第6話「牙を受け継ぐ理由」
「ご案内します。支部長がお待ちです」
登録式を終えた私に、白装束の職員がそう言うた。
支部の廊下は静かで、風の音すら聞こえん。
この空気に、慣れるにはもう少しかかりそうやき。
⸻
案内されたのは、教会内の一番奥にある重い扉。
職員がノックし開けたその先に――
静かに椅子に腰かける、ひとりの男がいた。
「……来たか。桂浜いろは」
年配の男性。真っ白な髪、鷹のように鋭い目。
けんど、どこか優しい。
「名乗るほどの者じゃないが……
ワシはこの土佐支部の責任者、“若宮”じゃ」
⸻
「まあ、かけや」
促され、私は素直に椅子に腰かけた。
「源蔵が“牙”を渡す日が来るとはな。
あやつ、十年もの間、ずっと誰にも継がせんかった。
あんな頑固者が、やっと“おまん”を選んだがやな」
「……なんでやろう、って思うたけど」
私は言うた。
「たぶん、“うちが最後の候補”やったんやと思う。
だから、継がせたがやないろうかって」
⸻
若宮は、ふっと笑った。
「いや、逆やと思うちゅう」
「源蔵は“誰にも渡せんかった”。
じゃけん、“最後まで取っておいた”んじゃ」
「何をですか?」
「拳じゃ。あやつが最後に信じた“拳”。
それがおまんにあったがやと思う」
⸻
部屋の隅に飾られた、古い写真が目に留まった。
若宮と、源蔵と――もうひとり。
「……これ、うちの父?」
「そうや。おまんのお父さんも、“候補”やった。
けんど、事故で命を落とした。惜しい男じゃった」
「……」
胸の奥がぎゅうっとなった。
⸻
「おまんは遅れてきた。
全国の代表は、みなとっくに登録を終えちゅう。
けんど、うちは思うちょる」
「遅れてきた者が、一番強くなることもある」
「速く走り出した者が、先にゴールするとは限らん」
⸻
私は拳を見た。
「……うちは、他より遅れた。
けんど、その分、強うなりたい。
絶対、後ろから追いついて、追い越すき」
若宮は笑った。
「源蔵も、きっとそう願うちょる。
“土佐代表にふさわしい拳”――それを信じて、渡したんや」
⸻
部屋を出るとき、若宮が背中越しに言うた。
「拳は名を連れて歩く」
「おまんが“桂浜いろは”である限り、土佐はずっと一緒におる。
胸を張って歩け。拳で語れ。おまんの“ごうど”を」
⸻
私は、深くうなずいた。
そうや。
“土佐代表”として――ここから、始める。
遅れてきた分、全力で前へ。
⸻
【To Be Continued】
いやぁ、なんかもう……拳だけじゃなくて、話も重たなってきたがやけど!?
源蔵おんちゃんがうちのお父さんの師匠で、
しかもあの支部長さんも、うちのこと“見ちょった”とか――
なんや、知らんうちに“重たいバトン”背負っちょった気分。
けんど、それがうちに回ってきたんなら、握るしかないき。
しかも、全国の代表たちはもう4月にスタートしちゅうがやろ?
うちは8月やし、完全に出遅れ代表。
でも、それやったら――
---追いついて、ぶっちぎったらえいやん!
拳は名を連れて歩くっちゅうなら、うちの“ごうど”も一緒に連れていっちゃるき!
次は誰が出てくるがやろね?
そっちの拳も、楽しみにしちょくき!
また来てよー。まちゆうき!