第4話「拳が言葉になるとき」
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土佐山中・空崎錬場――
薄暗い森を抜けた先に広がる、石畳の修練場。
自然の音しか聞こえん。
風が竹を揺らし、鳥が一度だけ鳴いた。
「ほんまにここで、試すがやね……」
指定された“見極めの儀”。
教会に認められるための第一歩。
拳ひとつで、それを証明せなあかん。
私は深呼吸して、石畳の中央に立つ。
向こう側には、ひとりの少女。
白い道着。無表情。年は……私と同じくらい。
けんど、空気が全然ちゃう。
あの子はもう、「代表」や。
「教会派遣・審問者。空環すい」
「役目は“見極め”。高知代表・桂浜いろは、あなたに試練を与えます」
そう告げられて、うちは拳を握った。
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開始の合図もない。
すいが踏み込んできた瞬間、空気が一変した。
――速い!!
構えをとる暇もなく、脇腹をえぐる一撃。
「ぐっ……!」
吹っ飛ぶ。地面に背中を擦り、砂利が跳ねる。
立ち上がる前に、今度は上段から踵が落ちてきた。
とっさに腕でガード――重い。痺れる。
「継承者にありがちな、“重さ”のない拳」
「あなたは、まだ“打たれたこと”しかない」
「わたしは、“打ち返す者”だけを見ている」
すいの目には、何の感情もない。
その一言ずつが、静かに心をえぐってきた。
けんど――
「うちの拳は、ただの喧嘩やない」
「“継いだもの”として、ぶつける覚悟はできちゅうき!」
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次の瞬間、私は地面を蹴った。
拳が、すいの顔面すれすれをかすめる。
彼女が初めて眉を動かした。
「回避、よし。体幹、ずれなし」
「少しは“継承者らしく”なってきた」
拳と拳が、正面からぶつかる。
衝撃とともに、頭の中で何かがバチンと弾けた。
「あんたは、“見極める”側かもしれんけど」
「うちは、“超えてく”側やき!!」
思いきり踏み込んで、拳を突き出す。
鈍い音が、あたりに響いた。
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すいが後ろに一歩、退いた。
頬に赤い跡。うちの拳が、届いちょった。
「……合格。十分、通過点には立った」
「あなたはもう、“代表”の資格を得た。あとは――どこまで行けるか」
そう言って、すいは背を向けた。
「うちは、まだ“なにもない”がやき」
「けんど、拳で証明していくき――これから全部!」
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その背中は振り向かんかった。
けど、たしかに一瞬、笑った気がした。
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この日、私は初めて拳で“誰かと話した”。
痛みも、言葉も、拳も。全部が一つに重なった、最初の一歩。
――代表っていうのは、“名乗る”もんやない。“見せる”もんや。
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【To Be Continued】
よっしゃー、やったでー!
ちゃんと拳、届いたき!あの子の顔、ちょびっと赤なっちょったもん!
けど……強かった。
動きも、目も、言葉も――全部が“戦うために磨かれちゅう”感じやった。
なんちゅうか、うちはまだ“荒削りの石”で、あの子はもう“ちゃんとした刃物”って感じ?
でもね、届いたがやき。
うちの拳。継いだ覚悟。いま持てる全部。
それが誰かに伝わった瞬間って、
ちょっと……嬉しかった。
もっと強うなりたい。
もっと“伝わる拳”を、打てるようになりたいき。
次は、正式に“代表”として顔を出す番やきね。
また来てよー。まちゆうき!