シン視点 女神に出会った日
自分に親がいたのかどうか、思い出せない。
気づいた時には、すでに“主様”と呼ばれる人の家にいた。
床を拭き、壺に水を満たし、火をおこし、朝から夜まで働き続けた。
少しでも失敗すれば、餌は与えられなかった。
夜になると空腹で眠れなくて、けれど泣く声も出せなかった。
泣くのは叱られると知っていたからだ。
ある日、腕も足もまったく動かなくなった。
水も飲めない。息をするのも苦しい。
主様はため息をつき、奴隷商人を呼んだ。
「壊れたようだ。捨ててこい」
それだけだった。
どこかの路地へ運ばれ、鉄の檻に放り込まれた。
痛みも寒さも、もう感じなくなっていく。
まるで、体が離れていくみたいに。
どうでもよくなった。
生きている意味もわからなかった。
目が閉じそうになった時――
なぜか、心が勝手に動いた。
(女神さま……もし本当にいるなら……)
ただ、そう思っただけだった。
誰かに届くわけもない、弱い声。
でも――
光が差し込んだ。
ゆらゆらと、温かく。
その中に、小さな女の子が立っていた。
光の粒をまとって、
涙を浮かべながら、まっすぐにこちらを見ていた。
ふわりと手が伸びてきた。
それだけで、胸がきゅっと鳴った。
――ああ、本当に女神さまが来た。
その時初めて、
心が「助かりたい」と叫んだ気がした。




