はじめての笑顔
公爵家の離れに来て数週間。
シンはよく眠るようになり、食事も少しずつ取れるようになった。
けれど、表情はほとんど変わらなかった。
食べる時も、歩く時も、まるで“誰かの許可”を探すような目をしていた。
──いつか、この子の笑顔が見たい。
そう思うたび、胸がきゅっと締めつけられた。
(シンの心が少しでも軽くなればいいのに…!)
ある日、雨がやんだ庭に虹がかかった。
シンが静かに立ち止まって空を見上げた。
その横顔があまりに綺麗で、
私は思わず:“今だ!”と叫びたくなった。(心の中で)
「虹ってね……精霊たちの道でもあるの
だから……ちょっとだけ、魔法つかってみるね」
雨の残り香がする庭にでて深呼吸。指先に魔力を込める。
精霊魔法・花咲かし(正式名称はまだない)
庭の土が柔らかく震え、
色とりどりの花が次々と咲いていく。
それは虹色に続く花の道となり、
風に揺れて、光を反射した。
シンは、ぽかんと立ち尽くしていた。
そして――ほんの少しだけ、口元がゆるんだ。
「……キレイ……」
それは、震える声で、けれど確かに笑顔だった。
初めて見る、シンの笑顔。
(あ、これ反則や。
めちゃくちゃ嬉しいんですけど……!!)
シンは小さく息を吸い込み、目を伏せた。
だけど、確かにその瞳には力が宿っていた。
“僕は、生きていいのかもしれない。
……リディア様のために。”
その日、初めて――
シンは、未来を見た。




