第8話「ごうどの幕が上がる」
「ん? なにこれ……“開幕カード決定”……?」
訓練場の片隅で、スマホをいじっていた同期の訓練生が呟いた。
その画面を見た別の子が、目を見開く。
「え、まじ!? 金刀比羅せつな!? いきなり高知と!?」
「……って、え、これって……!」
全員の視線が、こっちに向けられた。
「……ん? え?」
私は、拳を止めて首をかしげた。
「い、いろは、あんた……これ、出るがやろ!?」
「え、なにが?」
「“四国代表選抜戦”、来週の土曜やって――!」
「…………は?」
驚きすぎて心臓が止まるかと思うた
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その後、支部から渡された資料には、こう書かれちょった。
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《第十四回・四国郷土代表選抜戦 開催通知》
・開催日:来週土曜より
・会場:四国特設競技場(香川・愛媛・高知・徳島 共同設営)
・形式:総当たりリーグ戦(1日2試合、全3日間で開催)
・決勝戦:リーグ終了から2週間後に実施
・出場者:各県代表1名(計4名)
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私は資料を握りしめたまま、支部長室に駆け込んだ。
「若宮さん!! ちょ、待って、聞いてない!!」
「ほう。どうした?」
「なんで!? うち、まだ継承したばっかやに!?」
「大会は、2年に一度。この時期に必ず行われるものじゃ。
たまたま、おまんが“そのタイミングで代表になった”だけや」
「……そんなぁ……」
「でも、出るがよ。高知の“ごうど”を継いだ者としてな」
「はやすぎるやろがぁ!!」
床に崩れ落ちて叫んだ。
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その夜、訓練生たちの間で、金刀比羅せつなの名前が飛び交っていた。
「高知、初戦で詰んだな……」
「あの子、“無音の怪物”って呼ばれてるらしいし」
「確か、金刀比羅家って、郷土系の格式もすごいやろ?」
何も言い返せんかった。
けんど、そんな中。
ある子が、そっと言った。
「けんど、いろはの拳――なんか、届く気がするがよ」
私の拳を見て、そう言ってくれた。
理由も、根拠もない。ただの直感。
けんど――その言葉が、めっちゃ嬉しかった。
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試合は来週。
相手は、金刀比羅せつな。
怖い。勝てる気、正直、せん。
けど。
「うちは、拳で語るって決めたき」
布団の中で、拳を握った。
負けたくない。
ごうどを、握りしめたい。
いろはの名と一緒に――前へ進むき。
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【To Be Continued】
いや、聞いてないがやけど!?
大会あるんやったら、もっと早く言うてやー!!
うち、まだ“継承ほやほや”やきね!?
拳の握り方も、まだ慣れてないっちゅうのに――
しかも初戦の相手が「金刀比羅せつな」て……!
無音の怪物やろ? 格式ある家系やろ?
なんやもう、こっちはミソ汁すすりながら拳交わしよったってのに……!
けんど、逃げん。逃げるくらいなら、初めから継がんかった。
“拳で語る”って、そう決めたがやき。
おまんらも、ちゃんと見ちょってよ。
“ごうど”ってもんが、どんなに重くて、
どれだけ熱いか――うちの拳で見せちゃるき!
また来てよー。まちゆうき!