第五話 ご回復をお待ちしています
白い天井。
病室。
あおいは、ベッドに腰かけていた。
訪室した医師は、「適応障害」と診断を告げた。
「わたしは、欠陥品だったんですね」
あおいが自嘲気味に放った言葉に、医師は静かに口を開いた。
「そう感じるくらい、頑張ってきたんですね」
あおいが目を瞬いた。
医師は、ゆっくりと言葉を続ける。
「もしあなたが欠陥品なら、きっと、ここにいませんでした」
あおいは、わずかに首を傾げた。
医師が、あおいの靴を指さした。
「たとえば、サイズの合わない靴を履き続けたら、足が傷つく。靴が合っていないだけで、足が欠陥なわけじゃない」
「……みんなは、できているのに…」
俯いたあおいに、医師は穏やかに続ける。
「みんなできているように『見える』、ですよね」
いくつかのやり取りの後。
医師は「今はゆっくり休みましょう」と言って退室した。
ベッドに腰かけたまま。
あおいは両手の爪を見る。
左手の親指だけ、不格好な。
あおいは、サイドテーブルの上を見た。
機構から届いた封筒がある。
代替サービスの案内。
復帰プログラムの提案。
担当者からの温かいメッセージ。
医師の言葉が、ふと蘇った。
『もしもあなたが欠陥品なら。過負荷が前提であるこの社会は、"設計ミス”です』
あおいの頬を、涙が伝った。
「…あれ。なんでだろう……?」
手で拭っても、次が流れる。
止まらない。
何度も拭ううち、あおいの口から言葉がこぼれた。
「……いやだ」
あおいの瞳が揺れた。
「なにが……?」
あおいは左手で、服の胸のあたりを掴んだ。
「…いやだ。いやだ、いやだった…」
背を丸めて、息を震わせて。
「何か、分からないけど、嫌…っ!」
涙が止まるまで。
あおいの口から、言葉が零れ続けた。




