第7話「拳に馴染むもの」
拳を継いでから、数日。
私は、土佐支部の訓練場に立っちょった。
見渡す限りの木人や砂袋、打撃練習用の岩板。
けんど何より気になったのは、他の訓練生たちの視線やった。
「……あの子が、高知代表?」
「ミソメンタルの……?」
「SNSで見た。汁の子やろ? 味噌の」
――もうそれ言わんでよえええ!!!!
顔は笑っちゅうけど、拳は軽く震えちょった。
けんど、言わせとき。ここは拳で語る場所ながやき。
⸻
「ほれ、“武器”出してみいや」
私の前に立つのは、教官の小野川さん。
口は悪いけど、どこか温かい目をしちょる。
私は、胸元の“土佐ノ牙”をそっと握る。
キィィン――
ペンダントが淡く光り、銀の鞭が出現した。
しなやかで、少しだけ生き物みたいな動き。
「おー……見た目は立派やなあ」
「とりあえず、振ってみいや」
「……わかった」
構えて、振る。
――ビシュン!
バチィッ!!
「いっっったぁぁぁぁあああああ!!??」
しなりすぎて、自分の腰にクリーンヒット。
周囲がどよめき、何人かは吹き出した。
「ちょ……」「うそやろ」「セルフヒットて」
「いや、うち初めてやし!誰も教えてくれんかったやん!」
⸻
私はムスッとしながら、鞭を見つめた。
――こんなん、うちには合わん。
しなりとか距離とか、そんなんより――
“拳”がえい。拳じゃなきゃ、私じゃない。
私は思いきって、鞭を右腕に巻きつけた。
拳に馴染むように、くるくると。
「……こうしたら、いけるがやない?」
グッと拳を握り、試しに木製の打撃台に一発。
ドンッ!!
「っわ、なにこれ……重っ!!」
拳の感覚が、確実に変わっちゅう。
“しなり”が加速を生んで、
“重さ”が打撃に変わった。
小野川が目を丸くして、ふっと笑う。
「おまん……巻くんか。珍しいスタイルやけんど――しっくりきちゅうな?」
私はうなずいた。
「たぶん、これが……うちの拳やき」
「ええな。拳っちゅうのは、そうやって自分に馴染ませるもんや」
⸻
訓練を再開する。
打つ。蹴る。打つ。打つ。打つ。
拳に巻きついた牙は、最初より軽くなった気がした。
これは――うちの“牙”。
そして、うちの“ごうど”。
ここから、始まる……
⸻
【To Be Continued】
いやいやいや、
“鞭”って、むっっっず!!
いきなり振れって言われても、
初手で腰にヒットて!どんな自爆芸ながよ……
しかも周りの目線がまたえぐいがやき。
“ミソメンタル女”とか言われゆうし、
「汁の子やん」って!いや誰が汁じゃ!!
……けんどな。
拳に巻いてみたら、不思議と馴染んだがよ。
鞭の“しなり”と、うちの拳が――
なんか、ぐっと繋がった気がした。
多分、みんなが正解って思う使い方やない。
けんど、“うちの拳”やき。
うちの拳で、ぜんぶ返していく。
そう思えた特訓やった。
次の試練はなんやろうね?
拳に“土佐”背負って、全部ぶっ飛ばすき!
また来てよー。まちゆうき!