隠れた名作ってやつを、見つけちゃった
私はVTubeというお仕事をしている。
名は「月影まどか」。月影という姓は、月の影のように儚く、まどかという名は円満を願ってママが命名した。だが、現実の私は儚さも円満さも持ち合わせてはいない。
さて、昨夜の配信。
私はリスナーに「次はどんなゲームが見たい?」と尋ねた。コメント欄は瞬く間に祭りのように賑わい、「ホラー!」「謎解き!」「泣けるやつ!」と、まるで文化祭の出し物を決める高校生のように盛り上がった。
私はその熱気に当てられ、配信終了後、深夜のゲーム探索に乗り出したのである。
「リスナーのためならば、私はいかなる苦難も厭わぬ!」
そう深夜テンションのノリで叫びながら、私はSteamの海を泳ぎ、Switchの森を彷徨い、PSストアの山を登った。
どれもこれも既視感のあるタイトルばかり。私は焦った。焦りすぎて、冷蔵庫のプリンを三つも食べてしまった。
そして、やっと、ちょっと変わったインディーゲームを見つけた。タイトルは『夢見町の郵便屋』。ジャンルは「配達型感情探索アドベンチャー」。なんだそれは。私はその不思議な言葉の並びに惹かれ、即座に購入した。
早速やってみた。
ゲームの操作自体は超簡単だったが、住人の感情の機微を読み取って正しい手紙を渡すというこのゲームならではのシステムに躓いてしまった。そこが肝心だったのに。私は何度も何度も間違え、住人に嫌われ、郵便屋としての信頼を失った。
「こんなはずでは……!」
いつの間にか沼っている。一瞬このまま諦めて、新しいゲームを探した方がいいのかとも思った。だが、諦めるわけにはいかぬ。リスナーの「まどかちゃんの実況で泣いた!」というコメントを夢見て、私は再び立ち上がった。
それから三日三晩の鬼修行の末、私は完璧な郵便屋となった。住人たちは私を信頼し、手紙は涙を誘った。まぁ私から出た涙は嬉し涙だったかもしれない。
配信当日、私は満を持して『夢見町の郵便屋』を起動した。リスナーは最初こそ「地味そう」と言っていたが。物語が進むにつれ、コメント欄は静まり返り、やがて「泣いた」「心が洗われた」といった言葉が並び始めた。
「でしょ、皆? 隠れた名作ってやつを、見つけちゃった!」