな」
「わがままな奴。いいから選べ」
「この…!!」
少年が手を出してきたので、佐藤は避けようとして、後ろに転ぶ。
当然、少年も転ぶことになり、身体が重くなる、
「どけよ!! 重い!!」
「あ? 誰にものを言っているんだよ!?」
少年はまだ怒っているらしく、面倒くさそうに手を振る。
「俺は1人でいいんだよ。…そうやって生きてきたから」
ぼそりとこぼすと、身体を精一杯、押して、立ち上がろうとする。
すると少年が覆いかぶさったまま、言ってくる。
「俺も1人なんだよ。…家の中に居場所がないんだ」
「は…? いいから、どいてくれ」
少年が身体を動かすと、佐藤は手を払い、自嘲する。
「なんだ、お前も1人か。奇遇だな」
「うるせえ。いいじゃねえか。1人でも」
「誰も駄目とは言っていない。…別の人間なのに、群れられるほうが、おかしいんだ」
するりと口から出、まずいと思い、佐藤は立ち上がろうする。
しかし腕を引っ張られ、また座らされる。
「お前、ご飯は…?」
「食べてないよ。テーブルに何もないから」
「何もない…。俺と同じだ」
少年の目が佐藤の言葉で、変わっていく。
目の中に、少し輝く星を見つけたと思った途端、手を差し出される。
「何だ、これ?」
「握手。友達にならないか?」
「は? …あのな」
少年の身体をどかそうとするのだが、細身のくせに力が強く、無駄だった。
「俺、川上という。お前は?」
「…何で教えないといけないんだよ?」
「いいじゃねえか。相棒」
「相棒!? いつからそんなものになった!?」
驚いて大声を出したが、止める人間なんて、誰もいなかった。
聞いているとしたら、真っ暗な空のみで、2人の行く末を優雅に眺めているようだった。
「俺、帰る。じゃあな」
「待てよ、相棒」
「違うって言っているだろうが!!」
しかしいくら否定しても、少年ー川上は離れず、ついに佐藤のほうが折れる。
「ちっ。変なのに捕まった」
「違うよ。俺達が変なんじゃなくて、周りの人間が変なんだ」
「は…? よく分からない」
こめかみを押すと、佐藤は名前だけ告げることにした。
「佐藤だ。また会うか分からないが、覚えておけ」
「佐藤ね。LINE交換は?」
「はあ!? いい加減にしろ」
強く言葉を吐き捨てると、川上は素直にどき、佐藤は身体を起こす。
「じゃあな。1人で楽しめ」
「お前もな。…俺、いつもこの辺にいるから、淋しかったら来い」
「誰が淋しいものか!! ふざけるな!!」
佐藤は怒鳴ると、川上に背中を向ける。
人と喋ったのは、久しぶりだと気づき、顔を顰める。
「何であいつなんか…」
放っておけばいいのに、こんな深夜に1人でいるなんて、何だか不思議な感じだった。
ー自分と同じ匂いがする。
だからつるむのは嫌なんだが、逆に人と触れ合って安堵する自分もいるにはいた。
どうしようかと迷い、振り返る。
「明日、ここにいたら、LINE交換してやる」
「まじで!? やった!! 分かった、待っている」
何だか忠犬みたいだなと思いつつ、歩き出す。
風の冷たさに今頃、気づき、襟を合わせる。
川上のお陰で、忘れていたものを取り戻したような感じだった。
ー全く、俺もお人好しだな。
馬鹿だと思いつつ、足は軽く進んで行くのだった。




