第9話「無音の幕開け」
《第十四回・四国郷土代表選抜戦》
――開幕。
四国特設競技場。各県の協力によって建設された巨大アリーナは、すでに超満員だった。
「ほんまに、今日からなん……?」
私は、控え室の壁にもたれながら、手のひらに汗をかいていた。
支部長・若宮さんの言葉が、頭から離れん。
「大会は2年に一度。この時期に必ず行われるものじゃ。
たまたま、おまんが“そのタイミングで代表になった”だけや」
――ほんま、たまたま?
たまたまで、ええんかこれ……!?
⸻
「第1試合、出場者は――入場を」
控え室に響くアナウンス。
その瞬間、私は目の前が真っ白になった。
「……やるしか、ないがやき」
深呼吸して、立ち上がる。
――出陣じゃ。
⸻
入場ゲートを抜けた瞬間、会場中から大きなどよめきが上がった。
「ミソメンタル来たー!」
「土佐汁の人やん!」
「拳で味噌煮込むってマジ?」
――ネットの奴ら、ふざけすぎやろ!
なんかもう全部“汁”で括られてる気がしてきた。
「対するは……香川代表・金刀比羅せつな!」
私の正面、無音の空間を身に纏ったように現れたのは――
白装束の少女。無表情。音もなく、歩く気配すらない。
けんど、その一歩ごとに空気が張り詰める。
「やばいって……まじで怪物やん……」
観客の声がざわめく中、彼女だけが静寂をまとっていた。
⸻
試合前、軽く“武器の起動”を見せるパフォーマンスがある。
「いける……いけるはず!」
私は気合いを込めて、牙ペンダントを握る。
「来いやあああ!」
――ズルッ!
鞭が、目の前に勢いよく出現したまでは良かった。
けど。
「……え、めっちゃ長いやん!なんでぇ!?」
持ち上げた瞬間、絡まってバランスを崩す私。
「わっ……痛っ……!」
尻もち。巻きつく鞭。笑い起きる会場。
「えっちょ、ほんま、まって、誰かこれ外してええええ!!」
その時、向かいのせつなが初めて口を開いた。
「……その扱いで、武器?」
ボソリと言われた一言が、まっすぐ心をえぐる。
「今から戦うの、うち、なんやけど!!」
さすがに言い返したわ!
「審判、両者前へ。」
「試合、開始ッ!」
私はすぐに体勢を整えた。鞭は――拳に巻く。これが、うちの“スタイル”やき。
「行くで、せつな!」
対して、せつなは一言だけ呟いた。
「無駄な音を減らしてくれると助かる」
その瞬間、彼女が跳んだ。
速い。踏み込み、無音。地面すら鳴らん。
――がっ!
右腕に衝撃。ガードが間に合わんかった。
「いっ……!」
静かで重い拳。息が詰まる。
「……やっぱ、拳の音で語る子なんやね」
私は、にやっと笑って言うた。
「けんど、うちの拳も、うるさいで?」
拳に巻いた鞭が、静かにきしむ。
「高知ごうどの重さ、味わってもらうき!」
⸻
【To Be Continued】
いや、なんやろ。
“試合前の武器披露”とか、もっとこう――
かっこえい演出とか、湯気とか、バシュン!みたいなの期待しちょったんやけど?
なんで、うちは鞭でグルグル巻きなっとるん!?
会場爆笑、ネットは汁祭り、相手は無音の怪物。
……これ、ほんまに全国目指す物語か?(泣)
でもな。
あの子――金刀比羅せつなって、ただの無口さんやない。
静かながらも、ちゃんと拳で語ってきた。
音がなくても、伝わってくるものってあるがやね。
けんど、うちは――拳の音、響かせるで?
“土佐代表・桂浜いろは”の拳は、
今日も元気にうるさく吠えるき!!
次回は本格バトルの続きやき、覚悟してついてきぃよ!
また来てよー。まちゆうき!