怯えていた少年が、初めて甘えた日
港町から連れ帰られたシンは、公爵家の離れで休養を続けていた。
治癒魔法のおかげで傷は塞がり、立ち歩けるほどに回復したものの、
眠りは浅く、物音に過敏に反応し、食事も少しずつしか口にできなかった。
リディア6歳は、毎日必ずシンの部屋を訪れた。
絵本を読み聞かせたり、花の精霊の話をしたり、
ただ隣で座っているだけの日もあった。
それでも――シンの怯えた瞳が、少しずつ色を取り戻していった。
そして、ある朝。
窓辺で陽の光を浴びるシンの姿を見て、
リディアは思った。
あまりに儚くて、綺麗な少年だ。
檻にいた時の面影はもうない。
なのに、どこか壊れそうな雰囲気だけは残っている。
リディアは思わず小走りで近づき、
小さな腕で抱きしめた。
「シン……よく、頑張って生きてくれたね。
偉かったよ。本当に、偉かったよ。」
その言葉に、シンの呼吸が止まった。
誰からも言われたことのない言葉。
命令でも、労働の合図でもない。
ただ優しく、胸の奥に染み込んでいく。
何かが崩れて、温かいものが流れ込んだ。
戸惑いながらも
怯えた猫が甘えるように、そっと掴んだ袖。
その瞬間――
胸の奥で、知らない感情が芽吹いた。
(僕の……リディア様。)
まだそれが何かわからない。
けれど――
この人の“そば”だけは、離れたくない。
そう強く思った。




