“できた”と感じた瞬間
魔法訓練(赤ちゃん版)をはじめて数週間。
私は
指を動かす → 空気が震える → びっくりして泣く
ということを繰り返していた。
けれど、その日は違った。
季節は春。庭には花が満開。
母マユリンヌが精霊魔法を使う度、
光の粒が舞う。
それを見るたび、胸の奥がざわざわしていた。
(私にも……できる?
あれ、できたら私は……
この世界の人間になれる気がする……)
赤ちゃんのくせに考えすぎ?
その通り。でももう止まらなかった。
指を伸ばす。
ふるえが走る。
何度も失敗してきた感覚。
けれど──
なぜか今日は怖くなかった。
深呼吸はできなかったけど
心が静かになった。
その時。
『──きこえてるよ。』
小さな声がした。
光の粒が、ゆっくり私の指先に集まった。
風がふわりと吹いた。
母が驚いた顔で私を見る。
父は一瞬だけ、息をのむ。
「……今のは……」
「リディアが、やりましたね。」
小さな花がひとつだけ咲いていた。
偶然じゃない。
彼らは、はっきりと見ていた。
私が、精霊魔法を使った瞬間を。
まだ赤ちゃんだけど
握った小さな手の中には
確かに
温かい光が残っていた。
『あなた、見えるのね』
『また遊びにくるわ』
小さな声がして、花びらが揺れた。
私の胸が、ふわっと膨らんだ。
⸻
ああ……
これは──
始まりの魔法。
私の、新しい人生が動き出した日だった。




